161話
「その様子だと、キミは転入生かな?
よし!
何かあったら、俺に言ってくれ!
このニューカント王国第一王位継承者、レオナルド=ロンダ=サナダ=ニューカントを頼って欲しい。
大概のことは、力になれるはずだ!
ところで、麗しのキミの名前は?」
「はぁ、あの、ありがとうございます?
アヤノ・タカナシと申します。
ところで、この学院では、いつも中庭に罠が仕掛けられているのですか?」
もしもし、アヤノさん?
混乱しているのか、質問がおかしいですよ。
聞くべきは、それじゃないと思う。
あと、あっさり名乗っているけど、もうちょっと警戒心を持とうか。
まぁ、いずれ知られるから、名前は仕方ないけど。
それ以外のことも、喋っちゃいそうだ、この様子だと……。
「普段はそんなことはないから、安心して欲しいんだが……。何故、あんな場所に罠があったのか……俺にもわからないんだ。
そうだ!
それを確かめるために、一緒に来てくれないか?
キミの回復魔法があれば、鬼に金棒さ!」
「え? えと……鬼に金棒って例え、あるんですね?」
うん。
それじゃない。
それじゃないよ、アヤノさん。
いくらなんでも、混乱し過ぎだよ。
もっと男のあしらいかたを学ばないと、将来、騙されちゃうよ?
今も、その一歩手前になっているけど。
あー、仕方ない。
オレは一応彼女の保護者だし、手助けするか……。
「こほん、申し訳ありま──」
「おほほ!
殿下。こんなところにおられたのですね!
探してしまいましたわ!」
オレの言葉を遮って、金髪縦ロールの女子生徒が高笑いとともに現れた。
切れ長の目をした美少女だ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというスタイル抜群な肢体を、制服で包んでいる。
なんだろう、この既視感?
テンプレな貴族の令嬢ではないですか!
しかも、取り巻きなのか、後ろに二人の女子生徒が付いているけど、今は授業中ではなかったか? サボりか?
その金髪縦ロールの女子生徒は、王子様に手を握られているアヤノさんを見て、片方の眉をピクリと上げると、
「おほほほほ! そこの貴女!
いつまで殿下のお手を握っているのかしら?
その気持ちはわかりますけれども、少々不敬でしてよ!
早く、その手を離しなさい!」
いや、手を離さないのは、王子様の方だよ……。
しかし、その言葉を聞いたアヤノさんは慌てて手を引き抜き、数歩下がってオレの後ろに隠れた。
握っていたはずの手が、簡単に離されたことに首を傾げる王子様だけど、多分それはアヤノさんが、合気道か何かの技で抜いたんだね。
「おほほ!
お気を付けてくださいな、殿下。
殿下の寵愛を得ようと、虎視眈々としている女子生徒は多いのですから」
「失礼なことを彼女に言うな。
彼女──アヤノは、怪我をした俺に魔法殿下も治してくれたんだ。今は、その礼を言っていたところだったんだ。
済まなかった。
代わりにと言ってはなんだが、これから食事はどうだろうか?
王宮のシェフが作るものなど、なかなか食べられないぞ」
「殿下!?
平民を王宮にお連れするなんて……!?
貴女もです!
恐れ多いと平伏しなさい! この泥棒猫!」
なんか頭が痛くなってきた……。
王子様はマイペースにナンパをしてくるし、金髪縦ロールはそれに噛みついているし……。
そもそも、この金髪縦ロールのお嬢さん、何者?
そう思っているオレとアヤノさんに気付いたのか、彼女は一歩前に出て、
「おほほ! お二人は転入生ですわね!
ならば、名乗りましょう!
フォッテ公爵家の長女、イザベラ=フォッテですわ。
わたくしは殿下の婚約者なんですの!
殿下に付き纏う泥棒猫は、とっとと田舎に帰って小麦を育てていなさい! 貴女にはそれがお似合いですわ!」
……。
公爵令嬢、キター!
テンプレの中のテンプレ。キングオブテンプレ。
もう、お腹いっぱいになってきたよ!
「彼女を侮辱するのは、止めるんだ! それが、公爵家の令嬢としての物言いか!」
「まあ、殿下! そんな女を庇うのですか!? わたくしは、わたくしこそが殿下の婚約者ですのに……!」
「親同士が勝手に決めたものではないか!
俺はまだ認めたわけではない!」
あー、それ、言っちゃいけないやつだよ。
王子様の親って、国王陛下ではないですか。
それをいくら王子だからって、拒絶してはいけません。
君主制の意味がなくなる。
それがわかっているのか、それとも単純に王子様に拒絶されたからか、金髪縦ロール──イザベラ嬢は顔色を真っ青にして、二人でギャンギャン言い合いをしている。
授業中のはずなんだけど……大丈夫ですかね、これ?
ここは教室の前の廊下ですよ?
「ギャーギャー、騒がしいぞ。何をしている、アァン!?」
うぉっ!?
すぐ横の教室の扉をドバァンッ、と開けて出てきたのは──スーツを着た身長が2mはあろうかという偉丈夫だった。
しかも、濃い茶色の髪をオールバックにして、目付きは鋭く、頬には縦長の傷痕があるという、ヤの付く道を極めた職業の方にしか見えない。
教師から出てきたということは……まさか、この人、教師!?
しかもこの教室、オレとアヤノさんが指示された教室なんですけど?
スゲー嫌な予感がする……!
「なんだ……殿下ですか。
こんなところにいたんですね、さっさと教室に入って授業を受けてくれませんかね?」
「連絡がなかったか?
俺は今日、遅れるはずだと」
「聞いてますがね。だからって、いつまでも遅れて良いってものでもないです。学院に来たら、速やかに授業を受けてくれませんかね?」
無表情に告げる教師(?)。
淡々と言うから、やたら怖いんですけど……。
「イザベラ嬢もです。朝はいたのに、いつの間にかいなくなっているのは、どういうつもりですかね」
「わ、わたくしは殿下がいらっしゃらないので、お迎えに行っていたんですのよ」
「それは、授業をサボって、教室の前で大騒ぎして良い理由にはなりませんな。罰として、課題を出すので、放課後までに提出してください」
「そ、そんな……」
おぅ……。
怖いぜ。
怖すぎるぜ。
強面が無表情で正論を言うと、ここまで強烈なのか……。
なんなの……この教師(?)。
なんて戦々恐々としていると、その視線はオレたちに向けられた。
冷や汗が流れる。
おかしいな……恐怖に対して、【状態異常無効】が効いてないのかなぁ?
「んー? お前らは……?」
「はっ! 本日より、王立魔法学院に転入して参りました、ラムダと申します」
「わ、わたしは、アヤノ・タカナシです!」
思わず、直立不動で返事しましたが、何か?
「……あぁ、聞いている。
遅かった……のは、まぁ、仕方ないだろう」
王子様と公爵令嬢の二人を睨み付ける教師(?)。
ヤバいよ。なに、殺してやろうか、みたいなその目付きは……。
王子様たちも背筋をピンとさせてしまっている。
不敬罪とか、ならないのかなぁ?
……ならないんだろうな。
「よし。教室に入れ。自己紹介してから、授業の続きだ」
顎をくいっとさせて、教室を示す。
今日はいろいろあったけど、今初めて、学校に通うことに後悔しているよ!




