129話
「だ、大丈夫ですか……?」
「……返事がない。ただの屍のようだ」
「ふん。口がきけるなら、まだ大丈夫じゃな。ほれ、立たんか」
勘弁してくれ……。
まぁ、日本のゲームの常套句なんか、クライネ師匠が知るはずないし……。
クスリ、と笑ったアヤノさんの反応に満足するか。
午後7時50分。
今まで行っていたクライネ師匠、ディーネ、ジュリア、ヴィヴィに、アヤノさんを加えた全員との模擬戦は、まさに地獄としか言いようがなかった。
いや、これにジーク師匠も加わる可能性もあるから、今日のはまだマシなのか?
ボッコボコというか、グッシャグシャにされたのだけど、治っていく直後に、再びグッシャグシャにされるのだ。
正直、身体よりも心が保てないよ。頭がおかしくなりそうだ。
まぁ、【状態異常無効】があるから、それすらも許されないのだけど……。
嬉々として攻撃を仕掛けてくるクライネ師匠にジュリア、ヴィヴィの三人に比べて、アヤノさんは積極的には攻撃してこない。
しかし、だからなのか、アヤノさんのことを意識から外れた途端、見えない死角から攻撃が来るのだ。
意識してない分だけ、痛く感じます。
それに、アヤノさんは前半戦は様子見なのか、あまり仕掛けて来なかったが、後半戦になると、オレの身体を気遣う必要がないことを理解して、蜻蛉の構えから物凄い猛攻をしてきた。
その様子は、クライネ師匠ですら、手出しさせなかったほどだ。
アヤノさんによると、この世界に来てからは、簡単なトレーニングしかできなかったようなので、ストレスが溜まっていたらしい。
今は、やたら艶々した顔になっている。
しかも、かなり丈夫なはずの木刀が、ボロボロですよ?
……いや、良いんだけどね。
「ふむ……。
アヤノは実戦経験は、あまりないのか?
それに、一対多数で戦うことも、ほとんどないようじゃな」
クライネ師匠が、徐に口を開いた。
それを聞いたアヤノさんはちょっと驚いた顔をしたが、すぐに納得した様子で、首を縦に振る。
「はい。日本では基本的に争い事はないですから。
私は剣術を修めましたが、それを道場の外──稽古以外で使ったことはありません。
門下生などもいなかったので、稽古の相手も、師である祖父しかいませんでした」
「じゃあ、仕方ないね。
そういうことなら、ラムダの相手にちょうど良かった。
空いている時間は、そちらの精霊様たちを相手に、対多数の戦い方を学ぶと良い」
「はい、そうします。よろしくお願いいたします」
アヤノさんが、ディーネたちに頭を下げる。
うん。ディーネというか、ジュリアとヴィヴィには良い相手かもね。少なくとも、オレを相手にするよりは、良い稽古以外相手になるだろう。
「実戦の方は、魔物を倒すと良い。ラムダたちに付いていけば、不足の事態も起こりにくいじゃろうよ」
んー?
となると、スケジュールを変更した方が良いのか?
さすがに、こんな時間に連れ回すのは良くないよね?
「むぅ……それもそうか……。
ならば、午前中の時間は変わらずに。
その後、昼食を摂ったら、アヤノを連れてダンジョンに行け。聞く限り、初心者にはちょうど良い難易度のようじゃからな。
戻ったら、夕食後、模擬戦を行う。
ジークが戻ったらどうなるかわからんが。
良いな?」
「了解です」
つまり、こうかな?
0600〜素振り、型の反復練習など。
0800〜技の習得などと、
1000〜クライネ師匠との模擬戦。
1100〜昼食。町で雑用など。
1300〜アヤノさんとダンジョンへ。
1800〜夕食。
1900〜クライネ師匠、アヤノさん、精霊たちと模擬戦。
2000〜魔物狩り。金を稼げ。
2400(0000)〜自由時間。ただし、遊ぶな、無駄にするな。
まぁ、ザックリだけどね。また変更されるだろうし。
今日のところは、これから夕食を食べて、森の中で魔物狩りだな。
これは、アヤノさんを連れていくのは、難しいよね。
暗いから何も見えないだろうし。
『ライト』の魔法を使えば良いんだけど、それでも危険なんだよね。
アヤノさんも疲れているだろうし、無理は禁物ってことで、もう休んでもらいましょう。
あ、そうだ。
アヤノさん用の武器がいるんだった。
なんとかして【錬金術】で日本刀を作れないかな?
よし。予定変更だ。
急いで町に行って、鉄を購入してこよう。ついでだし、銀とかの金属類も買うかな?
それで、夕食後に【錬金術】だ。
いろいろ試してみよう。
それが済んでから、森に行こう。そうしようっと。




