125話
水を通って、転移が完了しました。
毎度のことながら、初めてここを通った人は驚く。
まぁ、あんな桶の中に入ったら別の場所に移動している、なんて、なかなか信じられないだろうけど。
某猫型ロボットのどこでも行けるドアみたいに、『どこでも桶〜』とか言ってみたり?
いや、これの場合、メインは桶ではなく水だから『どこでも水』かな?
そんなことは、どうでもよろしい。
水の中に入ったため、濡れてしまった身体をディーネが乾かし、ついでに汚れも落とした。
オレも『清浄』の魔法をかける。
このスッキリする感覚が気持ち良い。
「ふぇっ!?」
あ、アヤノさんに何も言わずにいきなり魔法をかけたから、また驚かしてしまった。
ふむ。
面白そうだから、黙っていよう。
転移の度に、驚いてくれるかもしれません。
と、思っていたら、ヴィヴィがすぐに種明かししてしまった。
つまらないなぁ……。
どうでもよいけど、この二人、何気に仲が良いな。
ヴィヴィが、お姉さん風を吹かしているのが、見ていて面白い。
実年齢はずっと上だと思うけど、精神年齢は同じくらいなのかな?
おっと、雨が降ってきた。
すぐにお屋敷に入ろう。
アヤノさんが、前にオレが渡した雨避け用のローブを被った。
すぐ近くだから、いらないよ。
濡れたら乾かすし。
っていうか、そのローブ、どこに持っていたの?
『アイテムボックス』の魔法、使えるの?
「あ、これは女神様に頂いた道具の機能です」
「女神から?」
「はい。『女神の腕輪』といいます。わたしを危険から護るそうなんです。
それで、これはわたしが持ち物を紛失する危険から護るために、その持ち物を収納してくれる、という機能です」
?
なんだ、それ?
ずいぶんな拡大解釈だな。
「そうなんです。わたしも驚きました。でも、そのおかげで、いろいろ助かっています」
そういえば、彼女に男が触れたら、酷い目に遇ったとか、なんとか。これのせいなのか。
「他の日本人も、そういう道具を持ってる?」
「はい。剣とか盾、鎧などの、武具をもらったみたいです。一人一つずつですけど」
それは羨ましい。オレも欲しい。
……って、そういえば、オレももらっていたな、『神のボクサーブリーフ』。
高性能のはずだけど、下着だから、イマイチ実感できてないんだよね。
いや、これ一枚で済んでいるから、他に下着を買わなくて助かっていますけど……。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
そうだ、これは優秀な防具なんだ!
なんせ、男にとって最悪の急所攻撃を防げるからな!
ふはは、どうだ、凄かろう!
「うん、なんでもないんだ」
なんか、虚しい……。
お屋敷の中に入ると、クライネ師匠が待ち構えていた。
「遅いぞ!
……うん? 何かあったのか?」
アヤノさんに目を留めた師匠は、怒気を収めて聞いてきた。
察しがよくて、助かります。
「申し訳ありません。いろいろありまして……。
ジーク師匠はどちらですか?」
出迎えてくれたレベッカさんにお茶をお願いして、オレたちは居間に行く。
エリーゼさんには、ジーク師匠を部屋から呼んできてもらった。
全員揃ったところで、アヤノさんを紹介する。
事前にアヤノさんには、口止めをしてあるので、迂闊なことは話さないだろう。
それでも最初は、オレから説明することにしよう。
かくがくしかじか、と話す。
「ふむ。記憶喪失のお主と似た顔立ちの少女、か。
確かに、似てはいる……か?」
「言われてみれば、という感じじゃな。同じ民族ではあるじゃろう。
ラムダはどうだ? 話してみたんじゃろ? 何か思い出せることはあったのか?」
「いえ。そのことで、師匠にお聞きしたいことがありまして……」
そう。長く生きている師匠たちなら、異世界召喚のことを知っているかも、と考えたのだ。
ま、ダメで元々ってやつなんだけどね。
アヤノさんが自らに起きたことを話していく。
しかし、端から聞くと、かなり荒唐無稽な話だね。とても信じられないよ。
ラノベの異世界転移した主人公が、自分のことを隠すのもよくわかる。
っていうか、オレも隠しているな……。
そんなテンプレ主人公みたいなことはしたくなかったけど、オレの場合、【不死】があるから、話しにくいんだよね。
言い訳だけど。
そんなことを考えているうちに、アヤノさんの話が終わった。
なんか、師匠たちの顔が険しいけど……どうしたんだ?
「むぅ……。聖王国め……。協定を無視して、またもややりおったか」
「あれは、言うだけ無駄じゃな……。もはや、滅ぼすしかあるまい」
「いや、今戦争を仕掛ければ、矢面に立たされるのは、召喚された勇者たちじゃ。
彼らに、罪はない」
「そうは言っても、これでは、やったもん勝ちではないか!
あたしたちが前にどれだけ苦労したか……!」
「いくらジジババが過去の苦労話をしても、今を生きるものには、さほど伝わらん。儂らとて、そうじゃっただろう」
「むぅ……」
えっと……。この人たち、過去に何があったのですか?
「儂は一度戻って、報告してくる。
早めに知れて、運が良かったと思おう」
そう言うやいなや、ジーク師匠は転移魔法を唱えて、消えていった。
あれ?
なんか、大事になってないですか?
「あの……クライネ師匠?」
ソファにもたれて、額を押さえていたクライネ師匠は、天井を見上げて、溜め息を吐いた。
「……ふぅ。アヤノ、といったか。大変じゃったな」
「え? いえ、わたしはラムダさ──様に出会えたので、運が良かったのだと思います。
だから、その、そんなに大変だったわけでは……」
「そんなことはなかろう。
この世界に住まう者として、謝罪させてもらいたい。この通りじゃ」
そう言うと、クライネ師匠はアヤノさんに頭を下げた。
「いえ、あの……頭を上げてください。わかりました。わかりましたから……それよりも、事情を聞かせてください。お願いします」
慌てふためくアヤノさんに、クライネ師匠は頭をゆっくりと上げて、しっかりと視線を合わす。
「そうじゃな……。どこから話したものか……」
んー?
なんか、オレって、空気みたいになってない?
まぁ、良いけど。
無関係みたいなふりして、話を聞こう。
それによって、立ち回り方を決めなきゃならないからね。




