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119話 綾乃2

「わたくしの世界を救って下さい」


 わたしの目の前には、絶世──いいえ、傾国の美女がいます。

 その美女が瞳を潤ませて、懇願してきました。


 周囲を見ると、何もかもが白いです。

 塵一つない、白すぎる空間。

 神秘的と言えば、そうなのかもしれませんが、少し目が痛いです。

 綺麗すぎるのも、考えものですね。

 それは、目の前にいるこの美女にも言えますけど。


 同性であるわたしにはわかります。

 これは、命令することに慣れた女です。

 そして、その命令を拒絶されたことのない女でもあります。


 もし、仮に拒絶されたとしたら、何をしてくるかわからない。

 それが、異性である男性なら、なおさらです。

 報復することに躊躇いなどなく、それを当然のこととすら考えるでしょう。

 わたしは女なので、まだ良いのですが。


 ただ一方で、自分の命令に邁進するならば、とても優遇し、支援するタイプでもありましょう。

 正確には、支援する自分に酔いしれている、とも言えます。

 命令だけして、後は放置するタイプよりは、マシかもしれませんけど。


 この場合、下手に問答すると、かなり面倒なことになりそうです。

 黙って話を聞いているのが、得策だと思います。

 一方的に、勝手に喋ってくれますからね。

 徹頭徹尾、自分優先なだけですから、扱いを間違えなければ、付き合いやすい方だと思います。




 はい。

 大体、理解しました。


 どうやら、世界に危機が訪れたので、現地の王族がなんとかできる存在を召喚しているようです。

 それを目の前の美女──女神様が地球から呼び寄せ、送り込もうとしているところでした。


 送り込まれるのが、わたしを含めた他数名のようです。

 たまたまなのか、何らかの条件があったのかわかりませんが、何故、わたしなのか? 迷惑な話です。


 これなんてラノベ?

 そう思いながら、女神様の要請(という形の強制命令)に了承しました……せざるをえませんでした。


 まさか、わたしが異世界に行くことになるなんて……。

 わたしなんて、ただの女子高生ですよ?

 そんなラノベの主人公みたいな真似できませんし、したいとも思いません。


 こうなったら、主人公ポジションは他の人にやってもらいましょう。数名いるようですし、一人くらいはそれっぽい人がいるでしょう。

 わたしは、陰でコソコソして、なんとかして生き永らえたいと思います。


 そのためには、女神様と交渉ですね。

 必要なのは、情報と物資、それと可能ならチートな能力ですね。

 できれば、全部欲しいですが、妥協も必要です。

 あまり欲しがると、女神様の機嫌が悪くなって、全てご破算になってしまうかもしれません。

 そうならないように、交渉は頑張りましょう。




 わたし、頑張ったと思います。

 いろいろゲットしました。


 まずは、日本に帰れることを確認しました。

 目的を達したら、時間を戻して──つまり、仮に異世界で三年経っていても、現在の一七歳の夏に戻れるようです。

 でないと、大変なことになってしまいますからね。

 もし七年も経ったら、行方不明者は死亡したと見なされます。それでは、日本に戻れても意味がありませんよ。

 ここはハッキリさせないと。


 次に物資です。

 といっても、一つだけです。

 残念ですが、その分、破格の品をもらえたと思います。


 『女神の腕輪』です。

 その性能は、身に付けている者を危険から護る、だそうです。

 かなり曖昧な感じですが、逆にその曖昧さが良いそうです。

 まぁ、そこは女神様を信じましょう。

 わたしに何かあれば、困るのは女神様の方ですからね。


 それから、チート能力です。

 ダメかと思いましたが、二つ返事で頂けました。

 むしろ、ないと簡単に死んでしまうような世界だそうで……。

 そんなところに送り込むなよ、と思いましたが、言っても仕方ありません。諦めましょう。

 ただ、具体的にどんな能力かは、行ってみないとわからないそうです。

 よくわかりませんが、そういうものらしいです。多分、女神様もよくわかってないと思います。


 情報が一番欲しかったのですが、これがほとんどダメでした。

 女神様は、世界にあまり干渉されないので、よく知らないそうです。

 行った先で調べるしかないですね。

 役に立ちません、全く。


 ただ、朗報が一つ。


 異世界に行くのは、わたしがいた地下鉄の駅周辺にいた人々──たまたま、あの辺りにいた運の悪い数名が、選ばれたそうです。


 だとすると、階段から落ちたわたしを助けてくれた男性もいる可能性が高いです。

 会えたのなら、お礼を言わなければ。

 一つ、目的ができました。

 しっかり、覚えておきたいと思います。


 では、行きたくないですけど、行きましょうか。






 ◆◆◆◆◆






 あれから、いろいろありました。


 異世界に到着し。

 会いたかった人が居なかったことに、ショックと安堵があり。

 わたしたちを召喚した王族に会い。

 彼らの話を聞いて、疑問を持ち。

 調べていたら、投獄され。

 そこから逃げたら、奴隷にされ。

 奴隷のわたしを買おうという人が、会いたかった人だったので、安堵とショックがあり。




 わたしの心は、千々に乱れています。


 わたしは、どうしたら良いのでしょう?


 わたしは、どうするべきなのでしょう?


 わかりません。


 わからないので、とりあえず、この人についていこうと思います。


 考えることに疲れました。


 少し休みたいです。


 今はただ……おやすみなさい。


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