どうせなら一緒に
「……これ、何?」
「何って朝礼と午前の授業で配られた配布物だよ。午後から来たはいいけどまるまる置いて帰っていたから持ってきたのさ」
ネロは記憶を辿る。そう言えば今日机の中を全く見ていない。遅刻の連絡をしていたから来た時に受け取れるよう机に入れてくれていたようだ。
しかしネロは授業中も授業の用意を出して仕舞っただけで机の中は見ておらず、校長先生に呼ばれているからとさっさと帰ってしまったのだ。当然配布物は机の中である。それをわざわざスレイブ寮までジースが持ってきてくれたのだ。
「なるほど……、そういうことか。それなら確かに置いて帰ってるな。ジースが持ってきてくれたんだな、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ僕はそのために来ただけだから帰るね」
帰ろうとするジースをネロは呼び止めた。偶然にもジースは同じパーティである。せっかく来てくれたのだから『聖獣伝説』を一緒に読むのもいいだろう。
少し困惑した表情のジースを座らせネロは再び『聖獣伝説』に手をかけた。するとその瞬間ノックが聞こえた。今度こそキダルである。全員の視線が集中したため扉の前でキダルは困惑顔だ。ええい、全員で見れば良かろう。空いた場所にキダルも座らせて、ネロは三度『聖獣伝説』に手をかけた。
遠い遠い昔のこと、まだ世界には何もなかった。そこへ一柱の神が雷と共に舞い降りた。雷は光を作り、闇を作った。それから神は火を風を水を作った。それは全て混ざり合い小さな星が生まれた。
大地が生まれ、海が生まれ、空ができた。やがてそこに生命が芽生えた。神はその生命を優しく掴み、自分の作ったものに吹き込んだ。
火は鳥に、風は虎に、水は龍に、闇は亀になった。光は全てが混ざり合った不思議な生き物になった。神は生まれた生き物を聖獣と名付け、世界を任せた。そして神は眠りについた。
聖獣は幼く、何をすれば良いのか判断がつかなかった。世界は滅茶苦茶になり、混沌に包まれた。やがて神が目を覚ました。混沌を見て悲しみ、怒りを覚えた。神は世界を壊してしまった。また作り直せばいい、そう考えていたからだ。
聖獣たちの力を混ぜ、神はまた世界を作り上げた。今度の星は前よりも少し大きかった。聖獣はまだ幼く、世界はまた滅茶苦茶になり、混沌に包まれた。そうして神はまた世界を壊してしまった。
聖獣たちの力を混ぜ、神はまた世界を作り上げた。今度の星はさらに大きくなった。そして聖獣たちにどうすればよいかを説いた。聖獣たちはそれぞれで理解し、それぞれの役割を果たした。世界は安定した。それを見届けた神は安心してまた眠りについた。
ここまで読み終えたネロは「何だこれ……」と呟いた。これは世界の始まりの話であろう。だから規模が大きくなるのは分かる。だがあまりにも規模が大きすぎる。そもそもここに出てくる神は何者なのだろう?
とりあえずこれを読んで分かることは聖獣とは何かということだけだ。聖獣は神の使い。作り上げられた世界を安定させるために、滅茶苦茶になってしまわないようにそれぞれで守っているのが聖獣なのである。
となると途端に幻獣研究所の存在が謎になってくる。彼らはスザクを神と呼び崇めていた。だがこれを読む限りではスザクは神の使いであり、神ではない。
とりあえずスザクについて知るためにネロはスザクのページまでめくった。
スザク。火属性の聖獣。体長は5メートル以上あり、体の表面温度は1000度をゆうに超えるという。一度はばたけば、丸3日はばたき続けられる体力を持つ。自らの炎で燃やした体は生まれ変わったように蘇る。その性質から不死鳥と恐れられている。
「……5メートル? そんなに大きかったかな」
キダルはそう言って首を捻る。キダルもまた幻獣研究所でスザクを見たひとりだ。ネロは幻獣研究所にいたスザクの姿を思い返す。大きな体だったから必然的に見上げる格好になる。……確かに大きかったが5メートルもない。せいぜい2メートルほどだ。
だが一致している特徴もある。スザクはあの時自分で自分を燃やし尽くし、そして復活した。そしてケイは神は何度でも何度でも蘇るのだと言っていた。それはここにある記述通りだ。
「……まあ、あのスザクはケイとやらが魔法で擬態させたものにすぎません。よく似た偽物と思うことにしましょう」
「確かにな」
「そもそも本物だとしたらあの狭い空間には入りきらないんじゃない?」
そう指摘したのはキダルだ。ネロはあの時の部屋を思い出し、思わず少し吹き出した。確かにあの狭い空間だったら5メートル以上の体は到底収まらない。体長を半分以上に小さくしなければ部屋が壊れてしまう。最初からそのつもりがなかったと考えた方が無難だろう。
「……ねぇ、ネロ」
「ん? どうした?」
「さっきから見たことあるような口調だけど、ネロはスザクに遭ったことがあるの?」




