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82話:子爵夫人の宴

 七人の賊を引き連れ王都に戻ると、またパーティとなった。


「ボルボーの殿下の勇士を讃えて!」

「乾杯!」


 理由は同じく北の刺客を撃退したこと。

 やり方はともかく、五人を捕まえ、負傷のため国境近くに潜んでいた二人も捕まえた。

 報告とボルボーへの移送のため王都に連行したところ、エルミーヌさまの耳に入りこうして祝勝会のガーデンパーティが開かれたのだ。


 一時帰国すると聞いたエルミーヌさまによる、ロジェへの盛大な送り出しでもある。

 ずいぶん気に入られたものだ。


「狙われたイレーヌ嬢を守って撃退されたとか。ボルボーの黒太子の武勇、この目で拝見したかったものだ」

「それでも諦めない北の者たちを罠にはめた知勇と手並みも素晴らしいものだったと聞いておりますわ」

「怪我をしたイレーヌ嬢を庇って奮起なさった姿は、まるで騎士物語のように勇壮でいらしたとか」

「あなたの勇ましさが我が息子にも備わっていれば良かったが。いや、ボルボーの陛下は将来安泰ですな」


 落とし穴の下りは伝えず概要を説明したところ、基本的にロジェの活躍ばかりになったのだ。

 女装で聖女のふりで脅かしたなんて、さすがに貴族相手には顰蹙もの。

 当の聖女であるラシェルなら笑ってくれるかもしれないけれどね。


「本当にエルミーヌの集まりは派手ね」

「アンナさま。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


 招待客のアンナさまは礼を取ろうとする私を片手で制する。


 日差しの明るい昼下がり、庭に机を並べてにぎやかな祝勝会。

 庭の中心は四阿だけれど、話題の中心はエルミーヌさまが連れたロジェだった。


「足を挫いたそうだけど、痛みはまだおあり?」

「お気遣いありがとうございます。自分で治しましたので平気です。けれど、なるべく動かないようにしようかと…………」

「という言い訳で馬鹿騒ぎを避けて壁の花なのね。よろしいのではなくて?」


 建物の影に佇む私は、アンナさまの言葉を否定できない。


 エルミーヌさまの集まりはともかく騒ぐのだ。

 話題を提供し、即興で詩を作り、その場で歌い出すなんて序の口。

 踊り出すのが当たり前で、たまに決闘騒ぎが起こったりもする。


「まぁ、今回の目的は大々的に喧伝することですからいいのだけれど」

「急なことにもこれほど集まっていただけるなんて。エルミーヌさまのお力はすごいですね」

「あら違うのよ」


 アンナさまは含みをもって否定した。


「今年の社交期は散々ですもの。何処も良き集まりになっておりません。ここはその鬱憤を吐き出し、社交界はまだ健在であるのだと見せつける場となるでしょう」

「…………あぁ」

「侯爵家周辺のお家は領地か自粛で数と質は目減りしております。あなたのお家は継嗣関係でごたごたで若手もなかなか参加に慎重で」


 う、パトリックのせいで。

 ひいては口を挟んだ新王のせいで。


 って、あら?


「そう言えば舞踏会の話を聞きませんが」


 社交期ともなれば王家が主催しなくとも、城で華やかに夜会が行われる。

 けれど私が知っているのは古風なドレスを着て行ったあの時のみだ。


「開いておりませんもの」

「え?」

「あの後の同伴者についての議論は知っているでしょう」

「はい、責めるほどに意固地になっているとか」


 シヴィルの王妃擁立は無理だと大臣たちは訴えた。

 けれど反対されるほど新王とシヴィルは恋愛に熱を上げているそうで、比例するように消費される遊興費に官僚たちも頭を抱えているとか。


 財務の男爵がストレスで酒に逃げているとお父さまから相談を受けた。

 私の回復で一時的に和らげても根本的には快復しないのだけれど。

 ただ男爵の苦しみようから何かしら散在する会を開いているものと思っていた。

 ドレスにしても見せびらかす場がなくては作るだけ無駄だし、シヴィルの性格から作って終わりなわけがない。


「あの失敗がよほど嫌だったそうよ。舞踏会も夜会も開きたがらないの」

「相変わらず、打たれ弱いですね」


 ラシェルへのドレスの件も同じだ。

 嫌がらせで恥をかいて以降、ラシェルにドレスを贈ることはなく謝罪もなし。

 見ないふりで逃げたのだ。


 その代わりに尻拭いをしていた先王がいない今、誰も新王の失敗を挽回させない。

 社交期に国王が主催しないなど、他国から何を勘繰られるか。

 ましてや舞踏会や夜会は接待の場でもある。

 友好国からの心象も悪くなる一方だろう。


「…………あの、まさかそれで?」

「えぇ、そうよ」


 碌でもない推測に顔を顰めてしまった私に、アンナさまは無表情で応じた。


 気づかれないようこっそり同じ方向に目を向ける。

 視線の先には四阿があり、会場の中心ではあるけれど賑わいは微妙だった。


「他人の主催する集まりに来ては、あのように主役気取りでいらっしゃるのよ。恥知らずなことでしょう?」


 唯一椅子のある四阿に陣取っているのは新王とシヴィル。

 それを見るアンナさまの視線は痛いほど冷たい。


「エ、エルミーヌさまが招待を?」

「陛下のお申しつけであればお断りはできません」


 周囲に集まっているのは新王やシヴィルの取り巻き。

 けれどアンナさまの言い方だと主催のエルミーヌさまに招待されたのは新王のみのはず。


「同伴者はしょうがないにしても、四阿周辺の方々は?」

「さぁ? 何人か才能はあっても身分の低い招待客がいないとエルミーヌは怒っていたわね」

「あ、なるほど」


 きっと立場の弱い者から招待を横取りしたのだろう。

 それに怒ったエルミーヌさまは四阿に近寄らず話題の外に置いた。


 ロジェを捕まえて盛大に騒いでいるのもあてつけかしら。


「…………となると、あれは?」

「えぇ、そうね」


 私たちは一度逸らした視線をまた四阿へ向けた。


 そこには主役気取りで喋るシヴィル。

 言っている内容はいつものドレス自慢であり、追従する取り巻きは相槌ばかり。


 問題は新王だ。


「待っているんですか?」

「待っているのでしょうね」

「割り込んだのに自らが立てられると?」

「思っているのでしょうね」

「これがなんの集まりかは?」

「知らないはずがないのですけれど。わたくしよりもイレーヌさんのほうが、あの方の思考は想像できるのではなくて?」


 できません。なんて言っても意味はないわね。

 考えてみましょう。


「もしかしたら叙勲などの定型文を真に受けている、ということはありませんか?」

「あの自らの功績は王あってこそと返答する、叙勲に際しての?」


 叙勲が行われる時、国王は勲功を褒めたたえて、手ずから勲章や褒賞を与える。

 受け取る側は答礼として国王を褒めたたえて謙遜し受け取るのだ。


「そういう常套句はありますけれど、ボルボーの殿下でしてよ? ましてや陛下はなんの褒賞も与えてはいないというのに」

「エルミーヌさまという臣下がもてなすことが、ひいては国を宰領する者による褒美、などとボルボーを属国と思っているのならありえるのでは?」


 私の言葉を否定できないアンナさまが天を仰ぐ。


 何故国内で勲功を上げた者が叙勲もしていないのに感謝すると思っているのか?

 さらには他国の王子を捕まえて礼を言われる立場だと思い上がるのか?

 他人の手柄を横取りできるとナチュラルに思える傲慢を恥じる気はないのか?


 色々言いたいことはあるけれど、他所でやってほしかった。


毎日更新

次回:新王の不満

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