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57話:新王の迷走法案

 王都で新王が税に関する改革を発したと聞いて、トリスタンがまず否定の声を上げた。


「まさか!? それこそ議会を通さずして成しえない」


 私も同意を示して頷く。

 税は土地持ち貴族の収入源でもある。

 税制に関しては、議会を作る際に貴族たちが国王でも簡単に手を入れられないように決めてある。


 ただロジェに今嘘を吐く理由なんてない。

 では議会を通さず新王が裁量権を持つ税とは?


「…………そうか、唯一陛下が自らの裁量で取れる税、王領の税ね」

「イレーヌ正解」

「嬉しくないわ。どうしてそんなことに?」

「どうも、軍を掌握したせいで軍の動きが鈍くなった。その分負傷者や装備の摩耗が激しく、軍事費の追加を要請されたらしい」


 財政が厳しくなった理由を説くロジェに、トリスタンは考えを口にする。


「正直魔物はじわじわと増えていますからね。変異種も強い個体が報告され始めています。損耗を抑えて短期で犠牲を少なく済ますにはそれこそ軍の迅速な対応が求められるでしょう」

「結果、軍を丸抱えしたあの新王が割を食ってるんだから笑うしかないな」

「笑いごとではないわ、ロジェ」


 私が睨むとロジェは肩を竦めた。


 我が領に魔物報告があるのは、近隣の国境領主と協力して兵を貸しているからだ。

 その兵からの報告でトリスタンは現状を把握している。

 つまり損耗しているのは国軍に限った話ではない。


「で、えーと、軍が間に合わずに領主のほうから出した兵の損耗分を補填するようにも言われてるらしい」

「国軍と協力しろとも何も命令がないままなので、領主側からすれば軍が動かない限り手を出せない状況です。本来なら命令を受けて動いた分の補填を国が行うのが今までの慣例です。命令がないまま動いたけれど、慣例に則り請求したと言うところでしょう」


 トリスタンの説明にロジェは納得した様子をみせる。


「あぁ、そういうことなのか。その勝手に動いた領主の補填を国王が断ったせいで、国軍が町や村で補給や駐留を断られる案件が出て来たらしい。で、食料や燃料の調達に人と馬がかかってさらに軍事費が目減りしたんだとか」

「領主に補填分を払うほうが安く済むでしょうね。けれど、一度否定した案件を取り上げて、さらに領主に己の非を認めるなんてこと、あの陛下はしないでしょうし」


 求心力がないことをわかっている。

 だから晩餐会や舞踏会で派手に立ち回ろうとして反感を買った。

 さらに舞踏会の一件でシヴィルを切れず、余計に決断力がないと失望されている雰囲気は感じ取っているのだろう。


 だからと言っていきなり税関係というナイーヴな問題に手を出すなんてなしよ。


「税収を上げたい理由はわかりました。けれど何故王領の増税なのでしょう? 軍の摩耗が問題なら募兵などをするのが先では?」


 トリスタンがまともすぎて、もしかしたら王の才能があるのかもしれないと思ってしまう。


「俺も聞いただけだから考えはわからん。だが、自らが率先して先頭に立つことで貴族たちに模範を示すとかなんとか。まぁ、その割に王室の国費減らすつもりはないようだと何処かから愚痴も聞こえたけどな」


 議会を無視する新王が、税について議会にかけても通らない。

 まずは非を認めて謝れと言われるのが目に見えているけれど謝りたくはない。


 だから他の貴族も同じことをしろと王領の税制を動かした?


「模範と言うならもっと他にすべきことがあるでしょう」

「というか、それで増税される王領の民に心を馳せないあたりがあの方ですよね」

「絶対増税だけを命じて、その分民の不満を和らげる政策なんてしてないわ。計算の上だけで考えて命令だけしているのよ」


 足りない数字を補填して、全体の帳尻が合えばいい。

 勝手に補填だと言って苦労を強いられる人間がいることなんて考えてもいない。


「元から自分の考えに執着する方でしたけど、周りが同じような人間で固まると本当に偏狭なことになりますね」

「すごい知ったように言ってるが、二人は王太子の頃から仲がいいのか?」

「「まさか」」


 トリスタンと一緒に答えて気づく。

 ロジェという部外者がいる場だったと。


「こほん、失礼」

「いや、面白い話を聞かせてもらった。やっぱりあの兄貴よりも弟のほうがイレーヌには似てるみたいだな」


 トリスタンはそんなことを言うロジェを見てから、私に手を向けた。


「イレーヌは僕よりずっと賢く才気溢れる淑女です。父もイレーヌが男子であったならと零すほどなので、似ているなどおこがましい」

「トリスタン?」


 ただで褒めてくるような弟ではない。

 それにお父さまからそんなこと言われた記憶がない。

 いっそ、自分に似ない女の子で良かったと言われたほどだ。


 私が声をかけると含みのある笑顔でトリスタンは続けた。


「いっそイレーヌが一族から婿を取って公爵家を継いだらいいと思いますよ」

「それは駄目だ!」


 私より早くロジェが割り込んだ。


「何が駄目なんですか? 部外者は引っ込んでいてください。だいたい、イレーヌを国外に出すわけないでしょう。身分違いです。不釣り合いです。家同士の利害がありません。お引き取りください」


 笑顔で畳みかけるトリスタンに、ロジェは指を突きつけた。


「イレーヌ、前言撤回。こいつ性格悪いわ」

「私もいいほうだとは思わないけれど、普段トリスタンはここまでじゃないのよ?」


 大抵のことは穏便に済ますのに。

 怒鳴る長兄に口数の多い長姉の下にいるせいだとは思うけれど。


 トリスタンは突きつけられたロジェの指へ、うるさそうに手を振る。


「あなたに相応しい対応をしたまでです。イレーヌ、こういう相手は諦めるまで毅然と言い続けなければ調子に乗ってのさばるだけですよ」

「それは、そうかもしれないわね」

「イレーヌ!? そりゃないだろ。こんなに従順な俺、国許の奴が見たら笑うぞ! あ、そうか。ちょっとくらい押しが強いほうが」

「やめなさい。イレーヌに近づくな。椅子に戻れ」


 ロジェが動こうとするのを今度はトリスタンが指を突きつけて制した。


 そんなにはっきりものを言うトリスタンに、私は少し安心する。


 パトリックは舞踏会の件ですでに謹慎を言いつけられ、継嗣の座を降ろすことも通告されていた。

 そこまではっきり言われたのを受けて、動いたのがパトリックの妻でありシヴィルの姉カロリーヌ。

 パトリックにお父さまに従って今は謹慎をすべきだと説得したと聞く。

 これでお父さまが息子可愛さに手を緩めても、トリスタンと引き比べれば公爵家のためにはどちらが継嗣であるべきかわかってくれるだろう。


「…………馬鹿じゃないのにどうしてパトリックなのかしら? 御しやすかっただけ? ただ大人しくしてるだけなら略奪なんてしないわね。引き離しも視野に入れたほうがいいかしら」


 私の呟きにロジェとトリスタンが動きを止めた。


 あら、恥ずかしい。

 ここで言うことではなかったわ。


「ちょっと家のことについて話します。部屋は用意してやるので引っ込んでいてください」


 どうやらトリスタンは誰のことを言っているのかわかったようだ。

 同時にロジェも自分では入り込めない話題であると悟った様子。


「あーあ、本拠はさすがに硬いな。ま、王都に戻ったらまた攻めさせてもらうさ」


 そんな世迷言を残し、ロジェは使用人に案内されて部屋を後にした。


毎日更新

次回:したり顔

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