31.浮かぶ巨石と、お礼の大金。
領主のマキタ、リース、そして護衛の面々が並ぶ中、
ずずいと一歩前にでる私。
目の前には、高さ2m、幅3mはあろうかという巨石。
これは、人が押してもビクともしないわけだ。
全体を包み込んで、岩が持ち上がるようイメージする。
ぐぐっ、とな。
体からスッと魔力が抜ける感じがする。
微々たるものなのだが、今までこんな感覚はあまりなかった。
初めの頃に魔法を使って以来かもしれない。
重い物だと、それだけ魔力も使うのだろうか。
何はともあれ、巨石は私の前にふわりと浮き上がっている。
ならあとは小さくするだけ。
ギュギュッと力を込めて、小さな珠に閉じ込める。
ビー玉サイズに圧縮して、カバンへ放り込んだ。
「終わりましたよ。」
くるりと後ろを振り返ると、マキタが乾いた笑顔で突っ立っていた。
「期待はしていたけど、まさかこんなにあっさりと……」
「自分でもできるかどうかわかりませんでしたが、
やってみたらできるものですね。」
「と、とにかく、ありがとう。これで王都への道を復旧できる。
お礼については戻ってから改めて話そう。」
それから、マキタは状況の調査、復旧の指示をテキパキと終わらせ、
私たちは一度屋敷に戻ることにした。
驚きつつもやるべきことはしっかりこなす、ナイスガイでした。
私には到底できる気がしない。
屋敷に帰った私に用意されたのは、
机にこんもりと積まれた金貨の山だった。
「えーと、マキタさん。この金貨は。」
「ああ、今回の報酬だ。金貨二百枚を用意した。」
金貨って、一枚で十万円相当だったよね。
ということは……これでおおよそ二千万円。
にせんまんえん………。
「いくら何でも多すぎではないですか。」
お金は大好きだが、対価に不釣り合いな大金を得るのは怖い。
「そんなことはない。君がいなければ、あの岩に対処するために、
もっと多くの費用を要しただろう。それは正当な対価だよ。」
「そ、そうですか。で、では、遠慮なく。」
黄金の匂いは魂をとろけさせる。
頭がクラクラしながらも、とりあえず圧縮してカバンにしまい込んだ。
「では、私はこれで失礼します。」
大金を持ったままうろつくのは落ち着かない。
早く家に帰って、なんとかしたい。
「そうか。それでは送りの馬車を用意しよう。」
「いえ、大丈夫です。帰りは一人で帰れますので。」
「町まで歩いて戻るつもりかい。危険だし、かなりの距離があるから
それはよしたほうがいい。急ぐなら馬車はすぐに用意するから。」
「ご心配なく。帰る手段はあります。」
そういって、私は体を浮かせてみせる。
「それでは、これにて失礼します。」
一礼したのち、空中に飛び上がり、高速で森へと飛び立った。
マキタとリースは、飛び去った私を、あんぐりと口をあけて
見つめていた。
「まさか空まで飛べるとは。あの子は一体……。」
「そういえば、飛び立つ不思議な少女の噂も町で耳にしました。
おそらくは……」
ハッとして、口を閉じたリースが応じる。
一方、私はといえば。
人前でむやみに魔法を使わない、ということなどすっかり忘れて、
お金をどうしようかと頭がいっぱいだった。
やはりお金は人を狂わせる。
家にたどり着いた私は、小分けにした金貨を
色々な場所に分散して隠してまわり、
「これだけ大金があったら、もう働かなくていい!」
と、自堕落な日々への期待を膨らませていた。




