#4 母と娘 Мать и дочь
「巨人の尾のこれまでの試算結果がこれです。」
DG—TPの事務所内の壁に、いつものワイヤーボールが映し出された。巨人の尾のインターフェースDWはQCOM標準ではなく、露国独自規格。
光る線を組み合わせ、地球上の行政単位と地形が描かれ、その上がさらに六角形の蜂の巣模様で埋められている。
世界各地の黄六角と青六角、そして赤六角の三色が散らばる様は壮観だった。これだけのTFP発現を試算し、またリアルタイムで試算状況を更新する『巨人の尾』・量子コンピューター群ネットワークによるTFP試算データベースの凄さと、各地でこれを運用するナスターシャのようなオペレーターの役割の重要性を、皆、再認識した。
ただし阿部司令以外。
震次郎は連日のアルコール不足を急速解消した結果、早々に酔いつぶれ、事務所奥の応接ソファーでノビていた。
「四時間前にФН国内のTFPが発現しました。蚩尤の骨は主要軍事拠点等に分散配備されているので、スルーだろうと試算してたんですが、何の気まぐれが、今回は積極的に処置されてしまいました。結果、露国内に赤六角が出現。三〇分前に熊の爪がその処置に失敗したため、試算結果がさらにまた変わりました。」
ナスターシャが説明した。
事務所内にはほろ酔い加減のしずえと本郷、そしてキャシーとナスターシャしかいない。サクラ以下三人のDGクルーはさっきの同報QWを北上川河口上空で受け取り、慌てて帰投中だった。
「ごらんのように、石巻市を含む三〇キロ圏が赤六角。」
ナスターシャが拡大して見せた赤六角は、石巻市を含む地域で、今日サクラたちが向かった石巻赤十字病院も蛇田域も、花火を打ち上げていた住吉公園も含まれていた。
「よりによって川開きの日に……。」
しずえが色っぽいため息をついた。「キャシー、石巻市の防災窓口に予鈴。赤六角緊急度E、二四時間以内にTFP発現、避難勧告を。」
キャシーはすぐ、ずらりと並んだ電気通信端末風端末の一つに飛びつき、石巻市防災窓口に音声で呼びかけた。
「発現場所はまだはっきりしませんが、早急に避難を……。え? いや? そんな……。」
キャシーは通話の途中で当惑顔になり、目線だけでしずえに助けを求め、最後には通信端末のマイク部分を手で押さえた。
「日本政府と正式契約していないことを知っています。……川開きを中止する訳にはいかないそうです……。」
「じゃぁ好きにすればいい。」
と、ナスターシャ。言いながらスルーした場合の試算を映し出した。
「スルーした場合、大きな影響無し。処置した場合は、逆に三陸沖に黄六角出現。避難勧告は助言しました。このままスルーすべきです。」
「そんなことをすれば、どれだけの人的物的被害が出るか……。だいたい、田代島に起きないとも限らないのよ。」
しずえが言った。「でも川開きを中止しないでTFPを止めるって言っても、ねぇ。」
「三〇キロ圏内を二四時間飛び続けて監視する燃料なんてどこにも無いですよ。」
本郷が言った。「中心はどこ?」
「正確じゃないですが、日和山HrRCの南、南浜慰霊森林帯。北は登米市、西は大崎市、仙塩域まで。田代島はおろか金華山も三〇キロ圏内です。確かに、どこに避難するのか、という話になります。」
ナスターシャも眉をひそめて考え込んだ。
「副司令、指示を。」
と本郷。
「わたし副司令じゃないわ。強いて言えば司令夫人。……じゃぁキャシー、こう伝えて。」
司令夫人の指示は、仁斗田の港の真ん中、RNF漁研の前に緊急着地し、事務所に飛び込んできたアマノヌボコの三人にも伝えられた。
「え〜? DG—TPが川開きに出るの?」
事務所の奥、飲んだくれて寝込んだ震次郎の様子をうかがっていたサクラは、驚いて応接ソファーから離れた。
「石巻市防災窓口には了承を得たわ。住民を避難させず、川開きを中止せず、しかしTFPを迅速に処置するための妥協策。」
キャシーが戻ってきたサクラに改めて説明した。「アマノヌボコを石巻域旧石巻駅前の旧市役所跡地脇のにぎわい交流広場、あそこに常時展示しておく。で、TFPの場所を見極めたら、広場から直接飛び立ってTFPを処置する。DCはわたしとナスターシャが広場でそのまま仕切るから、避難誘導要員でゲルトルーデとアサミを連れて行って。あと、司令夫人も一緒に行くって。」
「え? しずえさんも?」
「わたしが行っちゃ何かまずい?」
声の方を振り返ると、事務所の出入り口にしずえが立っていた。いつの間に着替えたのか、黒いDGスーツ姿。
普段はそれほど目立たないが、こうして見ると意外とスタイルが良い。着やせするタイプなのか、キャシーにも負けないほど豊満な体の線が、黒いDGスーツで強調されていた。
「川開き、誰も見てないからこっそり遊びに行っちゃお〜、とか思っちゃってたりして?」
「う……。」
図星だった。
「このスーツ久しぶり……。太ったかな? 胸が苦しいわ。」
うろたえ口ごもった娘をそのままに、しずえは事務机の椅子に苦しそうに座り、脚を組んでジャケットを外すと、ノースリーブのインナーから白い肩がさらけ出された。
「広場はフリーマーケットの会場になってるだけだから、明日の朝、早めに下ろして。寝坊は駄目よ。旧市役所から電源も借りるよう手配してあるから。」
「を〜!」
ふいに声が上がった。「しずえさ〜ん!」
見れば、目を覚ました震次郎が応接ソファーから起き上がり、千鳥足でしずえに向かって突進してきていた。
「久々、ボンテーーーーーーー!」
飛びつき抱きつこうとした震次郎に、椅子に座ったまま組んだ脚を素早く繰り出しキックを食らわせた。
「ジ姿が素敵よっ……て言いたかっただけなのよ……。」
キックは見事、震次郎の腹に決まり、震次郎はそのままばたりと仰向けに倒れた。
ゲルトルーデはあまりのことに車椅子から飛び上がり、キャシーもサクラも言葉を失った。
「武士の情け、急所は外したわ。サクラ、タオルかけといてね。風邪引くといけないから。」
ゲルトルーデがどたりと車椅子にくずれ落ちるのと同時に、YMTEXPの作業着姿のアサミが事務所に入ってきた。
「電源確保完了や。RNF漁研から借りられた。明日朝には安心して出発できるで。」
事務所に戻るや本郷に捕まり、明日早朝の出発に間に合うよう、岸壁でそのまま充電するための電源確保に駆り出されていたのだった。
「本郷さんはそのまんま家に帰ったで。」
その眼鏡の下の瞳が少し泣きはらしているのは、誰も気づかなかった。
「アサミも明日、DGスーツで早出よ。わたしとゲルトルーデと一緒に、避難誘導するから。」
早朝、風を巻いて仁斗田港から離陸したアマノヌボコの羽衣の音で、震次郎は目覚めた。
気づけばDG—TPの事務所。なぜか冷たい床に寝ていて、体中が痛い。頭も痛いがこれは二日酔い。
羽衣の音が飛び去るのを追いかけるように外に出、まだ明け切らぬ田代の空を見上げていると、仁斗田港の方から本郷が上がってきた。
「司令が(こっちの世界に)いない間に状況が変わりました。」
本郷が報告した。「南浜慰霊森林帯を中心に半径三〇キロの範囲で赤六角です。石巻市石巻域にアマノヌボコを展開、そこにDCを立ち上げて対応します。自分と宝田は今日も網地島CL勤務なので、司令と久保田老でDG—TP秘密基地見学ツアーはやってください。」
「えー? えー? どうしてー?」
昨日のサクラの口調で震次郎が言った。
「あと、副司令からの伝言です。食事は勝手に何か食べて、だそうです。」
「えー? えー? まじでー?」
早朝の牡鹿半島上空を石巻域へ向かうアマノヌボコ。
コクピットの上には昨日同様、黄色いDGスーツに生脚のゲルトルーデ。
そのお尻の下、狭いコクピットはさらに狭苦しかった。サクラを挟んで、黒いぴちぴちのDGスーツで身を包んだしずえと、不本意そうなグリーンのDGスーツ姿のアサミが、左右のベンチに座っていた。
「意外と快適ね?」
しずえが物珍しそうに中腰になって上の耐圧窓から外を覗き見るので、操縦席のサクラは窮屈この上ない。
「でも、この女子運動部の部室みたいな匂いはお約束? 何か芳香剤置く?」
「汗くさくて悪かったわね。DGスーツっていちいち洗うの面倒なの。抗菌防臭繊維で作り直してよ。」
サクラが自分のDGスーツの袖口の臭いを嗅ぎ、うっと顔をしかめて言った。
「どうしてしずえさんまで乗ってくるの。キャシーたちと始発のNMM号で移動すればよかったじゃん。」
「考えてみて。出発遅らせてさ、もしDGスーツ姿見た震次郎が昨夜みたいになったら大変だわ。」
しずえが真面目な顔で言った。「それとも妹か弟、欲しい?」
「え? え〜! まじで〜?」
「サクラもDGスーツで外出歩く時は気をつけるのよ。男たちはこーいう、コスチューム系に凄く弱いから。」
言いながら、サクラのスーツの表面を優しく撫で上げた。
「く、くすぐったい、やめて!」
アマノヌボコがぐらぐら揺れた。
「もー何じゃれてんねん!」
アサミが反対側のベンチからときつく母娘に注意した。
日の出過ぎには石巻市上空に到着し、昨日は上空を通過しただけの石巻域へ向け、高度を下げた。
石巻域は、北上川を境に西、あるいは南の市街地の通称である。その西の端は北上運河あるいは州道45、南の端は石巻湾。
日和山HrRCも本来は含まれるが、普通は使い分けられる。
南端部である南浜や工業港近辺以外は、幸いなことにあの震災で大きな被害は受けなかったものの、蛇田域と比べると商業施設数が少なく、震災前風デザインの非モジュール住宅が低く広がっている都市デザインのため、閑静なイメージが強い。
南に高く日和山HrRCが連なり日陰になると思いきや、日和山HrRCを構成する部材は、光学迷彩近似の電磁波迂回機能を有し、片面で受光した太陽光を真裏から照射出来るため、街並みはHrRCがあっても暗くはない。南の空に明るい巨大な白壁がそそり立っているようなものだった。
今でもこの白壁の北、石巻域に家を持つことは石巻市に居住する者のステイタスシンボルとなっており、本宅は日和山HrRCに持ちながら、石巻域に別荘として震災前風の住宅を保有することが上流階級の証という風潮まである。
年に一度の石巻川開き祭りが、未だこの石巻域を舞台としている意味もここにあった。
未だ、石巻の精神的な中央はここなのだ。
そんなかつての中心、旧石巻駅前、ピンク色の旧市役所跡の脇に着陸予定地である『にぎわい交流広場』がある。
旧石巻駅、かつてJR仙石線と呼ばれた地方線がこの駅に乗り入れていた。
仙台中央から沿岸沿いに走る唯一の直行路線だったが、あの震災の際、津波によりその大部分を失った。
大きくコースを変更し、自家用車禁止政策による人員輸送能力拡大のために高規格磁気浮上線化し、日和山HrRCに併設された新石巻駅に入線するようになった。
現在の仙石ラインである。
同じく石巻駅に入線していた非電化のJR石巻線は、石巻以東の沿岸部は津波の被害を受けたが、内陸部は被害を受けなかったため震災後しばらくは人員輸送の補完に活躍。やがて全線新規ML化されて日和山HrRCに入線するようになって、旧石巻駅はその役割を終えた。
線路を取り払われた廃線の駅は、現在、観光客向けの資料館として保存されている。
そして毎年、川開きの当日だけ、地上海上を問わず運行できるATAMC・全地形自律移動貨物を改造した特別列車「マンガッタンライナー」が、震災前の路線をなぞって運行し、旧石巻駅が文字通り『駅』として復活する。
これが全国の鉄道愛好家に大人気で、チケットは秒単位で売り切れるのだという。
その人気の臨時廃線列車の始発が駅に着く前、正確には川開きの企画の一つである、フリーマーケットの会場が設置される前に、アマノヌボコを広場に下ろし、臨時のDCを立ち上げる必要があったが、遅かった。
すでにたくさんの鉄道愛好家が特別ATAMCをQSしようと駅周辺に集まっており、鉄道愛好家向けに早めにやってきた出店者も数組、広場にブースを設営している。アマノヌボコの着陸時、羽衣のダウンウオッシュでブースが吹き飛ぶようではいけない。
「ゲルトルーデ、ちょっと注意してきて。」
同報QWでしずえが指示した。
ゲルトルーデは耐圧窓の外から中に向けてOKサインをして見せ、ふいっと先に降下していった。
しかし、にぎわい交流広場は、空から降りてきた独国娘に大騒ぎになった。慌てふためき、荷物をまとめて逃げ出す出店者までいた。当のゲルトルーデが一番おろおろしているのが、上空から見てとれた。大騒ぎをかぎつけた鉄道愛好家たちも広場に移動し始めた。
「もーしゃーないからこのまま気にせず降りて。あのステージなんか目立つわね。」
しずえが言った。
「目立つ?」
「あれ? キャシーから聞いてなかった? TFPを待ってる間、ここでDG—TPの広報イベントをやるのよ。」
しずえが平然と言ってのけた。
「え〜? まじ〜?」
「鉄道愛好家たちも、アマノヌボコに興味を持ってくれるわ。同じ金属製の乗り物だもの。」
しずえはけろりとして言った。「それに、DG—TPの美少女たちにもね。」
広場に着陸したアマノヌボコは、たちまち鉄道愛好家のQSの餌食となった。QVIEに動画配信を始めた者もいた。
アマノヌボコから降り立ったしずえは、黒いDGスーツが描く魅惑的な体の線を惜しげもなく世界に向けてさらけ出し、娘たちも集めてステージ上に並んで立った。
「みなさんおはようございます。」
しずえが詰めかけた鉄道愛好家に呼びかけた。
「わたしたちは、石巻市南東に浮かぶ田代島からやってきました、日本でたった一つ、TFP対策専門の公益特殊法人『タシロ計画災害防衛隊』のクルーです。」
TFPという言葉に、鉄道愛好家たちはふいにざわめいた。
「今年の二月に氷見線がやられた時は何してたんですか?」
強い口調でそう尋ねた鉄道愛好家がいた。
二月、そぼ降る湿った雪の中、富山湾沿いのTFP処置は記憶がある。あの時、ML化されていない古い鉄道の線が近くにあったような記憶もある。あの時のことだろうかとサクラは思った。
「富山圏ですか? あの時も出動してTFPを処置しました。」
「あれのせいで氷見線は一月以上運休したんだぞ! どうしてくれる!」
続く鉄道愛好家の言葉はきつかった。
「え、あ、でも……。」
あの時、TFPは富山湾の海底に重大な影響を与えることが予想された。大規模な海底斜面崩落と津波の発生、それを食い止めたつもりだった。誉められると思った。
「自分ら! 何寝ぼけてんねん?」
怒鳴ったのはグリーンのDGスーツのアサミだった。
「TFPがどない怖いか知りもせんでよー言うわ! 自分らがのうのうと鉄道撮っとる間も、うちら日本から露国、米国、オセアニアまでTFP潰して回ってあんたらのオタク生活守ってんねん! どの口でそんなん言うんか、信じられへんわ!」
アサミの剣幕に鉄道愛好家は一瞬にして静まり、やがてマンガッタンライナーQSのためにぞろぞろと旧石巻駅の方へ戻っていった。
「本当に何考えてんねん?」
それでも数人が残り、ステージ上で不機嫌そうに腕組みしているアサミを執拗にQSしている。どうやらアサミの啖呵に惚れ込んだファンらしい。
定時に旧石巻駅に入った特別列車は、コンテナベースの車体にたくさんのマンガのキャラクターが描かれていた。
それらは震災前、世界的に広まった日本マンガ文化の魁となった一人の漫画家の作品群。
震災前から、北上川河口の中洲・中瀬に記念館・萬画館が作られ、町ぐるみで観光資源として活用していたが、実は石巻出身者ではない。
北上川の上流、現在の宮城圏登米市の出身だったが、幼少期、北上川沿いに、中瀬にあった映画館まで映画を観に来ていたのだという。
映画館という施設自体、震災後、電力飢饉と映像配信インフラの高規格化に伴い衰退し、続く『どこでもいつでも映画』端末インフラも、二二年前のQCOMの普及で、端末不要のシームレスブラウズに様変わりした。
今や博物館の資料展示でしか、これら『ハコ』も『デバイス』も観ることが出来ない。そして中瀬の記念すべきその映画館は、あの震災の時、跡形もなく流失した。
名前は『岡田劇場』。今は記念碑がその場所にひっそりと建っていて、立体再現画像DWを見ることが出来る。
マンガッタンライナーで石巻入りした鉄道愛好家の一団と旧石巻駅でそれを待ちかまえていた一団は集合し、再びにぎわい交流広場に集まりだした。さらに日和山HrRCの仙石ライン石巻駅からも鉄道愛好家が合流し、広場は大変な状況になった。
「何や何や! さっきは好き放題言っとーたくせに!」
ステージを取り囲む鉄道愛好家の人垣に、さすがのアサミもたじろいだ。
「皆さん! 田代島から来ましたTFP対策専門の公益特殊法人『タシロ計画災害防衛隊』でーす。」
しずえはここぞとばかり、人垣に気安く声をかけ手を振った。
「ちょっとちょっと、この人出は何なの?」
網地島CLで日和山HrRCに入り、徒歩で石巻域入りしたキャシーとナスターシャは、人ごみにもみくちゃになりながらやっとのことステージのアマノヌボコに取り付いた。
キャシーは赤、ナスターシャは青いDGスーツを身に着け、長い移動でへとへとに疲れていた。
「さぁさぁ主役は揃ったわ。」
しずえが言った。「では皆さん、改めましておはようございます。」
さっと腕を一振り、会場の宙空に無指向のDWをいくつも展開した。昨夜のうちに仕込んでいた録画映像だった。
「わたしたちは、田代島を拠点に、西は露国極東地域、東は米国、南はオセアニアの島々までTFP潰しに飛び回る、公益特殊法人『タシロ計画災害防衛隊』でーす。」
宙空のDWが、去年一二月の結成以来のTFP処置の画像記録を代わる代わる映し出した。
激しく大地が窪み、大地に亀裂が走り、海が、川が、山がその姿を変える様子と、激しく光の柱を放ってこれら特殊局地地震を中和・無効化するアマノヌボコの活躍を映し出した。
鉄道愛好家がどよめき、QSしまくり、又、それをQVIEに動画配信し始めた。DG—TPの活動が、世界中にQCOMを通じて瞬く間に広まっていく。
「対TFP急降下突撃機アマノヌボコを操るのは、ピンクのスーツ、サクラ! 田代学園の高二、一七歳!」
しずえが当惑顔のサクラを指さした。DWが走り、サクラの周りを回りながらこれまでのサクラのスナップショットが次々映し出された。震次郎の隠し撮りしたものがほとんどで、赤面もののショットも多く含まれていた。
鉄道愛好家が歓声を上げた。
「続いては、赤のスーツ、災害対処クルー、キャシー! 国籍は米国、育ちは田代島。サクラと同級生の一七歳!」
所在なげに立ち尽くすキャシーの周りにもDWが飛んだ。これまた震次郎の盗撮コレクション。
「TFPは、これを発見した露国《UNRU》ではスレッドノギギガンタと呼ばれます。その発現を超高度な数式でもって試算する巨人の尾を操るのは彼女、青のスーツ、露国の生んだ銀髪の才媛ナスターシャ! 若干一五歳で、天才的数学センスを持っています!」
ナスターシャの盗撮画像はほとんどがクールな表情で、そんなナスターシャにも一部の鉄道愛好家が食いついてきた。
「黄色のスーツ、ゲルトルーデは独国からやってきました。その愛らしい姿からは想像できないことに、彼女の体は最新鋭の人工ボディ! 数トンの鉄塊を持ち上げ、空を、海を自由に飛び回ります。サクラと同じ一七歳です!」
ステージの縁に座り込んでいたゲルトルーデは、とまどいながら鉄道愛好家たちに手を振った。DWの中で、ゲルトルーデはナマ足を惜しげもなく披露しながら自在に飛び回っている。
「そして最後はグリーンのスーツ、このアマノヌボコを整備する一五歳の天才メカニック、こてこての関西出身、アサミ!」
「なんでうちだけこてこてなん?」
まとわりつく盗撮画像に突っ込みを入れるアサミに、熱いアサミコールが沸き起こった。一部の鉄道愛好家に妙な人気が出たようだった。
「こんな五人の美少女が日夜、皆さんの生活を守るため、TFP潰しに飛び回っています! これからもわたしたちタシロ計画災害防衛隊を応援して下さい!」
しずえが手を振り、そんな彼女にも「名前教えて〜!」と多数の声がかけられたが、曖昧にはぐらかして上手く焦らした。
「今日はわたしたちDG—TPの活動PRを兼ねて、DG—TPグッズの直売会を行います!」
しずえは手際よく、五人の少女たちに小さな包みを渡して言った。
「一枚たったの五〇〇円です。アソートなので中身は選べませんよー。」
「……え?」
サクラは手渡された包みにマジックでサクラ、と書いてあるのを見てまさかと思った。包みを開けて見ると、案の定、サクラのスナップ写真が印刷されたトレーディングカード。裏には、巨人の足跡に矢印マークでおなじみのDG—TPのロゴとともに、何やら説明書きが小さなフォントで印刷されている。よく見れば、シリアルナンバー付きだ。
「本日は数に限りがありますが、もし通信販売をご希望でしたら、特設通販QRもありますので奮ってご注文下さいね!」
しずえが言って、通信販売用のQRを宙空に飛ばした。
鉄道愛好家は、目当てのクルーに詰めかけ、ナスターシャはあまりの勢いに圧されて逃げ出す始末。
「順番に並んで下さい。押さないで押さないで。」
しずえが仕切った。
「あのー。あなたのはないんですか?」
小学生くらいの鉄道愛好家がしずえの前に立って恥ずかしそうに聞いた。
「あら、こんなおばさんでもいいの?」
しずえは身を屈め、小学生に顔を近づけた。
こくりとうなずく小学生に「じゃぁ特別、プレゼントよ。」と言って黒いDGスーツのジャケットを肩まで下ろし、豊満なバストを左右から寄せているコルセット型のプロテクターとインナーとの間に手を入れると、そこからカードを一枚取り出した。
それを見ていた周りの大人たちもわーっとしずえに詰めかけ、しずえは少年をさっと抱き抱えると、ステージの上に飛び上がった。
抱き上げた小学生を下ろし、一枚目のカードを渡すと、DGスーツのポケットから、娘たちよりもたくさんのカードを取り出し、鉄道愛好家たちに向かってひらひらさせた。
「わたしは今回だけのピンチヒッター、しずえ、年齢はヒ・ミ・ツ! これは今回限りのレアカード、特別価格一〇〇〇円です。」
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