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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第2章 ~学園ラブコメだと思ったんだけど~
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学園ラブコメだと思ったんだけど 9


 萩鉄心が降伏したことにより、命拾いしたものがいる。

 琴美、ではなく、彼女と激戦を繰り広げていた萩の副将格の男だ。

「ふむ。援軍に行くまでもなかったわね」

 変身を解くビーストテイマー。

 それを見て、男がへなへなと座り込んだ。

「無益な殺生をしなくて済んだわ」

 くすりと笑う。

 どの口が言うのか、と男は思ったが口には出せなかった。

 恐怖のあまり。

 彼の部下たちは、二人ほどが昆虫標本のように壁に縫いつけられ、一人は壊れた人形のように床に打ち捨てられている。

 あと十秒ほども戦っていたら、彼もそちらの仲間入りしていただろう。

「いや、そんな目で見られても。あなたたちはこのくらいじゃ死なないでしょ?」

「は、はい……」

 皆、死んではいない。

 骨をダース単位で折られて、いくつかの臓器を潰されて、全身を穴だらけにされただけだ。

 普通の人間ならばともかく、能力者ならこの程度で死ぬわけがない。

 回復術が使えるものがいるなら一日二日、いなくとも一週間もあれば全快するだろう。

「手加減してるんだし」

「そ、そうですよね……わかります。ありがとうございます……」

 必死に、かつ卑屈に揉み手などする男。

 この世には逆らってはいけない存在、否、触れることすら許されない存在がある。少しばかりのチカラを得て、それを失念していた。

 増長していた。

 結果が、この有様である。

 女神の血統。

「いや。感謝されるとかわけわからないから。敵同士でしょ? 私たち」

 困じ果てた表情を浮かべる琴美。

「トラウマ植え付けてどうするんですか。アンジー」

 声がかかった。

 信二だ。

 後ろには、光則に肩を借りた信一もいる。

「あれ? 怪我したの? 信一」

「おめーと一緒にすんなアンジー。こちとら生身の人間なんだ」

 憎まれ口を叩く魚顔筋肉。

 生身の人間とやらは、二人で能力者六名を叩きのめせないはずだが、琴美は何も言わなかった。

 気にしたのは別のことだ。

「自己回復できそう?」

「あちこち折れてるからな。自力じゃちょっと無理だ。戻ったら准吾に使ってもらうさ」

「実剛と絵梨佳は?」

 無傷の光則が訊ねる。

「萩鉄心のところに向かったわ。降伏宣言がでたってことは、決着したんだと思うわよ」

 言っているそばから、足音が近づいてくる。

 地下からだ。

 現れたのは萩鉄心。

 続いて実剛と、なぜか嬉しそうにお姫様抱っこされている絵梨佳。

 最後に佐緒里。

 萩の当主が額から血を流しているものの、全員怪我らしい怪我もないようだ。

「聞いての通りだ。巫の衆。萩は貴様らの軍門に降る」

 信二に向け、堂々と宣言する鉄心。

「ご賢断(けんだん)、痛み入ります」

 (うやうや)しく、魚顔軍師が頭を下げた。

「戦後交渉など、些末事(さまつじ)が残っておりますが、いまはそのお言葉だけで充分です。まずは傷をお癒しください」

 代表する形で話を進める。

 鉄心はともかくとして、戦闘員たちには治療と休息が必要であろう。

「ところで、なんで絵梨佳を抱いてんだ? 実剛」

 話が続く間、光則が訊ねる。

 自分は魚顔筋肉に肩を貸してるのに、なんでてめーは美少女をお姫様抱っこしてんだよ、という趣旨の質問ではない。念のため。

「足を折られちゃったから」

 応えたのは絵梨佳だった。

 うろんげな眼で従妹を見る少年。

「もう治ってんじゃね?」

 もともと回復系のチカラに優れている芝家の、それも直系である。

 骨折くらい数分で快癒するだろう。

「みっつが妬いてます」

 微笑を返す。まさに水面下の暗闘だ。

「もういいです……」

 がっくりと肩を落とす少年だった。

 年少組のじゃれ合いをよそに、最低限決めなくてはいけないことが、つぎつぎ決定されてゆく。

 佐緒里の処遇などもそのひとつだ。

「人質として差しだそう。連れて帰れ」

 さらっと言い切る鉄心。

 降伏した側が人質を出す、それ自体は妙でも珍でもない。

「是非もない」

 冷然とした表情の佐緒里も判ってるのだろう。

 これが負けるということだ。

 実際彼女の立場では、監禁場所が自宅から巫邸に変わるだけで、たいした違いなどない。

「待って待ってっ 異議あり異議ありっ!」

「ちょっ!? 絵梨佳ちゃん暴れないで落ちるからっ」

 腕の中でじたばたする少女を慌てて抑える実剛。

 佐緒里が人質になるということは、巫邸に住むということだ。別荘や別宅などないのだから。

「はんたーい。断固はんたーい」

 認められるわけがない。未成年の男女が一つ屋根の下なんて。

 自分ですら、毎朝自宅から巫邸に通っているのに。

 かなり得手勝手な理由で反対を表明する絵梨佳。

「住む場所ならみっつの家が良いとおもいまーす」

「まったく意味がわからん。いまなんで俺が売られた?」

「なるほど。芝の姫は婚約者殿の貞操が気になるらしいぞ。どうだ佐緒里? 寝取りに興味はあるか?」

「ない」

「と、本人は言っているが?」

「信じられるわけないでしょうがっ!」

 がるるる、と威嚇する絵梨佳。

 なんだか面倒なことになってきた。

「じゃあ絵梨佳ちゃんも巫に住めばいいじゃない」

 しょうもない議論に呆れながら、琴美が折衷案を出す。

「たしか二階は四部屋あるでしょ? 実剛君に美鶴ちゃん、萩に絵梨佳ちゃん。一部屋ずつ(あた)るわよ」

「それですっ」

 快哉を叫ぶ絵梨佳。

「あのー アンジー姉さん……僕の意思は……?」

 おずおずと最大の責任者が問いかける。

「あぁん?」

「いえ、任せます。一切を任せます」

 一睨みで黙らされた。

「見たか。あれが尻に敷かれる男だ」

「ええ。俺はあっち側にいなくて良かったと心から思いますよ。先輩」

 ぼそぼそと光則と信一が会話を交わしている。

 こうして、なし崩しに実剛の同居人が決まった。

「なし崩し人生街道まっしぐらですね」

 くだらないことを言う魚顔軍師だった。




 萩の一人娘である佐緒里が、巫邸に住むことになった。

 芝の一人娘である絵梨佳も、巫邸に住むことになった。

 その件に関して、家主たる暁貴はとくに異論を唱えなかった。ただ、いくつかの条件を出したのみである。

「佐緒里ちゃんは人質ってことで、客人扱いはしないぜ。奴隷労働に従事してもらう」

「是非もない」

「具体的には、料理と洗濯だな」

「…………」

「絵梨佳ちゃんは花嫁修業ってことで客人扱いはしないぜ。メイド道に邁進してもらう」

「はいっ 暁貴さん!」

「具体的には、掃除とゴミ出しな。あと、ぴろの世話」

「…………」

 どこか釈然としないものを感じ、黙り込む少女たち。

 それは奴隷労働やメイド道のカテゴリなのだろうか。

 いや、たぶん奴隷もメイドも、そういう仕事はすると思うのだが。

 どこがどうとはいえないが、何かが間違っている気がする。

「伯父さん。自分の仕事を割り振っただけだよね?」

 口を挟む美鶴。

 本当のことを言う悪い子にはオシオキが必要である。

「美鶴は次期当主の妹として、二人を監督する役割を担ってもらうぞ」

「何させる気よ……」

「具体的には家計の管理だ。これから俺の給料はお前さんに預けるからな」

 責任重大だ。

 反比例して、巫家における暁貴の責任がどんどん軽くなっている。

「伯父さん……」

 おずおずと話しかける実剛。

 絶対、なにか間違っていると思う。

「よしっ これで毎日ちゃんとしたメシが食えるぞ。実剛」

「あ、うん。それはたしかに」

 一瞬で籠絡(ろうらく)された。

 わりと深刻な問題なのである。

 彼と妹が澪にきてから二ヶ月半、冷凍食品とインスタント食品と惣菜ものしか食べていない。

 特に深い事情があるわけではなく、暁貴も実剛も美鶴も料理がまったくできないというだけの話だ。

 むしろ料理だけでなく、家事スキルが全般的に低い。

 何とか分担しつつやってきたが、お世辞にも巫邸は小綺麗とはいえない状態である。

「実剛。耳かせ」

「なんですか?」

「いちおう、あいつらの親たちに確認したんだが、どっちも家事の腕はなかなかのものとのことだ。萩の娘に至っては休日にクッキーとか焼いてるらしいぞ」

「まじですかっ!?」

 信じられない。そんなことができる女子が実在するなんて。

 アニメとかの中にしか存在しないと思っていた。

「家事能力の高い二人と管理能力の高い一人。インペリアルトライアングルだ」

「何を言っているのか判りませんが、言いたいことは判りました」

「判ってくれたか。実剛」

「ええ。昭和の時代に失われた、伝説のオヤジ像がやれるんですね」

「風呂、飯、寝る、だ。ロマンが広がるな」

「妻子の機嫌など取らない漢の背中。たぎります」

 ぼぞほそと男共が夢を語っている。

 馬鹿みたいだった。

 はぁぁぁ、と、海より深いため息を美鶴がついた。

「まあ、こいつらが手を出しても邪魔になるだけだし、仕方ないか」

 内心の声。

 彼女の中では、伯父も兄もこいつら扱いである。

「それで良い? 佐緒里さん。絵梨佳さん」

「是非もない」

「あ、わたしも料理しますよ」

「そのへんは、交代しながらでも良いし」

 いずれにしても男共は胃袋と財布を女性陣に握られたことになる。

 昭和のオヤジとやらの権力がどこまで通じるか、見せてもらおうではないか。

 にやりと悪い笑顔を浮かべる美鶴だった。



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