電車 3
「ありがとう、ございました。」
駅員さんを呼び、警察が来て痴漢を引き渡し終わった後女性に頭を下げられ、和希は慌てて手を振る。
「いえいえ、私何もしていませんから。」
「そんな訳ありません、本当に、ありがとうございました。」
「本当なら送りたいんですけど、ごめんなさい。」
「そこまでしてもらう必要ありません。」
女性は慌てたように手を振り、和希が苦笑していると、グイッと頭を掴まれる。
「日向さん。」
「これ以上被害者の人に気を遣わせるな。」
「そんな事ありませんよ、神崎さんには本当に感謝しかありません。」
「…日向さん。」
「ほら、行くぞ。」
すたすたと和希の頭を掴んで歩き出す冬牙に和希は首を振って拘束を解除する。
「日向さんやめてください。」
「…………。」
ずんずんと進んでいき、ようやく立ち止まったと思ったら駅のホームの白線の前だった。
「お前いつもああなのか?」
「いつも?」
「ああいったものだよ。」
「そんな事はありませんよ。」
和希が首を振るが、冬牙は訝しんだ目で見つめている。
「たまにしかやっていません。」
「これよりも前はいつだ。」
「……うーん、痴漢の場合は一月前かな。」
「……………………………。」
色々と突っ込みたいものがあるのだろう、しかし、冬牙は何も言う事はしなかった。
「きゃっ!」
後ろの方で小さな悲鳴が聞こえ、和希が振り返るとそこには座り込む少女と、彼女に手を貸す青年、そして、その周りに散らばる本たち。
どうやら少女は何かの衝撃で倒れ込み、青年に助けられたのだろう。
そして、少女と青年はどうやら顔見知りのようで、青年は立ち去った誰かを睨み、少女はそれを苦笑して宥めている。
和希はスッと前に出る。
「大丈夫ですか。」
和希は手早く本を拾い上げる。
「あっ、ありがとうございます。」
少女は和希に気づき、戸惑いつつもお礼を言う。
「いえ、大丈夫ですか?倒れるほどの衝撃って、酷いですね。」
「いえ、相手の方も急いでいたみたいですから。」
「それでも、謝れよな。」
「もう、大丈夫なのに。」
「お前がよくても……。」
とっても仲のいい二人に、和希は笑みを浮かべ、そして、本を揃え、少女に渡す。
「これで全部だと思うんですけど。」
「ありがとうございます。」
少女の指と和希の指が触れた瞬間、和希の意識が飛ぶ。




