電車 1
「……。」
和希は目の前に立つイケメンを見てどうしてこうなったと思う。
電車は思っていたよりも混雑していた。
すぐさまバラバラになってしまったが、和希は手を引かれ反対側のドアのスペースに追いやられ、冬牙に囲われている。
「どうした?」
「いえ、見事に皆バラバラになってしまったと思って。」
和希は目を動かし、座席に座っている瑛瑠と桂子を見つける。因みに、その周囲には空也、空也の友人、千時がいた。
さらに視線を動かせば、自分たちと同じ格好になっている紅葉と詩音を見つける。
「……。」
何とも言えない顔をしている和希に気づいた冬牙はその視線を辿り、同じく何とも言えない顔をする。
「普通、逆だよな。」
「ですね。」
和希と同じようドアのスペースに嵌っている詩音。
冬牙と同じように守るようにして立っている紅葉。
「……叶谷さんの目、死んでますね。」
「ああ。」
明らかに自分よりも年下の少女に守られる体勢に陥ってしまい、目が虚ろになっている詩音に和希たちは同情する。
「まあ、紅葉ちゃんだからな。」
「お前ら、まったく違うタイプなのに不思議だな。」
「あー。」
冬牙の言葉に和希は苦笑する。
「紅葉ちゃんと、瑛瑠ちゃんは幼稚園の時からの付き合いだから、それに、桂子ちゃんも同じ小学校で知り合ってずるずると。」
「……………。」
冬牙が何とも言えない表情を一瞬浮かべるが、それはすぐに消えた。
「日向さん?」
「……。」
急に黙り込む冬牙に和希は心配そうな顔で彼を見上げるが、彼はその視線に気づいていないのか、ぼんやりと空を見ていた。
和希は何か言いたそうに口を開いた瞬間、嫌な何かを感じた。
「……。」
真剣に視線を彷徨わせば顔色の悪い女性がいた。
「……。」
和希はそっと冬牙の腕に触れる。
「どうした。」
「ごめんなさい、ちょっと、動いてください。」
訝しみながらも、冬牙はすんなりと和希を解放する。
「夏子さんに謝っといてください、少し遅れると。」
「お、おい。」
不穏な言葉を発した和希に冬牙はギョッとなる。
その一瞬の隙を縫い、和希は彼が止める暇を与えず、慣れた動きで人ごみをすり抜けていく。




