待つ
「ただいま帰りました……。」
和希は若干気まずげに中に入る。
中からは声はしないし、人の気配もなく和希はホッとする。
いつの間にか女子会で時計が六時を指していた時は、本当に和希は拙いと思ったが、幸いにも冬牙は帰っていないようだった。
和希は玄関にスーパーの袋と自分の鞄を置く。
「よかった、取り敢えず、いつ帰ってくるか分からないし、夕飯の準備にとかかからないと。」
靴を揃え、和希は荷物を抱える。
「うーん、今晩は温かいと言っていたからそろそろ冷たい物でもいいかな?」
簡単にできるそばもいいな、と思い、和希はスーパーの袋からそばを取り出す。
「あと何にしようかな?」
そばだけでは栄養が偏ってしまうので、どうしようかと和希は考えるがなかなかいいおかずが思い浮かばず、ふっと母親がくれたノートの存在を思い出す。
いつか和希が一人暮らしした時にと母親が料理のレシピをしたためてくれたノートを手渡してくれたのだった。
「あった、あった。」
和希はノートを広げ、料理を見る。
母親のこのノートを見るのは実は初めてだったが、彼女の母親は意外に凝り性なのかちょっとした料理本となっており、写真までついていた。
「うーん。」
ぱらぱらとめくりながら今ある食材と吟味して探す。
「あっ、これなんていいかも。」
そう言って和希は青じそドレッシングの和風サラダを指さす。
「これだったら簡単にできるし、ちょうどいいかも。」
和希は内容を頭に叩き込み、そして、調理にかかる。
毎日のように台所に立っているので、どこに何が仕舞われているかも理解できるようになり、作業効率が上がっていた。
和希の予想では四十分くらいかかると思われたが、そこまでかかる事もなく料理が出来上がった。
「後はそばをゆでればいいけど…。」
めんつゆも手作り、そばをゆでようかと考えていた和希だったが、やっぱり出来立てを食べて欲しいと思い、サラダは冷蔵庫に仕舞い。
めんつゆも冷め次第冷蔵庫に仕舞う予定だ。
「まだかな……。」
和希は時計を見てどうしようかと迷う。
「うーん…、時間があるんならお風呂の準備をしてもいいし、あっ、そうだ、まだ、洗濯物干しっぱなしだった。」
和希は慌ててベランダに出る。
洗濯物は程よく乾いており、ほっこりと和希は頬を緩める。
「よかった。」
洗濯物を取り入れ、空いたスペースで洗濯物を畳み始める。
自分の服や冬牙の服を畳みだす彼女はいつでも手を止めてもいいようにと考えていた。
しかし、全てを畳み終わっても冬牙は帰って来ない。
「……。」
和希は洗濯物を見て和希はまず自分の分は自分の部屋に置くとして、冬牙の物をどうしようかと考えた。
ここに来てから冬牙の服はこのリビングに置いていたのだが、彼はそれらを自分の部屋に直しに行く気がないのか、置きっぱなしだったりする。
流石にこのまま置きっぱなしだと拙いと思った和希はまずは自分の服を仕舞いに行く。
「もし、これらを仕舞っても帰って来なければ強制的に仕舞いに行けばいいよね。」
和希は普段通りに服を仕舞うが、冬牙はまだ帰っていなかった。
「……。」
和希は先ほど自分が呟いた通り、冬牙の服を抱えて彼の部屋に向かう。
そして、彼の部屋を見た和希は絶句する。




