何もない部屋
がらんとした部屋にはベッドと据え置きのクローゼットがあるだけで他は何もなかった。
「なんだよこれ……。」
あまりの衝撃的な光景に和希は昔の言葉に戻っている事に気づかなかった。そして、彼女は幼い頃の彼の部屋の方がまだ生活感があった、と嘆く。
「……。」
和希は顔を顰め、どうしようかと考える。
「何か部屋に置いてもらう?」
観賞植物、ぬいぐるみ、家電製品。
「……駄目だ、どれも冬牙だと似合わねぇな。」
和希は自嘲を浮かべながらクローゼットを開けるとさらに唖然とする。
「嘘だろう…。」
袋に入ったままの服や乱雑に入れられている服に和希は脱力する。
「何なんだよあいつは…。」
あまりに自分に無頓着と言うか、適当過ぎる冬牙に和希は頭を痛める。
「マジどうしよう。」
和希はふっとクローゼットの端に置いてある物を見て目を見開く。
「うわ…懐かしい。」
他の服たちとは違い明らかに大切にされているそれらに和希は嬉しくなるのと同時に悲しくなった。
彼は過去を大切にし過ぎている。
もし、過去を大切にしているだけならば和希だってほっこりとして終わりだろう、だけど、この部屋の現状を知ってはほっこりすることは出来なかった。
「どうする……。」
口元を隠すようにして和希は考える。
一番に考えられるのは一輝以上に大切な人を作る事が早道だろう。
しかし、その為には大きな障害がある。
「問題は冬牙自身…か…。」
そう、冬牙自身が大切な人を作る気がない。
それどころか自分だって大切には思っていない。
何というか、一輝が悲しむだろうから取り敢えず生きているという感じがするのだ。
「…厄介な育ち方したな。」
周りにもう少し冬牙を見る人間はいなかったのかと、和希は愚痴を言いそうになったが、すぐに思いなおす。
「いないな…。」
もしいれば高校生だった一輝があんなにも幼い冬牙を構う事はなかったのだから。
「原因は自分(一輝)なのかな…。」
和希は自分を責めそうになる。
「いや……でも、そうじゃないか。」
もし、自分が生きていればと考え、和希は想像して顔を真っ青にする。
もしも、一輝として生きていれば間違いなく冬牙は一輝に執着していただろう。
そうなれば恐ろしい事になるような気がする。
今は離れていたおかげで異常であると認識できるが、もし、そのまま一緒にいれば間違いなく他人に指摘されたとしても分かっていない自信がある。
「間違いなく依存関係だよな…。」
盛大な溜息を吐いて和希はまずどうするか決める。
「取り敢えず、徐々に他人がいる空間に慣れてもらう。」
もし、今の和希を受け入れてくれるのならば間違いなく他人を受け入れる余裕ができて来るだろう。
和希はこの時この自分の考えを間違いではないと疑っていなかった。
しかし、彼女は忘れている。
彼女は「一輝」でもある事をーー。
もし彼が和希=一輝と結びつけてしまったらどうなるか気づいていない。
それは幸せな事なのか、不幸な事なのかは、神様でさえ分からない。
「よし、頑張ろう。」
気合を入れる和希は自分で避けられない未来を作っている事に気づいていない。
そして、気づいた時、もう色々手遅れになっているのだった。




