夢
名前を呼ばれた気がした。
和希は振り返るとそこには柔らかな笑みを浮かべる冬牙がいた。
和希は嬉しくなり、微笑む。
「無茶をするなと言っているだろうが。」
冬牙は和希の持っていた食材などが入った袋を取り上げると、それを台所に持っていく。
和希はその姿を見てあの頃とは大違いだとクスリと笑い、そして、左手の薬指に嵌っている銀色の光を見てさらに笑みを深める。
「和希、これは何処に仕舞うんだ?」
「はいはい。」
和希は軽い足取りで冬牙の元に向かう。
そして、冬牙が見せるハーブティのティーパックの箱を見て、引き出しに向かって指さす。
「あそこね。」
「分かった。」
甲斐甲斐しく動く冬牙を見ていた和希だったが、一瞬、お腹に振動が起こり、目を見張り、クスリと笑う。
「貴方のお父さんは本当に過保護ですね~。」
ほんの少し膨らみを見せるお腹を撫でる和希は慈母のような笑みを浮かべていた。
刹那、肩を揺さぶられる感覚がして、和希は水中から顔を出すように、夢から覚めた。
「……っ!」
目の前に冬牙が居て和希は目を見張る。
「ようやく起きたか。」
先ほど見た夢でみた優しい声音ではなくつき放つような声音に、和希は小さく落胆する。
「ごめんなさい、私寝てましたね。」
「疲れていたんだろう。」
気遣うのではなく事実しか言わない冬牙に和希は一度目を閉じ、気持ちを切り替える。
「夏子さんは?」
和希は自分が軽食を作って、その後の記憶がないので、多分、食べようとしたんだけど、あまりの気疲れなどで、眠ってしまったのだと推測する。
「帰ったよ。」
「そうですか。」
「あの人は何なんだろうな。」
「はい?」
「寝ているお前に対して携帯で激写していた。」
「……。」
いかにも夏子らしい行動に和希は顔を引きつらせる。
「因みにそれは……。」
「本当にあの人には困ったもんだ。」
眉間に皺を寄せる冬牙に和希は彼も苦労したんだろうと遠い目をする。
「いいのか。」
「何がですか?」
「写真。」
「……あっ!」
初めは彼の言いたい意味が分からなかった和希だったが、理解した瞬間顔を真っ青にさせた。
そう彼は先ほど言ったではないか、「携帯で激写していた」と、そのデータはどうなるかなんて、和希には予想がつかないが、それでも、あまりよくない事が起きるような気がしてならなかった。
「どうしよう。」
和希の言葉に冬牙はそっぽを向く。
冬牙でさえ、夏子の暴走を止める事が出来ない。
和希は彼のその姿を見て、諦めるしかないと悟る。
「……悪用されなければいいけど…。」
和希は切実にそう思ったのだった。




