試験前
和希は解いていた問題から目を逸らし時計を見る。
時刻はもう夜中の一時だった。
「少し頑張りすぎたかな?」
気を緩めたせいで眠気が襲ってきて、和希は小さな欠伸を噛み殺す。
「あと一週間でテストか。」
和希は数学のテキストを閉じ、背伸びをする。
「早いな。」
ついこの間入学したてのような気がするのに、高校になって初めての中間テストだった。
今回の結果によっては夏子との約束が守れるか、守れないかが決まってしまう。
和希は自信がない訳ではないのだが、それでも、自分以外の人だって頑張っている訳だから気が抜けなかった。
ふっと今日、否、昨日の事を思い出し和希はクスリと笑う。
「わからん~。」
唐突に叫ぶ瑛瑠に和希はギョッとなる。
「……。」
「……。」
驚く和希とは対照的に紅葉、桂子は黙々とお弁当を食べている。
「和希ちゃん、無視。」
「そうよ、どうせ、今回の中間で悪い成績を取れば「宝物」を捨てられるか、良い点数を取れば「宝物」を買ってもらえるかのどちらかでしょう。」
「どっちともや~。」
「……。」
「あっそう。」
そっけない二人に瑛瑠は唇を尖らせる。
「二人とも冷たいで~。」
「普通。」
「君のテンションについていけないだけ。」
「和希ちゃーん。」
「はいはい、どこがわからないの?」
「ここや、ここ、この訳が分からないんよ。」
「ここは……。」
和希は瑛瑠の指す英文を見て、彼女に訳とどうしてそうなるかを丁寧に教える。
「そうなるんか~。」
納得する瑛瑠に和希は苦笑する。
「そここの間の授業の時復習ついでにテストに出すぞ、とか言ってたから。」
「マジっ!」
目を見開く瑛瑠は周りを見渡すと驚いた様子のない二人に詰め寄る。
「二人は知ってたん!」
「もち。」
「授業を聞いていない瑛瑠ちゃんが悪いんでしょ。」
「殺生な。」
「まあまあ、まだ一週間ある訳だしね?」
「和希ちゃん。」
「甘やかす、駄目。」
「そうよ、もう、高校生なんだし、独り立ちさせないと。」
「なら、二人の質問にも答えないよ?」
和希の言葉に二人は黙り込む。
「それは…。」
「駄目…。」
「ならいいでしょ?瑛瑠ちゃんだって完全に私だよりじゃないんだしね。」
「和希ちゃん、うちの嫁になって~。」
「須藤くんというお婿さんがいるのに?」
「それは、それ、これは、これ、つーか、くぅは別にお婿やないで。」
瑛瑠は少し拗ねたようにそう言うと、音を立てて本を閉じる。
「あー、お腹空いたわ。」
「そういえば、ご飯は?」
「忘れてもうた。」
「……。」
和希はデザートにと持ってきたカットしたオレンジの入ったタッパを瑛瑠にそっと渡すのだった。
そして、放課後このメンバーの他に数人のクラスメート共に勉強会をした。
和希は教えるのが好きだった。
質問されて自分の理解していない範囲を知り、同時に分かる範囲は更に人に教える為に噛み潰して理解できるので、彼女は一人で勉強するよりも誰かに教えて覚える方が性に合っている。
それを自覚しているので、彼女は出来る限り人に教えるのだった。
それは多分彼女の魂に刻まれた事の一つだったかもしれない……。




