イベント
和希は買い物を済ませ、昨日と同じように家事を済ませた。
そして、昨日と同じように夕食まで作り終わった和希は冬牙を待つべきか、それとも、先に食べようかと迷うが、結局今朝も昼食も一人で食べたので夕食くらいは誰かと一緒に食べたかった。
和希は提出する宿題はないと確認し、予習と復習を始める。
まだ、先とはいえ近々中間テストがあるのだ。
入学後のテストは三位だったが、今度も取れるかと言えば微妙な所だ。
いくら前世の記憶があるとはいえ、十数年前の話であり、流石に色々と忘れていてしまっている。
だから、和希は気を抜かないように真剣に勉強をする。
和希は勉強に集中していた為、玄関が開く音に気づかなかった。
「必死に勉強して、頭悪いのか?」
突然、声を掛けられびくりと肩を震わせた和希を見て、後ろの冬牙は悪戯が成功した子どものように笑う。
ただし、子どもと違い低く、喉で笑うものだから、元同性であった和希でも異常に反応してしまう。
「そんな事は…ないと思いますけど……。」
必死にならないといい点数が取れないのは普通だと思うが、それでも、自分が頭がいいかと問われたら断言できるほどではないので、和希は顔を僅かに顰めながら答える。
「……。」
何気ない動作で彼女のノートを覗き込む冬牙は気まぐれを起こす。
「賭けをしないか?」
「えっ?」
「今度の中間テストでお前が五位以内の成績ならば、一つだけ、お前の希望を聞いてやる。だが、もし取れなかったらーー。」
和希は冬牙の言葉に軽く目を見張り、クスクスと笑う。
「何だよ。」
突然笑う出す和希に冬牙は顔を顰めた。
「だって、希望を聞く、って願いを叶える、という意味じゃないんでしょ?」
「……。」
和希の言葉に冬牙はどこか面白いおもちゃを見つけたかのように目を見張る。
そう、冬牙にしたら気まぐれだった。
もし、彼女が賭けに負けたら確実に彼女の口から夏子にこのバカげた役目を降りるように言わせるつもりだった。
そして、彼女が万が一賭けに勝ったとしても、言葉の曖昧さを利用して、願いを聞くだけで終わらせるつもりだった。
だけど、彼女はその言葉の曖昧さに気づいた。
「そうですね、私の希望は一緒にご飯を食べることです。」
「えっ……。」
彼女の口から漏れた小さな願いに冬牙は軽く目を見張る。
「そんな事か?」
「だって、私は貴方の生活改善の為に来たんですよ、貴方が改善したら私はお役目ごめんですし、そうすれば、貴方の願いである、私を追い出す事には変わりないでしょ?」
「お前はいいのか?」
「何が?」
冬牙の問いに和希は分からず首を傾げる。
「……。」
冬牙はじっと和希を見つめ、溜息を吐く。
「本当にお前は女として規格外なんだな。」
確実に失礼な事を言う冬牙に和希は軽く彼を睨みつけた。
「それくらいなら、お前が賭けに勝てば叶えてやるよ。ただし。」
冬牙の続く言葉を和希は人差し指を彼の口に当てる事で止める。
「私が勝ちます。」
大した自信だと、面白いものを見るように冬牙の目が輝く。
冬牙はこの時、気づいていなかった。自分が一輝以外の人物に興味を持ったことをーー。
歯車が回り出す、軋む音を立てながら、しかし、それは壊れる事無く確実に動き出した。




