幕間・とある少女が図書室にいる時にあった裏
「せんちゃんせんせー。」
「はぁ、西、その呼び方をやめろ。」
「何でや、そんなら、ちぃ兄。」
「……。」
瑛瑠の言葉に西 千時が溜息を零す。
因みに瑛瑠と千時は年が離れた姉妹。
瑛瑠には姉が一人、兄が二人いて、千時は下の兄で幼い頃から瑛瑠には「ちぃ兄」または姉の真似で「せんちゃん」と呼んでいる。
「西。」
学校では千時は瑛瑠たちの事を名字で呼んでいるが、普段は下の名前で呼んでいて、空也だけは学校でも、私用でも何故かフルネームで呼んでいる。
瑛瑠は面倒臭そうに肩を竦める。
「ええやん、ちぃ兄、つーか、何で呼び出したん?」
「分かっているだろう?」
千時の言葉に瑛瑠はニヤニヤとした笑みを消す。
「あの自称ヒロイン?」
「ああ。」
「それで、今日の授業をボイコットしたあたしや瑛瑠ちゃんだけじゃなく、紅葉ちゃんも、なのね。」
「……和希ちゃん、一人、危険、早く。」
「大丈夫だろう。」
そう言いながら、千時は頭を掻く。
「もしかして、和希ちゃんのアレ?」
「ああ、というか、知っているのか。」
まあ、こいつらなら、和希の事は何でも知っているか、と納得をするが……。
「当たり前やん。」
「副会長。」
胸を張る瑛瑠と紅葉に千時は唖然となって説明を求めるように桂子を見る。
「和希ちゃんは魅力的でしょ?だから、何が起こっても可笑しくない、それを事前に取り締まるようにファンクラブみたいなものを作ったの。」
「そ、そうか…。」
「それで、この三人の中で会長になるのは誰か、と喧嘩になったわ。」
その時を思い出したのか、物憂げに、溜息を吐く、桂子は女子高生とは思えないほど色香があった。
「まあ、あたしは別に副会長でもなんでもよかったのだけど、この二人がね……。」
「聞いてみたい気もするが、なんかよくない予感がするから止めとく。」
「その方がいいわね。」
「それで、会長は?」
「あたし。」
「そうか。」
やはり、第三者にはならないのかと、千時は呆れる。
「当たり前でしょ、和希ちゃんの魅力は一生かかっても語り切れない、そんな和希ちゃんのファンクラブの会長を務められるのはこの三人以外にはいないでしょ?」
千時は何とも言えない顔をして、そして、話を戻す。
「お前たちに言っておきたい事だが。」
「なんや、くだらん事ならうちら行くで。」
「夏希さんからの伝言。」
千時の言葉に三人は固まる。
まさかの和希の母親の名前を出されて、三人は冷や汗を流す。
「何で、ちぃ兄が。」
「昨日偶然会ってな。」
「……というか、何で和希ちゃんのお母さんが知っているの?」
「知らねぇよ。」
思わず素が出る千時は溜息を一つ零す。
「そんじゃ、言うぞ。」
「あかん、聞きたくないわ。」
「黙れ。」
鉄槌をかまし瑛瑠を黙らせると、千時はようやく夏希の伝言を告げる。
『心配しなくとも大丈夫よ、かずちゃんなら大丈夫、だから、下手に手を出しちゃ駄目よ?』
声を真似をする千時だが決して似ていない、それどころか、オネエみたいで気持ち悪い。と三人の気持ちは一緒になる。
「お前ら失礼な事を考えているだろう。」
「しゃーないやろ、ちぃ兄が下手な声真似をしたからやん、つーか、似てへんし。」
「煩せー。」
不貞腐れる千時に瑛瑠は何でこんな子供っぽい兄がよくも学校の先生として勤まるのだと感心する。
「つー事で伝言はこれで終わり。」
「何で呼び出したん?帰ってからでもええやん。」
「あほ、帰ってからじゃ遅いだろう。」
「あっ…。」
思い当たるものがあり、瑛瑠も残る二人も黙り込む。
「まさか、昨日の今日でこうなるとは思わなかったが、お前らは絶対に手を出すなよ。」
「うー……。」
「……。」
「仕方ないわね。」
千時の言葉に唸る瑛瑠。
黙り込む紅葉。
夏希の恐ろしさを十分理解している桂子は本当に仕方なさそうに頷いた。
「ファンクラブの連中をどうするか考えていたが、お前らが上ならちゃんと下にも言っておけよ。」
「はぁ……、文句酷そうやな。」
「……。」
「仕方ないわ。」
自分たちでさえ怒りを抑えきれない状況なのに、それを他の子たちに伝えるのはきっと骨が折れるだろうが、それでも、彼女たちは上に立つ立場の人間だった。
「そんじゃ、放課後、やね。」
「了解。」
「それじゃ、あたしが連絡を回しておくわ。」
「つーことで、ちぃ兄、視聴覚室貸して。」
「はぁっ!何でだ。」
「和希ちゃんのファンクラブは大所帯やせやから場所がなかったんやけど、これからはちぃ兄がいるから安心やね。」
「うん。」
「ありがとうございます。」
いつの間にか決まった出来事に千時は頭を抱える事しか出来なかった。




