朝食と登校
簡単な身支度をしてやって来た冬牙に和希はニッコリと微笑む。
「よかったです、あれで来なければ実力行使しなければいけないのかと、思っていました。」
「……。」
眉間に皺を寄せて、新聞を持って座り込む彼に和希は肩を竦める。
「本当にいつまで経っても子供みたいだな。」
「何か言ったか?」
「別に何も言ってませんよ。」
耳ざといのか和希の言葉を僅かに拾った冬牙に和希はニッコリと笑い誤魔化した。
「今運びますから。」
和希は朝食のホットケーキを持って彼の前に出す。
「朝から甘い物かよ。」
「嫌ですか?」
「和食。」
「はい?」
「朝食は和食だ。」
「……。」
和希は呆れた顔をする。
「今まで三分飯とかで済ませていた人が何を文句言っているんですか、明日からは和食を考えますが、今日はこれで我慢してください。」
「……。」
冬牙が目を眇めて立ち上がろうとすると和希はニッコリと笑いそれを制する。
「食べてください。」
「……。」
「食べて。」
「……。」
「……私の料理が食べられないのか、この野郎。」
行き成り口が悪くなった和希に流石の冬牙もギョッとなる。
「おま……。」
「顔色が悪いですね、ちゃんと栄養が取れてないから倒れるんですよ?」
「……。」
和希は羞恥もなく幼い子供にするように冬牙の額を自分の額に近づけて熱を測る。
「熱はなさそうですし、ちゃんと栄養を摂ってくださいね。」
冬牙はこれ以上自分がごねれば和希が何かとやらかすような気がしたので、渋々彼女が用意したホットケーキに手を付ける。
一口食べて、冬牙は目を見開き、和希とホットケーキを交互に見詰める。
「どうしたんですか?」
「いや……。」
言葉を濁して味わうようにホットケーキを食べる冬牙に和希は懐かしそうに目を細めた。
「美味しいですか?」
「……懐かしい味がする。」
「そうですか。」
和希は小さく頷き自分の朝食に手を付ける。
和希自身も転生してから全く作った事はなかったが、それでも、魂が覚えていたのか最後に食べた時と同じ味がした。
「うん。」
確かに懐かしい味だと、和希も思ったがそんな余計な事を彼女は口にせず黙って朝食を食べ進めるのであった。
そして、冬牙も和希も朝食を食べ終え、和希が後かたづけを終えると丁度いい時間になった。
「日向さん、私は学校に行きます。」
「ああ。」
「お昼はお弁当を用意していますのでそれをちゃんと食べてください、もし、夕飯に希望があるのでしたら、今おっしゃってください。」
「お前、携帯は?」
「持っていませんよ。」
「……。」
今どきの女子高生なのに携帯を持っていない和希に冬牙はまるで珍しい生き物を見たような顔をする。
「必要ないですから。」
「友達はいないのか。」
「何でそうなるんですか、というか、ちゃんと友達はいます。」
「ふーん。」
信じていないという顔をする冬牙に和希は彼を睨みつける。
「本当ですからね。」
「……。」
「その眼は信じていないですね。」
目を吊り上げる和希に冬牙は面倒臭そうに溜息を零した。
「どうでもいいが学校はいいのか?」
「行きますよ、もう……。」
まだ何かと言い足りない和希は顔を顰めるが、時間がないのも確かなので諦めて玄関に向かうのだった。
「行ってきます。」
見送りも、何の言葉もくれない冬牙に和希は悲しそうに溜息を一つ零すのだった。




