9話「放課後」
「で、どうなんだ。その後の様子は」
「どう、って別に……でも今日はまだ、なにもない。帰ったらどうなってるかは知らないけど。で、なに?」
彩と昼食をともにした日の放課後。千秋とナズナ、香の三人と帰ろうとしていた蒼を引きずるようにして強制的に拉致し、彼らと遭遇しないように遠回りしながら帰っていた下校時のこと。蒼の現状を改めて確認しておこうと、真夏は先の質問を切り出した。
「なに、たいした用じゃない。いや、たいした用じゃないなんて言うとお前に失礼だな。例の件について、俺にできることがあるのかどうかはわからんが、とりあえず、もう少し詳しい話を聞いておこうと思って」
「ああ、そういう。……話って言っても、前に話したのが全部だけど」
「それらをさらに詳しく、ってことだ。俺は最近のお前がどういう目にあっているのか、ざっくりした部分しか聞いていないからな」
「って言われても」
「じゃあ、俺が質問するから、それに答える形で教えてくれ」
「……わかった」
「たしか……誰かにあとをつけられていて、変な手紙が来て、持ち物がなくなったり、動物の死骸が送られてきたりしてたんだったな」
「うん」
「それは毎日そうなのか? たとえば手紙。届いたのは俺に見せた二通だけじゃないって言ってたろ?」
「手紙はほとんど毎日。動物はあの一回だけ。持ち物がなくなったのは二回」
「持ち物がなくなった、っていうのはどういう状況だったんだ」
「休みの日だったんだけど。着てた上着を自転車のカゴに入れて、ちょっとそこの自販機に飲み物買いに行ったら、上着のポケットに入れてたハンカチがなくなって。一回目はまだ尾行とか嫌がらせに気付く前だったから、変だとは思ったけど……どこかでなくしたんだと思ってて」
「二回目も同じように?」
「ほとんど同じ。なくなって困るようなものは盗られてないから、あんまり気にしてなかったんだけど」
「気にしろよ。盗難だぞ」
「だって本当になくしただけかもしれん。今も、絶対に盗まれたって確信を持ってるわけじゃないし」
「……尾行は? あとをつけられてるっていうのは、毎日なのか?」
「毎日――では、ないと思う。わからん。警戒はしてるつもり。ただ、わからんなりに、昨日と、あと今日もたぶん、つけられてはなかった気がする。気付いてないだけかもしれないけど」
「なるほどなあ」
うーん、と腕を組んで考え込む真夏に、蒼は眉をひそめる。
「今さらそんなん聞いて。なんかわかんの?」
「いや、さっぱり、なにも。……ただまあ、恨むにしても妬むにしても、そうなるだけのキッカケがあったはずだ。お前の言ったとおり、世の中には本当に意味がわからんようなことでキレるやつもいるけど、それだってなにかしら怒りに火がつくキッカケがあったから、そうなるんだろ?」
「それは、そうだろうけどさ」
「お前の何気ない言葉や行動に傷付いた、そして怒りが湧いた――という流れを前提とすれば、範囲はある程度しぼられてくるはずだ。我々は学生である。であれば、同じ学校内に犯人がいる可能性だって考えられる。いや正確には、そういう線も考えられた」
「……つまり、なに?」
「学生である俺たちと最も接点があるのは同じ学生。そんでもって、とくにお前は他人への警戒心が強い。悪く言うと内気だ。引っ込み思案の根暗の陰キャ。まだバイトもしてないし部活もしてないから、校内でも校外でも顔が広いわけでもなく、交友関係は最低限に抑えている。俺もだいたい同じだから人に言える立場じゃないけどな」
「まるで関係ない他人……学生以外に、僕にこんなことするような相手がいない?」
「そうだ。外界に接点をつくらないことに尽力するお前が、そこから恨まれるようなことをするというのは、まずない。つまり、なにかしら関係のある――たとえば同じ学生である誰かによる嫌がらせって考えるのが普通だ。だとしても東阪の生徒ではないな。話しぶりからして、校内でそういう妙な嫌がらせを受けたことはないんだろ?」
「ない、はず」
「届いた手紙に宛名がないってことは、誰に宛てた手紙かわからないようにするか、それが特定の誰かに向けたものではなく志村家全員に宛てたものか、そうでなけりゃ、お前の名前がわからないからなんだろう。今回の場合、お前は尾行されて私物を盗まれるまでされている。相手の狙いがお前なのは明白。今さら標的を隠す意味はないし、ナズナが同じような目にあってないならお前だけが狙いだ」
「宛名は……書かなかったんじゃなくて、書けなかった。名前を知らないから?」
「同じ学校にいるなら個人の名前なんて簡単に調べられる。それができないというのは、少なくとも東阪の生徒によるイタズラやイジメではないということ」
「たしかに」
「――と、言ったはいいけど全部俺の推測にすぎないから過信はするな。どこの誰の仕業なのか。それがわかれば少しは安心できるんだけど。そう簡単に突き止められるなら苦労しないか」
「とりあえず、学校は安全ってことでいいわけ?」
「そういうことになる。だからってあまり油断するなよ。そう思わせるためにわざと学校ではなにもしないのかもしれない」
「わかってる。……これからどうすんの?」
「どうやって犯人をあぶり出すかってことか? たかが学生ごときがそこまですんのはむずかしいな」
「ちがう。もうこのまま帰んの?」
「ああ、そっち? うーん、外にいてもすることもないしな。いや、することがないのは家にいても同じだけど」
「ふうん」
十秒ほどの無言。
「……なに、家まで送ったほうがいい?」
「は? 別に、そういうんじゃないし。普通に……どうすんのかって」
蒼の口下手は今にはじまったことではないので、今さら気になどしないが、それでも、友達をすんなりと遊びに誘えない彼の態度に、不器用だと感じずにはいられない。
「じゃあ遊びに行こうかな。ナズナたちは?」
「ナズナは家にいるはず。香と千秋は呼べば来ると思うけど」
「よし、コンビニでなにかお菓子でも買っていくか」
遠回りとなる道を選んで歩いていると言っても、それほど大きく迂回したわけでもなく、せいぜい先に帰ったナズナたちに追いつかない程度の時間差しか生まれない。真夏たちが到着するころには、ナズナも荷物をおろして着替えを済ませ、ひと息つくころだろう。
商業地に近いだけあり、蒼の家のまわりは真夏や山吹の自宅周辺よりはにぎやかで、街灯も多く人通りもあった。とはいえ、それはこの町の中ではの話だ。片並町自体はお世辞にも、発展した都市とは言い難い。ひととおりのものはそろっていて、それなりに便利ではあるが、それなりに不便でもある。有事の際に、すぐ助けを求めて安全を確保できるかどうかと問われると、不安のほうが大きい。
玄関で靴を脱いだ蒼はまた、飲み物を取ってくるから先にあがってくれとだけ言って、台所のほうに消えていった。その言葉に従い、そろそろのぼり慣れた階段をのぼっていく。蒼の部屋に入ろうと扉に手をかけたところで、隣の部屋をちらりと見た。ナズナの部屋だ。
蒼の部屋を通り過ぎて、ナズナの部屋の扉を五回ほどノックする。うるさい、と少し気だるそうな返事が返ってきたので中を覗いた。ベッドに座って漫画を読んでいるところだったようだ。蒼の部屋に似てやや殺風景だが、必要なものはそろっている。ガーリーな印象は薄いが、シンプルで飾りっけがないところがナズナらしい。
「お嬢さん、一人? 暇? 一緒にお茶でもどう?」
「うわ真夏、やっぱりお前か。どうりで蒼の足音じゃないと思った」
「階段の足音だけで誰か判断できるの、わかる。俺も兄と母の足音、聞き分けられる」
「父親の足音は?」
「疲れているときと、そうでないときとで足音が変わる。だから母でも兄でもない足音が父」
「あー、うちの父もそうだわ。機嫌いいときと悪いときとで足音ちがう。機嫌悪い足音のとき絶対に部屋から出ないようにしてる」
読みかけの漫画を横に置き、ナズナは立ち上がる。
「なんか読んでたんじゃないの?」
「もう読んだことあるやつだからいい。蒼は?」
「飲み物持ってくるってさ」
「あ、そ」
「香と千秋も呼ぼうか。あの二人、今なにしてる?」
「なにもしてないと思う」
蒼の部屋に移動しながら、ナズナが香に電話をかける。会話は非常に簡潔で、そのあとにかけた千秋との会話を入れても一分とかからなかった。
「あのさ、真夏」
ナズナが蒼のベッドに腰掛けながら言う。
「最近、蒼ちょっと変じゃない?」
真夏の荷物をおろす手が一瞬、止まりかけた。血を分けた者の勘――というやつだろうか。いや、ただ単純に、最近の蒼の様子に違和感を覚えただけか。
「あいつが変なのはいつものことだろ。気のせいじゃねえのか?」
「言っとくけど、お前も大概変だからな」
「俺も? 別にいつもどおりじゃん。いきなりそんなん言い出すナズナも変だね。で、香と千秋は?」
「……来るって」
ナズナは他人への興味が薄いためか、あまり周囲の人々の動向に対して察しがいいと言えない部分がある。なので決定的ななにかが見つからない限り、蒼の異変もそうそう悟られないだろうと警戒していなかったが、さすがに甘かったようだ。それでも、話を逸らした真夏を問い詰めてこないのは、やはり確証がないからなのだろう。
だがこれで核心を持って迫られたなら、真夏には厳しい状況となる。嘘をつくのが苦手だからだ。では蒼なら隠し通せるのかと言うと、これも怪しいところだ。しらを切るだけではごまかしきれない段階まで来てしまうと、正直に話すか、嘘に嘘を重ねる必要がある。ひとまず言及は避けたが、彼女が真実を知るのも、もはや時間の問題だろう。
気まずい沈黙が流れそうになるが、間もなく、蒼が部屋の扉を開けた。手に大きなペットボトル二本と紙コップを持っている。入ってすぐにナズナを見た蒼はむっと眉間にしわを寄せた。
「ベッド座んなよ、ナズナ」
「お前だって私のベッド座ったじゃん」
「座ってないし」
「座ったし」
「あーはいはい、喧嘩するほどなんとかかんとか」
他人のベッドに座ったか座ってないかの応酬がはじまりそうになったので、すぐに止めに入った。この双子は一度こうなると長いのだ。早々に仲裁するほうがいい。
「香と千秋も来れるってさ。コップ――ああ、もうあの二人のぶんも持ってきてたのか」
「紅茶とサイダー、あるけど」
「俺、サイダー」
「紅茶」
それぞれ自分のコップに飲み物を注ぎ、適当な雑談をしながら香と千秋を待った。二人は十分もしないうちに到着し、それから三時間ほど、五人で菓子をつまみながら、あれこれと語らうことになる。
蒼とナズナは、香や千秋とは幼いころから仲がよかった幼馴染で、もうかれこれ十年以上も一緒にいるという。よくもまあ飽きもせず――と一瞬は思ったが、山吹や白坂の存在を思い出す。何年もの歳月を同じ顔触れですごし続ける彼らを酔狂とするなら、真夏もまた、そうなるのだろう。
あたりが暗くなりはじめたころに会合はおひらきとなり、香と千秋が連れ立って帰宅していったあとで、さてと真夏も立ち上がった。もう少し、蒼と話しておくことはないかと、腰を下ろしたまま考えていたが、せっかく楽しく盛り上がったあとに嫌なことを思い出させる必要はないと思いなおしたのだ。ナズナもいる手前、あの話はできないだろうし、今すぐ話すべきことも見当たらない。ならばおとなしく撤収するのみ。
後片付けを少し手伝ったあとに、外に出た。蒼とナズナが玄関先まで見送りに来るので、いつもどおりの軽い挨拶とともに去ろうとする。だがそこで、、視界の端に妙なものが映り込んだ。玄関の扉の陰に隠れるようになにかが置いてある。小さな紙袋のようだ。
「おい、なんか置いてあるぞ」
蒼に声をかけると、彼はサンダルを足にひっかけて外に出てきた。真夏の指差した先を目で追い、紙袋を手に取る。
「なにこれ。なんでこんな――」
そこまで言って、蒼がはっとする。その表情に、真夏も思いついた。まさか、またなにかの嫌がらせの品が。普段はあまり表情を表に出さない蒼だが、このときばかりは緊張した面持ちで真夏を見た。真夏は小さく頷き、紙袋をそっと開ける。どんな不気味な物が入っているのか、覚悟して開封したものの、中身を覗くと、肩透かしを食らった気分になった。
「……ハンカチ?」
真夏が中身を取り出すと、蒼は怪訝な顔をする。紙袋には薄い青色のハンカチが一枚、四つ折りになって入っていた。様子が気になったのか、ナズナがこちらへ来た。
「なにそれ、蒼のハンカチじゃん」
「え? あれ、本当だ」
「志村、これ、お前のなのか?」
「あの盗ま――」
一瞬、蒼が言葉を止める。
「――な、くし、なくしたと思ってたやつ。前に」
なにを言おうとしたのか、真夏にはわかった。以前に蒼が盗まれたというハンカチなのだ。
「なんでその、なくしたハンカチがここに?」
ナズナが首をかしげる。真夏はその問いに答えられず、手元のハンカチに目を落とした。
「……あれ?」
「なに」
「いや、これ、内側になにかついて――うげっ」
折りたたまれたハンカチを開くと、そこには赤黒い液体が塗りつけられていた。思わず手をひっこめそうになる。
「え、は、なにそれ、血? インク?」
蒼が不快そうに顔をしかめながら問いかける。ナズナも同じ顔をしていた。真夏は強い抵抗感をいだきながらも、そっとハンカチに鼻を近付けた。生臭いが、血にしてはなんとなく少し変な気がする。しかしインクと言うには生臭く鉄臭い。
「どっちかっていうと血……いや、やっぱわからん。変なにおいの血か、鉄っぽい変なニオイのインクか、いや血だと思うけど、変なニオイのなにか」
「なんもわかんないじゃん鼻悪いのかよ」
「でも、ニオイ自体はしてるんでしょ?」
ナズナが真夏と同じようにハンカチに鼻を近付ける。すん、と一度だけ鼻を鳴らした――かと思うと、勢いよく身を退いて玄関にあとずさった。表情が引きつっている。
「あ、うわ、それ――」
しぼり出すような声でそうこぼすと、すぐさま家のなかに駆け込んでいった。ただならぬ反応に思わず声をかけたが、返事はない。蒼と顔を見合わせ、急に気味が悪くなった真夏はハンカチを紙袋に戻した。蒼が、見てくる、とだけ言ってナズナを追って家に入ったが、すぐに戻ってくる。
「ナズナ、どうしたって?」
「やばい。吐いてる」
「えっ」
「それ結局なに、やっぱ血?」
「……血だろ、さすがに。でもなんの血なのかまでは……」
「ああもう、最悪……」
蒼がその場にうずくまる。ハンカチは盗まれたのではなく、どこかで落としたか、知らぬ間になくしたのだ――と、心のどこかではそう信じていた、信じたかった自分がいたのだろう。もともと盗まれたという根拠はなかったのだ。それがこうして返ってきた。もはや疑いようもない。
「僕らが帰ってきたときって、あんなん、なかったよな」
「あったら気付いただろ。たぶん、香と千秋が来たときも、まだなかっただろうな。玄関のすみっこでも、不審なものがあったら報告するか、部屋に持ってくるはずだ。たぶん置かれたのはそのあと」
「千秋たちが帰ったときは?」
「どうだろう。二人は一緒に帰っていったから、喋りながら外に出てったなら気付かなくてもおかしくない。俺がこれに気付いたのも偶然だったし……」
「これ、捨てないほうがいい?」
「物証として残したいなら、捨てないほうがいいと思うぞ」
「……ナズナにバレたかも」
「それは……悪い。玄関先に物が置いてある時点で気付けなかった俺の落ち度だ」
「いや、それは、別に、そういうんじゃ……」
「ああ、もう、最悪!」
ナズナが鼻をすすりながら戻ってきた。若干、目が赤くなっている。真夏は声をかけようとするが、その前に手に持っている紙袋をキッと睨みつけてナズナが叫んだ。
「それ捨てろ、今すぐ捨てろ! あーもうキモイ、キモイ、意味わからん。キモすぎる! どこの女か知らんけど、完全に頭おかしいじゃん!」
「は、え、女? お前わかんの、これ置いてったやつ」
「はあ? そんなん知るわけないし! つか、なに? お前こんなモン渡されるようなことしたわけ?」
「落ち着けよナズナ。なんでこれが女の仕業だってわかるんだ?」
「女に決まってんだろ!? 男がそんな血、出せんのかよ! さっさと捨てろって!」
「いや男にだって血は――あ、いや、ああ……う、うん、なるほど」
喋っているうちに理解する。瞬間、えも言われぬ不快感が胸を満たした。ナズナのあの反応も無理はない。男にはなくて女にはある。知らないほうがよかった。蒼はナズナと真夏の顔を交互に見ると、真夏の肘を小突く。
「なに、ちょっと、おい、一人で納得すんなよ」
「いや……わからないなら、わからないままのほうがいいよ。うーん、それはたしかに……手、洗ってきていいか?」
「はよ洗え! 蒼はそれ捨ててこい、今すぐ!」
ナズナの怒鳴り声に気圧され、蒼は言われるがままに真夏の手から紙袋を受け取った。ハンカチは蒼に任せることにして、真夏は早足で家に戻り、洗面所を借りると長い時間をかけて手を洗う。
「真夏、やっぱお前ら、なんか隠してんじゃないの」
大声では叫ばなくはなったものの、まだ感情が昂ぶっているらしいナズナが、怒った声のまま真夏に問う。声だけでなく、実際に怒っているのだろう。蒼が戻ってくる気配はない。
「隠してるってなにが?」
「それを聞いてんの。絶対なんかあるんじゃん。なにもないのにあんなん届くとかありえない」
ああ、まさかこうも早く問いただされることになろうとは。蒼のほうではなく、真夏についてきたのもこれが目的だったか。彼女は真夏が嘘をつけない性格であることを知っている。なにかを聞き出すならば、蒼より真夏を問い詰めるほうが簡単だ。というか、ここまで来たなら話す以外の選択肢が見えない。
「それは……、まあ、隠してないと言えば嘘になるんだけど」
「うちの前に置いてたってことは蒼でしょ。あいつなにやったの?」
「知らない、知らない、話せない」
「話せないってなに。つまり、そのへんの不審者が偶然、うちにあんなの置いてったわけじゃないんでしょ? 今日で何回目?」
蛇口の水を止め、タオルで手を拭く。ちょうど蒼が戻ってきた。真夏と話している間は落ち着きを取り戻した様子だったナズナは、蒼の顔を見るやいなや、掴みかかるような勢いで詰め寄った。
「お前、最近なんか変だと思ったらあれ、なんだよ!」
「はあ? なんでナズナがキレてんの。意味わからん」
「意味わからんのはこっちなんだけど! 隠してないで全部話して。じゃないと千秋にバラすぞ!」
「ち、千秋は関係ないじゃん。っていうかお前にも関係ないことだし……」
「なに言ってんの? 関係ないわけないじゃん。同じ家に住んでんの。家の前に気色悪いモン置かれてんの。それがお前宛てだろうがなんだろうが、家族なんだから私にも関係あるに決まってんだろ!」
正論だ。
「ナズナ、とにかく落ち着けよ。そんな状態じゃ話もなにも――」
「お前にも言ってんだよ! まさか隠し通せると思ってんの? 本ッ当になんなの。男同士の秘密ってやつ? バカじゃないの。男ってそういうくだらないプライドばっか大事にするよね」
「待てって。隠してたのはたしかだけど、それはいきなりこんなこと話したら、お前が不安がると」
「裏でヤバいこと起きてんのに知らないままのほうが怖いっつの!」
「ごもっとも。ああ……なあ、もうナズナには話しておいたほうが身のためじゃないか? それに、さすがにここまでとなるとさ……」
「でも……、……わかった」
蒼は苦虫を噛んだような顔をしていたが、やがてため息とともに頷く。真夏は彼の肩を叩いて薄く笑いかけると、ナズナに向きなおった。
「ナズナ、部屋に戻ろう。ちゃんと話すから」




