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忘れられないためには自己主張が必要

村の特産は異世界です


・忘れられないためには自己主張が必要


 久しぶりで良いのか、そうか、お前は誰かと言ってくれるのか。まあ、上里集落の新参者だから、顔を覚えられていないのも仕方が無いな。俺の名はケンゴー・ソマキと言う。こちらの呼び方だと、杣木謙吾だな。

 そうか、思い出してくれたか。なんだその、『大人のおもちゃ男』と言うのは。それを最初に言ってくれれば、余計な手間を掛けずに済んだとまで言ってくれるのか。これでも、あちらの世界では勇者なんかしていた男なのだぞ。それなのに、俺を思い出すキーワードが『大人のおもちゃ』と言うのは酷くないか?


 王女様を大人のおもちゃで調教したのがすべて!


 おっ、おぅっ。それを否定するつもりはないのだが、だけどなぁ、今更だけど情けない二つ名だと思わないか? 別に勇者呼びをして欲しいとは言わないが、人前で『大人のおもちゃ男』はないと思うんだ。

 それはそうと、俺は自分の世界に帰ってきたんだよな。コピー品だと考えれば、帰ってきたと言うのがおかしいと言う指摘は理解出来る。だけどな、コピー元の記憶なんかが残っているんだよ。その記憶にあるのが、この世界の日本と言うことだ。その日本なのだが、60年ほど前と言う但し書きが付くんだけどな。だからテレビとかパソコン? スマホって、なにと聞いても良いよな。カタログ……なんのと聞かないように。そのカタログを見せて貰う時、なんだこれとなってしまったんだよ。だけど世の中には、俺が想像したこともないおもちゃが存在するんだな。ああ、テラと一緒に興味深く見させて貰ったよ。お陰で、夜の生活が更に充実した……ゲフンゲフン。まあ、それは良い、遙かに快適な生活が送れるようになったのは確かだな。


 それは良いのだが、この世界……と言うより、この集落はなんなのだ? いや、魔法が普通に使われているし、ドラゴンとかハイエルフとか翼人とか……魔王、俺たちの世界の魔王とは違うのだが、魔王まで彷徨いているんだぞ。しかも普通の人間が、魔王樹の森で平気そうにしているって。どこかおかしいと言って良いよな。

 なるほど、あれを普通の人間の範疇に含めるのはおかしいのか。普通の人間だったら、すでに魔王樹の森で心肺停止状態になっている。そう言われればそうなんだが、そこから蘇生できただけでも、俺には凄いことに思えるのだがな。それで、平気にしていた男なんだが……やっぱり普通じゃないのか?


 その蘇生で思い出したんだが、なんでここには女神なんかが生活しているんだ。しかもその女神、なんか凄く神々しいんだぞ。時々女の顔をするのは、まあ見なかったことにしておくんだが。

 それから魔法特区だったか、あれって絶対に変だろう。俺の記憶にあるような景色、ああ、田舎だとあまり違いが無かったりするんだ。その馴染んだ景色に、魔法技術の大量投入って……あの転移ゲート、ニロが興味津々だったりするんだよ。それから治療用魔道具だったか、あんなものがあったら、誰でも魔法使いになれてしまうよな。立木さんだったか、立木さんが魔法を使うのを見て、ニロが自信をなくしたりしていたんだ。だってあのじいさん……はっ、酷い冷や汗と震えが! と言うのは良いんだが、立木さんはニロ以上の魔法を使いこなしてくれるんだよ。しかも立木さん、ニロの師匠2人を囲っていたりするんだよな。もうな、男として尊敬してしまうとしか言い様がないんだ。それで夜の方は? 道具を使わないで満足させている。俺も、師匠って教えを請うた方が良いのだろうか。


 そして集落の代表諸星さんなんだが、はっきり言って世界が違っているよな。なんで魔王樹に言い聞かせなんかできるんだ。一番枝振りの良い奴、つまり魔王樹の起源が研究所前に残されたんだよ。ああ、それだけで大量殺戮ができる凶悪なやつがだ。それなのに、起源の魔王樹が綺麗な白い花なんか咲かせているんだぞ。魔王樹のことを知らない奴なんか、なんて名前の木ですかって花を手に取りながら聞いてくれるんだ。正体を知っている俺たちにしてみれば、自殺行為でしかないことなんだよ、それは。

 しかも諸星さん、仕掛けをして魔王樹の森を送り返してくれたんだよ。もうな、女神なんかここでは格下ってのを、思いっきり思い知らされた気がしたよ。神様の世界? 天上世界と言った方が良いのかな? 最初は悩んでいたクーガとパンヤも、元の世界に帰るなんて言わなくなってしまったよ。テラ? テラは、他の王女様……王妃様なのかな。その王妃様たちと、仲良くグルメとかファッション談義なんかしているよ。国のこと? 王女ブランドの以外の理由で、国のことなんか出たことがなかったな。ニロは……今更言うまでも無いことだよな。


 それで俺なんだが、悩んでいると言うのが正直なところだ。俺の先輩たちなんだが、あのクソみたいな世界に取り残されちまってるんだよ。魔王樹の森が無くなれば、特別な力もなくなってしまうはずなんだ。聖女様の結界があるから、生きていくことは出来るのだろうな。それにしても、代わり映えのしない退屈な世界で、永劫の時間を過ごしていくことになるんだよ。

 だからと言って、帰りたいと言うことじゃないからな。そもそもあっちの世界は、俺の世界じゃないのは確かなんだ。何しろ俺には、まがい物でもこちらの世界の記憶があるんだよ。だから悩みと言っても、先輩たちを助けられないのかと言うものなんだよ。だってだな、先輩たちもあの教皇の犠牲者でしかないんだからな。


 それで、あちらの世界と繋げるつもりはあるのかと聞いてみたんだ、聞いてみたんだよ。その時なんだけど、女神様が側で真剣な顔をしていたりしたんだ。多分だけど、繋げて欲しいと思っているんだろうな。そんな期待を、女神様からひしひしと感じたりしたんだよ。

 だけど俺の質問に対して、「必要性を認めない」と言うのが立木さんの答えだった。残された俺の家族……60年前の家族なんだが、その家族から依頼があれば別と言われたんだ。60年前の俺の家族って……俺って確か末っ子だったはずなんだ。つまり、兄弟でもみんな80越えのじいさんばあさんってことになるんだよ。両親なんて、生きているとは思えない。


「私たちが、世界を繋げてあちらの世界に干渉する法的理由がないんです」


 それが、必要性を認めない理由らしい。それを指摘されてみれば、確かにそうとしか言い様がないんだよな。


「後はですね、貴方がこうしてここにいることも理由になっているんです。法的には、杣木謙吾と言う人物を取り戻したことになるんですよ。同じ人間、貴方のコピー元を連れてきたりすると、逆に厄介なことになってしまいます」


 なんだよなぁ。だからすっきりとはしないが、あちらの世界のことは諦めるしかないと割り切ることにした。コピー人間の俺が、世界を語るのは大それたことと言うのもあるんだよ。

 それでも、俺がしなくちゃいけないことがあるんだ。ああ、ここで生きていく以上、仕事をしなくちゃいけないと思ったんだよ。そうじゃないと、ただ飯ぐらいになっちまうだろう? テラやニロ、クーガたちの食い代ぐらい稼がないとと思ったんだ。ああ、思ったんだよ。


「ケンゴー君が仕事をしたい、のですか」


 こう言った相談は、立木さんにするのが一番良いって教えて貰ったんだ。人生経験が長いので、いろんなことを知っているし、面倒見がとっても良いからと言うのが推薦してくれた人の話。確か、自衛隊員の人だったかな。

 俺の相談に対して、立木さんは腕を組んでちょっと長考。


「学術的な方は……流石に無理があるか。だとしたら、エンターテインメント部門なんだけど。エクシブ君と同じ立場を考えた方が良いのかな。そもそも杣木君が出来ることをわかっていないと言うのもあるしなぁ」


 これでも勇者なんかしていたから、結構腕っ節が強かったりはするんです。ただ俺の記憶にある世界だと、腕っ節が強くてもさほど役には立たないんだよな。だってここ、真っ当な会社組織だから。それに暴力だったら、俺なんかじゃ及びも付かないのがうじゃうじゃいたりするんだよ。


「クーガ君とパンヤさんは、見た目を利用した仕事と言うのはあるんですけどね。それが本人の誇りを傷つけたりしないかが気になるんですよ。それからですけど、あまり仕事のことを気にして貰わなくても大丈夫と言うのも有るんですよ。そもそも上里集落は、貴方のような立場の方に用意したシェルターでもあるのですからね。まあ、待ちなさい」


 それだと俺の気が済まない。そう言おうとしたら、立木さんに手で制されてしまった。ああ、俺の言いたいことを理解してくれているんだよな。


「貴方にして貰う仕事を、これから……と言うより、色々と考えているんです。仕事を作れないのは、私たちの責任なんですよ。だから、仕事が決まるまでこちらの世界になれてくださいと言うのが今言えることですね。魔法がどの程度使えるのかと言うのもありますが、京都の研究を手伝って貰うことも考えていますよ。後は杣木君、エクステラさん、ニロさんの希望次第ですけど、新しく設立する大学で研究して貰うことも考えています」


 大学で研究って……俺、はっきり言って頭が良くないぞ。高校ぐらいの知識はあると思うが、それも朧気な記憶になっていたりするんだよ。その俺が、最先端の大学で学ぶって……まともに考えれば、あり得ないと言って良いよな。


「それが、有り得たりするわけですよ。なので、大学入学までのんびり準備などしていてください。ただたまぁに、望まない異世界接続なんかが起きることがあるんです。その時には、貴方の腕っ節を頼ることも有るかも知れませんね」


 俺の腕っ節か、そんなものが役に立つとも思えないのだが。ただ、言いたいことは理解出来たと思う。今の俺にあてがえるような仕事はないと言うことだよな。


「違います。焦っても何も生まないと言うことです。こちらの知識もあり、異世界の知識も持っている貴方です。それだけでも、大きな強みであると言うのは理解してください。それを生かすためには、もう少し心にゆとりを持つこと、そして色々と学ぶことが必要だと言うことです。つまらない仕事で良ければ、幾らでも仕事ぐらい作ることができるんですよ。例えばですけど、魔王城公開の警備員でもしてみますか?」


 警備員、魔王城公開と言う奴のことか。ああ、大勢のアルバイトが働いていたりするな。ただ飯を食らっているぐらいなら、仕事をしているだけ気分的にはマシだと思うんだ。だから、警備員をさせてくださいと言うのが答えになるな。


「そうですか、警備員でも良いと言ってくれますか。でしたら、リハビリ代わりに警備員をして貰いましょうか」


 リハビリ。確かにリハビリは必要なことだな。だからお願いしますと、頭を下げさせて貰うことにした。




 もうすぐ秋分の日と言うことで、魔法都市特区第一陣の成果発表準備がたけなわになっています。それで大糸線の代替ですけど、直前で大規模な手直しなんかすることになりました。どう言うことか、ですか。今更ですけど、交通流動のデータを忘れていたと言うことです。これはバス停の方もそうだったんだけど、隣の駅に行く人が思いっきり少なかったのよ。だから数珠つなぎで作った転移ゲートを、ハブアンドスポークで良いんだっけ? すべての駅を基幹駅に接続する形に変更しました。これで、どの駅に行くにも最大3回ゲートを通れば良いことになりました。

 うん、数珠つなぎだと移動する駅数だけゲートを通らないといけないんだよね。時間的には楽になるんだけど、徒歩での移動距離が長くてメリットが見えにくくなるのよ。この意見、試験運用の時にも出ていたものなのよね。


 と言うことで、転移ゲートを再編成しました。中里さんが頭を抱えていたんだけど、大谷興業を使って無事施設の改修を終わらせましたとさ。うん、従属駅のゲートは減ったんだけど、基幹駅は大幅増になってくれたんだ。

 もうね、大谷興業なんだけど、IMO研究所の工事部門として吸収したらどうかなんて話まで出ているわ。


「組としては、大歓迎なんですけどね」


 と言うのが、インテリヤクザ三辻さんの言葉。だから、その抗議は受け付けません。だって、紗雪さんから色々と教えて貰ってるんだからね。

 それは置いておくけど、バス停の方も同じ事情になったの。大谷村とか白鹿村では問題にならなかったんだけど、大町市から使い勝手の点で指摘が出てきたの。だからこちらも、ハブアンドスポークの形にバス停が再編されました。隣のバス停に行くのは不便だけど、幾つかバス停を越える必要が無いので概ね好評と言うことになりました。ただ拠点駅のバス停規模が大きくなっちゃたんだけどね。その拠点駅だけど、バス営業所に作ることになりました。


「見込み違いは有りましたが、悪いことばかりじゃないんですよ」


 と言うのが立木さんの言い訳。うん、言い訳と言っていいと思うんだ。それとも、強がりって言い換えた方が良いのかな?


「別にどちらでも構いませんよ。ただ小谷さんを相手にしないだけですから」


 ええっと、それって報復をするって言っていますか? 話しても通じない人を相手にするのは時間の無駄。今は忙しいから、時間を無駄にするつもりはないと言ってくれますか。そのですね、旅行に誘わないとか言いませんよね。


「そろそろ、独り立ちも必要だと思いますよ」


 ええっと、土下座した方が良いですか。そうですか、必要が無いと言ってくれますか。


「大町市とJRが、駅改良工事を打ち出してくれました。具体的には新しい駅ビルを作るのですが、その駅ビルにハブ機能のすべてを収めるのだそうです。それに加えて、テナントを募集するのだそうですよ」


 ええっと、そのスケッチって……長野の田舎に作るものじゃないですよね。どこの東京駅って、言いたくなってしまったぐらいです。


「施設の取り合いに負けていますからね。なので、一番手っ取り早い方法を考えたのだと思いますよ。ちなみに白鹿駅、南大谷駅も後追いで整備するようですね」


 すべてのバス、鉄道利用者が一度拠点駅を通過することになるわけですか。だとしたら、駅整備をするのも理解出来ると思いますよ。特にバスの場合、市営村営で料金を取らないんですよね。それだったら、拠点駅でお買い物もしやすくなると思いますので。


「今は無料なんですけどね。市と村は料金の取り方を検討しているところです。利用者が市民村民だけなら、無料でも構わないと考えていたようですけど。外部から来た人に対しては料金を取りたいと言うのが自治体側の希望です」


 だとしたら、ですね。ハブ駅に料金徴収ゲートを作れば良いと思いますよ。


「バス停への入場ゲートを作ると言うプランが出ていますね。そしてそこから先は、大都市のように均一料金にすることを考えているようですよ。そして住民に対しては、格安の定期券のような物を配布すると言う案があります」


 なんでもただと言うのは良くないと思います。ですので、料金を取るのは賛成ですね。ただ大谷村って、人口が2500人ぐらいでしたっけ。だとしたら、お金を取らなくても問題がない気がしますね。


「コミュニティバスの料金なんですけど、100円程度の所が多いんですよ。往復200円、一ヶ月使って6千円、年間で7万2千円ですので、フルに料金を取っても1.8億円近辺なんですよ。それぐらいなら、IMO研究所の寄付でもたいしたことはありませんね。それから白鹿村ですけど、人口は9千人ぐらいなんです。ざくっと4倍だとしても、両村合わせて9億円程度でしかないんです。協力費と言うことで、IMO研究所から寄付でもしておきますかね」


 これから人口が増えるのかも知れませんけど、それでも大した金額じゃないのは確かですね。諸星さん、大谷村と白鹿村で儲けるつもりは無いと言っていましたので、それで良いんじゃないかって気がしますね。


「ゲートの維持管理の手間は掛かるんですけどね。まあ、そっちはウチからの寄付で賄って貰いましょうか」


 だとしたら、大町市の方はどうします?


「あちらは、料金を取るモデルとして運用して貰いましょう。ちなみに、大町市の人口は白鹿村の3倍程度です。寄付をしても、たいしたことはないと言うのが答えになりますね」


 ですよねぇ。でも立木さんの言うとおり、特区と言うのはこれからの展開モデルになるんですよね。だとしたら、経済活動に落とし込む必要がある訳ですか。


「國枝氏が、収益モデルを考えてくれてますよ。今の公共交通に比べて、格段に運用コストが下がることになります。それを前提にした、収益モデルを作ることになるのですが……企業規模が縮小してしまうと言う問題があったりするんですよ」


 企業規模が縮小……そうなると、雇用数が減ると言う意味になりますよね。確かに、産業構造を転換しないと失業者が溢れることになりますね。


「それもまた、特区の実験を行う理由と言うことです。製造業の需要は廃れませんが、一部の業界で人余りの出る可能性があります。ちなみにその対策は、藤康に放り投げているんですけどね。新しくできる大学での、研究テーマにでもして貰いましょうか」


 立木さん、人に仕事を振っていますよね。それって自分が楽に……とは違うのか。立木さんとしては、魔法とかに軸足を移したいんですよね。確かに、今言われた検討は官僚向きだと思います。


「ところで小谷さんに質問をします。小谷さんの知っている範囲で、伸びていく業界と縮小していく業界はどうなっていますか?」


 ここで、私にテストをしてくれますか。一応考えてはいるんですけど、まだ自信が無いんですよ。例えばですけど、物を右から左に動かす業界は一大転換期を迎えることになると思っています。ただ右から左でも、ラストワンマイルにはさほど変化はないと思うんですよ。いえ、魔道具を配ればラストワンマイルも解決できると思いますよ。ただ、そこまで行くには人の変革も必要になると思うんです。物流、人流とも同じだと思います。

 そして人と物の移動に対する概念が変わると、自動車とかの移動手段も影響を受けますよね。電気自動車とか自動運転とか盛んに言われてますけど、その変化を飛ばすことも可能になるんです。勿論、どこまで転移ゲートで対応するかと言う課題は残りますけどね。


 その意味で言えば、食糧生産はさほど変化がないと思っています。いえ、やれば色々と出来そうな気がするんですけど、結構アレルギー反応が出ると思うんです。

 それから、医療は激変すると思うんです。本山先生たちと共同することで、人間の部位欠損にも対応出来そうな気がするんです。臓器移植にしても、幹細胞と魔法治療でかなり不要になるんじゃ有りませんか。


 なんてことを色々と考えたのですけど、つくづく自分が世界を知らなかったと言うことが理解出来ました。今の話にしても、特区のグランドデザインを見ながら考えたものなんです。あとはですね、ネットで色々とググった結果でもあったりするんです。

 生成AIに質問を投げてみたんですけど、頭が悪すぎて使い物になりませんでした。


「かなり検討が進んでいるのではありませんか。それから言っておきますが、私も正解なんか持っていないんです。ですので、これから起こる社会変化を、本当に注意深く見守っていく必要があるんですよ。その気になれば、無理をすればと言った方が良いかな。今の文明を否定することが出来るんです。はい、異世界アニメを思い浮かべてくれれば良いんです。欲しいものがわかっている分、魔法で実現できる可能性が高くなってくるんですよ」


 でも、そこまでのハードルはもの凄く高いんですね。そして今の文明を否定することが、本当に正しいことなのかもわかっていないですよね。


「シアに、何千年もの昔はどんな世界だったか……これは、確かMHKの谷川さんが奈良でした質問でしたね。そこでシアは、大きな変化は無かったと答えているんです。つまり魔法と言うのは、文明を止めてしまう可能性があるわけです」


 仰るとおりなんですけど。ただ、文明の発達が良いことなのかと言うテーゼが必ず出てきますよね。


「今で十分なのだから、これ以上文明が発達する必要は無いと言うものですね。それでしたら、簡単に論破できるから問題はないと思いますよ」


 簡単に論破できるんですか。参考までに、その方法を教えて貰えますか?


「そのテーゼを出した方に、100年前で止めても良いかと聞けば良いんです。そこで口ごもった時点で、文明を止めると言う主張が破綻したことになります。そして100年前でも良いと答えたら、今とどちらが良いのかと聞けば良いわけです。それから小谷さん、人間と言うのは地上にいる限り滅亡が運命づけられているのはご存じですよね?」


 男性の遺伝子がなくなるとか聞いたことがあるんですけど、そのことを言っているんですか?


「いえ、太陽が膨張して、地球に生物が住めなくなるからです」


 そんな先の話をされても……敢えて極論を言ってくれたのですね。太陽の膨張じゃなくても、小惑星が落ちてくるのでも構わないわけですか。


「大地震や火山の爆発と言うのもありますね。文明を今のレベルで止めると言うことは、災害への備えも止めてしまうことになるわけですよ。人と言うのは、変わることを否定した時点で退化していく存在なんです」


 そうですね。仰るとおりだと思います。しかしなぁ、なんで理系の立木さんと議論、議論で良いですよね。それが成立したんだろう。


「それだけ、小谷さんが成長されたからではありませんか。私も、小谷さんと話をしていて、新しい気づきが色々とありましたよ。ですので、こうしてお酒抜きで話すのも楽しいなと思えてしまうんです。次は藤康たちでも交えて話をしませんか?」


 望むところ……と言いたいんですけど。まだ遠慮したいかなと言うのが正直な気持ちです。藤康さんたちって、立木さんほど身内に優しくないですよね。優しくないと思うんですよ。




 ニロでぇすっ! と、ちょっと軽めに挨拶なんかしてみました。茶色の髪を捻りアップにした、中々の美女だと思っているんですよ。スタイルは、ケンゴーと会ってから成長したと思っています。

 なんです、美女と言うには若すぎると言うのは。美少女なら、まだ認められると言ってくれますか。でもですよ、私も18ですから少女と言う歳じゃないと思うんです。なんです、こちらでは18は少女……その辺りも違ってくるんですね。


 それで自己紹介なんですけど、これでも凄腕の魔法使いと言われたのですよ。一応魔法の名門に生まれたのですけど、名門の中でも鬼子と言われた天才だったんですよ。ええ、その辺りは過去形で語らせて貰います。

 だって、上里集落、それともIMO研究所? ここに来たら、私なんて小娘だなぁって思っちゃったのよ。だってさ、師匠2人なんて神様のレベルに達していると思うのよ。何しろ私とケンゴーが頑張って張った結界、魔王樹の即死魔法だって耐えられる結界なのよ。その結界を、師匠……エリシオン師匠なんだけどね。ちょっと魔力を込めたぐらいで突破されてしまったの。後はね、魔王樹の森……私たちでは、結界を張らないと即死してしまう森なんだけど、こっちの人たち、普通に入っていってくれたのよ。しかもあの立木っておじさん、普通の人なんだよね。その普通の人のはずの立木おじさん、魔王樹本体を触りながら枝振りなんか確認してくれたわ。


 しかも立木おじさん、魔法を使うようになって半年ぐらいしか経っていないんだって。しかも魔法を使うのに、汎用の魔道具……汎用ってどう言うこと? その魔道具を使わないと、魔法を使うことが出来ないのよ。それなのに、どうして私が遠く置き去りにされているのかしら? 空間転移の魔法一つとっても、私の魔法とは洗練のされ方が違っているのよ。

 それを考えると、私が師事すべきは立木おじさんって気がしてきたのよ。ちょっと若い身体を餌にすれば、スケベなお年寄りぐらい手玉に取れるよね。取れると思ったんだけど……あの立木おじさん、ラズライティシア様とエリシオン様を愛人にしているんだって。後は、超巨乳のハイエルフ、たしかセフィーロさんだったかな。その人も愛人にしているんだって。うん、若さ以外に勝ち目がどこにもありませんでした。


 それでも弟子にして! ってお願いをしたら、キョート、キョートで良いんだよね。そこに送り込まれてしまいました。そこでギョイコーとタケミって人の手伝いをするのが修行になるんだって。ちょっと疑問って言って良いよね。

 それでお手並み拝見と言うことで、ギョイコーと言う女性を挑発してみました。うん、しっかり返り討ちに遭ってしまったわ。だって、『そう』って冷たい視線を向けられたと思ったら、指一本動かせなくなってしまったのよ。私ほどの魔法使いを拘束するには、かなり強力な魔法が必要になるのよ。それなのに、殆ど魔力を感じられないって、一体どう言う仕組みになっているのよ。


「脳からの神経伝達を邪魔しただけよ。この程度だと、大した魔力は必要ないの」


 脳からの神経伝達の邪魔をした……ちょっと理解が出来ないんですけど。それから、身体が熱くなってきたのは私の気のせいなの?


「神経伝達の邪魔が出来るのよ。だったら、刺激を与えて興奮させるのも難しくないわね」


 これって、魔法でやっているんですよね。だったら私、頑張って魔法防壁を張っているんですよ。それなのに、どうして簡単に突破できるんですか?


「今のところ内緒ね。ただねぇ、これでも立木さんには通用しないのよ」


 立木おじさんには通用しないんですか。それで、通用しないのは拘束魔法の方ですか?


「両方よ。理性を飛ばして襲って欲しいのに、まぁったく通用してくれないのよ」


 そ、そうですか。良い趣味ですねと、感心させて貰いました。いえ、凄いなぁって感心したんですよ。だからですね、ちょっと視線が怖いと言って良いですか?


「あそこをギンギンにした武見君、ちょっとニロさんで発散してみる?」


 あっ、おっきい……と言うのは本質じゃないよね。これでも、一応ケンゴーの女なんです。だからですね、他の殿方に身体を許すのは良くないと思うんです。ええっと、ますます身体が熱くなってきたんですけど。できれば、そろそろ許して貰えませんか?

 それにタケミさんも、興奮が収まったみたいですし……


「武見君、素数でも数えたのかしら?」

「対抗手段にたどり着けた、と言うのが答えだな」

「だったら、その対抗手段をじっくりと教えてくれる? 対策を考えて、立木さんに試してみるから」

「し、仕事中に、そう言うのは良くないと思うぞ」

「冗談よ。ニロさんと打ち解けるために工夫したと思ってくれるかな」


 その割に、目が笑っていなかったと言って良いですか。いえ、冗談ですよね、打ち解けるための軽い冗談ですよね。

 それで、どうやって私の防壁を通り超えたんですか?


「貴方が防壁に使った魔力を利用しただけよ」


 えっ、そんなことが出来るんですかっ!? これでも、結構修羅場をくぐり抜けてきた魔法使いなんですよ。でも、そんなことが出来るなんて聞いたことがありません。


「簡単な話じゃないわよ。シア母さんとかシオンさん相手だったら、絶対に無理と言ってあげるから。でも貴方の魔法、魔力の使い方が結構雑なのよ。だから、さほど難しくなかったってことね。当たり前だけど、立木さんには通用しなかったわ」


 立木さんだと当たり前なんですか。その辺り疑問は有るのですが、つまり私が未熟と言うことですか。しかしなぁ、ここに来て自信をなくすことばっかり。だってこの前のお産……竜人のお産の時なんだけど。あの時って、魔力の結界が出来ていましたよね。はい師匠お二人が全力で張った結界のことを言っています。

 あれに比べたら、魔王樹の即死魔法なんて……春のそよ風みたいな物だと思います。中に入ったら……私程度では、どんなに頑張っても即死だと思いますよ。


「その魔力の結界だったかな。その結界の中に、立木さんが入っていったのよ。しかも充満したバカ魔力を制御して、余分を外の世界に捨ててくれたわ」


 それって、本当に人の所業なんですか。ちょっと人と言うのに自信が無い。出会った頃は、間違いなく人のはずだったと言ってくださいますか。

 私なんて、生まれた時から魔法を使う環境で生きてきたんですよ。そして外道……間違い間違い、天才って言われるぐらいの魔法使いだったんです。魔法に掛けた時間は、間違いなく私の方が多いはずです。しかも私は、先祖代々伝わってきた研究も教えて貰っているんですよ。それなのに、どうして半年かそこらの魔法使いに歯が立たないんですか? 絶対理不尽だと思うんです……どうして頭を人差し指で突っついてくれるんですか?


「地頭の違い、かなぁ。魔法に掛けた時間は、間違いなくニロさん、だっけ? ニロさんの方が長いと思うわよ。でもね。それ以外の人生経験、科学的知識、ぜぇんぶ立木さんの足下に及ばないでしょ」


 でも、人生経験と魔法って違うと思うんですよ。なんです、その柔軟性の無さが進歩を邪魔していると言うのは。


「私の方が、立木さんより魔法に関しては経験が浅いのよ。その私に手も足も出ないのは、魔法の経験以外が理由になっていると思わないの?」


 それを言われると、ですね。だったらっ、えいっ、くらえ発情魔法! って、また私の身体が熱くなってきたんですけど。ええっと、あそこがとっても切なくなって……


「どう、これで魔法の経験だけあっても駄目ってわかってくれたかしら? 貴方と私の違いには、人の身体に対する理解度があるのよ。後はね、魔法の逆展開と言う研究もあったりするのよね」


 な、なんです、その魔法の逆展開と言うのは。いえ、その前にですね、発情魔法を解除して貰えませんか。このままだと、私、私ぃぃぃっ!


「あっ、イった」


 ええ、イッテしまいましたよ。もうっ、ここってなんなのですか!


「それを勉強するためにここに来たんじゃないの?」


 そりゃあ、仰るとおりなんですけどね。


「御衣黄さん、そろそろ遊ぶのは辞めてあげた方が良くないか?」

「一応、魔法の使いこなしの練習をしているのよ。相手が魔法使いだから、武見君で試すのよりは良いのかなぁって思ったのよ。でも、思ったより未熟だったわね。これだったら、武見君相手に練習していた方がましかしら。それからニロさん、私たちが魔法を使えるの、武見君が魔道具を作ってくれたからなのよ」

「立木さんの場合、本当にそうなのか疑問なんだけどな」


 特製の魔道具……ですか。ええ、自分が未熟だって思い知らされましたよ。ですので、大人しくお手伝いをさせて貰います。皆さんに追いつけるよう勉強することにしますよ。


「だったら、ここで何をしているのか説明してあげるわね……まあ明日で良いか」

「そうだな、腹が減ったと言って良いよな」

「私もお腹が空いたわよ。だから、今日はニロさんの歓迎会をしましょうか」

「また、肉か?」

「また、肉よ!」


 肉って、肉のことですか。はい、集落の食堂で色々と頂いています。こちらの食事って、とっても美味しいですよね。


「松阪牛の美味しいお店を見つけてあるのよ。ところでニロさんって、お酒を飲める……歳じゃなかったか」


 ええっと、あちらでは成人していたりするんです。ですので、一応お酒を嗜んでいたりします。その、お付き合い程度なら……タケミさん、どうして止めるんですか?


「武見君、言いたいことが有るのなら聞いてあげるわよ?」

「明日が辛くなるから、ほどほどにしてくれ、程度だな」

「ニロさんが潰れたところで切り上げるわよ」


 私が潰れたら、ですか。自慢ではないのですけど、今までお酒で潰れたことが無いんですよ。はい、勇者パーティーの中では、私が一番お酒に強かったりするんです。


「だってさ、武見君。寝不足を覚悟してくれるかな」

「俺まで道連れにしなくてもいいと思うんぞ」

「大丈夫よ。適当なところで切り上げるから」


 私が潰れるまでじゃなかったんですか。なんです、余計なことを言うなって。繰り返しますけど、私だってやられっぱなしにはなりませんからね。ええ、挑まれた以上は受けて立つのが名家で生まれた魔法使いの定めなんです……




 こうして見ていると、可愛いと言っても良いよな。ああ、ニロさんのことを言っている。だからぁ、御衣黄さんは俺より年上だろう? だったら、可愛いと言うのはちょっと違うと思うんだよ。


「それでも、可愛いと言われたいのが女心なのよ」


 まさか御衣黄さんに『女心』を説かれるとは思わなかったな。それから、本件への抗議は受け付けないからな。魔法の方も、俺だって対抗策は日々検討しているんだよ。ああ、検討しているんだがな。これって、俺たちの研究に必要なことなのか?


「悪用を防ぐためには必要だと思ってるけど」

「立木さんに任せておく……と言う訳にはいかないと言うことか。まあ、同時に検討していた方が良いと言うのは確かだな」


「そう言うこと。こと魔法に関しては、無責任な研究者ではダメだと思っているから。それはそうと、随分あっさりと潰れてくれたわね。いくら強いと言っても、お子様の集まりでは強いと言うことだったのね」


 世界が違った。こんなに平和な世界じゃなかったから、と言うことなんだろうな。ああ、俺たちもこの世界が続くように努力する必要があるのは認めるぞ。何しろ魔法なんて技術を持ち込んでしまったんだからな、今までとは違った混乱が起きる可能性があるのはわかっているんだよ。


「貴方が作った魔道具。それが、世界の終わりを導かないと良いわね」


 俺が作った、か。確かに、術式は俺が考えたんだけどな。だけど、立木さんたちに手取り足取り教えられた結果なんだよ。だから成果と言う意味なら、立木さんのおかげと言うことになる。勿論、責任から逃げるつもりはないんだぞ。


「だったら、彼女に責任を取ってあげる?」


 ……ちょっと待て、確かに責任から逃げないとは言ったぞ。それが、なぜニロさんへの責任と言う話になるんだ? それにニロさんは、謙吾君の彼女だろう。寝取るって、モラル的に間違っていると言っちゃいけないか。ああ、彼女が可愛らしいと言うのは否定しないぞ。処女じゃないって……別に処女厨、で良かったか。処女厨ってことも無いのだからな。

 だからと言って、ニロさんとと言う話にはならないからな。だったら陽佳ちゃん……どうして彼女の名前が出るんだ? 陽佳ちゃんの憧れの人……俺が憧れの人なのか? それは、光栄と言って良いんだろうな。


「だけど藍香さんの目はないと思うわよ。彼女の目が立木さんに向けられているから、と言うのも理由の一つだけどね。でも、生きている世界が違う。違うと言うのがその理由よ。藍香さん、私と違って結婚願望を持っていないもの。これから芸能界で生きていくんだったら、貴方の世界とは交わらないと思うから」


 それは言いすぎと言ってやろう。言ってやるんだが、多少自覚しているところはあるな。冷静に見て見ると、彼女はどこか壊れているんだよ。そうじゃなきゃ、あんなに凄い歌は歌えないと思うんだ。

 一番丸く収まるのは、癪に障るんだが立木さんが受け入れることだと思う。さもなければ、脳天気な諸星氏のところだな。正面から受け止めるには、間違いなく俺には重すぎると思っている。


「それが出来るのはお父さんだけって言いたいのね。さも無ければ、脳天気の渦に巻き込んでしまえば良いのか。でも彼女の才能を生かすのだったら、お父さんが受け入れる以外は無いってことになるわね」


 受け入れない、今の距離を保つと言うのもあるんだがな。


「その意味で言えば、陽佳ちゃんは貴方にお似合いだと思うわよ。あの子、間違いなく良い奧さんになると思うから。上里集落にも染まってるから、ハイエルフとか翼人のことも大目に見てくれるわよ」


 なぜ、そっちの話……カプチーノに手を出しているのは否定できないな。まあ彼女たちの場合、俺が生きている間じゃ老けた姿にならないのも確かだ。彼女の人生の一部を、俺と共有するだけの関係ってことか。


「お父さんにとって、オルティアさんと言う例外を除けば全員そんな関係なのよ。だからかな、慶子母さんも割り切りが出来ているんだと思う。理解出来ないのは、オルティアさんとの関係だけね。それにしたところで、オルティアさんは自立できてる女性だからと言うのもあるんだけど。で、武見君。ニロさんをお持ち帰りする?」


 なぜその話に戻ってくる? 不倫の練習って、なあ。自分からトラブルに飛び込んでいくものじゃないだろう。


「だったら私なんてどう?」


 どう、と言われてもだな。遊びなら良いが、俺たちは付き合っちゃいけないと思うんだ。まあ待て、御衣黄さんが魅力的な女性と言うのは大いに認めていることだぞ。だが俺にとっては、それ以上に研究のパートナーと言うのが重要なんだよ。素敵な女性だったら、例えば藍香ちゃんがいるじゃ無いか。だがな、研究のパートナーってのは、簡単には見つからない物なんだよ。ここで男と女の関係になんかなっちまったら、俺は得がたい物を失ってしまうことになるんだぞ。それは、御衣黄さんだって同じじゃないのか?

 そうか、同じ考えと言ってくれるんだな。ただ、回りが色々と煩くなっていると言うのだな。


「鴻池さん……エンターテインメント部門に協力しているD’sエージェンシーの人なんだけどね。私たちをセットでテレビに出したいみたいね。お父さんに、『下世話』な話で盛り上がるからダメって止められているみたい。現実が伴うのなら可とか言っていたけど」


 現実が伴うのなら可って……俺の気持ちは、さっき言ったとおりだからな。これから先奥さんを迎えたとしてもだ、御衣黄さんが大切な女性と言うのは変わらないと思っているんだ。ああ、勝手なことを言っているのはわかっているんだがな。


「ただ、オルティアさんの後を追いそうで怖いのよね。そう、気がついたら50手前と言うやつのことよ。今の研究なんだけど、一息吐いたら50手前ってのが見えてるのが怖いのよ」


 そこで、本当に一息吐けるのか?


「もっと酷いことを言ってるの、理解してるのかしら。もうこうなったら、お父さんに寿命延長の被験者になって貰うしかないのかな」


 同じことを考えているのが沢山いそうと言うのは言っちゃいけないか。ああ、ラズライティシア様とかエリシオンさんとかインテグラさんとか……藍香ちゃんも該当しそうな気がするな。

 俺に協力しろ、と言うのか。ああ、協力するのは吝かじゃないぞ。ただなあ、マウスの実験を覚えているか。ああ、今倫理委員会に掛かってる奴のことだ。立木さん、その気になれば同じことをできるんじゃないのか? むしろ、その準備のために協力したんじゃないのかと思ってるぐらいだ。


「その可能性を否定できないわね。そして私にとって、その方が都合が良いのも確かなのよ。でもお父さん、結構倫理観がしっかりしてるからなぁ。むしろ、諸星さんが引っ張りそうな気がするぐらいよ」


 あの人も、そろそろ独り立ちが必要と言っちゃいけないか。同感だが、立木さんが安全装置になっていると言うのか。小谷さんと二人が、諸星氏の手綱を握っている。握っているんだろうなぁ……


「それで、これからなんだけど。ニロさんを送ってから、飲み直しでもする?」


 それなんだが、ラーメン程度にしておかないか? 今は、こってりどろりの気分じゃないと言ってくれるのか。


「大阪まで足を伸ばして、透明スープの揚子江ラーメンってどう?」


 それって、立木さんの言っていた『飲んだ後には最高!』って奴のことか。だけど大阪かぁ、転移を使えば問題ないのは確かなんだがな。それからニロさん、『私も行きたい』って復活したのか。

 それは良いんだが、どうして俺に擦り寄ってくるんだ。いや、教えてくれなくていい。それを聞くと逃げられなくなりそうな気がするんだ。




渋滞を乗り越え帰ってきました。源泉掛け流しの硫黄泉って良いですよね。あとは、お酒も美味しかったし。ただ、親父が3人(客)とマスターだけの、なにかむさ苦しい環境が出来上がっていた。

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