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魔法少女ぐらたん  作者: Yorimi2
3.シークワース・バニラホワイト編
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#90「ゲシュロッセン・ラウム」

「さっさと出て来るのです。アクムーンビースト」

「テメーが言うなーーーッ!!!」


バニラホワイト領内の雪山で、紫色の光が(あふ)れる。

その中からビーストが形作られて、ぐらたん達の前に立ち塞がった。


「あくむーーーん!」


大きな両手のハサミを振り上げ、ロブスター型アクムーンビーストが咆哮(ほうこう)した。ポラリス先生が用意した特別演習の相手だ。


何してくれるんだ、先生・・・。


先生に対する不満を今は胸の内にしまって、目の前の敵に集中するぐらたん達。


「みんな、行くよ!」


「おっけー!」「承知!」

「「イヌガミライズ! マジカル〜」」


ぐらたんはイヌガミギアを取りだそうとするが、


「あれっ!?」


どうやら山小屋に置いて来たようだ。ぐらたんを残し、他の2人は変身を終えた。


「全く、仕方がない子です。忘れ物です」


ぐらたんにため息を吐いたポラリスは懐からイヌガミギアを取り出した。

雑に放り投げれられ、コツンっとぐらたんの頭に跳ね返って手元に渡った。


「せ、先生〜!」


ミントのギアを受け取ったぐらたんは感激のあまり、ポラリスに尊敬の顔を向けるが、

ふと思い返せば・・・なぜ持っていたのかが気になった。


「いやっ、待てよ・・・持ってるってことは、最初からそのつもりだったのかっ!!」


さっきまでの優しさはなんだったのか・・・騙された気分になって怒りをあらわにするぐらたん。


「今更気づいたのですか? 遅れた分を取り戻しますよ。ほら、虫っぽい人」


「クソがっ! やっちまえっ、ディープ・アクムーン!」


触角を引っ張られ、船虫(ふなむし)はヤケクソに指示を出した。


「ふぁっ!?」


「あくむーーん」


彼女の呼びかけに応え、ロブスター型ビーストは両手のハサミをぐらたん達目掛けて叩きつけるのだった。

3人はすぐさま後ろに飛び退いて距離をとった。


「・・・ッ! むっか〜〜〜ッ! あんの狐・・・覚えてろよーーッ」


イヌガミギアを被るぐらたんに、微笑みかけるミカンとミルク。すっかり調子は戻ってきたようだ。


「お嬢様、先生の挑発に乗ってはいけませんよ。冷静に」


「分かってるって・・・イヌガミライズ! マジカル・イヌガミント!」


変身を終え、3人揃った所で犬神少女達はビーストに立ち向かう。


「さ〜てと、行きますか〜っ!」


「ミント、ミカン。援護は任せるギャン!」


「お願い!」


ミントエスカッションを展開して、ミントとミカンがビーストへ直進していく中、ミルクは2丁のブラスターを発砲。

8発の光弾がロブスター型の胸部に命中した。貫通こそしなかったが、硬い装甲にボコボコと小さなクレーターを作った。


「いっ!!? 何だアイツ・・・以前と火力がダンチだ。アクムーン、防御だ!」


船虫(ふなむし)の指示に従い、両腕のハサミで頭部を(おお)った。ブラスターの弾を弾くが、それでも装甲が(えぐ)られてしまう。


「凄い・・・、これが修行の成果ギャン!?」


攻撃力の向上にミルクも思わず驚くのだった。


「はあっ!!」


ミントエスカッションの裏からミカンが飛び出し、防御耐性のままのビーストに漆黒の剣ヴァル・ガ・ルウィンガーを振り下ろした。

ビーストの右腕は容易く切断される。


「ヴァル剣、凄い斬れ味! こっちも負けられないっ。ミントスラッシュ!」


盾のポジションを変え、高速回転させてビーストの左腕を斬りあげるミント。

傷ひとつつけれなかったが、パワーで押し上げ防御を崩した。

後方からミルクの放ったミルキーマグナムが命中し、爆発に呑まれる。


「うげっ! ディープ・アクムーンが・・・ぶふッ!?」


3人の連携で早速の劣勢に狼狽える船虫(ふなむし)だったが、ポラリスが彼女を押しのけて前に出る。


「アクムーン、泡を吐くのです」


「エッ!? あくむーーん」


指揮者が交代したことで戸惑いを見せつつもビーストはブクブクと泡のブレスを吐く。

大量の泡はビーストの全身を覆いつくしてしまった。押し寄せる泡にミントとミカンは一時後退する。


ミルクの射撃は続くが、泡によって光弾が拡散し弾かれてしまう。


「ちょっ!! 先生っ」


「鬱陶しい泡は吹き飛ばすまで! イヌガミック・ドライブ!」


ミントは神通力を増幅させる。そしてミカンやミルクも続くように増幅させた。


「さて、それはどうですかね?」

「あくむーーん」


泡の塊がぴょんと飛び跳ね一気に犬神少女達の距離を詰めた。


「ミント・リフレッシュ・トルネード!・・・うわっ!?」


丁度、発動のタイミングを見計らってのことだった。浄化呪文をゼロ距離から受けたことによって、泡が周囲に拡散した。

跳ね返った風と共に飛散した泡が3人に襲いかかる。ミント自体は風の発生源のおかげで見事に泡は避けるように広がったが、かえってそれが2人の犬神少女を巻き込む羽目になった。


「ぷは〜っ、・・・うわっ!? 何これ!? (まと)わりついて取れないッ!」


ミカンは泡の塊から頭を出したが、結構粘着力のある泡で身動きが取れない。


「ミカン!」


ミントはミカンの腕を引っ張るが自身にも泡がくっ付く。


「いっ・・・」


自身も腕を取られてしまい、ミントまでもその場から動けなくなってしまった。


「や、やばい・・・!」


ズンシと物音が聞こえると、巨影がミント達を(おお)った。ロブスター型ビーストが目の前に迫る中、少し離れた位置にある泡の山からミルクが顔を出した。


「させるかッ! ミルキー・ホット・バスター!!」


両腕を何とか出して、トリガーを引き絞る。ブラスターの銃口から眩いばかりの青白い閃光が広がった。

しかし、2丁のブラスターは暴発し、銃身が弾け飛んだ。手元には煙を吹くグリップが残っていただけだった。変わり果てた2丁のブラスターに、ミルクは青ざめて絶叫する。


「ぎゃああああああああああっ!!? ミルクブラスターーッ!!」


「どうやら、強くなりすぎて銃が耐えきれないようです。再調整の必要がありますね。・・・とりあえず、アギャン、そこで大人しくしてるのです」


「はい・・・」


ミルクは壊れたブラスターを手放すと、首を垂れるようにに泡に顔を押し付けた。


「さて、お二人はこのまま続行なのです」


「いや、先生もう勝負は・・・あっ!?」


ビーストの再生したハサミが迫って来る。

ミカンは身動きが取れぬまま、そのハサミに捕まってしまう。


「もう勝負を諦めるのですか? 勝利を導く力が聞いて呆れるのです」


「ひ、ひえ〜〜〜っ!」


「み、ミカンッ!」


ビーストは獲物をとったかのように高々とミカンを掲げた。そして、同じく泡で動けないミントに左手のハサミが迫った。

ハサミの間でスパークが走り、紫色の火球が膨れ上がってくる。


「うわっ、ヤバいギャン・・・」


嫌な予感がしたミルクは急いで泡の中に潜り込む。


「さあ、ぐらたん。貴方ももう終わりですか?」


ハサミから紫色の光線がミント目掛けて発射された。光が迫る中、ポラリスの声と同時に、奴の声が脳裏で重なった。


——もうお終いですか? もっと楽しませてくださいよ——


くっ!


「・・・まだっ!!」


耳障りな声に焚き付けられたミントはミントエスカッションを展開して光線を防ぐ。

照射される光線は光の盾に阻まれると拡散して後方に散らばるが、周囲の泡の塊に反射して、幾つもの閃光が入り乱れる。

分散した光線が耳飾りをかするが、怯むことなく正面の極太の光線を防ぎ続けるミント。

ミントエスカッションが限界なのか、徐々に亀裂が走っていく。


「ミント! 逃げるギャン!」


泡に中からミルクが叫ぶが、ミントは聞かずに必死に紫の光線を押し留める。


「この状況じゃ無理! それにオマエを置いて逃げるわけには・・・ッ! イヌガミック・ドライブ!」


力を増幅させ、ミントエスカッションを維持し続ける。しかし、このままでも盾が持たないというより、神通力が持たなくなるだろう。

それまでに何とかしないと・・・


——クククッ、貴方にはまだ迷いがありますね。今戦っている化け物もかつては、生きていた。再び蘇った命を奪う事になる——


死者の魂で作られたアクムーンも元々この世界で生きていた誰かだったはずだ。

また、命を奪う事になる・・・


闇の中からの彼女の(ささや)きで、精神が揺さぶられる。


——あの時、命を奪った罪悪感から逃れたくて、それを紛らわせたくて志願した——

——あの時失った命も、ネビロス様の力があれば元通り。罪から解放されると信じてこの作戦を引き受けた——

——全ては血に飢えた本当の自分から逃げて、楽になりたいから——


「・・・ッ」


頭に響くルビィーの声に支配されそうになる。力が弱まり、光の盾が小刻みに点滅して消えかかる。

構えるロッドが震えてきた。

過去を反芻する中、ふとカオリの言葉が流れてきた。


——もう、どうしようもない過去だけど、今ならどうにでもなる——

——決して過去に囚われてる訳じゃない——

——世界の未来の為に戦って来たんだよ——


失った命・・・過去はもう戻らない。

たとえ本当に遺産の力で死者を蘇らせたとしても、今までの罪が消えることは無い。元通りにはならない。そんなことで晴れるほど命というものは決して軽いものではない。

矛盾を抱えても、罪を背負って、私は戦う!

今生きる者達の世界のために。これ以上失わないために。そして大好きなネビロス様の為に!


彼の顔が浮かぶと同時に彼の言葉も思い出した。


——アクムーンは死者の魂を利用している。死者をあんなことに使うなんて許してはおけないから。死神としても、人間としても。・・・・・・だから、ぐらたん、力を貸してくれ——


承知!!


「ルビィー・ホーン、私を誰だと思っている?」


私は、死神ネビロス様のキュートでたのもしいさいきょーのパートナー。そして犬神少女だ。


砕けていく光の盾に構うことなくミントはロッドの先端に意識を集中させる。


ルビィー・ホーン! まだ貴様が取り憑いたままなのか何だか知らないけど。私の部屋(こころ)に入ることを許した覚えはないッ!


「私の中から、出て行けッ!!」


ミントのドレスが更に強く発光しだす。

ミントエスカッションは遂に粉々になって紫色の光線がミントに迫る中、歪んだ空間が光線の直進を(さえぎ)った。


空間が捻じ曲がったことによる半球状の結界。


「ほう」


その結界を目の当たりにし、ビーストの足元でポラリスは腕を後ろに組んだまま関心を見せる。


ぶっつけ本番でコレを強制させるなんて、ポラリス先生はいつも無茶な要求ばかりする・・・やなヤツだよ、全く。

今はこの感覚を忘れないようにイメージだ。


先生、カオリやアギャンのアドバイスの通り、ロッドの先に意識を集中して決して破れない強固な盾・・・と言うより誰も寄せ付けない静かな自分だけの空間をイメージした。


結界で阻まれ、拡散している細かい光線が、意識を持ったかのようにビーストの方へ跳ね返っていく。ミカンを捕らえたハサミに光線が収束して行き、関節部分を焼き切るのだった。


切断されて落下して行くハサミをこじ開け、ミカンは拘束から逃れる。


「いっけーっ、ミカン! 後はお願い!」


前方に展開した結界は消え失せ、息の上がったミントはミカンに託すのだった。

今のミカンなら倒せると確信した。


「ありがとう、ミント! 後は任されたッ。イヌガミック・ドライブ!」


着地したミカンは腰を落として剣を下段に構えた。刀身は金色に輝きだす。


「シトラスカリバーーーッ!!」


しっかりと足をバネにして飛び上がり、ビーストの胸から頭頂部まで斬り上げるのだった。

天に昇る金色の剣閃がビーストを縦に両断。断面から閃光が広がり、ビーストは眩い光の粒子を発散させながら消滅していった。


金色の柱を背後に、再び着地したミカンはミントにブイサインを送る。


「ぶいっ! 遂にやったねミントっ! 空間を歪める結界をモノにしたんだね」


ミントは自身の手を見る。意識すると手のひらで小さな空間の歪みが生まれた。


ビーストの吐いた泡も光となって霧散すると、ミルクが出てきた。


「ふー、酷い目にあったギャン・・・。しかし、お嬢様・・・やっと、神通力を、使いこなせるようになりましたギャン。このアギャン、至極感激しております〜〜ッ!!」


涙を滝のように流しながら、ミルクはミントに駆け寄るのだった。


「そんな、大袈裟な・・・。とりあえず涙と鼻水を拭いて、ミルク」


ミントは少し照れ臭いのを隠し、ミルクが迫ってくるのを空間湾曲で阻んだ。見えない壁に頬っぺたを押し付けるような感じで、更に歪んで見える事からミルクが変顔しているようだった。


「えへへ、そして泡だらけになっちゃたからお風呂入らないとねミルク」


彼女の面白い顔を堪えながら、ミカンはミルクを茶化す。


「うっ・・・シャワーにするギャン」


戦いが終わって和む中、ポラリスが歩みよってきた。


「良くやったのです、皆さん。特にぐらたん、(ようや)く神通力というのを理解しましたね。空間湾曲・・・その力があれば邪龍レヴィアタンに遅れを取ることはないでしょう」


手のひらの空間の歪みを見つめては、ミントはそれをギュッと握り絞めた。


「空間湾曲結界・・・そんな呼び名より、ゲシュロッセン・ラウムの方が今の私に似合ってる」


「堅苦しい技名なのです」


「硬くないと守れないからね」


ミントの返しに、ポラリスは目を閉じて微笑んで見せた。


「ふふ、貴方は実に面白い子です」


ミントの脳裏で赤黒い炎が離れて行くように小さくなって行く感じがした。


心は幾千の星々を内包する闇。誰にも侵すことは出来ない。その閉ざされた部屋(プラネタリウム)に踏み入れる事が許されるのは資格ある者だけだ。


晴れた顔で、空を見上げるミントを不思議そうにミカンは見つめる。


「ミント?」


「ううん、大丈夫! 私ももっと強くならなくちゃ」


「そうだね!」「ギャン」


「さて、特別演習は終わった事で帰りましょう。残りあと2日、追い込みますよ」


「「「はーーーい!」」」


3人は元気よく返事したが、船虫(ふなむし)は不機嫌のまま、追い払うように手を振った。


「へいへい、用が済んだらとっとと消えなっ!」


完全に彼女を失念していた。

今回ばかりは彼女に同情したくなる犬神少女達だった。下手な慰めは返って苛立たせてしまうのを知っているので、黙ったまま複雑な気分で船虫(ふなむし)を見るしかなった。


「クソがッ、そんな目で見るなよ〜〜っ! アタシがバッカみてーじゃねーかっ! ナスビ犬なんて助けるんじゃなかったぜっ!!」


船虫(ふなむし)は放置していた蟹味噌缶をかき集めると、ポラリスは物欲しそうな目で彼女が抱えてるモノを見つめる。


「美味しそうなのです。戦利品としてくれますよね? くれますよね?」


船虫(ふなむし)は缶詰を死守するかのように大事に抱え込み、警戒しながらポラリスからササっと距離を取った。

かなりビビっているようだ。


「〜〜〜ッ! 誰がやるかボケッ! 大体テメーのせいでヒデー目にあったんだよ! メシまで取られてたまるかッ! クソっ、これだから狐は大っ嫌いなんだよおおっ!」


その場から走り去り、残像と捨て台詞だけがその場に残った。


「覚えてやがれ〜〜〜〜ッ!!」


去っていった方向を見るに、あの先に本拠地があるのだろう。

来るべき決戦のために、今はまだ鍛える必要がある・・・


ミントは振り返る事なく、ポラリスやみんなに続いて山小屋の帰路を歩んでいった。

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