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魔法少女ぐらたん  作者: Yorimi2
3.シークワース・バニラホワイト編
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#89「闇に輝く小さな星」

ファントムフレイムによる焚き木。

場所を移して白い森の中にゆらめく紅い炎で暖をとりながら、ぐらたんは船虫(ふなむし)から貰った蟹味噌缶を食べる。

船虫(ふなむし)も同じ缶詰を口にしながら、ぐらたんの話を全て大人しく黙って聞いてあげていた。


「ふーん。そうゆーことかい」


毛布にくるまったぐらたんはスプーンで蟹味噌漬けのカニの身を口に運んで静かに(うなず)く。

その様子見て船虫(ふなむし)は視線を斜め上に()らし、再びぐらたんに戻した。


「テメーも小僧の秘術を狙っていたワケか。バレちまったもんは仕方ねー・・・てゆーか、オマエ色々と自覚がなさすぎ。スパイとしては失格だな〜」


「自覚がない?」


キョトンとしたぐらたんの返事で船虫(ふなむし)は吹き出すように笑った。


「へっ、こーやって敵である私に全部洗いあざらい話すし、魔術や魔導兵器はバンバン使うし、隠す気ねーだろ? オマケに今は魔犬の姿を(さら)し放題」


「むぅ〜・・・」


これ程指摘されて、ぐうの音も出ない。


「無理をしてたのかな・・・私」


ぼんやりと焚き木を(なが)めては、船虫(ふなむし)から貰ったコーヒーを(すす)る。とても苦かった。舌を出して渋い顔をするぐらたん。


「ひひひ。お子ちゃまにはまだ早かったようだな〜。・・・ま、こうなってしまった以上、後はなるようになるしかねー。イヌガミカンに会って話してみな」


船虫(ふなむし)もコーヒーを口にすると、5缶目を開ける。


「・・・。お前は、トトネさんやネネちゃんに正体バレちゃって後悔した事はないの?」


「あん?」


突然の質問に、船虫(ふなむし)はスプーンを咥えたまま。

少し間が開く。


「バラしたのはアタシだ。後悔したに決まってんだろ」


「じゃあどうして、ナイトメアユニオンに居続けるの?」


「理解できねーだろうが、そこに居る理由があんだよ。そんな事でウジウジベソかいて悩んでるヒマはねーんだ」


「そんな事って・・・、冷たいんだね」


「何だ、知らなかったのかよ? あたしゃ、宇宙の温度みてーに冷てーのさ」


「私は・・・どうしてこうなっちゃたんだろう?」


船虫(ふなむし)はぐらたんの背後に手を回して、ポンッと手を彼女の頭に乗せてた。


「まあ、今まで良くやったじゃねーか。幼い頃から1人で決断して、軍に入った。家を守りたい、友達を守りたいって言う考えは立派だ。そして大人達に混ざって、背伸びしながら頑張って来た。だが、色々決断を急ぎすぎたあまり・・・肝心なことを学べずにすっ飛ばしやがったバカな奴だよ、テメーは」


「ば、バカって言うな!」


頭を撫でられて照れ臭い思いをするものの、(けな)しているのか慰めているのか分からない彼女の言葉にむくれるぐらたん。


「それでイイじゃねーか。バカと天才は紙一重なんだぜ? 知識はあっても、まだまだテメーはお勉強不足のお子ちゃまだ。無理に大人ぶる必要はねー。バカやってろや」


「大人って、私はまだ・・・」


「ひひひ、まだ自覚はねーか。頑張って来て、大人の命令通りに動いて来た。だが、自分の中では納得出来ないことに直面して、そして悩んで、大人達とぶつかって、どーしよーもねー状況に押しつぶされそうになったからここまで逃げて来た。そーゆーお年頃なんだよテメーは」


ぐらたんは黙り込む。今の自分の心中を全て彼女に見透かされている気がして嫌な気分だったが、不思議なことにモヤモヤした気持ちが和らいだ気がした。


「まだまだバカをやってイイんぜ? 大人の都合なんか知るか、今オマエの気持ちに素直になるだけでいーんだよ。がむしゃらまでに自分が正しいと思うことにつっぱしりゃイイ。アクセル全開でフルスロットルでな」


がむしゃらに、自分の望む道を突っ走る・・・。今まで通り我を通してネビロス様と、みんなと旅がしたい! でも進むのに不安はある。


「でも進む道が間違っていたら? 取り返しがつかず、辿り着いた先で後悔してしまうんじゃ?」


「んあ? そりゃ・・・」


ぐらたんの返しに、船虫(ふなむし)は視線を斜め上にして考え込む。


「・・・そりゃ、分かってて突っ込むバカはいねーだろ! ブレーキ踏めよ、ブレーキ! テメーのノーミソにはマナしか詰まってねーのかっ!?」


彼女の180度裏返った回答にガクッと頭を下げ、すかさずツッコミを入れたぐらたん。


「何だよそれっ! バカになって突っ走れって言ったそばから、止まれって・・・結局どっちなんだよー」


船虫(ふなむし)はヘラヘラと笑って誤魔化す。


「ひひひ、そこまで分かってんなら心配いらねーな。アタシが言いてーのはな、自分を見失うなって事。勢いも大切で、引き際も大切。まあ、最初はぶつかりまくるだろうが、そこは経験だ。見極める事を学んでいきな。ほらよ、自分でも悩む必要はねーはずだ。アクセル入れてみろよ?」


「む〜・・・」


何か上手くまとめられているような気がして腑に落ちないが、一理ある。

しかし・・・


ぐらたんは自身を包み込む毛布をギュッと掴んでは無言のまま視線を落とした。


「どーした?」


「みんなに分かって貰えるんだろうか? カオリちゃんやネビロス様に、どんな顔でなんて言えば・・・、それが怖くて」


尻込みして最初の一歩が踏み出せない。

船虫(ふなむし)はぐらたんの鬱々とした様子に苛立ち、ため息を吐くとカニの身を乗せたスプーンを無理矢理、彼女の口に押し込んだ。


「むぐ・・・」


「恐れる必要はねー。そんなくだらねー事で崩れる友情ならそこまでだぜ。いいからつべこべ言わずアクセル入れろやっ。今テメーが望む道に進みたいのなら、アイツらに会って話してこいっ。アタシやネネみてーになりてーか? 自分の選んだ道が実際正しいのか間違ってんのか分かんねー怖さは、分かる。しかしな、間違ってたら教えてくれて正してくれて、一緒に居てくれるトモダチがいる・・・だろ?」


船虫(ふなむし)は前方を見る。それに釣られてぐらたんも前を向くと、

カオリが雪に覆われた低木をかき分けて現れただった。


「ぐらたんっ!」


目は涙が込み上げてウルウルとさせていた。笑顔でぐらたんの元に駆けつけるカオリ。


「ひひひ、ほら、見ろよ。お前が嫌でも、向こうからやって来た。・・・よお、遅かったじゃねーか」


そして、船虫(ふなむし)が一緒にいたことに驚くのを忘れなかった。


「・・・どうして船虫(ふなむし)がっ!?」


「へっ、たまたま通りかかっただけだぜ。ってゆーか、テメーらの方がアタシのとこにたまたま通りかかったってのが正しいな。わざわざ密入国してまでご苦労なこった。・・・ほら、ちゃんとしっかり話してみろ!」


「わわっ!?」


船虫(ふなむし)に無理矢理立たされて、カオリの前に押し出されたぐらたんは彼女の目を見るなり、罪悪感で視線だんだんと下がってくる。


「カオリちゃん・・・」


ぐらたんが勇気を出せないままモジモジしていた所、カオリは微笑みながら更に距離を詰めた。


「良かった、ぐらたん。心配してたけど思ってたより元気そうで・・・。みんなで山中探し回ったけど、私が一番ノリだね」


「か、カオリちゃん、私・・・」


カオリは首をフルフルと振った。


「アギャンから聞いたよ・・・ぐらたんのこと」


彼女が全てを知ってしまった事で、心臓がズンと重たくなる。もう話す必要は無いが、改めて自分の言葉でぐらたんはカオリに告白するのだった。


「今まで騙して、ごめんなさい・・・。これが本当の私・・・。平然と欺き、相手の命を奪う醜い悪魔なんだよ。アギャンの言った通り、ネビロス様の持つ力を手に入れる為に魔界からやって来た・・・。全て嘘、ネビロス様の使い魔も嘘、犬神少女も活動する上で都合が良かったから・・・。カオリちゃんさえも・・・目的の為に、利用してきたんだよッ」


羽織った毛布がハラリと雪上に落ち、蝙蝠の翼、両手を広げて本当の自分を(さら)した。

後ろで船虫(ふなむし)は黙ったままヒヤヒヤとした顔で見守り続けるが、カオリは表情変えず、優しくオレンジの瞳で魔犬の少女を見つめる。


「びっくりしちゃったけど・・・私が知ってるぐらたんは甘いものが好きで、イタズラが好きで、明るく可愛い女の子なんだ。アギャンから聞いた昔のキミもそんな感じで、ぐらたんはやっぱりぐらたんなんだ〜って・・・それは嘘じゃない。それが本当の素のキミなんだよ・・・。たとえ魔界のスパイでも、私にとってキミは大切な友達に変わりないからね」


嫌悪する様子は無く、カオリの優しさは変わらない。


「ありがとう、カオリちゃん・・・」


「ぐらたんはどう? 今までのキミは嘘じゃない(はず)だよ? ネビロス君への気持ちも」


「・・・。嘘じゃない。嘘じゃないよっ。ネビロス様が好き、カオリちゃんも好き、今までの旅もッ!」


ぐらたんは自身の手を見つめる。


「・・・でも私は既に血で汚れてしまってる。こんな私がみんなといる資格なんて・・・。こんな私と友達になって後悔してない? 貴方をこんな事に巻き込んじゃって・・・」


カオリはぐらたんの手を取った。彼女の手の温もりが伝わり、冷えた神経が再び感覚を取り戻し始めた。

カオリははっきりと答える。


「全く、こんなに冷やしちゃって・・・。私は、全然後悔してないわ。同じ立場だったら私もぐらたんと同じことをしちゃてたと思う・・・多分。私もね、ルビィーに取り憑かれた友達を傷つけてしまったから・・・」


もの悲しげな目で握ったぐらたんの手を見つめた後、カオリは再び微笑みながらぐらたんの目を見る。


「もう、どうしようもない過去だけど、今ならどうにでもなる。だからキミは戦う事を選んだんだよね?」


「えっ?」


「クリーミートップで言ってたの覚えてるよ。「失うのが怖いから戦う」んだって。辛い過去を背負っているからこそ、そこにキミの強さがあって前に進んでいる。でもそれは決して過去に囚われてる訳じゃない。しっかりとキミはイチゴミントになって世界の未来の為に戦って来たんだよ」


「私はそんなに強くなんか・・・」


ぐらたんの言葉を否定するようにカオリは首を横に振った。


「キミはとても強い女の子だよ。私が知ってる。私なんてあれからずっと自分を隠して、逃げて来たから。ぐらたんと出会えて私も本来の自分を取り戻す事が出来たんだよ」


カオリもウインクして、栗色の三角耳をピコピコさせ、フサフサな尻尾を軽く振って見せた。

彼女もクー・シーであり、人間界で自身を偽り続けて生きて来た。ぐらたんと同じだ。相違点と言えば、それぞれの選択。カオリは幼少のトラウマと孤独を恐れて、弟を理由に自分を偽り閉ざし続けて来たのだった。

ぐらたんと出会った事で、今のカオリがいる。


「ありがとう、ぐらたん。とても感謝してるよっ! 実は勇気を貰ったのは私の方なんだ」


太陽のような笑顔をぐらたんに向けた。決して眩しいものではなく、何か心が暖まる感じがする。


「今度は私が勇気を分ける番だね。・・・そうだ。ぐらたんは今の自分に自信が持てないのかもしれない。だから教えてあげるね。魔界は閉ざされた闇みたいに真っ暗で、そこにいる魔族は正体不明で恐ろしい存在なのかも知れない。でも、ぐらたんと出会って印象が変わったよ。魔界は決して真っ暗な場所じゃないんだって。魔族が闇の存在でいられるのは、ぐらたんみたいに星のようにほのかに輝いてるからなんだ。小さな光でも優しく強い心があるからこそ闇に負けない・・・魔族ひとりひとりが輝いてるからこそ魔界を照らし続けているんだよ。・・・そのほのかで優しい光で私も救われた。友達になってくれてありがとう」


そしてカオリはギュッと優しくぐらたんを抱きしめるのだった。


闇に輝く小さな星。

たとえ弱くても確かにそこに輝きがあり、暖かさがある・・・。闇の存在が闇で生きていけるのは、自身が星のように輝いているから——

そんな風に言われたのは初めてだった。


じーんっと、ぐらたんの目の奥に熱が籠り始めた。


「心だって同じ。人間、人に言えない秘密の一つや二つあるし、裏表もある。闇は闇のままでいいんだ。その中に、ほのかな光が確かにあるのを見えなくても感じる・・・ぐらたんは強い子だよ。もう資格がないなんて言わないで・・・この先、辛い事がまたあるかも知れないけど、一緒に旅を続けよう」


「か・・・カオリちゃん・・・」


ぐらたんから涙が溢れかえり、ギュッと彼女を抱きしめ返した。


「私も、友達になってくれて、ありがとう・・・。うん、私も続けたいっ!」


これ以上の語彙が見つからない。今の精一杯の気持ち。

ぐらたんに笑顔が戻ったことで、船虫(ふなむし)は微笑ましく2人を見守るのだ。


その時、


「お嬢様ッ!!」


(ようや)く、アギャンが合流した。密着している2人にアギャンは涙を撒き散らしながら、勢いよく飛びつくのだった。

3人は雪上に倒れ、雪煙が舞った。


「お嬢様・・・、私を置いて行かないでください。我らも同じ立場の故・・・。否、お(そば)に居ながらお力になれず、申し訳・・・」


潤んだ蒼い瞳に微笑みかけ、ぐらたんも彼女に謝るのだった。


「アギャン・・・、私からもゴメンね」


「いや、アギャンは凄かったよ。バル・・・えっと大佐さんを叱ってコテンパンにしたんだから」


ぐらたんが去った後の事をカオリから聞き、ぐらたんはアギャンを見るなり驚愕した。


「えっ!? 大佐を殴っちゃったのッ!!?」


そして彼女の言葉に答えるかのようにポラリスの声がした。


「ええ。それはもう、怒り狂った猛犬でしたよ」


3人は彼女の声で起き上がり、前に注目した。ポラリスもやっと合流した。


「ポラリス先生・・・」


彼女まで来たのは意外だった。


「全く、この家出犬は・・・。あまり心配をかけさせないで欲しいのです。お昼過ぎちゃいましたが、帰ったら私の特性シチューで体をあっためるのです」


いつも刺々(トゲトゲ)しいポラリス先生が優しい。ネビロスのパンが切れた後、あれからご飯がずっとシチューなのは置いておいて、ぐらたんは涙を拭って白狐のシスターに素直にお礼を言った。


「先生、ありがとうございます」


「私は何もしてませんよ。・・・真っ先に貴方を追いかけようとしたのはカオリ。そして、この不良天使を叱りつけたのはアギャンなのですから」


ポラリスは後ろに組んだ手を離すと、ぐらたんの端末を差し出した。ホログラムには小さなバルバトスがまだ居た。


「た、大佐ッ!!?」


彼の変わりように、ぐらたんは驚きを隠せない。右目の周りは見事に青くなっていた。


『気にするな、少尉』


バルバトスは気まずそうに目を()らしていた。

だがここは大人らしく、ぐらたんに向きなおる。


『すまない、少尉。君の気持ちをかえりみずに、あんな命令を・・・』


ぐらたんは首を振り、かしこまってビシッと立ち上がった。


「いえっ、大佐! 私の方こそ、身勝手な行動を・・・」


『そんなにかしこまるな。君の事を思うばかり、逆に君を追い込んでしまったのは私だ・・・。焦っていたんだな、俺は・・・。亡き君の父上殿、そしてキミには申し訳ない事をした。俺から、謝罪させてくれ』


バルバトスは頭を下げた。


「大佐・・・、私も、自分の未熟さを謝ります。この任務、私は降りるつもりはありません。しかし、私は・・・」


バルバトスには何を言おうとしているのか、分かっていた。彼は優しく微笑みかける。


『その事だが、少尉。私は謹慎の身だ。先ほどの命令、撤回する。辛い選択を強いてしまったな』


彼の言葉に最初は理解できなかったが、後から嬉しい気持ちが溢れてくる。


「あ、ありがとうございます、大佐ッ!」


笑顔を見せた事で、バルバトスも安心した顔で見つめる。


『こんな言い方しか出来ないが、最後の命令だ。君の望むままに行動を・・・。キミが真実を追い求めるというのなら、現状は変わらない。アスタロト元帥は全力で排除して来るだろう。本当にいいんだな?』


彼の言葉を受け、ぐらたんは真剣な顔つきで彼に敬礼を送った。


「承知ッ!」


『分かった・・・、私も抗ってみるか』


バルバトスも微笑みながら敬礼を返した。


『アギャン、お前の1発が効いた。感謝する・・・。引き続き、グラーシャ嬢を頼む』


「フン、言われるまでもないギャン」


腕を組んだアギャンは照れ隠しに、あえて不愛想な態度で答えた。そんな彼女を暫くじっと見つめていたので、カオリは何か勘づいたようにクスッと笑い声を()らした。

それに気づき、バルバトスはいつもの気難しそうな顔に戻ってカオリに話しかけた。


『・・・。カオリと言ったな、小娘』


「は、はい!」


突然話しかけられて、ビクッとするカオリ。


『キミにも感謝だ。ずっと彼女の親友でいてくれ』


「もちろんです!」


ホログラムが薄れてくる。通信、いや彼自身の目覚めが近づいて来ている。


「あの、おじさま」


消えゆくバルバトスに声をかけるぐらたん。


『なんだ?』


「全てが終わったら、「ワンダフル・ステップス」のセッション、付き合ってください」


『フッ、分かった。約束だ・・・。 それまで、生きのび・・・』


無慈悲にも通信は終了した。

閉まらない最後にみんな苦笑して、ポラリスの手ある端末を見つめるのだった。


「あっ、切れちゃった」


「どうやら目が覚めたらしいギャン。まあ、アイツは真面目にじっとしてるワケないから、どうせ居眠りついでに冥界経由で交信して来たんでしょう」


「そーなんだ」と相槌を打つカオリの横で、ポラリスはぐらたんに端末を返した。


「もう気が晴れましたか? ぐらたん」


「はい、先生」


「じゃあ、帰りましょう」


一件落着した事で、犬神少女達をワキから見ていた船虫(ふなむし)は無言のままクールに立ち去ろうとしたその時、


「——と、言いたい所ですが、今まで成果が見えなくて鬱憤が溜まっている事でしょう。特別演習をしましょう」


「「「「えっ!?」」」」


綺麗に収まると思いきや、ポラリスの提案に犬神少女達は思いもよらず気の抜けた声を()らした。

船虫(ふなむし)も足を止めて思わず振り向いてしまった。それが運の尽きだった。

気が付けばポラリスに距離を詰められ、触角をがっちりと掴まれてしまった。


「うわっ!? なんだこの狐ッ!! 放しやがれッ!!」


「これも何かの縁なのです。貴方も修行を手伝いなさい。・・・持ってますよね?」


「せ、先生!? 演習って・・・まさか」


戸惑う中、ぐらたんは先生に問いかけた。

いつも彼女の予想外な行動は、嫌な予感がしてならない。それは周りも同じ気持ちだ。


「そのまさかです。貴方も準備するのです。さて・・・」


ポラリスは船虫(ふなむし)に向き直る。刃のような青い目を向けれら、船虫(ふなむし)は目を()らす。


「へんっ! 何だか知らねーが、あたしゃ暇じゃねーんだ。テメーらで勝手に・・・」


強情な彼女に、ポラリスは掴んだ触角をグイッと引っ張って黙らせ、冷たく悪そうな笑顔で迫った。


「困りました・・・。では、大切なアンテナが貴方から独立しちゃうのです」


掴まれた触角に力が更に込められる。


「・・・ヒエっ!?」


船虫(ふなむし)の全身から滝のような汗が溢れて来る。彼女の圧力に負けて、懐から紫色の結晶体を取り出した。


「や、やりゃいいんだろッ!? チクショーーッ!!」


ヤケクソ気味にアクムーン結晶体を掲げるのだった。


「さっさと出て来るのです。アクムーンビースト」

「テメーが言うなーーーーッ!!!」


結晶体から禍々しい光が溢れだす。


彼女の特別演習。それはもはや実戦であった。

いつも心の準備などくれる暇もなく、カオリとアギャンは、呆れ返りながらイヌガミギアを取り出して身構えるのだった。


「心の準備? 何を言っているのです。敵は相手の都合なんて考えてくれないのですよ」

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