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クラーケン狩り 後編

今回で多分最終話です。

 振り下ろされた足が、けたたましい衝撃音を響かせる。


「これくらい、俺様の筋肉にはノーダメージだ!」


 ベリルがクラーケンの一撃を受け止めていた。


「今度はこちらからいくぞ!」


 ベリルは渾身のパンチをクラーケンの足に放つ。しかし、足は衝撃を受け流しているようで、まるで効いていなかった。そして、クラーケンの足がベリルに絡みつく。


「関節技はまずい!それは、く、苦しい。誰か助けてくれ!!!」

「自分から挑発しておいてしょうがない男だ。吹き狂う風よ、一つとなりて、一刀と化せ!『カマイタチ』!!」


 イリスが槍をベリルに絡みつく足に振る。スパッという音ともに足を切断した。


「流石イリス!その調子で、全ての足をバラバラにしちゃいなさい!」

「残念ながら、クラーケンはそれすら対策済みみたいですね。」


 切断されたはずの足から、また切られた分だけ伸び始めた。再生能力まであるとは、この魔物は無敵なのだろうか。


「うわぁあああああ!!」


 冒険者の叫び声が聞こえてくる。これ以上、無策でクラーケンと戦っても敗北が待っているだけだろう。


「いったん引いて、体勢を立て直すぞ!」


 アクチスも同じことを考えていたようだ。


「だがその間、誰が奴を止めておくのだ?このままだと地上まで来るぞ。」


「まぁ見てろ。ダメージを与えることは出来なくても、吹っ飛ばすくらいなら出来るぜ。」


 アクチスはそう言って、拳を握った。


「行くぜ、『インビジブルアトラス』」


 アクチスが空を殴った。すると、クラーケンの体が、何かにぶつかったように沖に向かって飛んでいった。


「おし、全員逃げるぞ!」


 ディールズ海から少し離れたウィッティヒ洞窟の入り口で作戦会議をする。


「まずは、被害状況を教えてくれ。」

「半分くらいはもう戦うのは難しそうですね。死人が出ていないだけ運がいいのかもしれませんが。」


 僕が概算で答えた。


「それにしても、アクチスさんのさっきの魔法は何だったんですか?いきなりクラーケンが飛んでいったのですけど。」


 ウィットがアクチスに質問した。


「ああ、あれは俺の召喚魔法みたいなもんだ。インビジブルアトラスっていう見えざる巨人だ。まぁクラーケンにダメージを与えるのは難しそうだがな。」

「そうだったのですね。それにしてもクラーケンには弱点はありませんの?」


「クラーケン自体、珍しい魔物だ。詳細な報告が上がってきていない。」

「だが、弱点はあるはずだ。」


 イリスは確信めいたように言う。


「どうして、そう思うのか聞かせてもらっていいかな?」

「弱点が無いのであれば、深海から離れる必要などなかったのだ。深海に天敵が現れたから逃げたと考えるのが普通であろう。」


「まぁ確かにそう考えられないこともないが、弱点が分かんねえんじゃあんま意味ないかもな。」


「中身はどうなんでしょうかね?」

「どうってなんのこと、オーラム?」


「外身がどんなに強固でも、イカだったら内臓とかは固くないじゃないですか。」

「それだ!つまり、中身を攻撃する訳だな。」

「出来るかは分からないですけどね。」


「クラーケンが岸にたどり着きそうです!!」


 見張りを任せていたギルドの職員が伝えに来た。


「よし、なんとかして中身を攻撃する作戦で行こう。」


 クラーケンは砂浜までたどり着いていた。イカなのに普通に砂浜を移動している。水は必要では無いのだろうか?


「口に攻撃するために奴に近づく必要があるな。全員、クラーケンの口を狙いに行くぞ!!」


 アクチスの号令とともに、僕らはクラーケンに挑む。だが、クラーケンの口に近付こうとするも、足が行く手を阻む。


「ウィットさん!!ウィットさんの魔法で、クラーケンの口に向かうようにダガーは投げられないんですか?」

「やってみるわ!地の果てまで、獲物を追いかけろ!『キルチェーン』!!」投げた4本のダガーはクラーケンの口に吸い込まれるように飛んでいく。3本は足に阻まれてしまったが、最後の1本は口に当たった・・・ように見えた。


 だが、ダガーはクラーケンの口に入ることは無かった。


「あれは、嘴だな。」


 そう、クラーケンの嘴に当たっただけだった。


「こいつは無敵なの?」


 ウィットが悪態をつく。


「だが今、明確に口の中を守ったようにも見えた。口の中に一撃喰らわせることが出来れば、倒せるかもしれねえ。」


「そう言ってもアクチスさん。もう、まともに動けるのは僕ら3人とアクチスさんくらいですよ。」


 まぁ僕は逃げ回ってただけですけど。


「お前さんは戦わないのか?」


 アクチスが聞いてきた。


「一応、口の中に当てれば、あいつを倒せそうな化合物はあることにはあるんですけどね。」


「本当ね、オーラム!?」

「多分ですけど。あと、ウィットさんの静電気を生み出す魔法って遠距離でも出せます?」

「出せるけど、ビックリさせることくらいにしか使えないと思うわよ。」

「じゃあ、僕が合図したら、クラーケンの口目掛けて静電気を出してもらえます?」


「分かったけど、意味あるの?それ。」

「ありますよ。」


「よし、俺たちでオーラムを援護するぞ!」


 3人がクラーケンの口までの道を切り開いてくれた。クラーケンの目の前に立つ。クラーケンは僕を食べようと口を開いた。


 僕は全ての魔力をこの化合物を生み出すことに費やす。無色の液体はクラーケンの口に入っていく。


「今です、ウィットさん!!!」

「分かったわ!」


 ウィットの魔法でクラーケンの口の入り口に静電気を生み出した。


「ウィットさん、イリスさんありがとうございました。」


 2人に感謝を述べる。僕が生み出したのはニトログリセリン。純粋なニトログリセリンは静電気程度の衝撃で爆発する。こんな近くにいれば、僕の体も木っ端微塵だろう。


 クラーケンの体が爆発する。煙で辺りが包まれる。


「オーラム??嘘でしょ!?オーラム!!返事をしてよ!!」


 ウィットは泣き叫んだ。


「自爆なのか・・・?」


 イリスは信じられないと言った様子だ。


 体の内部で爆発を受けたクラーケンは肉片へと変わっていた。








「いやー本当に死人が出なくて良かったですね。」

「良かったね、じゃないわよ!!本当に心配したんだから!!!」


 爆発の瞬間、アクチスのインビジブルアトラスが僕の体を取り囲み、守ってくれていた。そのおかげで、死なずに済んだという訳だ。


「まぁまぁ、心配して叫んでくれて、僕は嬉しかったですよ。」


「そんなこと思い出さなくていいから!!!」


 僕らの冒険はまだ、続いていくのだろう。


 今まで読んでくださりありがとうございました。また、続きが書きたくなったら書くかもしれません。

・解説コーナー

 ニトログリセリンは有名な爆薬の一種ですね。ニトログリセリンの原液は、たった1滴加熱するだけでも、ガラスのビーカーを割って吹き飛ばすほどの威力があると言われています。その危険性から、原液のまま使用されることは無く、感度を下げる工夫をして、ダイナマイトなどに使用されています。

 また、ニトログリセリンは爆薬以外に医薬品として使用されていますね。もちろん、医薬品として使用する際には、爆発しないように添加剤が加えられています。爆薬でもあり、医薬品でもあるというニトログリセリンは面白い化合物ですね。


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