ゴブリンと対峙して退治?
「倒すのは寝ているゴブリンでも大丈夫ですよね?」
「別に問題ないわ。むしろ、起きているゴブリンを倒そうとしたら、まず間違いなく仲間を呼ばれてしまうでしょうね。」
「そういえば、ウィットさんの投擲魔法で、あのゴブリン倒せないんですか?」廃墟の陰で壁に腰かけているゴブリンを指さす。
「オーラムがネオス級に昇級するかどうかのクエストなのに、私が倒しちゃったら意味ないじゃない!」
「一応聞いてみただけです。でも、僕の魔法的に相手の見えないところから一撃で倒すなんて無理だと思いますよ。」
「何匹もゴブリンが寄ってきたら、私も加勢するわ。とにかく、一人で頑張ってみなさい。」
一人で倒せとのことなので、寝ているゴブリンが起きないよう、足音を消して近づいていく。壁の向こうにはゴブリンがいるところまで近づいた。
しかし、どうやってゴブリンを倒すかは全く決まっていなかった。仮に、シアン化水素などの毒性が強い化合物をゴブリンにかけて倒したとしても、その周りに残存する毒物で、魔石を取りに来た僕もやられてしまう。つまり、毒性が無いまたは、蒸気などが発生しないもので、ゴブリンを倒す必要がある。そんな化合物あるのだろうか?
倒す方法を考えていたが、気になることが出来たので、離れたところにいたウィットに近づいた。
「何?どうかしたの?大天使ウィット様、お願いですから助けてくださいって言われても助けないわよ。」
「いや、サイズ的にプチエンジェル「何か、聞こえた気がするんだけど。」
「いえ、なんでもないです。それで、聞きたいことなんですけど、魔石って燃えます?」
「炎魔法で魔石が燃えたという話は聞いたことがないわ。それに衝撃にも強くて、ちょっとやそっとのことでは、傷一つ付かないわ。」
それを聞いて安心した。これで心置きなく倒せそうだ。
再び、ゴブリンのすぐ近くへと向かった。壁越しに寝息が聞こえることからも、まだぐっすりと寝ているのだろう。僕は意を決して、ゴブリンを視界にとらえる。僕とゴブリンとの距離は5m前後、ゴブリンはまだ夢の中のようだ。
一気にゴブリンとの距離を詰める。僕が創造するのは、銀白色のとても細かな粉末、手から放った粉末はゴブリンの体にかかり、ゴブリンは目を覚ます。近くにあったこん棒を持ち、戦闘態勢に入るが、僕は、ゴブリンのもとから逃げ出した。そして、粉まみれのゴブリンに対し、H2O:水を放った。
僕が放った銀白色の粉末、それは元素記号Alで表される金属、アルミニウムだ。放った水はゴブリンに触れ、爆発を起こした。
爆発に巻き込まれないように離れたつもりだったが、爆風で体が少し飛ばされた。そういえば、仲間のゴブリンたちがこの物音で近づいてこないのだろうか。来ると面倒だから、すぐに魔石を回収してこの場を離れよう。
爆風が収まってから、ゴブリンがいた場所に近づいていくと、もうゴブリンの姿は魔石に変わっていた。小さな赤い魔石を拾いあげる。ちょうど、ウィットが様子を見に来た。
「すごい音したんだけど、何が起きたの?」
「粉塵爆発ですよ。アルミニウムが水によって酸化されて、熱が起こるんですが、粉末だとさらに酸化が起こりやすくなるし、粉塵爆発も起こるので、それによってゴブリンを倒したんですよ。ただ、これもこっちが巻き添えになる可能性も高いので、使いづらいんですけどね。」
そして、拾った魔石をウィットに見せる。
「説明されてもよく分からなかったんだけど、結果、魔石もちゃんと手に入れたようね。じゃあ、戻りましょうか。」
「アアアッァァァアアァァァァァァァ!!」
声のする方を見ると、ゴブリンがこっちをにらんで叫んでいた。大方、さっきの爆発音が気になって、見に来たのだろう。ゴブリンが叫んだという事はつまり・・・。
「まずいわ、オーラム!すぐに逃げるわよ!」
2人で来た道を走り始める。すると、後ろから5匹くらいのゴブリンが僕らを追ってきた。なんとかして追いつかれないよう、全力で走る。
「はぁはぁ、今は後ろからしか来てないけど、周りの茂みなんかから来てもおかしくないから、全方角に気を配る必要があるわ。」
そう僕に言ってきたすぐあとに、前方の廃墟の曲がり角から、斧を持ったゴブリンが現れた。見えた瞬間、ウィットは懐からダガーを抜き去って、投げつけた。ダガーは吸い込まれるように、ゴブリンの喉元を切り裂いていった。
「流石ですね。これに怯えて後ろのゴブリンたちも諦めてくれればってあれ!?いつの間にか滅茶苦茶数増えてるんですけど!?」
僕らを追うゴブリンの数は20匹くらいになっていた。
「オーラム、なにか足止めできるものは出せない?数で来られると、私の魔法じゃ相性が悪いわ。」
「えーっと、足止め出来るもの?えーっとなんか無いかな。えーっと足止め、足止め、そうだ!」
追ってくるゴブリン目掛けて、大量の無色透明の液体を放つ。
ゴブリンたちの動きがおぼつかなくなっていく。まっすぐ走れなくなるものや、その場で倒れこむものなど、僕らを追いかけるゴブリンはどんどん少なくなっていった。
しばらく走り、ウォラストンの町を抜けた。もうゴブリンたちはついてきていなかった。なんとか逃げ切れたようだ。
「ゴブリンたちに何を浴びせたの?ふらふらしてたけど。」
「100%エタノール。つまり、超強い酒ですね。ゴブリンたちは酔っぱらったという訳です。」
ただ、これで酒の味を覚えて、街を襲いに来なければいいんだが・・・
・解説コーナー
なぜ、粉末のアルミニウムに水をかけると発火が起こるかですが、水をかけたときに
2 Al + 6 H2O → 2 Al(OH)3 + 3 H2 という化学反応が起こります。H2:水素は可燃性のガスであること、そして、上の化学反応の際に発生する酸化熱によって、発火点に達することで、発火が起こるという訳です。アルミニウムは金属の中でも燃焼熱が大きく、さらに、粉末状ですと表面積の関係で、酸化されやすい(2文目の反応が起こりやすい)ので、このような発火を起こす危険な金属なんですね。
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