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キラーハウス狂騒曲  作者: 日暮晶
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第19話 黒原虹華の腹黒虹華


「えー、そんなわけで、勝手ながら『シャイニーリング』との勝負を受けることになった! 負けたら吸収されちまうから、頼むぜお前ら!」

 ――例の宣戦布告から二日後。

『キラーハウス』の面々には強制召集が掛けられ、全員が集まるや否や出し抜けにヘッドが放った言葉がこれだ。

 アホじゃないのかと私――黒原虹華は思った。

「前置きぐらいしてください、ヘッド――単刀直入にもほどがあるでしょ」

「いや、変にまずいことが起きた、みたいな空気を出すよりはいいかなと思ったんだが」

 きょとんとするヘッドに、私は思わず額に手を当てる。

「まず経緯ぐらい説明したらどうですか……いきなりそんなこと言ったらみんな混乱しま――って、あれ?」

 みんなの顔を見て、私はなんとなく違和感に襲われる。

 突然驚愕の事実を告げられたにもかかわらず、どうもみんな、妙に落ち着いているというか――茫然自失って感じでもないのがさらに気になる。

 顔に表情がないはないけど、驚いてるっていうか感情を悟られないように必死に表情を取り繕ってるみたいな……?

「……また、ずいぶん急な話ですね。何があったんです、ヘッド?」

 若干の沈黙の後、中峯さんが自然な流れでそう口にした……のだけれど、一度疑いを持ってしまうと、その言葉も自然を装っているようにしか見えない。表情もちょっと硬いみたい。

 唯一、ときわさんだけはいつも通りにのんびりとした微笑を浮かべているから、ちょっと感情を読みづらい。

 そこで私は残り二人の内、分かりやすい方に話を向けた。

「……夕くん」

「はっ、はひっ」

 ――四人の中でも、もっともギチギチになってた夕くんは、ものの見事に返事で噛んだ。…………ほう。

「……まさか、知ってたの?」

「いっ、いえっ、そんなことはないですよ、虹華さん! いや、ほんとに驚きすぎちゃって、どんなリアクションを取ったらいいか……!」

「お笑い芸人の要素は夕くんには求めてない」

 ……これは、でも多少事前に知ってたな?

「ヘッド、別に誰にも話してないんですよね? メールとか」

「おいおい、流石にこんな重要案件、メールや電話で済ますほど無責任じゃないぞ」

「ですよねぇ」

 となると、夕くんがこの情報を知る機会があるとすれば……ふむ。

「夕くん。ちょっとこっちおいで」

 立ち上がった私は、洗面所に向かいつつ夕くんを手招きする。

「なっ、何をするんですか?」

「お婿にいけなくなるようなことをしようかなーって思って」

「なっ、何をする気ですか!」

 顔を真っ赤にして夕くんが叫ぶので、手をわきわきさせながら私は言った。


「置きっぱなしの可愛いコスプレ衣装があったから、それを着せて撮影会でもしようかなって」


「いやだぁぁぁぁぁぁっ!?」

 赤かった顔が一転、真っ青な顔で体を掻き抱き、夕くん、絶叫。……やだ、可愛い悲鳴。今度お化け屋敷にでも連れて行こうかなぁ。

 ちょっと背中をぞくぞくさせながら、私はずいずいとにじり寄る。

「もちろん、夕くんが嫌だというなら諦めるにもやぶさかではないけど……そういえば私、ちょっと知りたいことがあるんだよねぇ」

「鬼だ……鬼がここにいる……!」

「とんだ鬼畜だぜ、黒原……いや、今は腹黒虹華と呼ぶべきか」

「あははー、虹ちゃんひどーい」

 中峯さん、ヘッド、ときわさんが口々に言う。だれが腹黒だ。

「あーもう……虹華、ちょっとストップ」

 ため息をついて霧が立ち上がり、洗面所の方を指す。

「ちょっとあっちで話すよ」

「おーけー」

「なんだよ、ここで話せばいいじゃねえか」

 首を傾げるヘッドを無視して、私たちは移動する。

「――で。なんでみんな勝負のこと知ってるの? あの反応は絶対事前に聞いてたよね?」

「……喋っちゃったのはあたしたちだよ」

 なるほど。となると、次に気になるのは情報源だ。

「偶然? 必然?」

「……必然です……」

 さすがにバツが悪くなったのか、霧の声がややすぼまる。

 勝負のことを知ることがあるとすれば、あの場面を目撃した場合のみ。

 それが必然ということは――

「マジで? 霧、あの日ずっと尾行してたわけ?」

「え、えーっと……あはは……」

 すいーっと目を逸らす。……ふむ。

「なんで尾行してたの? 理由次第では許してあげる」

「……えーっと……その……」

「お茶を濁そうとしてるならそれも甘い。さっきも言ったでしょ、ここには置きっぱなしの可愛いコスプレ衣装が残っていると――」

 すぅっと、私はそれを掴んで霧の眼前に突き出す。引くほどミニ丈のメイドコスを見て、霧の顔が引きつった。

「……ね、ねえ、虹華……嘘でしょ、あんた、一体何するつもり……?」

「着た姿を際どい角度で撮って、ヘッドに贈呈してもいいんだけど」

「きっ、鬼畜! あんたがそこまでの鬼だとは思わなかったわ!」

「いやいや、言いたくないなら別にいいんだって。私も個人的に楽しませてもらうから」

「個人的にって何!?」

「やだー、言わせないでよー。夜のお供に決まってんじゃん」

「あんた最近化けの皮がべろんべろんに剥がれてるからね!? っていうかもはや自分の性癖隠す気ないでしょう!?」

「まあ、なんか、今更感はあるよね」

「開き直るなぁ! ああっ、もう……ちょっと耳貸して」

 ヤケクソ気味に霧が手招きし、私は耳を差し出す。手が添えられて、かすかな霧の吐息が耳をくすぐった。

「……あ、あんたとライが普通にデートするんじゃないかって心配になったのよ……」

「ぐはぁっ!」

「えっ、ちょっ、何その反応!?」

 私は透明な血反吐――否、砂糖を吐いて床に突っ伏す。

「甘く見ていた……まさか霧がここまで可愛いことを言うなんて……!」

「や、やめなさいよ! 絶対誰にも言わないでよ!? っていうか、あんたこそなんであんなことしたわけ?」

「あー、ヘッドを誘ったこと? いや、霧がヘッドのどんなとこに惚れたのかなーってちょっと気になってさ。あとヘッドが霧に相応しいかを見極めに」

「……そういうのは、余計なお世話っていうの」

 ま、そりゃそうだよね。自覚はしてる。ただ――

「夕くんの反応がちょっと過剰だったのが気になってるんだけど、それってどういうわけ?」

「……小野木くんには、あの時付きあってもらってたから。尾行するにも一人だとちょっと目立つけど、二人ならただの友達に見えるでしょ」

「……? 霧みたいな可愛い女子と夕くんみたいな可愛い男子が一緒に歩いてたら、普通に目立って仕方ないと思――」

 はっ、と私は一つの可能性に思い至る。

「まさか、夕くんに女装させてたの!?」

「小野木くんに関する虹華の勘が鋭すぎて怖いんだけど!?」

「くぅ、霧に対してこんなに敗北感を覚えたことはない……! 吐け、夕くんがどんな格好をしてたのか、どんな様子だったのか、逐一漏らさずにすべて教えろぉ~っ!」

「いやあんたあたしに勝ってるとこなんて数えるほどしかない――あぁぁ分かったから! 分かったからその衣装もってにじり寄ってこないでぇぇ!」

 ――この大騒ぎは、流石に見かねたらしいヘッドたちが止めに入るまで続くこととなった。どさくさにまぎれて夕くんに着せてみようと思ったけど、失敗した。



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