ⅩⅩIV
拙い文章です。今回長めです
翌日。
支度を済ませてチェックアウトをした大和達は、早速村のはずれにある『キィビルの館』へ向かった。
「ここか......」
カインは呟く。
宿から北西にのびた道を歩いて1時間。
途中、門らしきものがそびえ立って道を遮り、大和達は立ち止まる。
門から横に伸びる石の壁は先が見えない。更に言うと、ここから館らしき姿が見えない。
どうやら、キィビル・アトランダムという人間はかなりの権力者だったようだ。きっとキィビルの館というのも相当大きいのだろう。
立ち止まって少しすると、兜を深く被った男が前を遮った。
「この先はアトランダム家の所有地だ。許可なしでは通ることはできないぞ」
「...許可とはこれの事かな?」
「っ! これは大変失礼致しました。どうぞ、お通りください」
男は急に顔色を変えて恭しく頭を下げる。
その姿を見て急に天狗になったカインは男の肩を軽快に叩きだした。
「はっはっはっ、良きかな良きかな───うげっ」
大和はそんなうつけの後頭部を、握り拳で殴りつけた。
そして、兵士に1つ質問をする。
「ところで、この所有地ってどれくらい広いんだ?」
「はっ。面積だけなら小さな国一つ分ほどはあります」
「広っ!どうやって探すんだよ!」
「門から真っ直ぐ道なりに進んでいけば必ず見つかる筈です」
「へえ...そうか、ありがとう」
そう言って兵士を通り過ぎる。
暫くして振り返れば、重たそうな鎧を着こなし、なめらかな動作でお辞儀をする姿が見えた。
♦️
大和は所有地入口を後にした。そして、兵士に言われた通りに真っ直ぐ歩いていくと、館らしき姿が見えてきた。
そして、大和はその大きさに感嘆の息を漏らす。
第一印象を言えば、大きい。
みた感じ、マンションを横倒しにしても3つ分はありそうで、そのサイズは圧巻であった。
しかし、近付いて分かったことだが館は手入れがされておらず、外壁の殆どが苔や蔦に覆われている。
そのまま進み、扉を開けると充満していた埃っぽい空気が吹き込んできて、大和は思わず咳き込んだ。
家の中にはもはや人がいたような気配はなく、蜘蛛と鼠の根城と化していた。
案に相違しない結果とはいえ大和は顔をしかめた。
しかし、やると決めた以上やらねばならない。
「......んじゃまあ、やりますか」
「うへぇ......相分かりました......」
♦️
大和達がキィビルの館に入り、1時間が経過した。
聖剣探索は難航し、大和はひっそりとため息をつく。
「それにしてもでけぇな......」
「館ですから。それに、話によるとチャペルもあるらしいですよ?」
「それ、必要な情報か...? ってか、どちらかというか俺が知りたいのはキィビルって人の事だ」
そう、大和はモノ探しの為に寂れた屋敷を荒らしている今も、この巨大な家の家主の事を殆ど知らないのだ。
しかしカインが驚いた表情を見せたので、急に恥ずかしくなり顔を逸らしてしまった。そして近くの棚を探り弁明の為に口を湿らす。
「あー......いやまあ、特に深い意味はねぇよ? ちょっとした興味本位だから───」
「いえ、話しましょう」
「───ああ、じゃあ頼むわ」
カインはうなずいてから少しの間をとる。そして子供に昔話を語るように、穏やかな口調で語り始めた。
「......彼は、幼少期からそれは大人びた子供だったと伝えられております。裕福な家庭、暖かな家族の団欒、専属の教師......恵まれた環境の中でも慢心一つせず、常日頃から勉学と剣の稽古に励んでいたようでした」
「要するに、ませたガキっつー事か」
「そうとも言えますな。......そして14の頃に、三つ上と一つ上の兄に家を任せて剣士として旅に出たそうです。そこからは、先日述べた通り、ドラゴン屠ったり魔王軍殲滅したりその他もろもろ......で、ござる」
まるで常識とでも言うかのように淡々と語るカインを一瞥して、大和は乾いた笑いを漏らした。
「改めて聞くとすげえ戦歴だな......」
「ですが、何より1番恐ろしいのは、常人なら半生をかけても成し遂げきることは出来ないそれらすべての偉業をたったの7年で成し遂げた事でございます」
「......はっ......7年?」
その驚異的な数字に大和も今度は戦慄する。
14の若さで旅に出て、英雄と呼ばれるようになるまで費やした時間は、たったの7年。
それはただの人間がする事にしてはあまりにも異常だ。加えて、彼の幼少時代も聞いていて気になる点もあった。彼は何故そこまで恵まれているのか。何故運命に愛されているのか。そんな疑問を追及していくと、ある答えが浮かび上がる。
その答えは、全ての疑問を解消させ、今の大和を納得させる力があった。
それは、彼がどこかから、この世界へ転生してきた人間であること。
「......妙な事聞くけどよ、そのキィビルって奴、何か特殊な能力とかもってなかったか?」
「......特には。しかし、彼の全て偉業はひとえに『聖剣』のおかげだと言い伝えられております」
「そうか、それが聖剣か」
「はい」
「けどさ、それだけのもんって基本死後に狙われんじゃねぇの?」
「それは......」
真っ当な質問にカインは言い淀む。
そして何かに気づいたかのように目を見開くと、口を開いた。
「......それは、ありえません。何故なら、聖剣は、選ばれた者の前にしか姿を現さないとされており、聖剣は邪なもの嫌うと言い伝えられております。なので、その言い伝え通りならば、今もまだこの屋敷に眠っている筈です」
「へえ、なるほどなー......いや、ちょっと待てよ」
危うく納得しかけたが、この話には矛盾点がある。
それは、今迄の大和達の苦労を鼻で笑い飛ばしてしまう程の大きな問題でもあった。
「......聖剣からしたら俺達、邪そのものなんじゃねぇの?」
「......あー、いい天気ですなー!」
「おい!」
問い詰めようと歩きよる大和に対し、カインは逃げるように早足で距離を取る。
最終的に大和の方が折れ、1度大きく息を吐いてからその場にしゃがみこんだ。
「つまり、俺達はまんまと依頼主の掌の上で転がされてた......っつーわけだ」
聖剣は、邪な者の前には現れない。それは、英雄キィビル・アトランダムの死後に誰も聖剣を手に入れる事ができなかった事からわかる。
つまり、金の為にという不純な動機で聖剣を探しに来た大和達2人の前に現れるなんてことは、まずありえないというわけだ。
曲がりなりにも英雄として名を馳せた人間の自宅に入らせるのだから、きっと依頼主もかなりの権力者に違いない。
意地の悪そうな男が、自分達の滑稽な姿を見て酒の肴にする姿を想像し、胸から何かがこみ上げてきた。
かなり遅れて「そうですね」と返事が返ってきて、下から覗き込むようにカインを見やれば、彼は意外にも平素であるように見えた。
「......怒ってねぇの?」
「いえいえそんな。拙者、今現在はらわた煮えくり丸でござるよ? ただ、こういうのは顔に出さない訓練を受けてまして」
「へえ......まあいいや、取り敢えず帰って───」
一瞬、大和は扉の開いた隙間から反射した光を目の隅に捉えた。
「......」
「...ユウキ殿?」
そして、大和が正しければ、光に当てられ姿を少しばかり顕にしたそれは製錬された金属のようだった。
大和は何だったのかを確かめるため、ドアノブに手をかける。
埃が蔓延していて入る気は失せるものの、もしここで聖剣を見つける事が出来たのならば、数ヶ月の食費が手に入る。加えて、今頃あぐらをかいているであろう依頼主に一泡吹かせる事もできる。
そんなの、考えるまでもない。
大和はドアを開け放ち、足を大股で踏み入れる。
しかし、突如木の板を叩き割る音に、カイン含めた二人の意識はそっちへ向く。
2人の視線の先には、巨大な肉の塊があった。
そしてそれは人の形をしていて、また、どう足掻いてもドアを通ることのできないほどの巨躯でもあった。
大和のいた世界にとってもファンタジーの世界においては欠かせない存在だった。
そう、人々はこの種の生物をこう呼ぶ。
「......トロール!?」
咆哮が轟く。完全に意表をつかれた大和は身構える余裕もなく、思わず後ずさってしまった。
♦️
『キィビルの館』は老朽化が進んでおり、音がよく響く。
特に獣の咆哮なんかは、館全体まで行き届いてしまう。
「......やかましい」
そして、今までの館の静けさを破るかのような騒音に目覚める者が1人。
「......警備は外だけだし、仕方ない......」
腰にさげた鞘を抜きとり、目の前にかざした。
すると、鞘から光が漏れだし、暗闇に包まれた部屋が途端に明るくなる。
閃光。
そして次の瞬間には、鞘には光を帯びた剣が刺さっていた。
「......久々に我、闘ってみるとするかぁ!?」
彼は剣を抜きとって軽く振り回す。
光にあてられ現したのは、鎧を来た骸骨だった。