ⅩⅩⅢ
夜。
支給された夕飯を食べ、宿の浴場を利用した後部屋に戻ると、カインが数枚の紙を床に散りばめていた。
「お、ユウキ殿」
大和の存在に気がついたカインは「ささ、こちらへ」と手招きする。
近くに寄って座ってみれば、地図が2枚と何かの書状が1枚で、手に取って見てみる。
「『キィビルの館』進入許可証?」
声に出して読むと、カインははいと頷く。
「そもそも、キィビルの館って何だ?」
「ほぁ! 何と、 キィビル・アトランダムをご存知でないか!」
驚く素振りをわざとらしく見せてから、えらく真剣な顔で話し始める。
「......一昔前に最強と謳われた剣士で、歴史上最恐と呼ばれていたラングドラゴンを一人で倒しただとか悪政を施していたかつての魔王とその軍を単騎で制圧したとか等の数々の伝説を残して人知れずこの世を去ったと聞いています」
「へえ。で、何か用事でもあるのか?」
「ええと......平たく言えば、資金稼ぎですな」
「......お前...まさか......」
「ご、合法! 合法でござるよ!!」
大和が訝しんだ視線を向けると慌てて否定する素振りを見せる。
「買い物してる時に貴族のようなな人に頼み事をされまして。勿論、報酬もあります」
「ほう...いくらよ?」
今度は食い気味に聞いてみると、カインはいやらしい笑みを浮かべた。
「30万、でござる」
「......それで食い物には困らねぇのか?」
「はい。その他の出費も含めて1ヶ月は働かなくていい程ですな!」
「よっしゃあ! そんで内容は?」
「館に隠された聖剣を見つけ、その保護でござる」
「いいな! やるか!」
明日の予定が決まればあとは準備をするだけとなった。2人は早速荷物を袋に詰め、終わり次第早々にベッドに潜り込んだ。
暫くするとカインは眠りに落ちたのか、鼾をかきはじめた。
「......るせぇな......」
大和は顔をしかめながら、閉じていた瞼を開いた。
かといって、この鼾がなくとも大和は眠れる気はしなかった。
(1万人もの人が1度に召喚...というのも気になるけど、もっと引っかかるのは『1ヶ月前』ってところだな......俺、ここに来てから10日ほどしか経ってないし......)
そうこう考えているうちに突如、悪い想像が大和の頭をよぎった。
1万の人間のうちに、父母や友人がいて、何も能力を持たないまま無惨に魔物に殺される、という想像が。
身体が震え、息が荒くなる。
「くそ......くそっ......!」
頭が高騰し、脳が物事を正常に判断できなくなっていた。
とその時、突然「ぶう」と大きな音が部屋中に鳴り響いた。
カインの屁だった。それに、心なしか少し臭う。
(こいつ......!!)
大和は起き上がり、握り拳をつくって殺意をカインへ向けた。
当のカインは大和の殺意にも気付かず肩を大きく上下させ、鼾をかいていた。
大和は呆れて溜息をつく。いつの間にか気分も落ち着いていて、冷静に物事を考える事も出来た。
「......さて、俺も寝るか......」
大和はそう呟いて布団を身体にかけ直して目を閉じた。
(......まずは精一杯生きて、そして考えるんだ、この世界から抜け出す方法を......)
♦️
『くそ......くそっ......!』
幼き主のその小さな嘆きはカインの耳に届いていた。
カインは、彼が召喚者である事を最初から知っていた。そして、劣化模倣の保持者だという事も。
急に異世界へ呼び出され、更にはその中のうち千人に一人という確率で選ばれたのだ。その不安や重圧は楽観視できない。
今回の『発作』に関しては、たまたま屁が出すことによっていい雰囲気に持ち直したものの、このような応急処置ではまた近いうちに再発するだろう。
何か対策を考えねば。
カインは小さな寝息を感じ取り、そっと鼾をやめて眠りに落ちる。
村は夜の魔力によって静寂に包まれ、誰1人として物音をたてる者はいなかった。




