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ⅩⅩⅡ

ひっさびさの投稿ですな、何ヶ月ぶりだろうか。

♦️


「......本当に宜しいのですか?獣は恩返しなんてしませんぞ」

振り返れば、カインが咎めるような視線を向けてくる。

「うーん、なんかコイツとはまた会う気がするんだよな」

出会ってしまってはや2度目。何らかしらの因果を感じた大和。両手一杯に抱えた肉を獣の肉体のそばに置く。

「ケッ、恩を仇で返されたら笑いものですがね!」

「別にそこまで怒ることでもねーだろ」

「戯れ言を。突然襲われた上に襲ってきた相手の為にむざむざ食料を失うはめになるんです。ここで怒らずにいつ怒るというのですか!」

「おーそーだな。襲われたのは俺だけどなー」

大和はカインには目もくれず荷物の整理を行い、袋を背負う。

「んじゃ、移動すっか」

そう言ってカインを一瞥すると、彼は地べたに這いつくばりながら、生肉を睨み血涙を流していた。

「肉......肉......拙者の肉......」

「分かった! 分かったから! 村にでも着いたら飯を食おう!

なっ?」

「うぅ......」


♦️


「ユウキ殿、疲れたでござる」

「うるせえ」

カトとの激闘を繰り広げた後、移動し始めて何時間経っただろうか。

もはや陽も落ちて、ウォル大草原の夜空には幾千もの星が散りばめられていた。

大和は精一杯足を前に運ぶ。

ここに来る前は護身のため毎日のように体を鍛えていた大和だが、もう体力も限界に近かった。

かたやカインの方は大和よりも重い荷物を背負っているはずなのに、顔色1つ変わっていない。

「てか、見た感じ俺より元気そうじゃねぇか......」

「空元気でござるよ〜!」

「絶対嘘だろ...」

「大体、ユウキ殿もご自身のの力をちょちょっと使いなされば良いのに」

「やだよ。アレやると股間がひゅってして気持ちわりぃんだよ」

「あ、なるほど」

そうこう言い合っていても体力が減るだけで遂には喋ることさえもやめてしまった。

足が地面を擦る音が静寂を支配する中、カインが突然大和の肩を強く叩く。

「ユウキ殿! 光が」

「あ?」

指さす方向を見やれば、そこに現る一縷の希望。

思わず顔がほころぶ。

「…カイン、少し急ぐぞ」

「了解致した!」

早足で歩を進める。光は次第に大きく明るくなり、複数の建物の影が現れた。

更に歩くと、大きなアーチが大和たちを出迎えた。側の看板には『キィビルの村』と雑な書体で記されていた。

「はて......きぃびる......」

「どうかしたか?」

「いえ…お気になさらず。...進みましょう、ユウキ殿」

「ああ」

宿屋は看板からすぐ近くにあった。扉を開けるとすぐカウンターに座る主人らしき人から声がかかった。

「ようこそ旅の宿へ。何泊お泊まりになりますか?」

「1泊」

「かしこまりました......では、こちらの部屋の鍵をどうぞ」

主人はそう言ってなれた手つきで鍵を渡す。付属の木のプレートには、『2-4』と彫られていた。

大和とカインは部屋の鍵を開け、息を漏らしながら荷物を下ろす。

「ではユウキ殿…拙者、旅に必要な物を買い揃えに参ります。ですので、ここからは各々が行動するということで......」

「分かった。じゃあ、俺はそこらをぶらぶら歩いてくるわ」

「了解した......では!」

そう言うとカインは窓から出て行った。

「はあ!?」

大和は窓から身を乗り出してカインを目で追う。彼は、月明かりに照らされた影一つが軽やかに家の屋根屋根を飛び移っていく姿が見えた。

「口調だけじゃなくて行動も忍者っぽいな......」

大和は呆れながら窓を閉め、ドアを施錠した後鍵を主人に渡して宿を後にした。

「さて、と...まずは情報収集だな」

今の大和には、少なくとも情報が足りない。

何故自分達は召喚されたのか、どうしたら前の世界に戻れるのか、疑問は尽きない。

(取り敢えず、人の集まる場所に行くか)

疲労が襲いかかる。大和はふらついた足どりで宿屋の向かいにある酒場に向かった。


♦️



「ああ? もしやお前、ニホンから来たって奴?」

「......え、もしかしてもう知られてんの?」

たまたま座った席の向かい側にいる男の意外な一言に大和は思わず驚いた。

「知られてるも何も、ひょんなことでこっちに来るやつはちょくちょくいたぞ」

そう言って男はその外見と相違なく荒っぽく飲み物をあおぐ。大和は胸中に渦巻くがっかり感を押し殺して 「へえ」とだけ口にした。

「で、お前、転生モノ? それとも最近のトレンドの召喚モノ?」

「ん、召喚って聞いたよ。...ってか最近のトレンドなのかよ召喚って」

軽口を叩くが大和には転生と召喚の違い、それぞれの概要を知らない。字から察しはできるが、ここは詳しく知っておきたい。

「...で、召喚と転生って何だ?」

「その事については、この私が説明しよう」

隣から声がかかり、その方を向けば、身だしなみの整った男が自信気な面持ちでこちらを向いていた。

「まずは転生。天然モノとも呼ばれ、前世での自身の生き方に悔いがあった人が死後、その遺恨の念によって魂の状態でこちらにやって来て新たな生命を得ることをいう」

「はあ」

「そして、彼らには生命と共に、約束された人生を与えらる。数奇なる運命、必ず乗り越えられる困難な壁、特殊な能力、そして前世で培ってきた知識と記憶。......つまり彼らは、生まれた時点で勝ち組というわけだ。......次に召喚だが、自身の魂の念をエネルギーの媒体とした転生とは違って、外部からの力を利用してそのままの姿でこちらの世界へ転移させる事だ。転生との違いを詳しく言えばこちらにやってこれる確率は転生の約1000倍、確実の100%。まあしかし、その分莫大なエネルギーを消費するんだがな。それに、召喚された生物はほぼ特殊能力を持たないんだ。しかも、魔力を持たないとなれば、この世界では魔物に喰われるか安全な場所で作物を育てるのが落ちというわけだ」

「つっても、俺らの世界でも魔法を使えるのは限られてっけどな」

「ほーん」

「...まあ、召喚者にも例外はいる。欠陥はあるものの転生者と同じように特殊能力をもつ者だ。私はその者達の持つ能力の事を『劣化模倣レプリカ』と呼んでいる」

「レプリカ......プフッ...格好つけて言わんでも...」

「......そして、レプリカを所有する確率はおよそ0.1%、1000分の1の確率だ。先程の転生の確率はこれを参考にした......というのが転生と召喚の違いだろうか」

大和は「なるほど」と応えてから少し顎に手を当てた。

しかし男の計算によると、少なくとも1000人以上の人が必要な筈。そう言おうともう一度男に視線を向けると、彼は大和の思考を読み取ったかのように答える。

「...君のご察しの通り、今のところ6823人が、召喚者としてその存在を確認されている」

「ッ!!」

大和は息をのむ。

頭の中で色々なものが渦巻いて、身体が崩れそうになる。

更なる疑問をぶつけようと口を開けども言葉がつっかえ、情けない声が漏れるだけだった。

「そして、レプリカ保持者の存在を確認できたのは7人だ」

対して男は、大和の表情に気付かぬまま懐から丸められた羊皮紙を取り出し、机に広げる。

そこには夏野(ナナ=ウルザード)の名前も書かれており、そしてカタカナで『ユウキ・ヤマト』とも記されていた。

「この中に知り合いがいるか?」

いる。そう答えようと思ったが、口をついて出たのは反対の言葉だった。

「......いや、いない」

緊張で正しい思考ができなくなっている状態のなか、大和は条件反射で嘘をついてしまった。

しかし、それは正しい判断だろう。他と違う人間は場合によっては危険人物とみなされる。本能がそれを理解していたからこそつけた嘘であった。

「んじゃ、お前も凡人召喚者か。そりゃ残念だったな! ぶわっはっはっはっ!!」

「フッ......お前と同じだな」

「......んだぁ? 喧嘩売ってんのかコラァ?」

「やるのか? 学者崩れだとなめてかかると痛い目をみるぞ?」

大和は今にも一悶着しそうな2人を視界に入れながら席を立つ。

「何だ、もう帰るのか?」

「んだよ、一杯くれぇ飲んでけよ」

甘い誘いだが、大和は断る。

「すまん...俺、実は金持ってないんだ」

「はぁぁ!? じゃあおめぇ何しに来たんだよ!」

「まぁ......情報収集」

「なら、俺の奢りでいいから飲んでけ......って俺ぁ無一文だった!!」

「はぁ......やれやれ、また私の奢りか......といっても私もそんなに金を持ってないんだ。すまん」

「いいよ、その気持ちだけ貰っておく」

「代わりに、といったらなんだがこれを受け取ってくれ」

紳士的な男はそう言うが早いか、持っていた鞄から包装紙に包まれた物を渡された。どうやらかなり厚めの本のようだ。

「多分それはお前の生活にとって大いに役に立つだろう」

「......ありがとう......んじゃ、またどこかであおうな」

「ああ」

「じゃあな!」

こうして、2人に見送られながら大和は酒場を後にした。

そして、向かいの宿に戻る。どうやらカインはまだ帰ってきてなかったようだ。

部屋に入った後、早速包装紙を破いてみる。

すると本の表紙はピンク一色で、大和は思わずそれを床に叩きつけた。

「......こ......の......っ!! エロ本じゃねぇかっ!!!」

確かに、生活に役に立つ代物である事は確かだ。だが、出会ったばかりの相手に成人向け雑誌を送るというのは流石に度肝を抜かれる。更には思春期特有の恥かしさから、少し腰が引けている。

しかし、結局は誰しもエロの誘惑には勝つことはできない。

それは大和も例外ではなかった。

性の欲求と理性による抑制の狭間で葛藤が起き、暫く煩悶を繰り返した。

気付けば、ドアで本を挟むように座っていた。やがて決心がついた大和は恐る恐る本に手を伸ばす。

「ただ今戻りました!」

その時だった。

ドアを蹴破る勢いでカインが入って来たのは。

本は、ドアの勢いで吹き飛ばされ、カインの視界の壁にたたきつけられた。

「ユウキ殿、村人から依頼を承ったから明日もこの村に残りますぞ!!」

「お、おう。そうか分かったZE☆」

アレがバレる訳にはいかない。

まずは、カインを部屋の外に出さねば。

「ところで腹が減ったんだが、何か下からご飯を取ってきてくれないか。すまん」

そう言うとカインはやれやれとため息をつきながら首をふった。

「...仕方ないですね。貸しですよ?」

(......うっぜぇ......)

内心殺意が湧きつつも、「ありがとう」と一言伝えた。

カインが部屋に出た後、俺は先程カインがついたため息とは別種の息を、重々しく吐き出して、成人向け雑誌を自身の袋に入れた。

「どうしようか、これ......」

そして更に、もう一度ため息を吐く大和であった。




殆どの人には伝わらないだろうけど、俺は言うぜ。


「本当に勘弁してくれ」



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