エピローグ
いい匂いがしてくると正成の瞼がゆっくりと匂いに釣られるように開いていく。
「姉御それ取ってください」
「あいよ!」
うっすらとした意識の中声が聞こえてくる。
「あっ、起きた?」
「この匂いなら起きるだろ」
ベリがニコニコしながら正成を見ている。
瞼が完全に開くとボーッとした頭でベリを見る。
「おはよう? あっ、こんばんはだね」
「いや、おはようでいいだろ」
ゲルドがベリに突っ込み入れる。
「う、う~ん……おはよう」
伸びをしてベリとゲルドに挨拶。
「喉乾いてない? 飲み物もらってこようか?」
「お願い」
ベリがフリッグとエイルのところに行く後ろ姿を見て正成は薬草を思い出しあれを持ってこられたら嫌だなと思ってお願いしたことを少し後悔する。
「おい、ガルム」
「何?」
「次は手加減無しの本気で勝負しようぜ」
ゲルドは負けが相当悔しかったのか苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。
「き、機会があればね……」
苦笑いで答えそんな機会合ってほしくないと思う。
「はい。もらってきたよー」
薄緑色の液体が入ったコップを正成に渡す。
「あ、ありがとう……」
薬草ではないことを祈りつつゴクリッと生唾を飲むと、とりあえず一口頂いてみることにする。
「あ、美味しい」
緑茶の味がして、とても落ち着く飲み物だった。
「でしょ! 採れたての葉から煎れたものだからね」
「ベリが煎れてくれたの?」
「わたし料理下手だから、これくらいしか出来なからね」
「そうなの?」
周りが上手すぎて、下手と言いつつ上手なのだと勝手に思い込んでしまう正成。
「ま、まぁね……」
「おいガルム。本当に妹に料理させるんじゃないぞ。下手っていうレベルではないからな。思い出しただけでも……うぅ……」
割と本気で気持ち悪そうにしているゲルドを見て、ベリに料理をさせてはいけないということが伝わってくる。
「あーお兄ちゃん酷い!」
「でも渓流ではご飯の支度していたのでは?」
「あれは俺っちが準備していたからな。妹にさせると焼き魚でも灰になってしまう」
「もう! そんなに酷くないよ!」
「あの時の夜実際にやってたよな?」
「…………」
黙っているベリを見てどうやら本当のことらしいということが分かった。
「わたし魚くらい焼けるもんって言って、それくらいなら出来るかって思ってやらせた俺っちも馬鹿だったがな……」
「うぅ……練習すれば上手くなるもん! っていだだだだだだだだだだだだだだだだ!」
またもやフリッグに頭を鷲掴みされて今度は握力を入れている。ベリが首を左右に振って逃れようとするが全くダメでその度にポニーテールがゆさゆさと揺れて正成は何故かそれを目で追ってしまう。
「二度と料理をするなと言ったよなぁ!」
「あ、頭割れますから手を離して……いだだだだだだだだだだだだ! すみません。練習もしないから手を話してー」
その言葉を聞いてフリッグは手を話す。
フリッグがベリに痛みを与えるほどなのでこれは本格的に作らせてはいけないのだと正成は確信する。
「で、フリッグもう出来るの?」
「ああ、あと少しだからこっちに来て皿でも並べてくれ」
「了解」
ゲルドとベリと正成は立ち上がると人数分の皿とコップを並べていく。
「とりあえず、真ん中から置いていくね」
エイルが出来た料理を嬉しそうに置いていく。
正成が気になって見ると色鮮やかな山菜(笹竹、人参、椎茸、新ブキなど)料理だ。
この世界と正成の世界の食べ物は似たような感じである。
ただ、米がないのが正成はすごく米が恋しくなる。米さえあれば食事に関しては言うことはない。日本から海外に行くとこんな気持ちになるのだろう。
「はい次々いくよー」
あっという間に料理でいっぱいになる。
肉料理、魚料理、野菜料理と種類豊富。
「姉御がつまみ食いするから止めるの大変だった……」
料理を終えたフリッグが愚痴をこぼす。
「むっ! 失礼な味見と言ってほしいな!」
「味見は一口でいいでしょう。二口、三口食べようとしていたのは味見とはいいませんよ」
「…………」
エイルは口笛を吹いてごまかしている。
「ま、まぁ冷めないうちに食べましょうよ」
お腹が空いているのといい匂いでゲルドは早く食べたいのか急かすよう苦笑いで言う。
「そうだね」
エイルが最初に座ると全員座る。
「いただきます」
言ってすぐに正成は一口食べてみると、
「美味しい!」
無意識に言葉に出してしまうほどの味。
「でしょ!」
何故かエイルがドヤ顔。
「お店で出してもやっていけるのでは……?」
ボソッと聞こえないように言ったつもりの正成だったが、
「だよね! 私も言ったんだけど『オレは料理人目指している訳ではないので』って断るんだよ。私ならほぼ毎日通うね」
フリッグのセリフのところを声色を真似するが全然似ていない。
「気持ちは分かる」
「ボンクラ! 黙って食え! 後姉御も黙っててください」
いきなり大声で言われビクッとなる正成。
「いいじゃん。ワイワイしながら食べるのも楽しいよ」
「じゃ、話題変えてください。オレのこと以外でお願いします」
「はいよ。でさ……」
と、エイルが話し始めると食べ終わるまで楽しい席だった。
料理を綺麗に食べ終え後片付けは正成とゲルドとベリの三人ですることになり、兄妹で楽しそうに話しているのを見ながら微笑ましくなる正成。心配していたのはベリが後片付けを出来るかだったが後片付けは普通に出来るみたいで安心する。視線でそれを察したゲルドが親指を立てて大丈夫と無言で伝えてくる。片付けを終えるとフリッグとエイルのいるところに行く。
「おっ? 終わったんだね」
「終わったよ」
「じゃ、てめぇら帰るか」
「今日もフリッグのところに泊まるの?」
「うん。今日までお世話になって明日の朝で帰ろうと思う」
ベリが答えるとフリッグが嫌そうな顔をする。
「本当は今日帰す予定だったのに、二人して泣きついてきてお願いしやがって」
「フリッグさんの料理が食べられるなら頑張りますよ!」
「そっちじゃなくて鍛錬を頑張りやがれ!」
「両方頑張る!」
「昨日も食べたんじゃないの?」
泊まったのだから食べているのではと疑問に思って正成は訊いてみる。
「昨日は俺っちが作らされたんっすよ……」
「えっ?」
「驚きっすよね……俺っち料理上手くないのに。泊まるんだったらそれくらいしろって」
「言ってること正しいだけに断ること出来ないのがすごく分かる……」
「そうなんだよ! 挙句の果てには俺っちの作った料理に文句いいながら食べるし。昨日ほど妹が料理できないのを恨んだ日はなかった!」
ゲルドが右腕を目に当て泣くふりをする。
「わたしも一応手伝おうとしたんだよ。でも、わたしが手伝うって言う前にフリッグさんが『いいからてめぇはじっとしていろ!』って頭掴まれてそのまま無理矢理座らされたんだからしかたないじゃない」
ベリもエイルと同じくフリッグの声色を真似て言うが全然似ていない。
「てめぇが料理するといいことねぇーんだよ!」
「ただの手伝いだよ!」
「そう言って何かしらやらかしたことあるから手伝うのもやらせたくねぇーんだよ!」
何をやらかすのかほんの少しだけ正成は興味があるが、フリッグにここまで言わせるのだから人体に悪い料理を作るのだろうと解釈し絶対に料理をベリにはさせないことを心に誓う正成。
「…………」
自分のやらかしたことを思い出したのか何も言い返せないベリである。
「ゲルドも料理のセンスがねぇーから今度オレが一品だけ特化させてやる」
「教えてくれるのは嬉しいっすけど、俺っち料理好きじゃないんっすよ……」
「ベリの分はてめぇが補え!」
「くっ……昨日よりも遥かに妹が料理出来ないのを悔やむぜ……」
ガクッと両掌と両膝を床に付けゲルドが項垂れる。
「お兄ちゃんガンバ!」
兄の大変さと辛さを正成は見て自分に妹がいたら頑張れるのだろうか、とふと考えてしまう。
「妹よ……その言葉そっくりそのまま返したい。『お兄ちゃん』の部分を『妹』に変えてだが」
「何言ってるの! わたしはお兄ちゃんにずっと養ってもらうだからね!」
「頼むから兄離れしてくれ……いや、それはそれで寂しい気もするがいや……」
ゲルドはブツブツと言いながら葛藤している。
「茶番はもういいだろ! さっさと帰るぞ!」
「へーい」
「はーい」
気のない返事を一緒にする二人。
「では、エイルさん失礼します。ついでにガルムも」
「またね。ガルム、エイルちゃん」
「また明日ねー」
兄妹が手を振って出て行くので、エイルと正成はそれに答えて手を振る。
三人が出て行くと静かになる。――気がしただけだった。実際は、
「いい子達だよね! フリッグもあれくらい可愛げがあるといいんだけどね」
エイルがテンション高くぴょんぴょん跳ねながら嬉しそうにしているので全然静かではない。
跳ねるエイルのツインテールの動きがエイルの感情を表しているかのように上下に揺れていて、犬の尻尾を思い出す。犬は嬉しいことがあると尻尾を振って喜ぶからだ。それだけ揺れているということ。
「そ、そうだね……」
ゲルドとベリみたいな感じのフリッグを一瞬想像してしまい、すぐにイメージを消す。合わなすぎるだろ……。
「いつしか姉御って呼び方からソマにゃんに……ふっふっふっふっ……」
黒いオーラを纏っていそうな感じで怪しく笑う。
「はははは……」
乾いた笑いでしか答えることが正成には出来なかった。どう考えてもフリッグが呼ぶことはないと思っているからでもある。
「それはそうと明日からはみっちり鍛錬していくからね!」
「だな。エイルを悲しませることしたくはないし」
表面では落ち着いているが心の奥底では負けたこともそうだがエイルの期待に応えられなかったことが悔しい。正成の心の奥底を知ることはないエイルは顔を真っ赤にして茹でダコみたいになっている。
「なっ……何言ってるのかな?」
恥ずかしさに上擦った声になっていた。
「せっかくわざわざ連れて来て? っていうのもおかしいけど、連れて来てもらってエイルの期待に応えたいし笑顔でいてもらいたいから頑張るよ」
グッと手に力が入る。あのとき確かに死を悟ったが死にたくない気持ちでいっぱいで弱い自分をあのときほど恨んだことはない。こんな自分でも誰かの助けになることが出来るとは最初は思っていなかったがエイルと接していくうちに――エイルと話しているうちに真剣さが伝わってきて本気なんだと分かり始めて頑張っているつもりだったが実際は負けてしまいまったく努力が足りていない自分に腹立たしく感じている。だからこそ感情を出来るだけ込めて悔しさいっぱいに正成はエイルに言った。
真剣さが伝わったのかエイルは赤い顔から真剣な表情になる。
「ねぇ正成、この世界……アルムヘイムに私が勝手に連れて来て嫌だった?」
「えっ? 嫌っていうか何ていうかどうなんだろ……驚きが強くてそのまま流されるような感じできたから考えたことがなかったかな」
「じゃ、元の世界に帰りたいって思う?」
「う~ん……ないって言ったら嘘になるかもだけど今はエイルと共に頑張っていきたいって気持ちが強い。二日目、三日目で訊かれてたら帰りたいって気持ちのほうが勝っていたかな……多分」
最初力強く発言そして真剣な眼差しでエイルを見つめて後半弱まっていく。
「正直でよろしい! よかったよ。ここで真剣に帰りたいって言われてたら私は元の世界に帰そうとしていた。もちろんすぐに帰すことは今のところ出来ないから時間がくるまでは私の家で守っていかなきゃいけないんだけどね」
「帰ること可能なの?」
「もちろん! まぁどのくらい掛かるかは私もよく知らないんだよね」
「まぁ今は帰るつもりはないしいいか。それって何かしら準備しておいたらいつでも帰れるってこと?」
「だね。一応準備だけはしてあるから完了したら帰れるよ」
「それって俺がもし仮にやられたとき次の人を呼んでくることじゃないよね?」
「なるほど。そんな考えも持っている人たちもいるかもしれないけど、私は正成がこの世界を救っていると信じているから考えたこともなかったよ」
本当にエイルが正成のことを信じているからこそ言えることだ。正成はエイルの言葉がなぜまだ信じてくれているのか分からないが気持ちは嬉しかった。エイルの力になりたいと先程より強く思うのであった。
「そっか。じゃ、期待に応えないとね」
「おぉ! やる気が出てきてみたいで嬉しいよ! 明日からはビシバシいくからね!」
「こ、怖いな……」
「早速明日に向けてメニューを変えないとね!」
不安でならない正成を他所にエイルはテンションが高い。
「無理のない計画でお願いするよ……」
「ふっふっふっ……それはどうかな。じゃ私はこれから忙しくなるからおやすみ正成」
「お、おぅ……おやすみエイル」
エイルが出て行くと正成は明日のために寝ようと思って横になり目を瞑るがまったくと言っていいほど眠気がこなかった。それもそのはず、朝気を失ってから昼に目覚めそして寝て夜起きている。平均睡眠時間以上の睡眠はとっていてどうして眠れようか。
目を開けると起き上がりエイルに気付かれないように外に出ると、夜風が髪をなで気持ちがいい。とりあえず、草原を少し歩きエイルの家から離れる。自然と今日フリッグと戦った場所に立っていて握り拳に力が痛いほど入る。
「負けたんだな……」
ポツリと呟く正成。フリッグなら負けても仕方ないと思う気持ちが少しある。元の世界ではパシリで負け犬根性が染み込んでいた正成だからだ。
「この先フリッグより強いやつらが沢山出てくるのか……」
コントローラーを握り、隣に分身――ガルムを召喚してガルムに喋りかけるように独り言を喋る。
「俺はエイルの助けになることが出来るのだろうか……。今日みたいに負けてしまったら……」
一人でいるからこそ言える弱み。エイルの前では絶対に言えない言葉。
フリッグとの戦いでエイルに助けてもらって最後の場面勝てるような気がしていた。慢心してしまったがゆえの敗北でもある。
今後は必ずしもエイルが助けてくれるとは限らない。
一人の時に戦いに勝てるかどうか不安で仕方がなかった。
考えただけで手足が震えだす。
「ふぅ……強くなりたいな……」
一呼吸して、今までの正成では言葉にすることも考えもしなかった言葉が出る。
「悔しい! 悔しい! 悔しい! 悔しい!」
気付いた時には涙を流しながら叫んでいた。
「どうやったら勝ててたんだよ! どうやったら強くなれんだよ! こんなモブ以下の存在って思ってるやつが……弱い俺が強くなれんのかよ!」
正成自信に対しての怒り、何も出来ないと思う苛立たしさを吐き出す。
「ちくしょう! ちくしょう!」
震えている手で震えている足を叩く。何回も。
止めるためにしていることだが震えは止まらない。
「怖い……怖いよ! 生き残る自信なくて何もかも夢であってくれたらいいのに! どうして俺なんだよ! どうしてなんだよ!」
何も変わらないことは分かっているが、言わずにはいられなかった。
「…………」
一通り弱音を吐くと涙を右腕で拭くとふと空を見上げ見る。
夜空には星空満天でキラキラしていて、まるで正成を励ましているようにも見える。
「すげぇ」
見惚れしまうほどの美しい夜空。
正成は立ったまま芝生に大の字で倒れる。
自分の悩みがちっぽけと思えるって聞くがこのことなんだと正成は実感する。
「このままずっと眺めていたいくらいだな」
少しだけ特訓をしようと思ってきて、ガルムを出したのだがすっかり忘れてしまっている。
「もう少し……この……まま……」
目がだんだんと閉じていくが、抗えない。
ここで寝てはいけないと頭の中では分かっている。だが、脳と体が休もうとしてどうにも出来ない。
「…………すぅ……すぅ……」
そのまま寝てしまい夢の世界へといってしまう。
翌朝。
揺さぶられている感じがしていたが、まだ眠っていたい正成は欲望のままに眠りを続ける。
「痛っ!」
急に右頬に叩かれたような痛み。
何事かと思って目を開けようとしたら、
「起きて! 起きてよ! 目を覚ましてよ!」
泣いているような声で叫んでいる声が聞こえてくる。
目が半分開いたところで、両頬に激痛がはしり闇の中に戻っていく。
「え、エイルちゃん……落ち着いて。さっき目を覚ましかけてたよ……」
「嘘! まだ寝てるよ!」
両頬が腫れている正成の両肩を揺らすと、意識がないため頭が前と後ろに揺れる。
「それにしても往復ビンタはやりすぎだよ……」
正成の両頬が腫れ、闇に落ちてしまった理由だ。
「こうでもしないと起きないでしょ!」
「いや……むしろ逆……ちょっとわたしに任せてください」
ベリが正成の頬を軽く叩く。
「起きろー」
正成は反応して目をゆっくりと開ける。
「あっ、目を覚ました! ベリちゃんすごい!」
「大したことはしてないよ……」
「う、う~ん……」
起きたばかりの視界にエイルの顔が映る。
「おはよう! ガルム」
「おはよう。エイル……」
「ってそれより、何でこんなところで寝てるの!?」
「あー……昨日あれから寝れなくて、外に出て風に当たろうと思って来たら、夜空が綺麗で見てたらそのままって感じかな?」
弱音を吐いたことは口が裂けても言えないので、当り障りのないよう説明する。最後が疑問形なのは寝起きで頭がぼーっとしているからだろう。
「風邪ひくから今度からは絶対にしちゃダメ! 眠れないときは私が子守唄でも歌ってあげるから!」
「気をつけるけど、子守唄は恥ずかしいからやめてね……」
「次したら強制的にするからいいもん!」
「マジか……まぁそれはいいとして、さっきから両頬がヒリヒリするんだけど何でだろう?」
両頬を両手で擦る。
「さ、さぁ? ワタシハシラナイヨ」
「何で棒読み?」
「エイルちゃんの愛の鞭だよ!」
正成の肩にポンッと手を置くと、ベリは笑顔でもう片方の手で親指を立てる。
「ちょっとベリちゃん!」
言い終わった後にベリの口を塞ぐが遅い。
「ってことはエイルの仕業か……」
エイルをジト目で見る。
「あはははははははは……」
乾いた笑いで誤魔化すエイル。
「ここで寝てた俺も悪いから何も言えない」
「あのー、もういいっすか?」
ゲルドが困った顔で三人に言う。
よく見るとゲルドとフリッグがいる。
「フリッグさっきからイライラしててこっちの身が持たないっす……」
腕を組んで顰めっ面で不機嫌オーラを出している。
「大丈夫だよ」
正成は立ち上がると皆でフリッグのところに行く。
「お待たせー」
右手を上げてエイルはフリッグに言う。
「本当待ちましたよ。まぁ、原因はボンクラなんだがなぁ!」
正成を睨みつける。
「ひぃ……すみません」
ビビって一歩後ずさりする。
「ちっ……もういい。ほらてめぇら帰るんだろうが」
「そうだった。ガルム迷惑かけてごめんね。また来るからね」
「俺っちはリベンジしに来るぜ」
「リベンジは遠慮してほしい……」
今の段階では勝てるかどうか分からないので、是非とも遠い未来で果たしてもらいたい。ぶっちゃけ戦わないならそれに越したことはないが。
「じゃ帰るか妹よ」
「そうだね。バイバーイ」
「さようなら」
「またね。ベリちゃん、ゲルド」
ゲルドは振り返らず、ベリは後ろ向きで歩きながら手を振っている。正成とエイルも応えて手を振る。二人は村に歩いていきそのまま森の方に向かっていく。
レジスタンスの場所遠いのか訊きたいが、怒られたら嫌なので黙っていることにする。
二人の姿が見えなくなったところで、
「やっと帰りやがった。疲れるぜ」
フリッグが首を回して左右に振るとパキパキッと音を立てる。
「本当は寂しいんじゃないの?」
ニヤニヤしながらエイルが訊く。
「馬鹿なこと言わないでくださいよ。本当に疲れてるんです」
「照れ隠しと受け取っておくよ」
溜息をつくと何を言っても無駄だと感じてフリッグがさらに疲れた顔になる。
こんなにグイグイいけるのは、エイル以外にいなさそうと思い感心していいのか悪いのかどっちかよく分からなかった。
「さて、と。オレはまた修行の旅に行くか」
「疲れてるなら休んでいったら?」
「平気ですよ。あいつらの疲れと旅で疲れるのは別物って言ってもいいくらいですから」
甘いモノは別腹みたいなノリでフリッグが言う。
「そっか。じゃ、頑張ってきてね!」
「頑張りますよ。姉御のためにね」
「私のためって言うなら、まずは姉御の呼び方を変えなさい!」
頬を膨らませ眉を八の字にする。
「ボンクラ。姉御に何かあったらてめぇを殺すからな。よく覚えておけよ」
正成を睨むとエイルの発言を無視。
「は、はい!」
返事はいいが体は震えている。
「私の言うことを聞いてよー」
「では、姉御。失礼します」
右手を腹のところに持って行くと同時にフリッグが腰を折る。
「だ・か・ら! 私の話を聞いてってー!」
フリッグは何も聞こえなかったかのように、草原の消失点に向かって去っていく。
「無駄な気がするな……」
何回もやりとりを見ている正成は無意識に呟いてしまう。
「無駄じゃないもん! 絶対に! 絶対に! ぜーーーーーーったいに諦めないんだからね!」
聞こえてしまっていた。
諦めの悪さで言えばフリッグといい勝負になりそうだ。
「まぁ、頑張って……」
「じゃ、特訓始めるよ!」
「えっ!? もう!?」
「何事も行動は早いほうがいいって言うでしょ!」
「ご飯くらい食べさせてほしい」
「う~ん……倒れても困るから、そうだね。まずは、ご飯にしよう!」
「ありがとう」
ご飯を食べ終わると、今日から地獄の特訓が熱を増して再開するのだった。




