4
数日が経過した。
小宮家の応接間には、あの時と寸分違わぬ光景が横たわっていた。
床の間の白百合は瑞々しい蕾へと差し替えられ、卓上の湯呑みも以前と同じ位置に据えられている。
小宮の威厳を象徴する龍の精もまた、定位置にわだかまったまま微動だにしない。
その一切の変動を拒絶するような空間の中で、ふいに、龍が片側の瞼を鋭く跳ね上げる。
それが予兆となり、重いふすまがくぐもった音を立てて開いた。
「……戻りました」
「お疲れ様」
京太郎のねぎらう言葉もそこそこに受け取り、小宮家の当主・静は、
息子の正面へといそいそと腰を下ろした。
京太郎の目元は、隠しようもなく赤く腫れ上がっている。気取られたくはなかったが、
この距離で誤魔化せるはずもない。だが母は、その痛々しい痕跡に一切触れようとはしなかった。
氷のように澄んだ視線が一度だけ息子の顔を掠め、すぐさま手元へと落とされる。
その徹底した沈黙こそが、過酷な退魔の道を歩む母から息子へ向けられる、
精一杯の不器用なやさしさなのだと京太郎は理解していた。
「……五家の緊急会合は、『叢』計画の継続を互いに確認し合うだけの、報告会に終始しました。三家からは特別の被害報告は上がっていません」
着座と同時、静は猶予を与えず、会合の結果を話しはじめた。
「叢の運用方針にも、これといった変更はありません。ですが……私はその足で、轟の陣営と改めて膝を突き合わせてきました」
静の目が、まっすぐに京太郎を射抜く。
「反三世院を目的とした共闘体制――それを小宮と轟の間に結ぶ、正式な盟約へと昇華させました」
京太郎は、用意された湯呑みから立ち上る湯気をただ見つめ、決して手は伸ばさなかった。
「……あの爺さんは、どうしてる」
「堪えておられます」
静の声から、感情がすっと引いた。引いたのではない。意図的に遠ざけたのだ。
「数少ない跡継ぎ候補を、あのような形で失った。今はご自身でも抑えのきかぬ状態にあると、
お見受けしました」
京太郎は、あの老翁の姿を思い浮かべた。葬儀の場で巌のように座していた、
あの拳。あの目。あれがさらに深く沈んだ先に、何があるのか。想像することさえ憚られた。
「ですが、時は待ちません」
静の声が、再び硬質なものに戻る。
「轟家は、叢に送る次の候補を立てねばならない。しかし明夜斎殿には、もはやご自身で人選をなさる気力が残っていなかった」
静は一度言葉を切り、次の一語を慎重に置いた。
「話は、修春氏が引き継いでくださいました。修斗君の叔父にあたる方です。何人かの名を挙げていただき、後の選定は小宮に委ねると――そう仰いました。それだけでした」




