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第二段 滅びの言葉

挿絵(By みてみん)


広い皇帝の間には、裁定者アヤネとコウ国国王の二人だけがいた。


張り詰めた空気が、静寂とともに部屋を満たしている。


国王はしばらく沈黙を続けた後、ゆっくりと口を開いた。


「やはり責任の所在……。行き着く先は、私なのだろうな……。」


「結局、私は軍部を統制できなかった。その失敗が、すべての始まりだった……。」


「それに、私自身の中にも、核による打開策を最後まで否定しきれなかった弱さがあった。」


「だから……全責任は私にある。他の者たちに責任は一切ない。」


国王が語る間、アヤネは静かに目を閉じたまま、その言葉に耳を傾けていた。


やがて、長い沈黙が訪れる。


「感じます……。」


「国王陛下が、すべての責任を背負おうとしていることを……。」


「たとえ、それが――。」


「核兵器使用の責任までも、ご自身一人で負い、誰にも及ばないよう守ろうとしていることを……。」


「そうですか……。」


「それが、あなたの真実だったのですね……。」


アヤネはゆっくりと目を開いた。


「責任感に満ちたお方……。」


「コウ国は、本当に良き指導者に恵まれましたね。」


「まさに、人間らしい。」


「道徳を持ち、その罪を自ら背負おうとする……。」


「素晴らしい方です。」


そして、小さく呟くように告げた。


「――裁きは決まりました。」


そう言うと、アヤネは静かに歩き始める。


「どちらへ……?」


国王が問いかける。


アヤネは振り返ることなく答えた。


「少しだけ、ここでお待ちいただけますか……。」


そのまま、皇帝の間を後にし、外へと向かっていった。


皇帝の間は天井まで届く巨大なガラス窓に囲まれ、その外には白亜の広いテラスが設けられている。


静かにテラスへ歩み出ると、アヤネは澄み切った空を見上げた。


その視線の遥か彼方――宇宙空間には、一つの巨大な影が静止していた。


全長二十キロメートルにも及ぶ漆黒の長方形構造物。


その先端は槍の穂先のように地上へ向けられ、静かに世界を見下ろしている。


アヤネは凛とした声で告げた。


「カグツチよ。」


「我、アヤカシコネである。」


一瞬の静寂の後、宇宙空間から機械音声が響く。


挿絵(By みてみん)


「生体認証ヲ確認。」


「個体識別コード一致。」


「ターマハラ帝国皇帝、アヤカシコネ陛下ヲ確認シマシタ。」


「全システム、待機状態。」


「命令ヲ受信シマス。」


アヤネは静かに頷く。


「皇帝が命じます。」


「第一種戦略防御機構を解除しなさい。」


「了解。」


「第一種戦略防御機構、解除ヲ開始シマス。」


機械音声が静かに響く。


アヤネはテラスの先に広がる景色を見つめていた。


その遥か前方には、薄く霞んだコウ国の首都が見える。


「アヤカシコネ陛下。」


「第一種戦略防御機構ノ解除ガ完了シマシタ。」


「イツデモゴ命令クダサイ。」


挿絵(By みてみん)


アヤネは静かに目を閉じた。


国王の言葉が脳裏をよぎる。


――全責任は私にある。


数秒の沈黙。


やがて、ゆっくりと瞳を開く。


その右手を静かに前方へ差し出し、凛とした声で告げた。


「――神絶。」


次の瞬間。


宇宙空間に静止するカグツチの先端が蒼白く輝いた。


「ドゥッ――。」


空気を震わせる低い衝撃音。


超高密度エネルギーが一条の光となって大気圏を貫き、一直線に地表へ降り注ぐ。


轟音すら置き去りにする速度で、その光は目標へ到達した。


ずぉぉぉぉぉぉ……


閃光が地平線を飲み込み、大地が激しく揺れる。


凄まじいエネルギーの奔流は、目標を一瞬のうちに呑み込み、そこに存在していたものを跡形もなく消し去った。


国王は、その光景を目の当たりにし、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「なぜ……。」


掠れた声が漏れる。


やがて膝から崩れ落ち、その場に膝をついた。


あまりにも突然の出来事に、状況を理解できていないようだった。


アヤネは静かに皇帝の間へ戻る。


国王の傍らを通り過ぎると、ゆっくりと皇帝の玉座へ腰を下ろした。


「国王陛下。」


「核を撃つということは、それ相応の報復を受ける覚悟を持つということです。」


「どうか、この結果を恨まないでください。」


一呼吸置き、静かに続ける。


「このような結末となったことを、私も残念に思っています。」


「しかし、我々の報復はこれで終わりです。」


「王族の皆様は、すでに我が軍が保護しております。」


「国王陛下やご一族の命を奪うつもりはありません。」


「また、これ以上コウ国の都市を攻撃することもありません。」


しかし、その言葉は国王の耳には届いていないようだった。


虚ろな瞳は、壊滅した首都だけを見つめている。


「停戦条約を結びましょう。」


「国王陛下。」


「これ以上、戦いを続ける意味はありません。」


「もし締結されないのであれば、更なる都市への攻撃も避けられないでしょう。」


国王は力なく顔を上げた。


「……なぜ、裁定者である貴方に、そのような権限があるのですか。」


アヤネは静かに答えた。


「私が、ターマハラ帝国皇帝でもあるからです。」


「前皇帝オオトノヂは退位され、その帝位は私へ譲られました。」


「皇帝……。」


「貴方が……。」


国王の表情が驚愕へ変わる。


「このようなことが……許されるものか!」


アヤネは少しも表情を変えない。


「貴国が行おうとしたことも、決して許されるものではありません。」


「それと、王族の皆様の身柄は我々が預かっています。」


「どうか、そのことをお忘れなく。」


「発言には十分お気を付けください。」


「私の命を奪えばよかろう!」


「だが、このようなことをすれば、我が国は末代までサン国を恨み続けるぞ!」


アヤネは静かに頷いた。


「ええ。」


「それが人類の歴史というものです。」


「私は、そのすべてを受け入れる覚悟で、この裁きを下しました。」


「歴史とは、時として力を持つ者が形作るもの。」


「そして今、その力はサン国が有しています。」


重苦しい沈黙が流れる。


やがてアヤネは柔らかな口調で言った。


「国王陛下。」


「もう、お疲れでしょう。」


「お部屋をご用意しております。」


「ご家族の皆様も、そこでお待ちです。」


国王はすっかり憔悴しきっていた。


「ムズは……いるか。」


「はい。」


「こちらに。」


ムズは一歩前へ進み出た。


「国王陛下をお部屋までご案内しなさい。」


「決して粗相のないように。」


「承知いたしました。」


ムズに付き添われ、国王はゆっくりと皇帝の間を後にする。


その背中へ向けて、アヤネは静かに言葉を投げかけた。


「国王陛下。」


「コウ国の国民の命も、今は我々が握っています。」


「どうか、そのことをお忘れなきよう。」


「貴方には、これからも果たしていただきたい役目があるのです。」


その言葉には、国王への警告と牽制、そして生かすという意思が込められていた。


アヤネは何も語らない。


ただ玉座に腰掛け、燃え続ける都市を静かに見つめていた。


その横顔からは、悲しみも、怒りも、喜びも読み取ることはできない。


皇帝として何を思い、裁定者として何を背負ったのか。


その答えを知るのは、アヤネただ一人だった。

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