淵沢工 【煙浦元嶺視点】
●淵沢工高 煙浦元嶺
準決勝
北仙丈・帯那連合 対 淵沢工業高等学校
小瀬スポーツ公園野球場
「準決勝か」
ここまでは順調。けど、今日の試合は……
「あぁ、日焼け止め塗り忘れた!日焼け止め~」
「うわっ!臭っ!誰のだよ。このタオル!」
「次の決勝は、やっぱり常永だよなぁ。今日の試合、さくっと決めて常永の対策に時間を費やしたいよなぁ」
試合前だっていうのに、ベンチの中が浮足立ってる。対戦相手が連合ってことで、見くびっちまってんなぁ。
まあ甲子園が見える位置まで上がって来たわけだし仕方ねえけど。
「添田CEO、今日の先発なんですけどぉ、途中で交代はあるんっすか?ないならペース配分を考えないと」
「……監督と呼ばんか。北仙丈連合の打線を見て、奥牟田でもいけそうなら交代させる。煙浦に無理させるつもりはないがいけるところまでは投げてもらうつもりだ」
奥牟田はまだ1年。コントロールがいまいちで試合に使うのは厳しいよなぁ。決勝に進んだ時のことも考えると、うちの3年生エースは出せないし。2年投手のオレがやれるとこまでやる感じになるわけか……
ざわめきとともに、向こうのダグアウトから人が出てくる。
「あれが今日の対戦相手か……」
ウォーミングアップをはじめた北仙丈連合の選手たちの観察といきますか。
無名の県立高校連合とはいえ。人数、少ねえな。
監督はどう見てもただの教師、みてえだし。こんな状態の高校が勝ち上がって来れたのは……
やっぱり、あの……
「あのデカいのが、不動静真か」
「いえ、近くにいる2番目に背の高いのが、不動静真ですよ」
近くにいる記録係に尋ねると、思ってたのと違う返答が返って来た。
あっちが投手か。そういや、背番号1だな。
「資料を渡したろ。見てないのか?」
添田CEOが睨んでくる。
「見ましたよ。でも、似てるんで」
「ああ、兄弟らしいからな」
「どうりで」
顔つきだけでなく、雰囲気みたいなもんが似ているんだよな。やはり兄弟。
「煙浦、ちゃんと目を通したのか?兄弟だということも書いてあっただろ」
小言が多いの何とかなんねえかな。うちの監督。母ちゃんじゃねえんだからさぁ。
「通しましたよ。でも、投手以外は、それほど警戒する必要はなさそうなんで、記憶に残ってないだけです」
「その投手を見分けられなかっただろ」
痛いとこつくねぇ。
しかたねえじゃん。不動静真、マウンドに立ってる姿が、やたらデカく見えたんだから。
まあ、デカくはあるんだよな。弟のほうがさらにデカいってだけで。
トスバッティングをはじめた不動静真の姿に、タメ息が出る。
バッティングも上手いんだよな。不動静真は。得点のほとんどを、不動静真が取っている。
典型的な飛び抜けた実力を持った選手が率いるワンマンチーム。
「ああいう奴は、データ睨んでも意味ないんだよなぁ」
一癖も二癖もあるのはお見通しってなもんよ。格下相手に実力なんぞ見せてねえんだろう?
前の試合、途中からわざと打たせていたよな?
お上品な優等生面だが、ああいう奴は食えねえんだよな。
「県立の連合だと、侮るなよ。甲武信学園を倒して、上がってきたんだ」
「まあ、そうでしょうね」
CEOに釘を刺されなくても、投球を見れば見当がつく。
今日は投手戦になる。
つまり、オレと不動静真の対決。どちらが投手として上か。
オレとしちゃあ楽しくて仕方ねえって感じだけど……
「煙浦。今日の、目標は?」
CEO、そういうの好きだねぇ。
「勝利」
「それはチームの目標だ。煙浦個人の今日の目標だ」
個人の目標……
「……無失点」
「もっと具体的に。イメージしやすい目標だ」
「あー、打たれても点につながらないような粘りのあるピッチングを意識して投げようと思います!」
こんなところか?
添田CEOが小さく頷く。満足したみたいだな。
「煙浦、今日の試合、お前が頼りなんだ。しっかりしてくれよ」
添田CEOが有能なのは認めるけどよぉ。
堅苦しいんだよなぁ。




