甲武信 【芦崎辰海視点】
●芦崎辰海
甲府の球場に着いた。
これから準々決勝がはじまる。ここまでは順調だからこそ、油断せず……
「眠いのぅ」
「大地、しゃっきりせえ」
静真兄ちゃんが、大地に声をかけるが反応は鈍い。
移動中のバスの中で、あれだけ豪快に眠っていたのに、大地の目は、まだ半分閉じたままだ。
「これから試合だっていうのに、緊張感ないなぁ」
大地と一緒にいると、こっちまで気が抜けて来そうになるから気を引き締めないとなぁ。
「今日の対戦相手は、甲武信学園。山梨の強豪校の一角なんだからさ。大地、気合い入れてくれよ」
和泉副将が大地の背を軽く叩く。
「甲武信学園か。伝統校ですよね。祖父が若いころから野球が強かったと聞きましたが」
「そう、近年は設備の整った新興の強豪校に押されてはいるけど、昔からスポーツの強い高校で、野球部も何度も甲子園に行ったことがある名門校だよ。ここで当たるなんて運がついてない」
久慈ちゃんと和泉副将の会話に、気が重くなりそうだ。甲子園出場経験のある名門校か。めんどくさそー。
「準々決勝まで来たら、どこと当たっても似たようなもんだし、まあ、今日は大丈夫!」
2回戦までと打って変わって晴れやかな笑顔のキャプテンが、お気楽なこと言ってる。
今日のピッチャーは、静真兄ちゃんだもんなぁ。
気楽にもなるよなぁ。
凸凸凸凸凸
準々決勝 県立北仙丈・帯那連合 対 甲武信学園
甲武信の選手たちがグランドに入って来る。
「本当に、高校生だよな?」
キャプテンが動揺してる。筋肉の鎧を纏った甲武信の選手たちの姿は、とても高校生には見えない。
「軍隊みてえ」
グラウンドに入っていく時も、隊列を作り一糸乱れぬ様子は精鋭部隊って感じだ。
「甲武信学園は、フィジカルを育てるをモットーにしている学校なので、体格のいい選手が多いんですよねぇ。甲武信ラグビー部は全国で優勝を何度もしてるくらい強いんですが、そのラグビー部とたまに合同練習してるらしいですよ」
マネージャー、そんなことまで調べてんのか。
高校野球は、プロのように細かく報道されるわけじゃないから、対戦相手の情報はほとんど入手できないと思うんだけどな。どういう風に調べてんだろ?
「体格がいいとかいうレベルじゃないよなぁ。ガチムチばっかりで、大地が細く見える」
大地は筋肉がついてるほうだと思ったけど、甲武信の選手見てたらそうでもないんだもんなぁ。
「大地は、必要のない筋肉はつけとらんから、甲武信の選手と比べたら細身じゃな」
静真兄ちゃんはあまり甲武信の選手たちの体格に関心を持ってないみたいだ。
「必要のない筋肉かぁ。ラガーマンみたいな筋肉は、野球には必要ないものなぁ。そう考えたら、別に恐れることはないのか」
大地くらいで充分なんだよなぁ。あそこまで筋肉がつくと、野球の動きはしづらくなるかもしれない。
「確かに甲武信の選手は、なかなかのガチムチ具合で目のやり場に困っちゃうけど。でも、やっぱり不動兄弟の筋肉のほうがキレがあっ……こほん」
マネージャー、時々、不穏な発言するよな。
「1対1なら当たり負けせんけえ、平気じゃ」
「……野球はそういう競技じゃないんだけど。まあ、大地はファーストだし、それでいいのか?」
大地は上背も重量もあるから当たり負けはしないだろうな。
「千秋ちゃん、甲武信の特徴をみんなに話してあげて」
千々和先生の指示に、マネージャーが頷く。
「甲武信は打撃力重視のチームで、とにかく、打つんです。打率が高く、しかも、当たると飛ぶ!」
資料から視線を上げたマネージャーが、静真兄ちゃんに顔を向ける。
「静真先輩、全員が4番バッターだと思ってください」
「了解」
全員が4番バッターか。なかなかに厳しそうだけど。
まあ、静真兄ちゃんなら大丈夫か。
「ピッチャーの情報はあるか?」
佃先輩が尋ねると、マネージャーがすぐに頷く。
「ええっとですねぇ。3人ほどいますが、どの投手も、手堅い感じのピッチャーですね。140キロ前後の速球、コントロールがよく、変化球も豊富。静真お兄さまと比べると、そこまで凄みは感じませんが。堅実にアウトを取っていく職人のような投手なので侮らないでください」
「堅実なピッチャーかぁ」
う~ん、どんな感じか、よくわからないな。試合経験がほとんどないオレには、ピッチャーっていうと、キャプテンか静真兄ちゃんか大地だからなぁ。この3人のうち、堅実というと……
キャプテンかなぁ。コントロール重視で打たれても点をやらない手堅いピッチング。大地は緩急のある剛速球で、バッターを力でねじ伏せる感じだし。……静真兄ちゃんは速球も変化球も使いこなす万能型ピッチャー。に見せかけて、クセ球使ったり、トリッキーなピッチャーなんだよなぁ。
キャプテンタイプと思えばいいのかな?
「それと、守備がうまいので、当たりそこないは、ほぼアウトになると思ってください」
「うへえ、マジかぁ」
苦手な感じのチームだなぁ。
「ホームラン打てばええだけじゃ。のう、辰海」
「オレに言うなよ。ホームランは専門外。大地と静真兄ちゃん、佃先輩、久慈ちゃんが専門だろ。ホームランは」
長打者4人もいるんだし、オレはいつものように塁に出ること考えればいいよな。
そう思ったら、気楽だな。点を取るのは、後ろに任せよう。




