高校生 【不動大地視点】
●不動大地 高校1年
県立北仙丈高等学校に無事合格。
晴れて今日から、兄ちゃんと同じ高校に通う。
兄ちゃんも入学式にでるっちゅうけえ、久しぶりに兄ちゃんと一緒に登校じゃ。
「大地、入学式は制服着ていかなあかんぞ」
「ジャージじゃダメなんかのう。たいぎいのう」
兄ちゃんは目ざといのう。制服に着替えるしかなさそうじゃ。
制服っちゅうのはなんでこう堅苦しくできとるんじゃろう?大きめに作っとるはずなのに窮屈で好かん。
北仙丈高までは、自転車通学になるけえ、制服は面倒じゃ。
「大地、ほら、もう家出んと。辰海と待ち合せとるんじゃろ」
「じゃあ、イソベ行って来るの」
玄関まで見送りに来たイソベの首をなでて外に出る。
天気ええのう。富士山も、今日は機嫌がよさそうじゃ。雲に隠れとらん。
「農鳥が見えとる」
「入学式に農鳥の姿見れるとはのう。縁起ええのう」
富士山の雪が解け始めると現れる鳥の形をした残雪を、地元では農鳥と呼んで親しんどる。農鳥が見られる時期は限られとるし、富士山はすぐに雲に隠れよるけえ、見れるのは稀じゃ。特別な日に特別なもんが見られると気分がええのう。
坂を下りて行く途中で、遠くの道路にいる辰海を見つける。待ち合わせ場所に向かって自転車をこいどるの。このままだと待ち合わせ場所に辰海のほうが早くつきそうじゃ。
「兄ちゃん、辰海じゃ。先に着いて遅かったな言うちゃろう」
「む?そうじゃな」
車の通らない車道を疾走して待ち合わせ場所に滑り込む。先に着いたのぅ。
辰海が一足遅く到着する。
「遅かったのう、辰海」
「いや、二人とも、今着いたところだろ!見えてたからな!……あれ?」
辰海の様子が変じゃ。ワシをやたら見て来よる。
「すげえ違和感あると思ったら、大地が制服着てる!」
じろじろ見て来よる思うたら、そがいなことか。
「そういえば、ここ数年、大地のジャージ姿しか記憶ねえ。中学の間、まともに制服着てなかっただろ」
「すぐに着れなくなったけえの」
中学の3年間で40センチ以上伸びたけえ、大きめに作った制服もすぐに着られんようになったけえ。
「クソ!自慢かよ!」
「何がじゃ」
「小学までは、オレのほうが背高かったのに。どんなドーピングしやがった」
ドーピング……?
「強いて言えば、兄ちゃんの作るご飯かのぉ」
美味しいけえのぅ。
「え?静真兄ちゃんの料理、そんな効果があるの?静真兄ちゃん、オレにもご飯作ってぇ」
「何いっとるんじゃ。普通の料理じゃ。辰海の母ちゃんが作るご飯のほうが豪勢じゃ」
辰海の母ちゃんの料理も美味いからのう。兄ちゃんの次に美味いのう。
「そうはいってもなぁ。静真兄ちゃんも背ぇ高いし。……そういや、同じもの食ってて、大地のほうが背が高いのは、何が違うんだろうな?気苦労の差か?」
辰海は一言多いの。
「兄ちゃんの料理、兄ちゃんより食べとるからの。兄ちゃん、小食じゃけえ」
「たんと食っとる。大地の食べる量が尋常じゃないだけじゃ」
兄ちゃんの料理は美味いけえ、やめ時がわからんようになるんじゃ。困ったもんじゃのぅ。
「大地、ほんとよく食べるもんな。そのうちブクブクに太っちまうんじゃねえの?」
辰海はわかっとらんのう。
「ふふん、不動家はのぅ。太らずに食べたもんは筋肉になっていくんじゃ」
ワシも兄ちゃんもたいして筋トレしとらんけど、筋肉ついとるからのう。
食べたもんが脂肪じゃなく筋肉になっとるんじゃろ。
「ええー、ずるいよ。オレも食べるだけで筋肉つけたい!静真兄ちゃ~ん」
「オレに言われてものう」
不動家の体質じゃけえ、兄ちゃんにもどうにもならんのう。
「食べるだけでは無理じゃけどのぅ。筋肉つけたいなら、食事の回数を増やすとええぞ。食後6時間経つと、筋肉の分解が起こるんじゃ。分解が起きる前に軽く食べると筋肉が維持される。筋肉を効率よく付けるためには食事回数は5、6回が理想と言われとる」
方法あるんか。兄ちゃんさすがじゃのう。
「5、6回?そういえば、大地は常になんか食べてるよな。それでなのか!あれ?でも静真兄ちゃんはそんなにしょっちゅう間食してるイメージないけど?」
「大地ほどじゃないけどのぅ。間食は取るようにしとる。取れん時は、筋肉が分解されるのを抑制するアミノ酸を含んだ飲料を合間に飲んどる」
水筒に入れてくれとる、あれのことかの?
あの謎の飲みもんはそういう効能があったんか。
「ん?それならオレも静真兄ちゃんに教えてもらって飲んでる」
「……その割に辰海は筋肉ついてないのう」
「ぐっ、大地……。でも、そうだよな。どうして?!静真兄ちゃ~ん」
辰海はワシらと同じようなことしていても、ワシや兄ちゃんほどには筋肉ついとらん。不思議じゃの。
「あとは体質かのう」
「ええ?そんなぁ。静真兄ちゃ~ん」
「名前呼ばれてものう。これ以上はのぅ……」
兄ちゃんにも限界はあるんじゃのう。
「車来とるけえ、気を付けなぁあかんぞ」
ごまかすように、兄ちゃんがワシたちに声をかける。
湖沿いの道に出ると車も増えよるけえ、面倒じゃ。
湖に架かる橋を渡っていく。
今日は風も穏やかじゃのぅ。湖面に薄っすら富士が映っとる。
「おー、いい天気ぃ。さくら祭りの会場がよく見える」
「春じゃのう」
のんびりと橋を渡っていく二人の後を、ゆっくりとついていく。日の当たってる場所は、ぬくいのう。
こういう日は……
「眠くなるのう」
「起きたばかりじゃろ」
「寝るなよぉ。大地ぃ」
春の陽気は睡魔との戦いじゃ。今日は厳しい戦いになりそうじゃのぅ。
橋を渡った先に白い建物が見えてくる。兄ちゃんの通ってる県立北仙丈高校。
今日からはワシと辰海も通う高校じゃ。




