20話 「物怖じしない子」
久々のイルマ視点となります。
今、私は奇妙な部屋にいます。壁一面に他の場所が映し出されているのです。
古代の技術でしょうか?それとも新たな魔法技術?
外の世界を本の中でしか知らない私としては知らないことばかりです。
ただ、今の状況はなんと言いますか…なんでこうなったんだろう。
亡骸背負いと呼ばれる魔物に抱きかかえあげられ、階段を下りてゆく。
(イルマあぁぁああ~!)
階段の上の方からリューイさんの声が聞こえてきます。
ああ、どうしましょう。私はどこに連れて行かれるのでしょうか。
困惑していると…
<ごめんなさい。このようなことをしてしまい、彼には申し訳ありませんがお二方を延命させるためにとの処置なのです。>
え、声が…綺麗な女性の声が直接聞こえてくる。
周りには誰もいません。いるのは私を抱えて走る大きな黒い蜘蛛だけです。
<こちらの声が聞こえておりますよね。ワタクシは、試練の女神の眷属をしている者です。
貴女は、 イルマ 様で間違いございませんね?>
「は、はい。」と短く応えます。となりますと…この声は蜘蛛様の声なのですね。
いえ、もっと重要な発言が…
試練の女神様?眷属?それはまことでしょうか?
<まことにございます。イルマ様のお開きになった本によって、隠されていたダンジョンの入り口が顕になり、こうしてワタクシを派遣なされたのです。>
そうでしたか…本の力によってダンジョンの入り口に…
ダンジョンにおける話に良く登場なされる試練をあたえるとされる神、名前がないのでしたっけ?
残されている文献や肖像画と言われている品では、紫色の宝石のように輝く髪、赤い瞳…
幼子の姿とも大人の女性の姿とも言われている謎の多い神の一人。
古くから少数部族に信仰されているとお父様から聞かされたことがあります。
お母様も部族の方で試練を与えられた者がいたとおっしゃっていましたね。
そういえば、先ほど言われた延命とは?
<そのことにつきましては、リューイさんがこちらの世界に呼び出されたばかりで存在が不安定なのが一つ。
もう一つ、このダンジョンが出口無きダンジョンという存在に変わったのが問題なのです。
本来なら、彼を呼び出した後そのまま出口から出るだけですんだのでしょうが…>
はい。確かに…この洞窟だった場所には元の出入り口が見当たりません。
でも、ここは弱いダンジョンで、魔物も…
<そこは誤りです。全くといっていいほど存在を隠されていたダンジョンなのです。
ですので、普通に魔素だけでできた魔物が出てきます。
そのためあなたを保護するようにと。>
そ、それではリューイさんは!
彼は魔物になりたてのコウモリに1ダメージしか…
<そこは大丈夫です。彼との接触により女神から頂いた能力を預けてきましたから。
でも、あのままお2人だと万が一が起こりうるとのことで今こうやって離れていただきました。
後は、彼がその能力を開花してくれれば問題ありません。
なにより試練と向き合っていただかなければ…。>
リューイさん。アナタは何者なのでしょう?
私はどのような存在を呼び出してしまったのでしょうか…
<それはまだわかりませんね。彼が何者かは彼自身も不明瞭でしょうから。
傍にいられないのは残念ですが、また会えます。>
そう、ですね。そういえば、どちらまで向かわれるのでしょう?
今別の階段を降りた気が…
<セーフゾーンと呼ばれている場所に向かいます。
そこで合流するのを待つことになると思われます。>
セーフゾーン。魔物が侵入してこないとされる場所。
ですがもう一つの言われ方が…『試練を待つ者の部屋』
次の階層にボスがいるとされる階。
<最終試練としてはやはりダンジョンコアの破壊つまり、ここのダンジョンを維持しているボスモンスター並びに…ダンジョンマスターの排除が待ち受けております。>
だ、ダンジョンマスター!?
そ、そんな…この地で鎮静化されたと思われていたダンジョンは実際は…
<ええ、力を蓄えていたのでしょう。かの英雄の魂も…開放されていません。>
そん、な。
あ、オーク!玉座で眠っているようです。キングでしょうか…
こちらの存在には気付かないのですね。
足元にはさまざまな大きさの魔石が…なんだかカラフルで美味しそうです。
え、あれって精霊石!
やっぱり…鎮静化などされていなかったのですか…
<そうですね。表向きは確かに鎮静化されたのでしょうが、先ほども言ったように
出口を消し、存在を隠していたのですから…頭の回る方がダンジョンマスターとしてこの場を維持しているのでしょう。>
ダンジョンマスターとは、ダンジョンを意のままに作りかえることができるといわれる存在…
人族のような姿をしているとされる文献が残っており、コアがあるうちは不老ともされ、生物の理から離れた存在だと…
そのような存在であっても、あくまでコアが存在していればの話、破壊すればコアと共に消滅するとも言われています。
では、活性化の時に現れたとされているボスモンスターはある種の囮…。
<そのように考えられもしますが、大型のボスである以上倒されたことによりダンジョンの制御・維持ができなくなった可能性もあるには有ると思われます。>
あ、ワンちゃん!おっきーですね~でも毛並みは少し艶が無く、毛自体も硬そうです。
ん~残念。ナデナデとかしたかったのですが。
<…。動じないですね、先ほどから認識されてはいないもののそれなりに魔物の近くを通っているというのに、今のだってヘルハウンド・ボスですよ。なのにワンちゃんって…>
魔物だからといって今のところは危害を加えられていないからでしょうかね、それともお母様の教えのおかげでしょうか…。
<イルマ様の母様が何者なのか少し気になりますね…。>
ん?今の声は良く聞き取れなかったや…
次の階は…騎士様?いえ、あの方も魔物なのですかね、不思議な感じです…
生きてはいない、でも歩いている…そんな感じを受けました。
階段を進むと…
この階はスケルトンのようですね、でも…寂しいですね。道は一直線で空間に繋がり、その空間に待機しているのは3体だけって…
<そうですね。どの階も全体的に少ないですね、でも今のスケルトンもそうですがユニークモンスターのようです。真ん中にいたヤツだけですが、見たこと無い特殊な個体のようです。強そうですよ。苦戦するかもしれませんね…>
それは恐ろしいですね。でも、弱点は必ずありますからね。そこをつけば苦戦することなく善戦できるかもしれません。
<次の階がセーフゾーンになります。これで取りあえずは安全です。>
そうですか。リューイさん私は無事ですから…どうか試練をお気お付けください。
蜘蛛様からおろしてもらい周辺を見て回ることにしました。
特にこれといって違いは無いのですが、階段から降りたらすぐに広間でした。
セーフゾーンなので魔物の姿は…ん?
何でしょうか、石畳の隙間から黒っぽいものが…
<え!?魔物ですか。イルマさ…>
ザシュ!
あ、蜘蛛様!
何がおきたのかわかりませんでしたが、切り裂かれたかのような音が空間に響きます。
力なく倒れた蜘蛛様の傍に向かいます。
ご無事でしょうか…
<ワタクシは…分体です。本体のほうはリューイさんと一緒においでです。
もうし、わけ、ありません。ワタクシは…ここまでのようです。>
蜘蛛様…。まるで空気に溶けるかのように消えてしまいました。
『なんだ?この程度か…』
え、声が聞こえてきます。あの黒っぽいモノのようです。
声は中性的ですが、少しくぐもった感じですね。
『そこのお前、心配するな、殺すつもりはない。今のところはな…献上品だ。』
献上品?ですか…何方への
『それは、うちのダンジョンマスターにだよ。悪いようにはしないとは思う…』
ダンジョン、マスター…。
そう私がつぶやくと黒っぽいモノが…近づいてきました。
あの、お名前は?なんだか黒っぽいものって言い方じゃいけない気がしますので。
『ん…ララだ。そう呼んでもらっている。それ以外は…まあ、雑用だよな。』
ララ様ですね、よろしくお願いします。
私の名前はイルマです。
『ん~物怖じしない子だね。まあよろしく?イルマ。そんじゃ、乗る?』
お言葉に甘えて乗せてもらいます。
わあ~なんだか気持ちいです。
ひんやりでフニフニでくせになっちゃいそうです。
『そう言ってもらえると嬉しいね…。それにしても、なんだか調子狂うな…』
そう言っている間も移動を続けます、この次の階はボス部屋なのでは?
そう聞いたのですが、侵入者のために作り変えているのだそうです。
そして、今に至ります。
この場所に連れてこられてすぐにダンジョンマスターとお会いしたのですが、
黒髪、背は余り高くなさそうです、でも、背が少し曲がっているような感じがしますので実際はもう少し高いのかもしれません。ローブに身を包んでいるので憶測に過ぎませんが…。
不老と聞きますから見ためでは歳はわかりませんが…
私より少し年上といった外見で痩せているのかほっそりとしていますね。
私を見た彼は…
「おお!マジ天使!」
などと急に叫びました。言葉の意味がわからず私が首を傾げると…
両膝をつき、天井を見上げながら感涙の涙を…
「ボォクもついに報われる日がきたのか!神よ!
このダンジョンに縛り付けたあの神じゃない神よ!」
あの神とはどの神でしょう?
ダンジョンに縛り付けるとは?
「んん?失礼。ポピュラーな神だとアイツは言ってた気がするんだけどな…
ダンジョンに携わる神だとあの男は言って…」
え、それはおかしいですね…
ダンジョンに携わる神は「試練の女神」様ですよ?
もちろん呼ばれ方どおり女性ですが…
「は、ちょっとまってくれ!どういうことだ…
まさか、いや…そんなぁ。」
その男の人は何方なのでしょう?
「こっちが知りたいよ!ボクはあいつから頼まれて、悪い奴等からこのダンジョンを死守しているだけだからな…。それに、魂をコアに組み込まれたせいでこの場所から出ることさえできない。」
それもおかしいですね。
この地には、ダンジョンマスターは存在しなかったのですよ。
というより不要なのだそうです。
自然に循環するようにできている「試練のダンジョン」なのですから。
先ほどの蜘蛛様が言っていました。100年ほど前に急にダンジョンマスターが現れたと。
目立った動きが起こらなかったのでほおって置いたが、十数年前に活性化がおきたことにより加護を与えた者を遣わし鎮静化に尽力してもらったと…
その後は鎮静化され出入り口がなくなったので詳しく調査ができなかったと。
「おいおいおい、意味がわかんねえ…ララどうなっている?
この子が言っていることが本当だとしたら、あの時の出来事も…
そしてあれも…ボクが狙われていたわけでもなく…
この場所も狙われていなかったということじゃないのか!
ステファニーもあんな目にあわずに…ぐううっ」
『あの神がいいように利用した可能性が…
それでも、わが主には生きていて欲しかったのも事実です。
そのための犠牲だったとしか…』
ララ様が辛そうに言います。
大切な方を守りたい。それだけなのですね…
その気持ちを利用して…
「クククク…ははははっ!そうか、ボクは道化か!手にかけてきた奴等も、失った仲間も!
死してなお尽くしてくれるステファニーも!皆利用されたと…」
ダンジョンマスターの彼は、笑いながらも涙を流し続けます。
利用されたとは…
そして先ほどから名前のあがるステファニー様とは…
「ボクの大切な子だ!卵の頃から世話していた大切な家族だ。
骨だけの身体となっても未だにダンジョンに囚われの身だ…
あの子がやったのは家族を、この空間を守るための戦いだけだった!」
私は言葉を失いました。このダンジョンはダンジョンマスターの思い通りに機能していたわけではないと、彼もその家族もまたこの場に強制されているという事実…
「まいったなぁ…こうなったら筋書き通り悪役として討たれることを選ぶか。
多くを殺してきた事実は変わらないからね…仕方ないさ。
でも、ボクだってかっこよく逝きたいものだな。」
『ならば共に…共に参りましょう…。』
お2人は決心をされたようです…
このような形で最後を迎えるなんて、救い道は無いのでしょうか?




