第七話 妥当な批判
「レビュー、増えてましたね」
僕のレビューは、洋食屋で食事をしたあとに読んだそうだ。今日も、ここへ来る前に僕を思い出し、ページを開いたらしい。
ひょっとしたら、そういうものには興味のない女性かとも思っていたが、ぜんぜんそんなことはなかった。
彼女にとっては、なんでもないことなのだろう。
男性の怨念は、まだサービスをつくるまでには至っていない。もし女性のレビューを読めるなら、僕も洋食屋を出た直後に彼女のページを開いていたはずだった。
彼女は店員に声をかけると、僕の向かいの椅子を引いて腰を下ろした。
二つ目のレビューについては、離婚したばかりの僕に気を遣い、無難なことを書いてくれたのかもしれないと弁明した。そして、言わなければいいのに、二度誘って断られたことまで打ち明けた。そのまま、婚活パーティーに申し込んだ経緯も洗いざらい説明していた。
「つまり、星一つの評価が気になるから、婚活する気もないのに、婚活パーティーに参加するつもりってことですか?」
「はい」
「最低ですね」
反論のしようがなかった。
「この先、僕があなたを口説くことがあったとしても、そのことはレビューに書かないでください」
「サラダと小鉢をいただけるなら、黙ってます」
僕は、運ばれてきたばかりの定食に目を落とした。
サラダの皿と小鉢を、そのまま彼女の方へ差し出した。
これで黙っていてもらえることになったのだから、食事を始めればよかった。それでも、最低だと言われたままで終わるのは気に入らなかった。
別に、参加した女性をだますつもりではない。実際に話してみて、気が合えば、また会いたくなるかもしれない。その可能性まで否定して申し込んだわけではなかった。
「でも、星をもらえなかったら、がっかりするんですよね?」
僕は箸を手にしたまま、返事を考えた。
誰とも気が合わず、レビューも増えなければ、何のために参加費を払ったのかと思うだろう。反対に、次に会う約束ができなくても、五つが何件か増えれば満足ではある。
正直に答えると、彼女はうなずいた。
「やっぱり、星をもらいに行くんですね」
「そうですね」
認めるしかなかった。説明を重ねるほど、彼女の言ったとおりになっていく。
それでも、そこまで言わなくてもいいではないかと思った。
元妻も、こんな気持ちだったのだろうか。
「私は、この前も楽しかったですけど」
「洋食屋ですか?」
「はい」
「でも、それはレビューを読む前ですよね」
「関係あります?」
あると言いたかったが、ひとまず口をつぐんだ。
彼女は僕の顔を見て、笑った。
「いま、何か言おうとしましたよね」
「言わない方がいいと思ったので」
「聞きたかったのに」
続きを待つように、彼女は僕を見ていた。そう言われると、わざわざ説明するほどのことでもない気がした。
僕が定食に箸をつけると、彼女もサラダを食べ始めた。
しばらくして、彼女が聞いた。
「婚活パーティーで星五つをもらったら、そんなに嬉しいですか?」
「総合評価が三つに上がるなら、嬉しいです」
彼女は笑いながら箸を置き、スマートフォンを取り出した。
何度か画面に触れ、レビュー欄を眺めた。
「じゃあ、私が星をあげますよ」
なんでもないことのように言って、指を動かした。
僕も自分のページを開いた。
更新すると、投稿が一件増えていた。
匿名希望|交際期間:なし
【無題】
★★★★★
総合評価を三つにしたいそうなので、五つにしておきます。計算が得意な人です。
コメントのとおり、総合評価は三つになっていた。
僕はその数字と、彼女の書いた文章を見比べた。
これでは、星を増やしたがっていることが、ページを開いた人全員に伝わってしまう。
婚活パーティーの件は書かない約束だったが、星を欲しがっていることまで秘密にしてほしいとは言っていなかった。
こんなレビューがあったら、婚活パーティーにも参加しづらい。コメントの訂正を頼もうと顔を上げると、彼女はもうスマートフォンをしまい、残りのサラダを食べていた。
僕はもう一度、画面に目を落とした。
そこには確かに、彼女の投稿があった。
「三つになりました?」
「はい」
「よかったですね」
僕はうなずいて、スマートフォンを伏せた。




