事の起こり 女性の怨念
世界のどこかにいたクズ男が、ひとりの女性に強い怨念を抱かせた。
その結果、世界中の男性がレビューされるようになった。
ずいぶん乱暴な説明だが、これ以上のことはわかっていない。男が誰で、女性に何をしたのか。なぜ、その男だけでなく、僕たちまで巻きこまれなければならなかったのか。
少なくとも最後の点については、いまも世界中の男性が納得のいく説明を求めている。
怨念がつくり出したものを、サービスと言っていいのかはわからない。
正式な名前もなく、たいていの人は「レビュー」と呼んでいる。
ネット環境さえあれば、誰でも利用できる。男性の名前や顔から本人のページを探し、星の数と、書きこまれた文章を確認する。飲食店を選ぶときと大して変わらない。違うのは、店なら閉められるが、僕たちは廃業できないことだ。
運営しているのは怨念。
投稿できるのは女性だけ。
評価されるのは男性だけだ。
本人には返信する権利があるが、女性のレビューを消す権利はない。
呪いのようなものだったし、実際に呪いだった。
おまけに、怨念がつくり出した仕組みにしては、機能が充実している。
本人を特定する情報は正確だし、相手が偽名を名乗っていても、顔を整形していようとも、女性が検索すれば、なんとなく本人のページにたどりつける。
あまりにも正確なので、警察の身元照会にも使われている。男性の警察官が調べてもわからなかった男を、女性の警察官が見つけることもあるそうだ。
世界中で使われているのに、落ちているところも見たことがない。強いて不便な点を挙げるなら、問い合わせ窓口が、どこを探しても見つからないことくらいだ。
もちろん男性側も、この呪いを黙って受け入れてきたわけではない。
女性についてもレビューできるサービスを、人間の手でつくろうという動きはある。しかし、女性側からの激しい反対に加え、個人情報を集めて公開することが問題になり、実現の見こみは立っていない。
男性の個人情報はすでに公開されているが、こちらは怨念が勝手にやっていることなので、誰も責任を問えない。人間が同じことをしようとすると、人間の社会の手続きを踏む必要がある。
理屈はわかる。
わかるが、納得できるかどうかは別だった。
僕が学生だったころには、すでにレビューはあった。
友人たちは、気になる女性と食事をする前にも、交際を断るときにも、星の数を気にしていた。ふられた友人が、星四つをもらえたと知って元気になるのを見たこともある。
僕には、あまり関係のない話だった。
学生時代からつきあっていた彼女と、そのまま結婚した。彼女はレビューを書かなかったし、僕も書いてほしいとは思わなかった。
二人のあいだで何かあれば、二人で話せばよかった。
少なくとも、僕はそう思っていた。
離婚後、元妻が初めて僕のレビューを投稿した。
星は一つだった。
ほかに投稿がなかったので、僕の総合評価も一つになった。
僕に関心を持ってくれた女性が、最初に知るのはその数字だった。




