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リコリス・マッドポップ・サンサーラ  作者: ネオもろこし
黄昏の宅配便(トワイライトデリバリー)編

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第一話「白紙の審判と黒い運び屋」1

第一章 白紙の審判(ホワイトデイ)


 10年前。 ユーガリア大陸最西端、聖地アストエル郊外。 神と悪魔が最初の契約を交わしたとされる「アギトの丘」は、今、神話の終焉を迎える祭壇となっていた。


 空は毒々しい紫色と、清浄な銀色に二分されていた。大地を埋め尽くすのは、幾何学模様の魔術回路と、崩れ落ちた魔王城の瓦礫。


 その中心で、二つの絶対的な力が臨界点を超えて衝突しようとしていた。


 一つは、傲慢の魔王アヴァベル。真祖の虚無と朱雀の業火を宿した漆黒の闇。「世界を我が意のままに」と叫ぶ、肥大化したエゴの塊。


 もう一つは、救世主(メシア)ミサイア。 かつて美咲と呼ばれた少女が、友の死によって覚醒した銀色の光。「全てを無に帰す」と嘆く、悲しき浄化のシステム。


 そして、その狭間に飛び込んだ、傷だらけの魔女たち。 久遠灯(くおん あかり)率いる『リコリス・バロック』の7人。


「……やり直すんだ! 誰も死なない、最高にくだらない世界を!」


 灯の咆哮が、轟音を切り裂いた。 彼女はM500を捨て、素手で光と闇の渦へ突っ込んでいく。 その背中には、真紅の翼と、仲間たちの祈りが宿っていた。


 ドクン。


 世界が、心停止したかのように静まり返った。 次の瞬間。


 音が、死んだ。 色彩が、蒸発した。


 視界の全てが、圧倒的な「白」に塗り潰されていく。 それは爆発ではない。 物理法則の書き換え(オーバーライト)。 因果律の修正。 世界というキャンバスに描かれた悲劇を、白い絵の具で強引に塗りつぶし、新しい絵を描くための下地作り。


『世界再構築(リ・ワールド)』。


「……灯! 」


 ルシウス・クロウリーが、音のない世界で絶叫した。彼は聖遺物『ゴルゴダ』を大地に突き立て、ありったけの信仰を込めて絶対防御結界を展開していた。 その薄い光の膜だけが、彼と、その背後にいる数名の生存者たちを、存在消滅の波から守っていた。


 だが、結界の外側にいた者たちは違った。


『おのれぇぇぇッ!! 私の……私の王国がァァァッ!!』


 魔王アヴァベルの断末魔が、ノイズとなって響く。天を衝く黒い城郭が、砂の城のようにサラサラと崩れ去り、白い光に還元されていく。


『……さようなら』


 神の子ミサイアの銀色の翼が霧散し、光の粒子となって空へ溶ける。 その中心で、美咲の姿が一瞬だけ元の少女に戻り、微笑んだように見えた。


 そして。


「……あばよ、地獄(ヘブン)」


 光の中心にいた7人の魔女たち――『リコリス・バロック』の姿もまた、白い光に飲み込まれていった。 リーダーの久遠灯が、最後にこちらを振り返り、ニカっと笑って何かを叫んだ。 だが、その声は光にかき消され、誰の耳にも届かなかった。


 彼女たちの輪郭が揺らぎ、溶け、そして世界から「最初からいなかった」かのように消失していく。


 光が収束し、世界に色が戻った時。 そこには、ただ広大な荒野と、大地を抉り取ったような巨大なクレーターだけが残されていた。 魔王城も、異形の軍勢も、救世主も。そして、世界を救った英雄たちも。 すべてが跡形もなく消え失せ、風の音だけが虚しく響いていた。


「……嘘だろう」


 チャーリー・Sが、膝から崩れ落ちた。 彼のトレードマークだったサングラスは砕け散り、その瞳からは神獣としての覇気が失われていた。


「あいつらが……灯たちが、消えた……?」


 震える手で、虚空を掴もうとする。だが、指先は何にも触れない。気配さえも残っていない。 まるで、彼女たちが存在した事実そのものが、世界から切り離されてしまったかのように。


 残されたのは、聖遺物の結界に守られたわずかな者たちだけ。


 十字架にすがりつき、祈るように項垂れるルシウス。呆然と空を見上げる陳 幽寂(チェン爺)。へたり込み、涙を流す王 麗琳(リーリン)と李 小蓮(シャオ)。震えながら立ち尽くすエミル・ノスフェラトゥ。 そして、静かに十字を切るシスター・ノア。


 彼らは「観測者」として残されたのだ。書き換わった世界で、かつてあった真実を記憶し続けるための楔として。


「……これが、代償か」


 チェン爺が、絞り出すように呟いた。 世界は救われた。 平和な日常が、再構築された。 だが、そのために支払われた対価は、彼らの心を圧し潰すには十分すぎた。


「……灯さん。響ちゃん……」


 リーリンの嗚咽が、荒野に吸い込まれていく。


 空を見上げれば、そこには皮肉なほどに美しい青空が広がっていた。雲一つない、真っ白な空。 それは、新しい時代の幕開けを告げる色であり、同時に、英雄たちを飲み込んだ墓標の色でもあった。


 のちに、この出来事は歴史書にこう記されることになる。世界が一度白紙に戻り、そして再び色を取り戻した日。魔王と救世主が相打ちとなり、世界に平和がもたらされた日。


『白紙の審判(ホワイトデイ)』と。


 だが、その中心にいた7人の魔女の名を知る者は、もうどこにもいない。 ただ、残された者たちの胸の奥に刻まれた、痛みだけを残して。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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