第20話『戴冠、そして――』
優勝から数時間後――。
夕暮れの校舎に、カリンのため息が響いた。
「……うるさい」
祝勝会はまだ続いている。体育館のスピーカーから流れるミオの自作応援ソング。騒ぐ部員たち。撮影用に借りてきた王冠とマントをカリンが着せられたときは、さすがに顔を真っ赤にした。
「やーい、カリン様〜!支配者の凱旋だ〜!」
「黙りなさい、豚ども。跪くなら靴を舐めなさい」
言いながらも、頬はゆるむ。いつの間にか、このチームに“居場所”ができていた。
打ち上げが落ち着いた頃、カリンは体育館の外へと出た。夜風が熱を奪っていく。
そこで静かに立っていたのは、聖セレナの司令塔、セレスだった。
「見事だったわ。貴女の“導く支配”、想定以上だった」
その声にカリンは肩をすくめる。
「負け犬の言葉は、あんまり響かないわね」
「ええ、だから感情ではなく、記録に敬意を表する。……ただ、一つだけ認めておくわ」
月明かりの下、セレスが小さく笑う。
「“支配”という言葉の枠の中で、あれほど自由に振る舞える人間がいるとは思わなかった。あの瞬間、少しだけ私も……自由になれたかもしれない」
「……気持ち悪いわね、あんたのそういうところ」
けれどその瞳には、尊敬と、僅かな寂しさが宿っていた。
夜も更けて、カリンは校舎裏の階段に座っていた。そこへやってきたのはヒナ。手には温かい缶ココアが二つ。
「お疲れさま、カリン。……勝ててよかったね」
「当然でしょ。私は、支配者なんだから」
そう言って受け取ったココアに、カリンは小さく息を吐く。
「でも、なんか……今日の皆、命令してないのに、勝手に動いてくれてた」
「それが“信頼”ってやつだよ」
ヒナが微笑む。
「支配と信頼は両立できる。あのピッチで、あなたが証明した」
その言葉に、カリンは顔を伏せた。
「……私、最初はただ、命令したかっただけだったのよ。誰かに、従ってもらいたくて」
「知ってるよ。でも今のカリンは、“信じてくれる”人がたくさんいる。それってたぶん……すごく、すてきなことだと思う」
帰り道、カリンの足が止まった。いつの間にか、麗奈が立っていた。
「ふふ……“夜の女王”、お見事だったわね」
その姿は相変わらず。黒の革手袋、サングラス、そして全身から漂う“支配者”の気配。
「……うるさいわよ、変なとこで見てないで」
「私はね、カリン。最初からわかってたの。あなたが命令に溺れる子じゃないって。あなたは、導くために生まれた子」
麗奈は微笑む。
「立派な“夜の女王”だったわよ。自信、持ちなさい」
「……へえ、女王ってのは、“弱さ”を見せてもいいの?」
「当然。弱さをさらけ出し、それでも誰かがついてくる。そんな女王こそ、本物よ」
カリンは、夜空を見上げた。
――支配という言葉に縛られていた自分。
――誰にも認められず、ただ命令し続けていた自分。
でも今は、違う。
たとえ命令がなくても、誰かが動いてくれる。
信じてくれる。認めてくれる。だから――
「でもまあ」
ふっと笑い、ポケットに手を入れる。
「従わせるのも……悪くないけどね?」
その声は夜風に溶け、月の下で凛と響いていた。
――彼女の物語は、まだ始まったばかりだった。




