第四話 ユニークスキル
〜ここまでのあらすじ〜
食事が栄養ゼリーだけの世界で、政府は全てを左右するVRMMOを開発した。
1位を目指す峰大は、ソロで追加の狩りへ向かう。
ガシマと名乗る謎のNPCと出会い、珈琲の味を競うことに! ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ガシマ店長
二足歩行で歩く猫。シルエットはモンスターのタヌキャットへ酷似も、本人は異世界からきたと主張。銀毛のスコティッシュフォールド。垂れた耳と、常に半目閉じている眠そうな目がトレードマーク。喫茶店を開業する野望に燃える。
(うぉ!? 全然違うぞ!?)
俺が作った珈琲は、香りが少なくて喉越しもイマイチ。変な酸味も残る。
それにくらべ、ガシマの珈琲は風味豊かでいつまでも嗅いでいたくなる逸品。
自然と体全体に行き渡るようだ。コクが深いのに飲みやすい。
「ガ、ガシマ……師匠と呼ばせてくれ!」
「ニャ? なんの話ニャ~?」
住むところがないと言うガシマ。
そこで、1位への協力の代わりに一緒に住むことを提案した。
「よろしくな、ガシマ店長」
「ニャ~」
師匠呼びは恥ずかしいというので、本人希望の店長で呼ぶことにした。
店長はVRMMOでも喫茶店を持つことが夢だと語る。
つくづく変なNPCだ。
「じゃ、案内するからついてこいよ」
◇◆◇◆◇ギルド拠点部屋。
「おいおい、店長! たった数時間でこんなにカスタマイズしたのかよ!?」
案内した後、俺は一度ログアウトして仮眠をとってきた。
パステル調のカラフルキッチンが、ダークブラウンを基調とした物にすべて置き換えられている。
確かに好きにキッチンをカスタマイズしても良いと言ったのは俺だ。
でも、ここまでの魔改造が進むとは思わず、頭を抱えた。
「入れ替えただけだから、元にも戻せるニャ~」
「じゃあ戻してくれよ! ガシマ店長の分はキッチン用踏み台を買ってくるからさ」
店長は俺よりも身長が70cmは低い。
この高さにされると、流し台やコンロが低すぎて俺が腰痛になってしまう。
「なんか、踏み台って子供が使うみたいで恥ずかしいニャ~」
「アーハイハイ。居候のくせに贅沢言わないの」
寝床のクッションもすでに確保している模様。
案外適応力が高いし、堂々としていれば町でモンスターと間違われることもないと思う。
「じゃ、買い物に出かけるよ」
「ニャ? オラも出かけるのニャ~?」
「そうそう、これを一応かぶってくれよな」
ハンチング帽をガシマ店長の頭に乗せたら、抗議する目で俺を睨んでくる。
「これはなんニャ~?」
「変装用だよ。ここいらの小柄族はそんな感じの帽子をかぶっているからさ」
悪い奴じゃないんだが、遠目だとタヌキャットに見えることもあるので用心をしておく。
「オラは何度も言ってるニャ~! タヌキじゃないニャ~」
「あーもう、うっせーな。店長はここのこと何も知らないんだから、言うこと聞けよな」
店長は不満タラタラだけど、尻尾もズボンの中に収納してもらった。
「ぐぬぬ。猫魔族の誇りがぁぁ……屈辱ニャ~」
「ほら、いくよー」
◇◆◇◆◇《西アレッピー》港町エリア。
市場がある港町エリアへとやってきた。
活気のある客引きの声が飛びかい、多種多様な人で賑わっている。
「ニャ~。人が多いニャ~」
「こらあんまり動くなよ」
ガシマ店長が辺りをキョロキョロと見回し、マシンガンな質問がやってきた。
「そこの店が広げてるのは果物ニャ~? あの青い屋根はなんの店ニャ~?」
相変わらず眠たげな目をしているが、鼻歌まじりに肩を揺らす店長の足どりは軽い。
「ここは何があるニャ~?」
「なんでも揃うぜ。この町は胡椒の産地でも知られてて、色んな所から商人が集まる町なんだ」
様々な香りが立ちこめる大通りを、はしゃぐ店長と歩く。
武器・防具、生活雑貨や小物、あらゆるものがバザーのように並べられている。
「武器は向こうにも店があったニャ~」
「そういうちゃんとした店舗で買うと高いんだよ」
「それにあそこの人だかりから良い香りするニャ~」
さし示す先には、鰻のかば焼きの煙が見える。
うちの居候は鼻をヒクつかせながら「行きたい」と主張しているが、今日は寄るつもりがない。
「上手く値引きすれば予算が抑えられるし、浮いたお金でなら欲しいものを買ってもいいぜ!」
「ほんとニャ~!?」
交換条件をだしてみたら、猫背がピンとのび、明らかにやる気が増した。
ガシマ店長は意外に現金なのかも知れないな。
「らっしゃい! ガッツリン。今日は小柄族を連れてきてどうした? それと色々とスパイスをしいれてるぜ。見ていくか?」
「あぁ、帰りに寄らせてもらう」
顔なじみの店主人から声をかけられるが、今寄るとアイテムボックスの容量を圧迫してしまう。
そんなことを話していたら「オラが持つニャ~」と言いだした。
「買いだしの量は多いけど大丈夫か?」
「任せるニャ~! お店ごと収納可能ニャ~」
「ハハハ! んな大袈裟な!」
ガシマ店長のジョークを笑って流す。
高性能なアイテムボックスを持っているみたいだし、ここは言葉に甘えよう。
「主人、やっぱ気が変わった。カカオ豆をあるだけくれ。あとスパイスも一通りよろしくな」
「ガハハ! そんなに買いこんで何するんだよ?」
「1位をめざす必要経費さ!」
総重量が90kg超えの大奮発をした。
帰りがてら、となりの荷物持ちを褒めておく。
「しっかし、優秀なアイテムボックスだよな」
「まだまだ余裕あるニャ~」
ガシマ店長は自分の胸をドンッと拳で叩き、自慢げにアピールをしている。
値切り交渉も上手くいった。
変わった奴だけど、今後も仲良くやっていけそうだ。
「よっし! 値切り王めざして回るぞ店長!」
「了解ニャ~」
◇◆◇◆◇ギルド拠点部屋。
大量に買いこんでギルド拠点へと戻ってきた。
予算の30%オフで諸々しいれられ、心も懐もホクホクだ。
「ニャッニャ~♪」
「店長はそれでほんとに良かったのか?」
浮いたお金で、欲しがっていたA型看板をプレゼントした。
住んでいた世界ではなかったらしく、使いかたをNPCから熱心に聞いていたし、今もほおずりしてご機嫌な様子。
「これでオラの野望にまた一歩近づいたニャ~」
喫茶店オープンの夢を語る店長だが、そんな妄想は後回しにしてもらおうか。
俺は一つ咳ばらいをして、真剣に店長と向きあう。
「ところで、そろそろ1位になるための件を詰めたいんだけど、いいかな?」
「ニャ? 具体的に何すればいいんだニャ~?」
居候の契約内容を忘れているようなので、学区1位にランキングをあげたい件を改めて説明した。
「……って繰り返しになるけどさ、どう?」
目をとじて神妙な面持ちでうなずいていたガシマ店長の瞳がバッと開く。
とはいえ眠そうな瞼のままで。
「そもそもランキングとはなんのことニャ~?」
「おいー!? そこからかよ!」
首をかしげているガシマ店長に思わず突っこんでしまった。
そういやレアNPCのくせに、ゲームの知識がまるでなかったことを思いだす。
改めてゲームシステムと、ユーザーごとに1つだけのユニークスキルを説明した。
「ふむふむ。つまりは質の良いユニークスキルを手に入れたいから協力しろということニャ~?」
「理解が早くて助かるよ」
聞けば過去の経験上、無茶ぶりには慣れているらしい。
「オラに任せるニャ~」
店長と二人。地獄の特訓が始まる。
と、言っても珈琲と一緒に食事をとるだけだが、フードファイターという言葉があるようにそのレベルアップ作業は熾烈を極めた。
キッチンからは絶え間ない調理音、ダイニングには俺の無言の絶叫。
胃痛と胸やけに苛まれつつ、食事を続ける。
正直、不快感の再現はいらないと思う。
けど、食育をテーマとしているだけあって、暴飲暴食のストッパーとして実に優秀な再現が行われていた。
壮絶な吐き気との戦闘の末──。
【ガッツリンはレベルアップしました!】
【サードクラスのLV99に達したことで、フォースクラスへと昇格します】
【新スキル、《お母さんの苦悩と知恵袋》を取得しました】
きたきたきたーーー! ついにきた!
───用語説明:
【ホビット族】
成人でも身長80cm~120cmくらいの小柄な種族。
NPCに多いが、プレイヤーでも選択可能。
【サードクラス/フォースクラス】
LVは99上限。カンスト後に上のクラスへ昇格し、LV1に戻る。
クラスの最上位はナインス。
【ユニークスキル】
ユーザー毎に1つしか獲得できない。クラス昇格時に獲得可能。
通常スキルと比べ非常に強力なスキルとなっている。
【ステータス:体重】
そのまま体重である。激しい労働や戦闘で減少し、食事で増加する。
種族や身長などの要素から適正体重が定められており、超過すると主に敏捷周り、下回ると耐久周りからパラメータダウンのペナルティを受ける。
極端な食事制限では飢餓感を覚え、過食では不快感や吐き気までもが正確にゲーム内で再現される。





