第三十一話 利害の一致
◇◆◇◆◇《嗤う森の最奥》エリア。
「店長さん、私から絶対に離れちゃダメだよ? おてて繋ごうね」
「ニャ~」
俺たちはレオランウータイガーとの決着をつけるため、奴が待ち受けるエリアへと侵攻していた。
ローカロリーは、店長の肉球を握れて満足げに鼻息を荒くしている。
店長は色んな意味で身の危険を感じたのか、毛を逆立てていた。
ローカロリーのユニークスキル──《規律のスイートボディシェル》は、周囲の守りたい相手を絶対防御するスキル。
使用者の体重が軽いほど強さと範囲を維持できる。
「このスキルのために私、過酷なダイエットをしてきたんだから!」
その関係もあって、ローカロリーは合同パーティーの中で最もレベルが低い。
だから全員で協力して守ることになっている。
気温が急激に冷えこみ始め、自分の肩を擦るTKGが愚痴をこぼす。
「悪のアボミネーションか、凍てた雪路と白き息?」
足音にも霜を踏みつぶす音が混ざり始めた。
息は白く、手はかじかみ、歯はガチガチと音を立てだす。
「拙者は懐の方が寒いでござる」
「前回のハッスルで請求額がブランド外車並みになったんだっけ? ご愁傷様」
皆の顔も蒼白だが、うなだれるアイムマヨラーは別の意味で真っ青だった。
例え苦笑いであったとしても笑顔でいられたのはそこまで。
肌を刺す殺気と、全身を駆けぬける強烈なプレッシャー。
けたたましい警告音と共に、殺戮を予感させる赤がエリア一帯を覆いだしたかと思ったら、吹雪が始まり、視界はホワイトアウトしてしまう。
「なんや巨大なもんが飛ぶみたいな音が聞こえんで」
「あれを見ろ!」
俺たちは慌てて空を見上げる。
不気味な暗さが天空を覆い、アイムマヨラーの怒号が飛ぶ。
「散開するでござる!」
俺たちはその場から反射的に飛びのいた。
瞬刻も置かずに空がおちてくる。
空と例えたほどの巨体が地表へと叩きつけられ、衝撃で俺たちは軽く宙へ放りだされた。
体重の軽いローカロリーと店長は高く跳ねあげられ、着地にも失敗していた。
「ローカロリー、店長、無事か!?」
「雪が口の中に入ってじゃりじゃりするニャ~」
大丈夫そうで一安心。
より高く浮いていた大量の雪も、時間差でおちてくる音がドサドサと続く。
視界は悪く、白一色のまま。
だが、奴は間違いなくいる。これだけの存在感は他にいない。
一際濃い吹雪の中から腹に響く声が放たれた。
『人よ。我の神域へきた勇気は褒めてやろう。お前たちの頭目の名を問う』
「俺がリーダーのガッツリンだ!」
ユニークスキルが見込まれたとはいえ、精鋭やベテランを差し置いてのリーダーという重責に、いまさらながらに震えが止まらなくなる。
敵は俺の方に殺気の矛先を向け、覇気を叩きつけてきた。
『戦士ガッツリン。この戦いに何を望まんとする? 我に挑むその己が意と信を、世界に吠えてみよ』
なんだ? エラそうに。たかがAIのくせにイキってんじゃねーよ。
俺は白の空間を睨みつけて叫んだ。
「あ? それがお前の墓標に刻む言葉でOKか? いまさらやめようとしてもキャンセル料を請求すっからな」
『……フハハハハハ! 誠に剛毅。その意気や良し。全員を塵にしてくれようぞ』
鼓膜が破れんばかりのボスの笑い声が響き渡り、その強烈な音に目眩がする。
だが、笑い声が収まると同時に聞こえだした音が新たな恐怖をつれてきた。
敵軍の雪を踏みしめる軍靴が聞こえる。
その見えない視界の先にどれほどの軍勢が待ち受けているのか計り知れない。
千に届くほどの音が響き、否応なく気圧されていく。
だが、口上は果たした。後は全力で抗うのみ!
「《お母さんの魔法の調理術》!!」
「《規律のスイートボディシェル》!!」
俺とローカロリーがほぼ同時にユニークスキルを発動させる。
戦いの火蓋は、今切っておとされた。
「魔法使い班は、エリアエフェクトを無効化するつもりで炎を中心に面制圧してくれ!」
「「了解!!」」
大地から光が立ち昇り、様々な紋様の魔法陣が描かれる。
第二部隊の火球の雨が放射状に放たれていき、天空には雷雲が立ちこめ、雷音が轟き始めた。
敵軍からの無数の雷は第三部隊が展開した巨大ドーム状の防護結界で阻まれ、バチバチという音と共に空気に焦げた香りが混ざりだす。
第一部隊の放つ火柱は、連続で強い振動と方向感覚が狂う爆音をふりまき、猛吹雪の中にわずかながらの切れ間を作りだした。
その姿を少しずつさらし始める。第二形態とは違い、まるで動く要塞。
目をあわすことすら許されないほどの重圧を感じる。
「アイムマヨラー! 課金アイテムでどうにかできない?」
「店長の命でもかかっていない限り、拙者の老後を守るでござる」
「他の人はどうだ!?」
「無茶ゆうなよガッツリンさん! どれだけ長引くかわかんねーのに、無計画に課金アイテムを使えっかよ!」
俺のユニークスキルで底上げしているのもあり、敵軍の魔法師団とも互角以上に展開できている。
「ボスが介入してくる一撃さえしのげばどうにかなるな!」
「削っていけば何とかなるぞ!」
勝てる見込みもでたので、無理をしない方針で作戦を立てていった。
その矢先──。
「マロンさんだニャ~!」
双眼鏡で戦場をチェックしていた店長が、敵の機動魔法部隊の中にタヌキャットのグループを発見。
マロンもこの戦線に参加しているのを見つけ、店長は一人でも暴走しそう。
「店長は絶対に突っこまないで! ローカロリー! 店長から離れないように!」
「うん、分かってる! 店長さん、マロンさんはまた今度ね?」
「マロンさんには攻撃しないで欲しいんだニャ~!!」
店長には危険なので、願いを叶えようとするも戦線としては厳しくなった。
魔法戦なら圧倒出来るはずだったのに、マロンを倒さないようにするのは難易度SSSランクだ。しかもマロンは異常に敏捷が高い。
「シャーーー!!」
飛行魔法を使ったマロンが翔けぬけた空中の軌跡に、無数の魔法陣が浮かびあがり紫の電撃が龍を模して暴れだす。
「マロンに当てないように岩石魔法で応戦してくれ!」
しかし、中途半端な攻撃が返って戦場を混乱に陥れていた。
苦しい局面が続く。
そんな中、戦場へ転送ポータルのエフェクトとSEが無数に出現する。
光の柱から、埴の率いるワンバウンドのパーティーの面々が次々と現れだした。
「ガッツリン、苦戦しているようだが、私と手を組むのなら助勢してやらんでもない。どうだ?」
「ワンバウンド! お前が俺に何をしたか分かってるのか?」
「この局面で手をふり払うほど愚かでもあるまい? ソルトカットを1位から引きずりおろすことに同意するで良いな?」
確かに埴の言う通り、現状では手を借りない選択肢はない。
だが、奴に借りを作るのはリスクが高いし、悪辣な方法で翔を1位から引きずりおろすのは俺の求めている結果じゃないんだ。
高速で思考を巡らせ、埴が食いつくメリットを検討していく。
「そういやお前、まだユニークスキルは進化していないんだな?」
「あぁ、マスターバリスタを所有する者が数名がかりでも、そこの不細工な銀狸の珈琲効果が再現できない。さらなる上位スキルがあるのは興味深い」
埴はスキルのレンタルができなかったことで、奪えない上位スキルの存在を疑っている。
だが、一切スキルを保有していない店長から奪える訳がない。
(ここか? ハッタリのかけどころは)
「一度も飲んでないならそらスキル研究も進まねぇだろ? 取引と行かないか?」
──続く問答と利害交渉。
どうやらフィッシュオンでき、俺は腰の辺りで小さくガッツポーズをとる。
ハッタリに気づかず、埴は満足そうな笑みを浮かべた。
「ふむ、利が大きいと判断した。報酬はお食事券13枚で手を打とう。契約成立だ」
埴たちが、脱出不可能を示すエフェクトの中へと雪崩れこんできた。
正直、思う所はあるが、仲間とすれば頼もしい奴ではある。
店長のためだと言い聞かせ、となりまで近づいてきたワンバウンドへ拳を突きだす。
「理解しがたい意味のない行動だな」
意味がないと言いつつ、ワンバウンドも拳をあわせてきた。
これは信頼の証。わだかまりを捨て、俺たちはボスに対し今、並び立った。





