第二十六話 裏切り
〜ここまでのあらすじ〜
店長の想いを受け、皆で協力して店長のラブレター作戦を手伝うことになった。
合同パーティーでマロン捜索をしていたところ、新規実装のレイドボスと遭遇。
最初は優勢も第二形態で苦しい展開となり、突如スキルが消えた。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー:鳴戸 蓮華
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ジタンレシピー
ガッツリンが所属するギルドのギルドマスター。
・ワンバウンド:埴 津丸
学区2位の男。理屈屋で余計な一言が多い。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の猫。語尾はニャ~。
「時間になっても合流場所へ現れる気配がないから、仕方なく出向いてやった。私のユニークスキル《レンタル魔法》でお前のスキルを借りている。違約金と遅延金代わりにな」
埴の操作するワンバウンド。
彼のパーティーがボスフィールドの外側に見える。
ワンバウンドの声がフィールド内へ響くが、内容は全く頭に入ってこない。
は? 俺のスキルを借りた?
そう言えば、協力関係の締結云々がなんだと、長ったらしいメールをもらっていたことを思いだす。
いつもの如く一方的に宣言しているだけだと流していたし、俺としては違約金なんて寝耳に水の話だ。
「ワンバウンド! ふざけるなよ! 今すぐスキルを戻せ!」
俺の声が聞こえているのか分からない。
ワンバウンドは特に動きを示していないが、ボスフィールド内のこちらは、部外者の様子を気にしている余裕がない。
いきなり俺のユニークスキルの恩恵が消えたものだから、皆は軽くパニックな上、拮抗していた敵との戦力差が如実なものとなってしまう。
「うわぁ、こっちくんな!」
レオランウータイガーが標的に定めたタンク役が狙われる。
しかし、誰もが自分自身を立て直すのに精一杯。
第二形態となって装甲を身に纏ったレオランウータイガーは、まるで人型大型ロボット。
動くたびに周囲に氷結エフェクトを撒き散らし、タンク役を嬲りつつ追い詰め、反撃も装甲で弾き返して一方的に蹂躙。
合同パーティーには絶望感が漂い、さっきまでは心地よかった戦闘音も、心の芯を抉る不快な音に聞こえ始めた。
敵の一撃が大地に打ちおろされ、世界のすべてが震え、足が縫いつけられたかの如く竦んでいく。
タンク役だけでなく、攻撃の余波だけで近くにいた前衛までもが氷像と化し、赤の死亡エフェクトを撒き散らして砕け散った。
再び立ちこめ始めた冷気に体の芯から凍てつき、仲間の死に戦意さえも凍りついていく。
こんなはずではなかった。
スキルさえ維持できればまだ戦えるはずだ。
「ワンバウンド! 聞こえているか? こっちは緊急事態なんだ。すぐにスキルを返してくれ! 頼む!」
ふり返って言葉を届ける余裕はなく、背後にいるであろうワンバウンドへと声をかけ続ける。
前衛の攻撃役とタンク役が二枚も一気に減ったことで、戦線の維持が難しくなっている。
早めにスキルで立て直す必要があった。
必死で指揮をとる中、背後からワンバウンドの声を拾う。
「必要性が皆無だな。今から返却しても全滅する事実は変わらない。その程度のことも分からないのか? このスキルは私の方が有意義に活用できる。故にレンタル期間の最長まで預かっておこう。さらばだ!」
さらばだ! じゃねーよ、ふざけんな!
あくまでボスフィールドの外から傍観者の態度を貫くワンバウンド。
文句を言おうとしたら、背後から転送ポータルの起動音が聞こえてきた。
だが、店長が狙われたことでワンバウンドへ意識を割く余裕は消失する。
「店長、そこから逃げろ!」
「わわっ、どこに逃げればいいニャ~?」
ついに一番恐れていた事態に。
ボスのヘイトがガシマ店長へ向いてしまい、店長も銃火器を取りだして応戦しているが、薄着で猛吹雪に特攻するような無謀さを感じる。
ドガガガガ!!
店長がマシンガンでボスを足止めしようとしても、着弾を意に介さず敵は突進を続けた。
「も、もうダメだニャ~……」
諦めてしまいそうになったとき、ヴァンパイアマントを靡かせたTKGがボスとの間に割りこんだ。
「偉大な純喫茶の師! 福音バーニング! 我の光が灯る限り不滅?」
「TKG氏、命の恩人なんだニャ~」
二人をサポートしたいが、迂闊に近づけば死ぬのは俺たちの方。
オリハルコン防具でも耐えられて二撃が限界だろう。
レオランウータイガーの攻撃力は異常だった。
恐ろしい巨体が氷の爪をふりかざし、尾を鞭と化して周囲を薙ぎ払う。
スキルを使って店長を庇いながら逃げるTKGと、サポートしようと近づいた他の仲間たち。
しかし、安易なヘルプは成功せず、複数の仲間から死亡エフェクトが撒き散らされた。
「《超速突進》! 《超速突進》!!」
TKGはスキル発動終わりに木々や岩に体が叩きつけられるのも厭わず、スキルを多用してガシマ店長を守りぬこうともがく。
まるでピンボールのような状態で激突を続け、敵の攻撃を受けてもいないのにTKGはボロボロだった。
魔法使い班と連携して遠距離から援護しているが、あまり効果は見られない。
数度の岩との激突を経て、TKGがガシマ店長を遠くへ放り投げる。
その光景に思わず俺も絶叫した。
「ニャ~!?」
「店長!! TKGなんで!?」
TKGの方を見ると、すべてのスキルエフェクトが消えていた。ガス欠だ。
地面を転がった後に体勢を立て直した店長が俺とTKGを交互に見る。
TKGはこちらをふり返ることなく敵へと向き直った。
「星を守る最後の防波堤の役を担う。偉大な純喫茶の師は輝きを背に疾く進め」
「TKG氏……」
「プロォォォンンプト!!」
目に涙を浮かべたガシマ店長は、ふり返ることなくこちらへ全力疾走を始めた。
TKGの「ここは俺に任せて先に行け」が伝わったのだと思う。
理解もしている。
TKGの命を賭した時間稼ぎの意味を。
仲間たちが繋いだわずかな時間で、俺も店長へと駆け寄った。
「店長! よく無事で」
「ガッツリン氏、TKG氏がピンチだニャ~」
俺と店長が合流を果たし抱きしめあう。
二人してボスの方を見ると、TKGが死亡エフェクトに包まれていく。
一瞬にして店長の涙腺が崩壊した。
「TKG氏!! うわぁぁぁぁぁぁぁニャ~~!!」
「店長、泣くのは後。今はとにかく逃げるよ!」
店長は未だにVRMMOの仕組みを理解していない。
TKGと二度と会えないかのように泣きじゃくる。
その様子に「もし、店長だったら」と考えてゾッとした。
俺の背後ではさらに仲間が二人散っていく。
脱出不可能を示すエフェクトがある限り、ここから逃げだすことは叶わない。
だけど、死んで戻ったプレイヤーたちが、ギルドへ救援要請をして駆けつけてくれることに一縷の希望を託し、ひたすら逃げ続ける。
俺の腕の中で不安そうにガシマ店長が口を開いた。
「ガッツリン氏、ガッツリン氏は死なないで欲しいんだニャ~」
「俺は死んでも復活できるから大丈夫。TKGもすぐに会えるからさ、そんなに泣くなよ店長」
店長を抱える腕に力をいれる。
守る。絶対に店長だけは。
◇◆◇◆◇
決意も虚しく、残るのは俺と店長、爆殺クチャラーだけになった。
「ガッツリン。後、一分だけきばり。TKGが絶対きよるはずや。俺がその最後の一分を稼ぐ」
そう言って爆殺クチャラーが前に立つ。
ガシマ店長は仲間が死んでいく光景を見続けたためか、レイプ目で放心状態だ。
そこへポータル起動音が次々と鳴りだす。
現れた人影を見て、店長の瞳は輝きをとり戻した。
「悠久待つ星か?」
「TKG氏! ローカロリー氏!」
「拙者もいるでござるよ!」
待望の援軍。TKGがローカロリーとアイムマヨラーをつれて戻ってきた。
さらにギルドマスターもギルドの精鋭をつれて到着。
怒涛の戦闘が展開されていく。
援軍は、尋常ではない強さでレイドボスを押し返していった。
特にアイムマヨラーはブランクがあるのに強すぎだと思う。
「マヨラー、なんでそんな強さを?」
「ふっふっふ。課金アイテムの力で御座るよ! 資本主義社会の本気を見せてやるで御座る」
俺たちは、新車を買えるほどの金額を注ぎこんだアイムマヨラーの本気を見ることになった。
───用語説明:
【星を守る最後の防波堤の役を担う】
中二病で無くても男子が一度は言ってみたいセリフ10年連続3位。
【課金アイテム】
基本無料で遊べるVRMMOだが、課金アイテムも充実している。
値段は数百円から数千万円まで存在し、文字通り金額に比例して強さは青天井。





