第二十四話 触れる手とすれ違う言葉
〜ここまでのあらすじ〜
店長の想いを受け、皆で協力して店長のラブレター作戦を手伝うことになった。
誕生日の密会が原因で萌奈香と大喧嘩をしたが一旦は和解済み。
完全に元通りとは言えない状況を打開するべく峰大は動き出した。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・ソルトカット:多部 翔
峰大の双子の兄。学区1位で全国でも5本の指。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー:鳴戸 蓮華
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
「なぁ、クチャラー。ローカロリーとの間を取り持ってくれよ。頼むよ」
『爆殺クチャラー:……あー、なんやそん日は調子わるうてな~』
何度目かの爆殺クチャラーとのやり取り。
未だに萌奈香との関係がギクシャクしたままで、俺としては早急に解決したいのに、何故か爆殺クチャラーが非協力的なんだ。
「へぇ~……狩りにはいけるのに間を取り持つ余裕は無いんだ?」
『爆殺クチャラー:そないにキツいことゆわんでもええやんか。俺にも都合ちゅうもんがあってな?』
少しトゲのある言い方をしてしまった。
本来は俺一人で解決する問題なのに、ちょっと思い通りにならないからって当たるのは違う。頭では分かっていても、出る言葉は鎖付きの凶器。振り回す程に無差別に傷つける。
このままではいけないと話題を変えた。
「なら、蓮華ちゃんのことだけでも協力してくれよ」
鳴戸 蓮華の生徒手帳を拾ってからというもの、俺は何度も学校へ届けに行った。
なのに女子高だからと門前払いを受けている。
警備AIに「生徒手帳を拾って届けに来ただけ」と伝えても取り付く島もない。
俺が現状を話すと「あ~」と残念そうな声を出すクチャラー。
『爆殺クチャラー:あの高校はそれでトラブルあってな。そないに大したことないんやけど……』
クチャラーの話を纏めると、届け物の口実で侵入した痴漢が居たらしく、今は色々と複雑な状況とのこと。
『爆殺クチャラー:そん女子生徒やったら、土曜日正午は商店街にいるはずやで』
「は? なんでそんな情報知ってんだよ?」
親身になって悩みを聞いてくれたどころか、何故か蓮華ちゃんの予定情報を持っていた。クチャラーは質問に答えられずしどろもどろになっている。
女子高の内情に詳しいことへ一抹の不安を覚えた。
「まさか、クチャラー……ストーカーとか?」
『爆殺クチャラー:そんなんするか! あれや、その……妹! 妹がおんねん!』
取り繕った苦しい言い訳にしか聞こえない。
クチャラーは大切な友人だし、俺の老婆心が疼いた。
「あのさ……いくら蓮華ちゃんが可愛くて好きになったからってストーカーはダメだ。生徒手帳を使ってまで不法侵入しようとしたなんて……悲しいよ」
『爆殺クチャラー:アホか! せんってゆうたやろ! 冤罪やし、ええ加減しつこいわ! 急用やし落ちる。ほな!』
通信は切れてしまった。
それなりに付き合いが長いし、動揺の仕方で嘘をついているかは分かる。クチャラーはクロだ。警察のお世話になる前に改心させよう。そう決意した。
◇◆◇◆◇商店街。
土曜日の正午。
ドーム状の冷房空間の外は蜃気楼で揺らめいているが、隔絶されたここは快適な温度に保たれて汗一つすら無い。
手元の生徒手帳を見つめ、ここへ来た経緯を思い返す。
先日の件をアイムマヨラーへ相談したら「犯罪に手を染めるような御方ではござらんよ。今までを信じるべきでござる」と、諭された。
協力してくれないことで不信感が少しあったけど、よくよく考えれば萌奈香との仲は俺の問題なんだし、クチャラーを悪く言うのは筋違いだろう。
商店街へ足を運んでみたは良いものの、心当たりがなく途方に暮れていた。
キョロキョロと辺りを見回していると、ふいに背後から可愛い声がかかる。
「あ、あの!」
振り返るとそこには写真と瓜二つの女の子が居た。
というか髪の色が異なるだけで、本人で間違いない。改めて見てみると本当に可愛い子だ。声をかけられたことに何だかドキドキしてしまう。
「あたしに何か用ですか? ガッ……いえ、お兄さん!」
偶然ではなく、俺を待っていた様子の蓮華ちゃん。意味が分からず俺は目元に力が入り、返答に詰まる。
数秒固まっていたら、蓮華ちゃんが不安げにこちらを見ていた。
「あたしに用があって来たんですよね? あ、兄から聞きました!」
なんだと!?
爆殺クチャラーが妹と言っていたのは妄想じゃなくて真実だったのか。
でも、俺のリアル知らないはずなんだけど?
「初めまして。俺、多部 峰大って言います。お兄さんは爆殺クチャラーで合ってる?」
「はい! 爆殺クチャラーはあたしの兄です!」
どうやら兄妹なのは確実なようだ。俺のリアルを知っているのなんて萌奈香と泰夢くらいだ。泰夢が俺のリアル割れをするなんて絶対あり得ない。
と、言う事は俺が思っているより、萌奈香と爆殺クチャラーは親密な関係だった疑惑が残る。そう考えれば、俺との仲直りに非協力的だったのも納得だ。
……嫌だな。
こんなことでも萌奈香を疑わないといけないのか。
嫌な気分で自然と視線が下がってしまう。すると、蓮華ちゃんが半歩後ずさって胸元を隠すように両腕を寄せた。
「あの……多部さん?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してて。本当はこれを返しに来たんだ」
生徒手帳を取り出して視線を上げると、何故か蓮華ちゃんの顔は真っ赤だった。
「以前、ここで会ったことがあるんだよ。そのときにこれを拾ったんだ。早く返したかったんだけど、色々とあって……」
「ありがとうございます」
さっきから蓮華ちゃんの態度がおかしい。
今も消え入りそうな声だし、受け取ろうとする手も震えていた。
「「あっ……」」
早く渡したくて伸ばした俺の手と、震えた彼女の指が触れて互いに声が漏れる。
彼女は超速で手を引っ込めてしまい、俺もつられて反射的に手を引っ込めた。まるで冬の静電気と遭遇したかのような反応に、思わず吹き出してしまう。
俺が笑うと彼女も笑ってくれた。
改めて渡そうと思ったとき、笑う彼女の肩越しに萌奈香の驚く顔が見えた。
「峰大……その子は誰なの? そっか……翔くんと会ってた私への当てつけ?」
頭の中が真っ白になった。
反応できずにいると、逃げていく萌奈香が遠目に見える。
突然、泰夢から殴られたことがフラッシュバックした。
「ごめん! 蓮華ちゃん!」
事態が飲み込めていない彼女にはそれだけを伝え、返事も聞かずに遠のいていく萌奈香の背を追いかける。
俺は馬鹿だ。またも自分のことだけだった。
ちゃんと向き合うと決めたばかりなのに情けない。
だから会ってキチンと謝る。それだけを考えて必死に走った。
「萌奈香! 待ってくれ!」
汗だくになりながら追い付き、萌奈香の腕を掴む。
「離してよ! 峰大なんか知らない!」
「なんだよ知らないって! 俺は謝ろうとしているだろ!? この分からず屋!」
咄嗟に出たいつもの軽口。萌奈香が涙を見せた瞬間、何かが壊れた気がした。
そこから続く激しい口論。
心とは裏腹に、口から出るのは見栄や意地で塗り固められた言葉たち。
「私は! 峰大のお母さんの代わりじゃない!」
その一言にショックを受け、掴んだ手を離してしまう。
◇◆◇◆◇峰大の部屋。
何が悪かったのか。幾ら考えても答えが出ない。
塞ぎ込んでいたとき、爆殺クチャラーから連絡が来た。
『爆殺クチャラー:えっと、妹とは会えたんか?』
壊れそうな心をかき集め、どうにか取り繕う。
「会えたよ。可愛かった。生徒手帳を返しそびれたことを謝っておいてくれよ」
俺はその後も蓮華ちゃんの可愛さを褒めちぎった。
ポジティブでいないと、心が押し潰されると思ったから。
可愛さを語るたびにはしゃぐクチャラー。妹が褒められて悪い気がしないのだろう。今思えば、兄バカとしての言動だったのかもな。
『爆殺クチャラー:可愛い思うなら妹はオススメやで。胸もデカかったやろ? ちょうど彼氏もおらんしぃ!』
「ハハハ……もし結婚したらクチャラーをお義兄さんって呼ばないといけないな」
乾いた笑いとジョークを返す。
慰めてくれるかと思いきや、急用があるといきなり切断されてしまった。
何か気に障ることを言っただろうか。
今はちょっと思考停止中で、心が追い付かない。
一人、ベッドの上で蹲る。色んなことがあり過ぎて手足の先まで凍えていた。
ふと珈琲の香りと味が蘇る。
とても苦い、なのに深い。優しくもあり温かい、お帰りの気持ちが籠った珈琲。
俺はそれが無性に飲みたくなって、VRMMOへログインした。





