第二十話 帽子タッグ
〜ここまでのあらすじ〜
店長の想いを受け、皆で協力して店長のラブレター作戦を手伝うことになった。
萌奈香との喧嘩を告白し、TKGから怒りの鉄拳を受けて目が覚める峰大。
峰大は萌奈香と仲直りするべく全力で動き始めた。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・ソルトカット:多部 翔
峰大の双子の兄。学区1位で全国でも5本の指。
・ジタンレシピー
ガッツリンが所属するギルドのギルドマスター。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の猫。語尾はニャ~。
・マロン
推定メスのタヌキャット。ガシマ店長が命名。
・テツジン
スキル《マスターソムリエ》を持つ凄腕の料理人。
あれから萌奈香にはどうにか謝罪できた。
泣き腫らしたと思われる赤い目元。俺の謝罪をぎこちない笑顔で迎えてくれた。
元通りの関係になるにはもう暫く時間がかかると思う。
萌奈香が語ってくれないから、翔との関係がどうなのかは分からない。だけど、俺が萌奈香を好きになったことは間違いじゃない。それに告白しないまま終わるのも嫌だ。
大好きな人といつでも会える、いつまでも会える。そんな日常はいきなり奪われると、店長の話を聞いて改めて思った。だからこそ、後悔しないように思いを伝えたい。
(でも、やっぱり1位になってから……だよな?)
1位になれたのなら、俺にも告白する勇気ができる気がする。
俺は今まで「萌奈香が一番大切」と言いながらも、本当は俺自身を一番大切にしてきた。告白するのに理由や条件が必要なのは、傷つくのが怖いから。
ガシマ店長たちのお陰でそれに気付くことが出来たし、変わりたいとも思う。
けど、翔を超えることには拘りたい。これは俺の最後のプライドだ。
心機一転、雨降って地固まる……と、いきたいところ。
1位を目指し、気合い入れるぞ!
◇◆◇◆◇ジタンレシピーの部屋。
「すみませんでした!」
俺はギルドマスターの部屋を訪れて、土下座をしているところだ。
遡ること数時間前。一通の新着メッセージが届く。
『ジタンレシピー:おい、ガッツリン。何か忘れてないか?』
(しまったーーー! 完全に忘れてたーーー!)
約束をすっぽかした上、連絡にも返事しないままだった。
それで慌てて謝罪に来ているのが今。
仁王立ちで俺を見下ろすギルドマスターは、超マッチョな髭男。だけど、見た目に反してプレイヤーは女性だ。しゃがれた声からそれなりの年齢なのは伺えるが、おっかなくて誰も年齢を尋ねたことは無い。
ひんやりオーラを纏ったギルドマスターが髭を擦り口を開く。
「で? 協力してくれているという噂のNPCは?」
もう隠し通せない。それにギルドマスターなら悪いようにはしないだろう。
「ガシマ店長と自称するNPCです。お呼びしても?」
念のため確認を取ると、鷹揚に頷くギルドマスター。
店長へメッセージを送り、こちらへ来て貰った。ドアの開閉音が部屋に響く。
「はじめましてニャ~。オラがガシマだニャ~。店長と呼んで欲しいんだニャ~」
入室した店長が物珍しそうにキョロキョロと見回し、ギルドマスターは驚いて目を丸くする。
「……随分と毛深い小柄族だな?」
「そうなんだニャ~」
「いや、店長。誤魔化さなくていいよ。帽子も取って本当のことを話そう」
俺は店長へ顔を向けてゆっくりと頷く。
少し迷っていた様子の店長が、おずおずと帽子を取ってギルドマスターへペコリとお辞儀をした。
「あらためて宜しくニャ~」
「なんでこんなところにタヌキャットが!?」
すかさず立ち上がって臨戦態勢になったギルドマスター。
尋常じゃなく警戒されるもどうにか和解し、協力の確約へと漕ぎ着けた。
「いくら経緯の説明を受けても理解不能だな。とりあえず危険が無いことだけは分かった」
「オラ、何もしてないのに酷い疑いようなんだニャ~」
店長は嘆いているがこれは仕方がない。
タヌキャットはその愛くるしい見た目とは裏腹に凶暴なモンスターで、プレイヤーの大半が初の死亡を経験するのがタヌキャットなのだ。
ギルドマスターが椅子に座り直し、頬杖をついて店長に語り掛ける。
「ところでガシマ店長。俺の方につかないか? ガッツリンよりも好待遇で迎えるし、何だったら喫茶店の店舗を貸与しても構わない」
「ま、マジかニャ~?」
買収しようとするギルドマスターと、満更でもない店長。
俺は慌てて二人の間に手を翳して割り込んだ。
「待て待て! 店長はうちの子ですよ! あげませんから!」
◇◆◇◆◇
暫く談笑した後、ギルドマスターは居住まいを正して口を開いた。
「ところでガッツリンにガシマ店長。相談があるんだが……」
聞くと、珈琲と組み合わせる料理でスキルの進化現象が確認できたとのこと。
最高峰の料理との組み合わせも試したいらしく、報酬は俺らがその恩恵の第一号となることと、マロン捜索への全面協力。
恩恵の第一号と言いつつ、被検体を兼ねられている気がしなくも無いが、背に腹は代えられない。
「俺はいいけど店長どうする?」
「マロンさんに早く会いたいニャ~」
店長の髭が揺れる。銀毛の頬がほわほわと緩み切っただらしない表情だ。
提案にOKを返すと甘味の最強スキルを持つ唯一の男が部屋へやってきた。
「お久しぶりです。店長殿」
誰かと思ったらテツジンだ。相変わらずのコック服とコック帽で見て一発で分かった。
店長はすかさずハンチング帽を深く被り直す。テツジンに対しては小柄族で守り通したいみたい。
まぁ、テツジンは円形脱毛症に凄く共感していたしな。
「テツジン氏、よろしくなんだニャ~」
「ええ、二人で革命を起こしてやりましょう!」
テツジンとガシマ店長の最強タッグがここに爆誕。眼光を鋭く光らせた二人はガシッと握手した。
肉球の感触で小柄族では無いとバレないかひやひやする。
俺の心配は他所に二人の会話は盛り上がっていく。聞き耳を立てていると、あの頃とは随分変わったらしい。
テツジンは店長に敗北してから料理の研鑽を積み、《グランパティシエ》を獲得するに至る。珈琲研究も重ね続け、《マスターバリスタ》も新たに獲得済み。
「私のマスターバリスタよりも、ガシマ店長の珈琲の方が上なのです。一体、何のスキルを使っているのか……」
悩むテツジンだが、そもそも店長はスキルを一切所持していないからな。完全に謎。だけど、珈琲にかける熱意も情熱も人一倍強い。
店長がテツジンの背をポンポンと叩き、励ましながら二人でキッチンへと向かった。今のあの二人が奏でる味のハーモニーがどうなるのかが楽しみ。
部屋には小麦粉とバターの焼けた香しい匂いと、格調高い豆の焙煎香が漂い出した。
◇◆◇◆◇
「皆様、お待たせしました」
「お待たせしたんだニャ~」
【華やかな和栗と珈琲のパリブレスト】
たっぷりと乗せられたアーモンドスライスを始めとした華やかなナッツたち。
詰め物にはホクホクの焼き栗も詰められていて、バターをふんだんに使ったプラリネクリームは珈琲を加えたアレンジがなされている。
香りだけで酔いそうな心地のそれを俺たちは夢中でたいらげた。
食事を終え、多幸感に包まれる。
高揚感と共に体から光の粒子が溢れ出す。俺の細胞全てが生まれ変わるようだ。
【ガッツリンはレベルアップしました!】
【《お母さんの苦悩と知恵袋》は《お母さんの魔法の調理術》へ進化しました!】
(ふぁ? ユニークスキルが進化したんですけど?)
すぐスキルウインドウを開き、詳細を確認していく。
店長が駆け寄ってくるのが半透明のウインドウ越しに見えた。
「ガッツリン氏、どうだったニャ~? オラ、渾身の一杯が淹れられたんだニャ~」
「店長ちょっとステイ。いやこれマジヤバイ」
以前はパッとしない能力だったのに、一気にチート級にまで跳ね上がっている。
《お母さんの魔法の調理術》:
──食材の組み合わせによる効果を最大限に引き出すスキル。さらに、食事の好みやアレルギーを考慮した料理を瞬時に編み出すことが可能。また、プレイヤーがパーティーリーダーの場合、他の全てのスキルの効果を2倍~10倍に常時高める。倍率はパーティー人数に比例する。
(いや、これマジぶっ壊れじゃね?)
───用語説明:
【グランパティシエ】
菓子職人の最高峰。その再現を可能とするスキルで、取得できたのは一人だけ。





