第十四話 ダブルイミフ
〜ここまでのあらすじ〜
峰大とガシマ店長は互いの告白をそれぞれ叶えるため、全力で動き始める。
峰大は新たにオリハルコン装備を揃え、学区ランキング1位を目指す。
店長は屋号看板と新コスチュームを手に入れ、野望へ一歩前進。 ☜イマココ
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・TKG:瀬瑠 泰夢
中学時代の同級生。中二病は高校からデビュー。
・爆殺クチャラー:鳴戸 蓮華
ネット上の親友。関西弁が特徴のエンジョイ勢。
・アイムマヨラー
時代劇風のキャラ作りをしているネトゲ廃人。
・ガシマ店長
喫茶店開業を目指す銀毛の二足歩行猫。語尾はニャ~。
◇◆◇◆◇《カカオベルの森》エリア。
力試しを兼ね、幻の食材を探しにカカオベルの森へ訪れた。
アレッピーの南西に位置するカカオベルは、気象変動が激しく今回の狩りでも既に豪雨と炎天下が二度サイクルし、辺りは蒸し暑さと雨上がりの香りが立ち込める。
濡れた木々の合間に見えるメンバーはアイムマヨラーを除くいつもの面子だ。
凶悪なモンスターが多く、今までアイムマヨラーが不在のときには狩りを避けていた場所。
だからこそ強くなった実感を得るのに相応しいと、満場一致で訪れたが、やはり敵に囲まれてしまう。
「ようさんおいでなさったで。完全に囲まれとるやないけ」
「早くて回数だけ多い人はしつこいし、苦手だなぁ」
敵はこのエリアで最速を誇るイタチーター。
数を把握しやすくするため木々が開けたポイントへ向かう。
対応を誤ると「ずっと俺のターン」を仕掛けられてしまう非常に厄介な敵だ。
ローカロリーへ襲い掛かったイタチーターをTKGが突き技で倒す。
「可憐な乙女よ、約定が集う地へプロンプト!」
「皆ありがとう。私、今、お姫様気分だよ!」
近接戦闘に弱い後衛職であるローカロリーの守りを固め、光が零れるポイントへとひた走った。
やっとの思いで戦闘スペースが確保できるポイントへ躍り出て、見通しが立ったことにホッと一息つく。
「ガッツリン、ぼさっとするなや! TKG、数の把握できとるか?」
「爆殺筋肉の豪傑、淡い感触コレクション十七だ。各々奏でるタクトは週明けの彼は誰時か?」
会話の合間にも四匹のイタチーターが矢のように地を駆け、別々の方角から強襲してきた。中型二輪のサイズ感なので、迫ってくる威圧感はハンパない。
迫りくる爪は双剣で叩き落し、残りは視線で牽制しながら高速で頭を働かせる。
「クチャラーは西側に絨毯爆撃を! 俺とTKGで東側に誘導! ローカロリーは詠唱準備しといて!」
方針が決まるや否や「待っとったわ」と言わんばかりに爆殺クチャラーが全火力を叩き込む。
イタチーターらは、まるで突風の如き速さで蜘蛛の子を散らす。草木が揺れるのを目で捉えたときには、既に居ない。けれど、炎を嫌がり西は避け始めた。
TKGと連携して東側へ追いやっていく。正確には東側が隙だと認識させる。
「オラオラァ! 東以外は俺たちに隙はねぇぞ! その自慢のスピードを活かすのはどこか考えろよな!」
「我が同胞よ、荒ぶる舞い終焉へ我も共鳴が困難なり」
「わりぃ!」
TKGには窘められてしまったが、気分は高揚していく。
今、俺は凄い勢いで成長を実感している。
強敵だったイタチーターが相手でも、ダメージ量、スピード共に負けず、一撃で致命傷を狙える強さになった。
これも珈琲のお陰でパラメータが上がり、オリハルコン装備を揃えたからこその恩恵。先々週とは見違えるほどに充実している。
大地を踏みしめ、ズシリとした重みを感じる二本の大振りシミターを振り回す。
「《短冊切り》発動!」
縦横の斬撃を繰り出し、強力な双剣スキルを発動させたら敵は細切れになった。
すかさずTKGから茶化す野次が飛ぶ。
「震天動地、煌めく光陰の如し刃我が同胞よ」
「それ言うならお前もな!」
この強さを手に入れるには秋までかかったと思う。短期間で実現できたのは明らかに店長の珈琲のお陰。本人の居ない所で拝んでおこう。さすガシマと。
◇◆◇◆◇
「なんや楽勝やったな。こないに弱かったか?」
「これなら私、一晩中でもイケちゃうよ!」
集めたイタチーターをローカロリーの魔法で一網打尽にしてあっさり戦闘終了。
焼き焦げる周辺の様子から、ローカロリーの魔力も爆上がりなのは間違いない。
蒸し焼きになりそうな余熱に煽られ汗が吹き出し、服が肌に張り付く。
持ってきていた水で喉を潤していると、同じく水分を摂っているローカロリーに視線を奪われ、目が離せなくなった。
「ん? どうしたのガッツリン? 私のことをジッと見て。惚れ惚れしちゃった?」
ローカロリーの言葉にドキッとする。
爆殺クチャラーがバレバレだと言っていたように、萌奈香に想いがバレていたらどうしようと焦り、目が泳いだ。
訝し気に思ったのか、ローカロリーは近寄り俺の名を呼び始めたけれど、必死に視線と話題を反らした。
「そ、そういや今度の目玉イベント。どれに挑む? アイムマヨラーも居ないとキツイよな?」
「店長さんのお店にも随分とご無沙汰だよね。私、アフターの営業メッセージ送ろうかな?」
「なんや誤解招きそうな言い方すんなやローカロリー。アイムマヨラーはんは、デスマやから動けんゆうとったで」
大型アップデートに連動したイベントの話題が盛り上がっていく中、どうにもTKGの様子がおかしい。
「TKG? どうかした?」
TKGはマントをばっさばっさと扇ぎ、超絶早口で一気に捲し立ててくる。
「麗しき女神の拙者ヴォイスは久遠にミッシング彼方へ、失われしチートディも禁断シンプトムぞ。ルーツ銀河開闢来たるディストピア魔界かシンパシー?」
俺たちは肩をすくめ、やれやれといった感じで返してやった。
「思わへん思わへん」
「過去のメッセージなら、何度も声聴けるよ!」
今回のは、TKG語を翻訳しても意味不明だ。意味としては「アイムマヨラーの声を久しく聴いていない。摂取不足で禁断症状が出ているくらいだ。これは宇宙開闢以来の由々しき事態だとは思わないか」って感じの意味合いになるのだが、元の意味が既に中二病ポエム化していてダブルでイミフである。
超訳すれば「会えなくて寂しい」になるな。
「仕事が忙しいんだろうし無理はさせられないよな。他の候補を当たって見るか?」
俺は会話の途中から囲まれている気配を察し、声のトーンを下げていく。
皆にも気付いて貰えたようで、爆殺クチャラーもキョロキョロと見回す。
「お代わりがおいではったで?」
イタチーターが囲んでいるのは間違いないが、それ以上に危険な感じがする。
「嫌な予感がするし、撤退しよう」
「絶縁タブーの禁忌領域!」
TKGに言われるまでもなく理解している。
敏捷性でイタチーターに敵うはずもないので、ここで迎え撃つのが正解だと。
それでも嫌な感じが拭えない。
「皆、迎撃態勢! でも、何があるか分からないから最大限警戒してくれ!」
そうしてなし崩し的に戦闘へと縺れ込む。
数は先程と大して変わらないので同じ対応を繰り返す。
ローカロリーの詠唱も完了し、いざトドメという局面で変化が訪れた。
「なんや、ゴリラーテルがおるで」
クチャラーが発見したゴリラーテル。
パワーとタフネスを兼ね備えた獰猛な敵で、恐ろしいほど好戦的なモンスター。
新調した装備一式が無かったら全滅必至の強敵も、今ならば倒せる相手だろう。
「なら、問題ないな。イタチーターを仕留めた後に相手しよう」
「我が同胞よ、何壮語マウス薫る死の香! 巌窟の猿熊王は三体も放たれし矢文?」
TKGが叫んだ内容に、俺や爆殺クチャラーの「は?」の声が被った。
ゴリラーテルとの死闘はまさに極限状態。
一体ですら強敵なのに、三体は難度設計を間違っていると思う。
イタチーターよりも遥かに大きく、大型二輪を思わせる圧迫感が漂う。
獰猛なゴリラーテルの猛攻を、俺は苛立ちつつも捌く。
「なんだよこのクソゲー!」
「ガッツリン、お下品だよ? 快便じゃないゲームって言おうね」
緊張感の無い天然発言。彼女を庇い続けたTKGは既に虫の息で、ローカロリー自身も足を負傷して動けない。
今も爆殺クチャラーが地面を転がりながら、敵の足元を爆発させて追撃を凌いでいた。そして起き上がりざまに反撃を繰り出す。
───用語説明:
【カカオベルの森】
都市カカオベルの近場にある森。都市カカオベルは高レベル帯のプレイヤーが辿り着ける都市のため、隣接しているカカオベルの森も難易度が高い。
【イタチーター】
まるで疾風の如き俊足を持つモンスターで、並みの敏捷だと太刀打ちできない。
【ゴリラーテル】
従来は中ボスとして登場するモンスター。凶暴且つ好戦的で外皮が極めて硬い。
【スキル《短冊切り》】
双剣スタイルの上位の切りスキル。縦横の斬撃を無数に繰り出す。




