冒険者ギルド
結局、1人1キロ食った。
肉じゃなく、手持ちの塩が無くなった。
小さなポーチに少し入っていただけだしね。
まあ、みんな十分満足してくれたようだったからよかった。
じっくりあぶってから食べていると、エンドレスなのではないだろうか?
鉄板がほしいところ。
日も傾いてきたので撤収し街に向かう。
街は外壁に囲われていた。
高さは5mほど。石造りだ。
門は巨大な木製。
日が暮れると閉めるそうだ。
そこに門番が立っている。
マリーたちは何かのカードを門番に見せていた。
ん、これはお決まりのパターンかな。
こそっと紛れて入ろうとしたら捕まるとか。
さてどうしよう。
戸惑っていると門番が話しかけてきた。
「ん?同じパーティじゃないのか?ギルド証を無くしたか?」
「いえ、あの・・・森の中で迷子になりまして」
「は!?迷子?この先にゃフォレストワースしかねぇぞ」
「ええと、森の中で一人暮らしをしていました」
「近くに集落とかなかったか?」
あったけれども、固有名詞を出すと何があるか分からない。
「全く分からないです」
「怪しい・・・」
「えっ!」
「怪しいっちゃ怪しいが。エルフは人里離れた森の中でひっそりと暮らしているって言うしなぁ。どっちの方から来たんだ?」
「あっちですかね」
南西の方向を指さす。門番の視線がマリーたちに流れると、みんなもうなずく。
「そりゃ、森しかねぇな・・・入っていいぞ」
「ありがとうございます」
問題無く入れそうなのでほっとした。
「銀貨一枚だ」
「えっ!?」
やばい、お金は一切持っていない。
涙目でマリーを見た。
「そのぐらい、いいですよ。はいっ」
マリーは銀貨を門番に渡す。
笑顔のマリーと対照的に、男の子たちからは動揺が見て取れる。
様子からしてマリーが財布を握っていると思ったけど、なに?
普段のマリーはお金に厳しいの?
その笑顔、怖くなってきました。
「毛皮が売れたらすぐに返すから」
「いいですよ。今日はとってもお世話になりましたから」
門を抜けると小さい広場になっていた。
まっすぐに大通りが続く。地面は石畳。馬車が余裕をもってすれ違えるだけの幅がある。
建物の壁はレンガ。密集して立っていて、だいたいが2階~3階建て。
大通り以外の路地は狭そうだ。
しばらく進むと中央広場に出た。
そこには、領主館や各種ギルドの建物が軒を連ねている。
そのひとつ冒険者ギルドに入っていく。
マリーが先頭で・・・。
マリー強いな。
リーダーはジークじゃなくてマリーなんだろうか?
いや、手ぶらなマリーが扉を開けて閉まらないように抑えている。
偏見はいけない。マリーは気づかいのできるいい子だ。きっと。
中に入ると、ざわついていた。
ガラの悪い連中が皆、こちらを見ている。
こわっ!
金玉が縮み上がりそうだ。・・・今は無いけど。
見た目だけじゃなく武装しているってのがね。
トラブルが起きたら簡単に死人が出そうだよ。
うちらは、ちっこくて、ひょろっとしていて、自分を含めて強そうには見えない。
これ、獲物を売ってお金をもらうのはいいけれど、ギルドを出た瞬間にカツアゲされたりしないんだろうか。心配になってきた。
男共は素材の買取カウンターに並ぶ。
マリーは人の少ない受付に並んで手招きする。
受け付けは3つ。きれいな女の人の受付には人が多い。あ~、パッと見た感じ冒険者はほとんど男のようだし。さもあらん。
マリーの受付は中年のおっさんだ。
すぐに順番が回ってくる。
「はいこれ、ゴブリン3匹」
マリーはゴブリンの右耳を3つ、並べた。
「おっ、おまえら魔物を刈れるようになったのか」
「へへーっ、ちょっと危なかったけど」
「ん!まさか、3匹同時か!?」
「・・・」
マリーはうつむいて反省しているようだ。
「最初は、一匹づつにしておけ。近くに仲間がいることもあるしな」
「はーい」
「ほい。ゴブリン3匹の討伐報酬、30Crだ。魔石は買取カウンターな」
おっさんは、銀貨3枚を置く。
「で、後ろのべっぴんさんは知り合いか?」
さっきから、チラチラと視線を感じていたから、まあ、そう来るよね。
「そう。助けてもらったの」
「どうも・・・。リュー・・・といいます」
自分の名前を忘れそうになったよ。
「するってえと、そのグレートボアを狩ったのはお前さんか」
「はぃ」
返事が小さくなってしまった。その怖い顔を近づけないでもらえないでしょうか。と、言いたい。おっさんは筋骨隆々。頬に傷まである。受付なんてやってないで、冒険者として働いたらどうだと勧めたい。
「腕の立つ冒険者は大歓迎だ。どこから来たんだ?ランクは?」
「え、ええとですね・・・」
差し出された手を前に、おろおろしてしまう。
気の利くマリーは、すぐに助け船を出してくれた。
「お姉さんは、森から出てきたばかりで冒険者じゃないの。後、男の人が苦手なんだって!その汚い手、引っ込めてもらえる?」
そう言って、おっさんの手をペシッとたたく。
「おい、おい、汚い手は無いだろう。それと、すまなかったな。次から気を付けるよ」
おっさんは痛くも無いはずの手をさすっていた。
「エルフって本当に森に住んでいるんだな。んで、どうする?新規登録するか?その話じゃ、身分証も何も無いだろう。冒険者章は身分証代わりになる。あと、ギルド員以外だと、素材の買取も少し低くなるしな」
「いえ、森は危ないので街中で暮らそうかと・・・」
おっさんの視線をおなかに感じる。そういえば、おなか丸出しだった。チラ見じゃなくて凝視すんな。荷物は足元に置いていたので片手を離しておなかを隠す。ちょっと恥ずかしい。
「それ、魔物にやられたのか?」
「ええ、まぁ」
「よく生きてたな。エリクサーでも使ったのか?」
明らかに、ざわついた。ただでさえおなか丸出しで目立っているのに、金のにおいを嗅ぎつけた連中までもが横目で見ている感じがする。エリクサーは伝説の治療薬だ。四肢の欠損すら治してしまう。ダンジョンでまれに発見されオークションに出される。それらは王侯貴族や大商人が買っていく。だいたい100万Cr前後(一億円くらい!?)。一般に出回ることは無い。エルフはめったに見ないので森の中での暮らしもあまり知られていない。エレーナも自分以外のエルフに会ったことは無い。おっさんはエリクサーくらい持っているんじゃないかと軽い気持ちで鎌をかけてきただけだったのだが。
「そんなもの持っているわけないじゃないですか。細いから、おなかを引っ込めたらギリギリかすり傷で済みました」
おっさんは納得していない顔をしているが、ここは押し通す。エレーナの記憶からエリクサーの価値は分かっている。持ってもいないものを狙われるなんて最悪だ。しかし、神様が・・・なんて話も出来ない。
「他に、身分証を手に入れる方法は無いんですか?」
「ん~、俺も詳しくは知らないが、商業ギルドは元手や店が必要だし、錬金ギルドは魔法学園の卒業資格が必要だとかなんとか。他にはなんだ・・・あ~、鍛冶や木こりも違うだろ。冒険者ギルドなら銀貨一枚だ」
「なにか義務が発生したりしますか?」
「義務?」
「強制的に、依頼を受けさせられたりとか」
「それはある。じゃ、ちょっと説明するか。冒険者にはランクがある。A~F。初回登録時は、Fだ。で、Dより上になると、強制依頼というものがある。街が危険にさらされたときとか、みんなで力を合わせてなんとかしましょうってヤツだ。めったに無いがな。ま、お前だけ死んで来いなんて言わねーよ。ただ、ランクが上がれば難しくて報酬の高い依頼も受けられるようにもなる。Cランクでも街中で働いている連中よりはよっぽど稼いでいるぜ」
「辞めるのっていつでもできます?」
「あぁ」
「お金がかかったりとか?」
「無い!用心深いのはいいけどな。別にヤバイ組織ってわけじゃねぇぞ。片付け、買い物の手伝いから、どぶさらいなんて依頼もあるし」
(ちなみに片付けは倉庫、買い物とは仕入れで軽く数十キロの荷物を持たされたりするが、おっさんはそんなことは言わない。)
「ん~・・・じゃ、登録お願いします」
「おう。よろしく。それじゃ、ここに名前と、年齢、特技を書いてくれ」
おっさんは紙をテーブルに置く。
紙は、これ羊皮紙ってヤツかな。ペンは羽ペンだ。
さて、言葉は通じたし文字も同じかな。エレーナの記憶にある文字を思い出す。
「なんだ?かわりに書こうか?」
「大丈夫です」
名前はリューにしたんだったな。有名なラノベでそんな名前のエルフがいたような。きっとおかしくは無いだろう。年齢は・・・、もう39で通そう。一歳なんて誤差だろ。気になったのでちらっとおっさんの顔を覗いてみたら目を丸くしていた。そうなんです。この見た目でこの歳なんですよ。自分の顔は見たこと無いが、手を見ると分かる。シワもしみも無い若い肌だ。なんならマリーの手よりも若々しくて張りがある。
「なにか?」
「あ、いゃ~、やっぱエルフって長寿なんだなと・・・」
この先、自己紹介すると毎回このやりとりが発生するのか。どうせわからないんだから、19って書けばよかった!!!文字は問題無いというのは良くわかった!
「特技とは?」
「弓とか剣とか。弓でいいと思うぞ」
そりゃ、弓と矢筒を持っていればそうなるか。
宴会芸とか書いたら怒られそうだな。なんかちょっと余裕が出てきた。
おっさんは紙を受け取ると余白にサラサラ書き足している。
『種族エルフ。金髪金眼。細身。』
まだまだ余白は余っているのに端に小さく書いている。この紙はそのうち個人情報満載になるのだろう。
「じゃ、これに手を乗っけてくれ」
使い込まれた長方形の木の板が出てきた。
端は金属で装飾、補強されている。
片側に魔法陣っぽい丸い模様が。反対側にビー玉のようなものが複数埋め込まれている。
「ここですか?」
「あぁ」
丸い模様の上に、おそるおそる手を置いてみる。すると、ビー玉が何個か淡く光っているようだがここからでは非常に見難い。
「おっ、意外とあるな」
おっさんは顔をビー玉に近づけてしばらく見ていた。
「レベル21かな」
おっさんはさらっと紙に記入。レベルがある世界キター!
「おー。すごいですね」
マリーが感心している。
だいたい意味は分かるが一応聞いておく。
「レベルって何ですか?」
「魔物を倒していくとだんだん身体が強化されていくことは知っていると思うが。その度合いを表した数値だ。最近この測定装置が開発されたんだ。まだ他国じゃ普及していない代物だぜ」
なんでおっさんがどや顔するんだよ。どおりでエレーナの知識に無いと思った。
「だいたいレベルで10くらい差があると、筋力で2倍ぐらいの差があるって話だ」
レベル21だとレベル1の4倍か。この細腕で重い荷物を持てるのはそういう事なのか。
「マリーは?」
「レベル2です・・・」
ゴブリン倒したの今回が初めてって話だしな。
子供ならこんなものか。
しかし、主に動物を狩ってきた自分が21。ということは、魔物以外を倒しても上がるものなのかもね。マリーが2というのも・・・肉を食べただけでも上がるとか?
「冒険者章を作るから、ちょっと待っててくれ。素材を売るなら隣のカウンターでな」
おっさんは奥に引っ込んでいった。
この時間は混んでいるらしくジーク達の後ろにももう何組か並んでいる。
マリーはジーク達のところに行こうとしてリューを引っ張ったが、後ろに並ぶ人達にガン見されたので遠慮して最後尾に並んだ。マリーも当然ついてくる。
するとギルドの扉が開いてジーク達と年齢が近そうな少年パーティ4人組が入ってきた。
上機嫌に話し込んでいる。どうやらゴブリンを何匹も倒したらしい。受付のカウンターに並ぼうとして買取カウンターにいるジーク達に気が付く。ジークも少年たちを見ている。
あれ!?なんか不穏な空気。
「大丈夫なの?」
こっそりマリーに聞いてみた。
「いつもの事なの。はぁ・・・」
マリーはため息をついた。
「何?ライバルとか?」
ちょっと声のトーンが上がってしまったかもしれない。
「街の子供たちのパーティで、わたしたち孤児とはちょっと仲が悪い感じ。同じく今年から登録したから張り合ってくるの。パーティ名もシルバーウルフだって、絶対に私らのパーティ名を聞いてから決めたに違いないんだから」
マリーはご機嫌斜めだな。
見ているとシルバーウルフの少年たちはニヤニヤと笑いながらジークに近づいていく。
「オレ達今日はゴブリン4匹だぜ!お前らは何だ?薬草取りもあきらめて、薪でも拾ってきたのか?」
パンパンに詰まった袋を見て何か勘違いをしているらしい。
「オレ達も今日は、ゴブリン3匹なんだよ」
ジークそういいながら腰に吊った剣をたたく。
「な、なんだ、ようやく剣を買って討伐依頼を受けられるようになったのかよ。でも俺たちは4匹」
少々焦った感じではあったがさらにマウントを取ってこようとする。
少年たちの世界だなぁ。なんかほほえましい。武装していなければね・・・。
そのタイミングで買取カウンターが空いてジーク達の順番が来た。
「でも、オレ達これだから」
ドン!
ジークはことさら重さをアピールしながら袋をカウンターに乗せる。
そして中身を見せびらかした。
ドン! ドン! ドン!
すかさず、アレン、ジョン、トムも袋を置く。
「な、ななな、なんの肉だよそれ・・・ゴブリンの肉なんて持ってきたって売れないんだかんな!」
ジークはその質問に答えず買取カウンターの職員に向き直る。
「グレートボアの肉。買取お願いしま~す」
そして、振り向いた顔は、いやらしくも勝ち誇ったような顔だった。
ジークに突っかかっていた男の子はみるみる顔が真っ赤になっていく。
「グ、グレートボア!おまえらなんかが絶対に倒せるはずがねぇ!どこから盗んできたんだよ!このコソ泥野郎!」
今にも喧嘩が始まりそうな勢いだったが、買取カウンターのお兄さんから横やりが入る。
「コラ!うるさいぞ!ガキども!ギルド内で喧嘩しようなんてお前らいい度胸だな」
「ひっごめんなさい・・・。お前ら、この程度で勝った気になってるんじゃねぇぞ!」
捨て台詞を残してギルドから出ていく少年。そして、オロオロとしながらついていくシルバーウルフの面々。
「ゴブリンの討伐報酬も受け取らずにいいのかな」
「どうせすぐに戻ってくるわよ」
マリーは呆れている。え?ここまで毎日こんな感じ?
「解体は問題無いんだけどなー、次はもうちょっとキレイにして持って来いよ」
「あはは、すみません」
ジークが買取カウンターのお兄さんと話している。
「それと、薬草は買取なしでいいか?」
お兄さんは、袋の下の方から、血だらけで押しつぶされた薬草をつまみ上げている。
「はい、いいです」
「じゃ、142Kgで2840Crな。あと、ゴブの魔石3つで60Cr。合計2900Cr」
カウンターには小金貨29枚が置かれた。
「うぉー!すげぇ!」
ジーク達は歓喜の声を上げてそれを手に取ろうとしたが、脇からその手をつかんだのはマリーだった。さっきまで隣にいたのにいつの間に。
「はい。これは私が預かっておきます」
ジーク達のテンションがガタ落ちだよ。
いくらパーティの財布を預かっていたとしても、そこは後でジークから受け取ってもいいんじゃないかなぁ。はたから見てる限りでは面白いけどね。
マリー達はそのまま移動し、テーブルを囲んで楽しそうに話している。
お金の使い道についていろいろ考えているときは楽しいよね。
けどそれ、1Kgで20Crは固いと言っていた最低額なんだけど・・・まぁいいか。
そうこうしている間に自分の順番が回ってきた。
重い袋を置く。多少食べて軽くなっているけど。
毛皮と牙と肉。
「毛皮はすごいな、目立った傷無しかよ。牙も立派だ。さっきの肉も嬢ちゃんが解体を?」
「あ、はい」
「なかなかいい腕だな」
「ありがとうございます」
「魔石は?」
魔石はいろいろと使い道があるし、いつでも売れるので1つくらいは手元に持っておきたい。
「今回はやめときます」
「そうか、それは残念」
「内臓とかは?」
「重すぎて無理でした」
「いくつか制約もあるけど、ギルドからポーターを派遣することも出来る。大物を仕留めたときなんかは相談してくれ。外皮が固い奴なら一晩くらい放っておいても他の魔物に食われないこともあるからな」
「大物なんて狩る予定はないですよ」
「そうか?じゃ、毛皮で600Cr。牙600Cr。肉4.8Kgだがおまけで100Cr。合計1300Cr」
小金貨が13枚並んだ。お兄さんは謙遜だと思っているようだけど、本気で、しかも全力で大物は遠慮します。
「ありがとうございます」
このおまけはどの程度の頻度であるものなのか分からないが、この容姿の役得だと思って貰っておくことにする。
「あ、これ銀貨でもらえますか?」
小金貨を3枚戻す。金貨は使いにくい事もあるからね。
「おう」
銀貨が30枚でてきた。
この辺は、エレーナが暮らしていた地方と差が無いらしい。
銅貨1Cr。
銀貨10Cr。
小金貨100Cr。
この上に大金貨1000Crがあると思う。が、普段使われることは無い。「金貨」といえば小金貨の事を指す。
デザインは、違うみたいだ。
小金貨だけやたらと小さい。一円玉くらいの大きさだ。そのおかげで大金を稼いでも重くならなくて済みそうだが、そんな日は来るのだろうか。
「あと、その薬草って捨てるんですか?」
さっきジーク達の袋から取り出した血まみれの薬草を指さす。
「ああ、売り物にならないからな」
「じゃ、貰ってもいいでしょうか?」
「いいけど。これだよ」
摘まみ上げた薬草はホウレン草のお浸しみたいだ。
流石に笑顔を作ろうとして少し引きつった。
「はい」
こんなのでも洗えばポーションを作れるかもしれない。
エレーナは一人で生きていく知識を一通り持っていたからね。
換金も終えてマリー達の集まるテーブルに混ぜてもらう。
「お姉さん、泊るところ無いですよね。私達と同じ宿にします?」
「確か大部屋に雑魚寝だよね」
「うん・・・」
「それはちょっと・・・」
そこに受付のおっさんがやってきた。真新しいギルド証を持っている。
「ほい、できたぞ。無くすなよ。無くしたら再発行で銀貨1枚だ」
「気を付けます」
「あと、連絡も無しに一月以上何も依頼を受けないと強制的にギルドから脱退させられるから注意な。怪我とか休暇で長期間休むなら、先に言ってくれれば大丈夫だ」
「え~・・・」
『今それ言うの』、という意味だったが。
「そのぐらいは働けよ・・・」
おっさんは呆れていた。
ささいな誤解は放っておく事にする。
「ところで、おすすめの宿ありますか?」
「ん、あ~、そうだな。ちょっと路地を入ったところにあるが、森の木漏れ日亭。俺からの紹介だと言えば、少しサービスしてくれるかも」
「そこに行くと、紹介者にも紹介料が手に入るシステムなんですね」
「は?・・・バカ野郎!そんなんじゃない」
「冗談ですよ」
すこし、いじっても大丈夫なような。そんな感じがする。ふふふ。
「・・・。ま、兄貴がやっているってのもあるんだが、」
「ほうらやっぱり」
「話は最後まで聞け。路地を入ったとこにあることと建物が古いところに目をつぶれば、ギルドから近い、治安もいい場所、料金も少し安い、料理もそこそこ、そしてベッドも清潔。駆け出しの冒険者にしたら値段の割に上等な宿ってところだな。もっといいところが良ければ、大通り沿いにゃ沢山ある。高いがな」
「ありがとうございます。森の木漏れ日亭に行ってみます。で、お名前は・・・」
「おっと、言ってなかったか。俺は、ギルバート。宿の場所は、ギルドの隣の脇道を入っていって二つ目の辻を右に曲がって3件目だ。兄貴によろしくな」
そう言い残して、受付に戻っていく。
「お姉さん。宿までついていってもいいですか?」
と、マリーが言う。
相場とか分からないし、ついてきてくれるのはありがたいけど。
「え、俺たちの宿と反対方向じゃん」
「いいわよ。先に帰ってて」
「え、いや、俺もついていくよ」
ジーク、弱いな・・・。
結局アイアンイーグル全員がついてきた。
道中シルバーウルフがすぐに戻ってきたらどうなることかとひやひやしたが、ニアミスなんてイベントは発生しなかった。ギルドを出てすぐに脇道に入ったし、それは無いか。