SS:マリー
Side story
それは初のゴブリン討伐時の出来事でした。
ゴブリン討伐は、作物を食い荒らすウサギの討伐と同じく、常設の依頼でした。
これは受付とかをしなくても何匹討伐しても報酬が貰えます。
だから安易に考えてしまっていました。
武器があれば簡単に討伐できると。
ウサギは普通の動物です。
人間を見かけると逃げます。
剣や槍での討伐はできず、私が持つ弓でも小さい身体に矢を当てることができませんでした。
ゴブリンは魔物です。
人間を見かけると襲ってきます。
剣や槍も届くし、矢も当たると思っていました。
しかし、ゴブリンはすばしっこく、小さな体に似合わず棍棒を振り回す力がありました。
ジークやアレンが戦っているサポートをしようにも、仲間に矢が当たってしまいそうでできません。
そして、もう1匹のゴブリンは頭を使ってきました。
近くから矢を放とうとすると、私を狙ってくるので、盾持ちのジョンが間に割って入ります。すると、私は矢が放てません。
少し離れたところから狙うと、ゴブリンがジョンを挟むように移動するのでまたしても放てません。まあ、実際のところ放っても当たらないのですが……。そして、ナイフを持つトムは後ろから隙を窺いますが、ゴブリンは棍棒のリーチを生かして牽制するためトムは近づけませんでした。
ゴブリンの棍棒をまともに受け止めていたジョンの盾は徐々に壊れていき、木刀も折れました。
だんだん状況が悪化していく、そんな時、私の視界に女の人が写り込みました。
なんとその人は可憐な金髪をはためかせながら、宙を舞いつつ矢を放っていたのです。
その直後、今度は巨大なイノシシが宙を舞いました。いえ、あの巨体はグレートボアー。魔物です。私たちが狩れる相手ではありません。
その後も信じられないことの連続でした。
すぐさま2射目を放ち、起き上がったばかりのグレートボアーの目を正確に射抜き絶命させたばかりか、私たちが苦戦していたゴブリン2匹の心臓を射抜いたのです。かなり距離があったはずなのに……。
その力量とその事実に私は愕然としました。
そして、お姉さんが歩いてくる様子をただボーッと見ていました。
それなのに、何を勘違いしたのかいきなり謝りだしたのです。
確かに、あんな大きなグレートボアーが宙を舞ったら注視してしまうでしょうが、それに気が付いていたのは私だけ。他のみんなは死に物狂いで戦っていました。
そして、そんな私の視線の先を追ってしまったのが、常に私を気にかけてくれていたジョン。それが致命的な隙をさらすことになってしまったのです。
事実はどうであれ、これはボーナスチャンスだと思いました。
これだけの技量を持つ冒険者が何も持っていないはずはありません。
この世は弱肉強食。
その辺がまだ理解できていない、お子ちゃまの男共には任せておけません。
そして演じたのです。
それは見事にはまり、高級品のポーションを使ってくれたばかりか、グレートボアーの肉も持ちきれないほど貰いました。
こんな大きな荷物を街までなんて、私は持って帰れません。いいえ、持って帰れたとしても持って帰りたくありません。
なので、私の荷物袋をお姉さんにあげました。
そう、持って帰れる人が持って帰ればいいのです。
実際に十分すぎるほど貰ったので、パーティのみんなも納得し、お姉さんにもお返しができる。まさに全員が得をする素晴らしいアイデアでした。
クックックッ。笑いが止まりません。
さらには魔法です。
魔法を習うにはかなり高額の授業料を払う必要があるため、裕福な家庭でもない限り習う人はいません。
それをさらりと教えてくれます。
全て無償です。
本当に信じられません。
こんなカモ、放っておく手はありませ、げふん!げふん!
いいえ、流石にここまでしてもらうと、私も少し気が引けます。自分が浅ましい人間に思えてきました。
こんなお人よしは悪い人たちに騙されないよう、私が守ってあげなくてはなりません!
世間知らずなお姉さんに、いろいろと教えてあげることで恩を返せればと思います。
私はお姉さんに一生ついていきたいです!
お姉さんが男性恐怖症なら、男共は邪魔になります。その時は最悪、お姉さんと二人でパーティを組んでも……ハァハァ……。
まぁ、実力差がありすぎてそれは現実的ではありませんが。
少し落ち着きましょう。
贅沢な暮らしがしたいんじゃない。貧乏が嫌なのです。
この貰ったお肉を売れば、かなり余裕ができます。
装備を整えることも。
野山を駆けずり回るだけではなく、訓練を行うことも。
お腹一杯食べれば、ガリガリの体を大きくすることもできるでしょう。
ああ、明るい未来が見えてきました。




