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初めての狩り

 若いって素晴らしい。

 足取りは軽いし肩こりもない。

 裸眼で遠くまでよく見えるし近くも見える。

 しかし、へそ出しルックは若すぎるんじゃないのかな。

 40才だし。

 見た目はもっと若いのかもしれないけど。

 見えているおなかと太ももは赤ちゃんのような柔肌(やわはだ)だ。

 防具は泥で汚れているし、顔も泥で汚れているかもしれない。

 少しこすってみたが、何かが()がれ落ちることは無かった。

 すべすべしていた。

 (ひげ)は無いし、新感覚だな。

 そして、耳も少し(とが)っている。定番だね。

 それにしてもおなかだけ違和感ありすぎるだろ。

 そう思って、土をすくって少し汚してみた。

 するともやっとした感情が沸き上がる。

 自分の体を汚すことへの抵抗感、これは彼女の感性なのだろうか?

 今後、自分というアイデンティティは保てるのだろうか?

 不安だな。

 と思っている間に、森を抜けて草原に出た。

 沈みかかった気分も高揚する。

 ここらで、一回くらい弓を使ってみた方がいいのではないだろうか。

 彼女の感覚では100mくらいは問題のない距離らしいが、自分の感覚では当たる気がしない。

 木に向かって矢を放つと抜けなくなることがあるらしい。

 草の背丈も腰よりあるので、遠くに放つと矢が見つからなくなってしまう可能性も有る。

 さて、では空か?

 鳥などの目標物は無いが、雲に狙いを定めてみようか。しかし、残念ながら快晴で雲一つなかった。

 すると、青い空に白いものが見えた。

 月だ。

 地球のものより少し小さい。それとさらに小さいものが近くにもう一つ。

 月が2つあった。

 地球じゃないんだなと実感する。

 ぼんやり月を眺めていると、遠くの方から喧騒が聞こえてきた。

 何か叫んでいるらしい。

 早くも第一村人発見か!?

 まず神様に感謝した。

 この辺くらいまでは、予測の範囲内だろうけどね。

 目を凝らしてみると、500m以上離れたところで何人かが、何かと戦っているようだった。

 耳も目も、素晴らしい。

 この時は、浮かれていた。

 深く考えなくても大丈夫と、高をくくっていた・・・。


 近くまで行くと、5人の男女が、何かと戦っている。

 定番のゴブリンだ。彼女の記憶とも、自分の異世界ファンタジーの知識とも一致する。

 それが3匹。

 子供サイズながら、細い手足からは考えられないような力と素早さを持っている。

 どうやら雑魚(ざこ)キャラじゃないらしい。

 野生の動物は力強いよね。

 ニホンザルにだって襲い掛かられたらケガなく対処できる自信はない。

 それが明確な殺意と、武器を持って襲い掛かってくるんだから怖い。

 男女はみんな若い。13、14歳くらいだろうか。

 一人の男の子は剣を持って振り回しているが、ゴブリンは軽快にかわしている。

 ゴブリンの棍棒を必死に避けていて、腰が引けているのが原因か。

 もう一人は槍。

 しかし、ゴブリンに近寄られて攻撃がうまくできていない。一番危なそう。

 後は、3人で1匹のゴブリンに対応している。一人は木の枝で、一人はナイフ、そして女の子が弓を持っているが素早く動き回るゴブリンに矢が当たる気配はない。この2人の男の子は、女の子の護衛という役割かな。

 戦況は拮抗していて、どっちに転ぶか分からない。

 これは助けに入った方がいいんじゃないだろうか?

 しかし、あれだけ近くで戦っている所に矢を打ち込むのは危なすぎる。

 などと考えていたら、獣のにおいがした。


 ゴブリンたちは、自分から見て風下で戦っている。

 風上から近づくなんて、狩人のやることではないが、今回は狩りをしに来たわけではない。

 急いで振り返って、風上をみると一匹のイノシシが、ゆっくりと近づいてきていた。

 大きい。300Kgは軽く超えているようだ。

 それにしても、イノシシが狩人に近づいてくるってどうゆう事?

 軽くパニックになった瞬間、イノシシは突進してきた!

 考える間もなく矢を番え、すぐさま放つ。

 身体に染み付いた動作が(とどこお)ることは無かった。

 これには少し感動した。

 ビシッ!

 矢はイノシシの額に命中したが、弾かれた。

 弾かれるってなんだよ!

 次の矢を番えながら敵を見た。

 額が少し盛り上がって、角とまではいかないが堅そうだ。

 彼女の記憶を掘り起こす。

 これはグレートボア。

 イノシシが魔物化したものだ。

 正面からでは狙える部位が無い。

 矢を番えたまま、しっかりと身構える。

 そして、激突する直前に横に飛んだ。

 そのまま空中で矢を放つ。

 矢は前足の根元辺りに突き刺さった。

 グレートボアはつんのめったかと思うと、急に跳ね上がり大きく縦回転した。見えないところに岩でもあったのか・・・豪快だな・・・。

 その後、横になってゴロゴロ転がっていったが、すぐさま起き上がると顔を数回振り、こちらを睨みつけてきた。

 しかし、こちらはもう3本目の矢を番えていた。

 彼女の戦いの記憶が頭をめぐり、答えを出していたのだ。

 得意魔法、ホーミング。

 グレートボアとは少し離れた場所に向かって矢を放つ。

 グレートボアは外れた矢など気にかけず突進しようとしたが、その矢の軌道は曲がり、目に深々と突き刺さった。

 普通のイノシシならかなりの手ごたえだったが・・・、グレートボアも倒れたようだ。


 ほっとしたのもつかの間。

「ぐはっ!」

 くぐもった悲鳴が聞こえた。

 こちらの戦いに気をとられたのか、木の枝を持った男の子がゴブリンに棍棒(こんぼう)で殴り倒されていた。

「キャー!!!」

 今度は、それを見た女の子の甲高い悲鳴。

「うぐっ!」

 溜まらず振り返ってしまった槍の男の子が、ゴブリンから一撃をもらう。

 一気に総崩れだ。

「助太刀します!」

 自分の口から出た言葉があまりに高いトーンで驚いた。そうそう、ヘリウムガスを使った時のよう。が、そんな心の動揺など微塵(みじん)も感じさせない動作で、矢を放つ。

 ゴブリンがこっちを振り向いてくれるかと思って大声を出したのだが、無視されたようだ。まあ、それはそれでいい、矢が刺さるから。

 矢は槍の男の子に追撃しようとしていたゴブリンの背中に突き立った。

 槍の男の子は地面に転がっていたから、ゴブリンだけを狙いやすかった。

 流石に仲間をやられたゴブリンは、一歩下がってこちらを見た。

 ナイフの男の子は倒れた仲間をかばって動かない。これはチャンス。

 次は少し落ち着いて狙撃(そげき)する。

 ゴブリンは矢を避けようとしたが、ここはホーミングです。

 しっかりと心臓あたりに矢が突き刺さる。

 ナイフを持った男の子はすぐさまゴブリン2匹にとどめを刺し、剣を持った男の子の加勢に行った。

 2人に挟まれたゴブリンはほどなくして討伐(とうばつ)された。


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