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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
第四章 くるみパン大人形

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第七十四話 助けるという覚悟

「ねぇ、高城さん──」


 矢附が一歩、和美へと歩み寄り、手を真っ直ぐ差し出す。

 朧気だった記憶が鮮明になっていき、かつての恩人の姿がはっきりと形を成す。


「私ね、貴女を助ける」


 はっきりと、記憶に残る救いの言葉をなぞるように口にする。


「あ──」


 かつて和美が自分で口にした言葉。目の前に立つ矢附に、自身の姿が重なって見える。


「まずは──友達になるところから始めよう。私と高城さんは、まだ友達って呼べる関係じゃないでしょ? 高城さんは瀬名さんの代わりを務めていただけで、本当の意味での関係は築けていなかった。だからこそ、私はちゃんと友達として向き合いたいと思ってる」


「矢附さん、何を言ってるの?」


 真似事をされて喜ぶような状況ではない。矢附に自分が重なって見える錯覚があろうと、それが解決に結びつくとは思えない。それに今さら友達なんて──本気で殺すことまで考えた自分が、軽々しく手に取れる話ではなかった。


「高城さん、私は貴女を助けるよ。亡くしたお姉さんの代わりにはなれないかもしれない。でも、新しい依存先になることはできるから」


 そう言って微笑む矢附の顔を見て、和美はぞっとした。

 優しい表情の奥に、自分自身の姿が重なって見える。なんという顔をしているのだろう。


「ねぇ、矢附さん、やめてよ。そんな真似事、今すぐやめて!」


「止めないよ、高城さん。助けるのも助けられるのも、普通は難しいんだって──高城さんが言ったんだよ。だから私はその覚悟(・・)を持ってここに来た。今さら引き下がるつもりはない。だって──」


 矢附は差し出した手で、和美の手を掴んだ。


「──覚悟してね(・・・・・)、って貴女が言ったから」


 助けられるという覚悟。それを持てと言われた日。繋がれた手。繋がれた縁。


「私を助けるって言ったのは高城さん、貴女だよ。一緒に頑張ろうって言ったのも、高城さん、貴女だよ。なのに勝手に全部を無かったことにして、一人で納得して死んでいくなんて、そんなこと許さない」


 満足はない。満たされて消えていくことなど、和美には決してないのだろう──そう矢附は思った。

 この偽りの元通りが和美の命の尽きと共に終わっても、助けたいという願いは満たされずに幕を下ろすだけ。そしてそれを納得したふりをして、消えていくのだろう。


「依存先か……矢附さん、難しいこと考えるなぁ。でも、友達ってことならさ、私も入れてよ。助けてもらったのに、そのままじゃ寂しいと思ってたんだよね」


 矢附の横に笠原が立つ。彼女も矢附に倣い、和美の手を掴んだ。いつの間にか、和美の手から白刃は手放されていた。


「ずっと不思議だったんだ。高城さんの《お手伝い》。点数稼ぎのやっかみがあるのはわかるけど、それ以上に感謝して友達になろうって子がいてもおかしくないよね? でも実際に近かったのは秋原さんくらい。どうして?」


「何……何の話してるの、笠原さん?」


 矢附とは違う方向から突然差し込まれ、和美は困惑する。


「何って、高城さん自身の話だよ。誤魔化して茶化してるけど、本当は最初から友達を作る気がなかったんでしょ? 高城さんが望んでたのはずっと、助けることだけ(・・・・・・・)で、それ以上の踏み込みは必要としなかった。だって踏み込んだら怖いから」


 ──また失うのが。

 それを言葉にするのは、さすがに無粋だと笠原は飲み込んだ。


「私は高城さんに助けてもらった。だからどう返すかを、ぼやけた記憶の中でもずっと考えてた。今わかったよ。友達になろう、高城さん」


 二人に掴まれた手。温もりを感じ、重さを知る。


「ねぇ、こんなので私が力を止めると思う? お姉ちゃんをまた失うことを、頷いて受け入れると思うの?」


 震える手。温もりが辛い。重さが辛い。抱き締めることも、背負うことも躊躇われる。


「綺麗事はいくらでも言える。でもさ、それほど大事に思ってるなら──高城さんの中で、お姉さんは失われてないんじゃないかな。失うことばかりに囚われて、命まで失ったら、元も子もないでしょ?」


 元も子もなくなって構わない。そういう覚悟だったはずなのに。

 和美の手が震える。それを二人の手がしっかりと掴んで離さない。


「怖いなら、私達がしっかり繋いであげる。高城さん、あなたを助ける」


 心の奥を射抜くような眼差しで、矢附と笠原は和美を見つめる。


 怖かった。怖かった。姉を失ったとまた思い知るのが怖かった。

 怖かった。怖かった。助けられなかった無力を思い知るのが怖かった。

 だけど、その怖さを知ってこそ繋がれた温もりに、和美は浸りたくなった。


 覚悟してね(・・・・・)。胸に突き刺さる言葉。

 痛みは涙となり、頬を伝って落ちた。

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